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第2章 殺戮と救済のカウントダウン 第4話 狩猟・貞潔の女神アルテミス


「ああ、誰か連れて時間移動しちゃったか〜。馬鹿だな、あいつら。伝説の霊騎士がいなかったからって時空を飛んじゃあなあ?」


「別にいい。」


「良くねえだろ………。お前が物理現象管理してなくてどうする。」


「別にいい。」


相も変わらず彼女は感情を見せない。何もかもをめんどくさいと思っているようだ。安定を求め、安楽を求め、面倒事や穢れを憎む。それが彼女だ。

その顔には、怒りも悲しみも笑いも安心も、楽しいと思うことも、興味が引かれたりすることもない。この世界の真理に従って何もしなくて済むように、微かな干渉を加える。それが彼女だ。


そんな彼女に彼はうんざりしていた。面白ければなんでもいい。刺激がなければ世界なんて存在する意味がない。

世界はいつも彼の自分勝手や、気まぐれによって壊されたり創られたりしてきた。


しかしそれに刃向かえる者はいない。



「お前は何もしないのか?」


「私からアクションは起こさない。…ただ、あなたが何をするかによっては私も対策をする。」


「それ、一番ウザいやつだろ…。」


「う、ウザい?ウザいとは…?私には形容詞はあまり分からない。」


「そういう態度のことをウザいって言うんだけどな。まあ、お前にもぴったりな形容詞ならあるぜ。」


「…………そんなもの…」


「『めんどくさい』とか『めんどい』とか『煩わしい』とか?」


「………………不思議ね。腑に落ちたわ。」



創造者に勝てるものはこの世にいないんだと、裕希が確信するときは来るのだろうか。なんにしろ、彼は




世界が作られて初めて、創造者に会うことになる。





妙な夢を見ている気がした。いつも見がちな未来なのか過去なのか、現実なのか架空なのか分からないような、何かを伝えようとしているかのような夢だ。

だが夢を見ているということは生きているということである。そこが唯一の、安心だ。



「あ、やっと目覚ましたですね!大丈夫ですか〜?生きてるですか〜?」


「目を覚まして起き上がろうとしてる俺のやる気を削ぎとるような発言だな。」


目覚めた裕希を出迎えたのは聞き覚えのない声だった。明るく高い声だった。

その声のする方向へ目を向けてみると、



「ちっさ…。」



「小さい声で言っても聞こえてるんですよー!!私は小さくないですよ!まったく…こっちは助けてやったですってのに……。」


その少女は小さい体にエプロンを着て、フライパンを洗っていた。少し緑がかった髪の毛をポニーテールに結んでいた。


「お前、どっかで見たことある気がする……。」


「何言ってんですの。私みたいな美しい女性がその変にいるわけないじゃないですか。」


「まあ俺が見たことあるとしても多分お前ほど背は小さくないと思うが……。」


「小さくないよ!!」


「……ああ、分かった。Wagnariaでこんなやつ働いてたな……。」


そもそもの疑問に裕希は気づく。

なぜ裕希はベッドで寝ていたのか。いつの間にかアテナがホテルに行ってチェックインしたのか、いつの間にか種島先輩と合法的に結婚生活を送っていたのか、いずれかは分からないが、一つだけわかるのはそのいずれかではないということだ。

ならどうして裕希はこんなところで1晩過ごしたのだろうか。


「昨日倒れてたんですよ。見たとこ、この村の住人でも無さそうですし、放っておくのもなんだなと思ってとりあえず家に泊めましたです。」


「この村の住人なら放っておくのか……。」


「………………………」


「せめてなんかツッこんでくれ…。」


村の格差社会的な物を不本意にも知ってしまった裕希だが、とりあえず彼が何故ここにいるのかは分かったようだ。

ここがアテナの言っていた集落なのだろうか。


『私がいた時よりは全然大きくなってるけどね。』


『アテナ……後で話があるから、今は待て。』


『わ、分かってるよ。』



そう、彼は逃げてきたのだ。城も街も、最愛の妹も、置いて逃げてきたのだ。

それが彼にとって何を意味するのか、想像するのは難しくないだろう。


「そういえばもう一人連れていたはずだったんだけど、どこにいる?」


「彼女は病院にいるです。容態はそれほど安全でもなさそうでしたので。」


「……大丈夫なのか?」


「まあ、大丈夫だと思いますですよ。死にはしないので、安心してくださいです。」


「…そうか。良かった……。」


彼女によると村の回復魔法が使える人がいる病院にフェリスはいるらしい。極度のショックにより、魔子が欠乏してしまったらしい。放っておくと死に至るが、他人から魔子を送り込め続ければそのうち目が覚めるらしい。


「いや、ちょっと待て!フェリスは……」


「死属性なんですよね?知っていましたです。」


「な、…なんで知ってんだ?」


「私が直々に体を見てあげたので。でも大丈夫です。死属性は放出する必要も取り込む必要もない、極めて特殊な属性です。だから死属性の人がわざわざ魔子を送り込まなくても問題ないです。」


「…ちなみに調べたって言ってるみたいだけど、死属性だけど大丈夫なのか?体に自分の魔子が入り込むってことだろ?」


「そんな頭の悪い質問をするですか……」


「ぐっ……馬鹿で悪かったな………。」


「まあ異世界人だししょうがないですか。」


「そうだよ、もっと俺をいたわ……………………はい?」


この少女、今異世界がどうとか言ったか?


