第2章 殺戮と救済のカウントダウン 第2話 里音(リオン)
ひさひさ!
MF文庫Jに投稿完了したこと言うの忘れてました!
1ヶ月ぶりぐらいだけど読んでくださいね。
初めは、夢だと思った。熱すぎるのだ。まるで大量の炎の中に囲まれているような、そのぐらいひどい熱さだ。
でも自分は目覚めていた。これは夢ではないようだ。
状況が分からない。
裕希はいままで寝ていたベッドから起き上がると周りを確認する。そして、驚くに至った。
火事だ。この城で火事が起きている。周りは灼熱の炎に塗れ、息を吸うのも難しくなっている。
それに気づいた時、裕希は焦りに駆られた。フェリスもこれに巻き込まれている可能性があり、だとしたら彼女の命に関わってくる。
裕希は迷わなかった。炎の中に飛び込み、フェリスを助けに行くことになんの迷いも伴わなかった。
「フェリス!!ここにいるのか!?」
裕希はフェリスの実験室に駆け込み、叫んだ。最近フェリスはここで研究していることが多い。きっと今夜も資料の作成をしていただろう。
「……ん、ユーキ、か?」
「フェリス!?」
少し進んだところに、フェリスが倒れていた。幸い、意識はあるようで、裕希の問いかけにも対応できるようだ。
「ユーキ、辛い。運んで?」
「ちょっとはためらいを見せても可愛かったと思うが、今はそれどころじゃねえな。状況は分かんねえけど取り敢えず脱出するぞ!」
裕希はフェリスの言われた通り、彼女を背負い、廊下の方へと走った。
裕希は重さも感じずフェリスを物や火に当たらないよう大事に背負いながら火の少ない少し温度の低いところへ向かった。
「ここなら大丈夫かな……。」
「あ、ありがと…。」
「お、可愛い。それだけで俺の糧にはなるぜ。」
「何それ………。」
「後でまたその笑顔を見せてくれ。それより、今はここから出ねえとな。ここからだとどの道が1番出口に近い?」
「んと………………馬鹿な事言っていい?」
「お前にしては珍しいな。なんだ?」
「窓から飛び降りる。」
「死にたいのかお前は……。」
とは言いつつそれが裕希の中では一番の策だと思っていた。彼の中のアナトが飛び降りた時の衝撃を最小限に抑えてくれる能力を持っているのでフェリスが裕希と一緒に飛び降りれば理論上は死なないはずだからだ。
まあフェリスがそのまま飛び降りれば死ぬのは間違いないだろうが。
「俺と一緒にいる時以外は絶対飛び降りるんじゃねえぞ。」
「え?……う、うん。なんか…かっこいい。」
「そういうのじゃねえけどな?」
裕希はフェリスを背負い直すとまた駆け出した。
階段の下へ来たが下の方向には炎が侵食していた。裕希はそのまま上の階段を上る。
階段にある窓は鉄格子が付いていて通れないため裕希は城の上8階廊下を目指す。
この城は国立フランソワ第一王城といい、北城、南城、東城、西城の四つに分かれている。王女であるアンはセンターの北城にいて、フェリスの研究室及び寝室は反対側の南城にある。我々が今いる場所もそこだ。
上7階にある部屋から脱出したフェリスと裕希だが、炎は少なくとも7階までしか上がっていないみたいで、上8階の被害は少なかった。リスクは大きいがここから飛び降りるのが一番安全だろう。
「フェリス、ほんとに大丈夫か?今から飛び降りるぞ?」
「まずその質問がおかしいぞ。私は大丈夫なんて一言も言ってないんじゃが?」
「よし、大丈夫なら行こう。」
「え!?っちょ………まっ……」
裕希はフェリスを持ち上げ、いわゆるお姫様抱っこ状態にすると窓の方へ走り、勢いよく窓に突っ込んだ。
窓はガッシャーンというありきたりな音をたてて割れ、裕希達は下へと落ちていく。
『やれやれ………。』
と、そんなアテナの声が聞こえた気がしたが、それどころではない。
"重力加速度9.8m/ss"でそのまま落ちていく感覚は非常に奇妙で、怖かった。内蔵が浮かんでいるような感覚がとても気持ち悪い。
フェリスも腕の中で髪を風で揺らしながら目を閉じている。
ほ、ほんとに大丈夫なのか……?
