第2章 殺戮と救済のカウントダウン 第3話 村への道
『城にもどれ!っ、おい!アテナ!!』
「今から城には戻れないよ。」
『なんでだよ!!』
「意味のないことだからだよ。」
『意味があるから言ってんだろうが!里音が死ぬかもしれねえんだぞ!?』
城下街から出てしばらく経った。幸い、森に入ってからは誰とも会うことなく逃げきれている。
フェリスを背負ったアテナ(裕希の体を使っている)は、なぜか安全地帯になっても裕希に体を返すことなく何かから逃げるように全力で逃げている。
そんな時、裕希は不意に思い出したのだ。城にリオンを一人で残したのに気づかず、フェリスと勝手に二人で逃げている今の自分の状況に。
『戻らねえんだったら今すぐ俺に体を返せ!俺が里音を助けに行く!』
「………………………」
リオンが寝ていたのは裕希の隣の部屋だ。そうであれば裕希とリオンは同じ階に寝ていたということになる。
フェリスを助けに行こうと動いた時にはもう火はかなり回っていたし、レスキューのような人もいなかった。
あの時裕希が助けなかった時点でリオンを助けられる術は無かったのだ。
なのに
「体を返すの?君の今の実力で?」
『は?当たり前だろ。お前が助けに行かねえんだったら俺が助けるしかねえだろ。』
「フェリスを助けつつ君の妹を助け、その上カーリも含めたたくさんの敵から全員を守るのは、私には無理だ。」
『……な、なんで…………』
「私に無理なことを、君が今出来るんだったら返すよ。あるいは別に無理でも自分の意地のために、体を返して、君もフェリスも妹もみんな助けられない道を選ぶんだったら返してもいいよ。」
『………………………』
言い返せなかった。彼にはとにかく妹を助けに行きたいという言葉しかなかったのにそれを否定されたからだ。
今助けに帰っても危ないのに、このまま放っておいたらどうなる?誰かが助けに来てくれるのか?あまり体力のないリオン自身が自分でその場から逃げるのか?
助からずに、死ぬのか?
『見殺しにするのかよ。』
「ーーーーーー」
『助かるかもしれねえ人を見捨てて逃げるのかよ。それじゃ、…………人を殺してるのと一緒だ。』
「違う。」
アテナは足を止めた。体が少し熱くなり、心臓の鼓動が速まる。
「その発言はおかしいよ。」
『…なんでだよ。』
「私は一人でも多くの命を助けたいだけなんだ。ここで帰れば、間違いなくフェリスは死ぬし、私だって死にかねない。」
『だからって里音を見捨てるのかよっ!?』
「それは…………」
「おい、そこのお前。」
アテナが裕希に何かを話そうとした時、前から男の人の声が聞こえた。
それに気づいたアテナが周りを見渡すと、チンピラのような外見の人が複数人、アテナを取り囲むような形で立っていた。
「なんですか?」
「そこの女王さんを渡してもらおうか。でないとてめえの命はねえ。」
「またそれか………」
呆れたような口調でアテナは腰についているギラファを取り出す。
「戦うぐらいだったらさっさと寄越せ!女王様もまとめてぶっ殺すぞ!」
「ーーあ?」
チンピラが言った言葉にアテナは反応した。裕希の声で喋っているため相手にとってはなんの違和感もないのだろうが、裕希にはアテナがこのようにぶっきらぼうに返事をするのは違和感でしかない。
「フェリスを殺す?そう言ったなそこの君。」
「あ、ああ。」
「へえ。面白いこと言うね、君。」
「ふざけてんじゃねえんだよ!さっさと………そこ…の………」
『!?』
「殺される前に、ね。」
アテナが目の前で喋っていた人の首を掴んで腹を切りつけていた。
「お前らも殺されたくないだろ?」
「ふざけんな!!まとめて殺してやる!」
「ーーーーーー」
刺された人の隣にいたチンピラが言ったその言葉でアテナは壊れた。
無言の惨殺だった。
「ああ、言っておくよ裕希。」
『……………………』
「私は、人間だった時からこういう奴だったよ。」
それから彼らは全く喋らなかった。喋らずに、フェリスを背負ったアテナはまた走り続けていた。
人を助けるために人を殺すのは正しいことではない、はずだ。
なのに裕希はそれを受け入れてしまった。これが正しいんだと。
認めたくないけれど、それしかないのだと知ってしまった。
気が付けば村を歩いていた。いつの間にか体は裕希が動かしていたが、それに気づかず裕希は先へ進む。
家もあるし、田んぼもある。
人が歩いているのも見える。
「さと………ね…助け、に……ーーーー」
裕希は疲れのあまり、倒れた。