「なぜそれを知ってるんだ……。質問ばかりして悪いが。」


「実はな、回復属性者っていうのは違う時空で生まれた人の治療及び干渉は出来ないんですよ。あんたの治療しようとした時点でバレバレってわけです。」


「あっそ…。もうなんでもいいよ……。」


「たくさん質問をしたことを反省するまではよかったとして、あんた全く聞く気ないじゃないですか……。あ、私、アルテミスと言いますです。どうぞよろしくです。」


「どうやら、ここにも女神がいるらしいぜ……。」


「え?…女神だなんて、……照れますです//」


「容姿の話じゃねえ、名前の話だ。容姿で例えるなら、……キューピッド?」


「背が低いってことを頑張って伝えなくていいですよ………。それじゃ私、買い物に行ってくるので、留守番しててくださいです。」


「人にモノ頼む時はちゃんとした丁寧語の使い方を学んでからにしろ。」


「死にたいようデスね。」


「ごめんごめん!急にペテルギウス化するな、福音書を出すな!見えざる手を使うなあっ!!」


「そこまではしてませんですが……。とにかく頼んだですよ?」


そう言うとアルテミスは家を出た。家の中には野菜を油で炒めたような匂いがした。家庭的な匂いに、裕希は心を少し癒される。


『元気そうでよかったよ。』


『ーーー元気ではねえよ………、昨日は、ごめん。俺が悪かったのにアテナに八つ当たりしちゃってさ。』


『………まさか、君から謝るとは思わなかったよ。私も注意が回ってなかったことと……荒いことしちゃったこと、反省してて。』


『確かに…あれはやりすぎだ。反省しろ。』


『はは、そうするよ。』


アテナの声は、心做しか少し落ち込んでいる気がした。

彼女は妹を助けに行く裕希を無視して、邪魔をしてきたチンピラを無残になぎ倒し、ここまで来たらしい。

彼女はフェリスの命を守るため、最愛の妹を捨てろと言った。それが残酷なことだとはその時から分かっていた。

それができるだけ多くのの命を救いたいというアテナの優しい残酷とは分からないままここまで来たのだ。


『里音が死んでるかもしれない時に居てやれないのは兄としてどうなのかとも思う。でも、それが正しくないんだったら、妥協も仕方ないってことなんだろ………。』


『違うよ。』


『じゃあ何なんだよ。』


『希望は残したつもりだよ。それに確かめる方法はある。』


『なんだ、それは…。』


『あれが見える?』


『いや声だけで指示語であれとか言われてもこれっぽっちもどっちの事言ってんのかわからんが……。』


『あの花の下だよ。』


そう言われ、怪訝に思いつつ裕希は窓の下にある花の方向へ歩く。

そこには受話器のようなものがあった。


『ーーこれで城に電話をかけろと?』


『そうだよ?』


『……僅かな生きてる可能性にかけるという ことか。』


フェリスによれば魔道具である電話の様なこれは(電気で話すことが出来るアレを電話機と呼ぶなら魔子で話すコレを魔話と呼ぶと禁断の物語みたいだからやめろとフェリスに言われた。)便利なことに、意思で、受話器のある施設のみ接続できるらしい。どこまでご都合主義にすれば気が済むんだこの世界は……。


「ーーーーーよし…。」


裕希は受話器を取ると無言で城への接続を試みた。しばらく待つと、受話器からノイズのような音がなり始めた。


『接続したみたいだね。』


『これで接続したのか?』


『うん。発光するからそれで相手は気づくはず。』




《はい、もしもし?》


「あ、城の方ですか?」


《あ、………っ……が…》


「ーーあの?大丈夫ですか?」


《っはい?大丈夫です。それより何です?》


「あの……里音…リオンは、無事ですか?」








《ーリオンは、……私はーーーーーーー無事だよ。》









「ーーーーー………そう、そうですよね。良かった…、ごめん、ありがとう、里音………。」



「うん、心配かけさせないでよねお兄ちゃん。」



里音は、リオンは、裕希の最愛の妹は無事に生きていた。

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