気が付くと、地面にかなり近づいていた。あまりの怖さに裕希も目を閉じる。
すると
「…っおわっ!?」
急に下から押し上げられるような圧力がかかった。一瞬地面とぶつかったのかと思ったが骨が折れる様な衝撃的なものは全くない。
何が起きたのかと思い、目を開けた。すると
「なるほど。」
「そなた、なにをした?」
「ま、いろいろね…。」
下からの圧力がなんなのかと思ったらどうやら地面についていたようだった。これがアナトの力か、と感心していると
『ふ、聞け!クソ雑魚の愚民衆ども!!』
「なんだ!?」
いきなり『』が出てきたからと言ってアテナが出てきたという訳ではなく、大きなスピーカーのような音で誰かが喋っている声がなった。
『俺の名は殺戮の神、カーリだ!てめぇら、命が欲しけりゃ俺様の言うことを聞け!!』
「か、…カーリ!?」
「なんだ知ってんのか?殺戮の神とかちょっと痛いこと言ってるけど………」
この放送をした相手もふざけているのだと思ったから裕希もこのようなことを口にしたのだ。
彼の正体を知らなかったのだ。
フェリスは慄いていた。その顔は怒っているようにも見える。
「誰なんだよ、あいつ。」
「あいつは、私の………」
『フェリスを見つけたら俺に言え。"殺しに行く"』
「……………………」
2人は沈黙した。それは、単に何も言えなくなったからではない。よく分からなかったのだ。
『いいか、てめぇらが殺すんじゃねえぞ。俺様が殺しに行く。…………今ならフェリスは王城にいる…?』
「っ!?やべえ逃げるぞ!!」
「……………ぁ……」
本当によく分からない。よく分からないが、ここで逃げなければフェリスの命が危ない気がした。
だが、彼女の手を握った時、その掌が冷たいのを感じた。その冷たさのまま彼女は動こうとしない。
「どうした!?早くしねえと追いつかれるぞ!!」
「………………………っ…」
「っフェリス!?」
突然フェリスが倒れた。静かな庭を裕希とフェリスだけの沈黙が支配する。
まずいなと思いつつ、裕希は迷わずにフェリスを先のようなお姫様抱っこ状態にして走る。
南の方角には大森林"Strong Monster of Forests"通称SMF大森林が広がっている。とりあえず迷ってしまうぐらい森の深くまで行けば彼ら(住民に見つかるのも危険そうなので)に見つからずに済みそうだ。
そこへ向かおう。
「おい、お前。その嬢ちゃん担いでどこ行くんだよ?」
後ろから乱暴的な声が聞こえた。聞き覚えのない声に振り返る。
「誰だよお前?」
「聞く必要ねえだろ。どうせそこの王女ごとここで死ぬんだからな。」
「ーーーお前が、さっきのカーリって奴なのか…?」
裕希がそう言うと彼はニタっと気持ち悪い笑みを浮かべた。
黒いタンクトップに半ズボンをはいて、ワイシャツを腰に結んでいる。左の腰には双剣が帯刀されている。
大きい見た目で裕希たちに圧力をかけているようにも見える彼は双剣に手を置いた。
「イナミユウキだな?カストルの仇討ちにしてやるぜ。」
「いや待てそれはおかしい。あいつを倒したことを知ってるのもおかしいしそもそもあいつは死んでねえから仇討ちも何もねえ!」
「寝言は寝ていえ。行くぞ!」
「…ぎ、ギラファっ!頼む!」
彼は自身の双剣を引き抜くと裕希に襲いかかった。慌てて裕希はフェリスを背中に回し、左の腰にあるギラファを取り出す。
剣が交わり合うと金属が擦れ合う嫌な音が鳴り響いた。
数秒経ち、裕希はカーリをはじき飛ばした。
かーりは口から笑みを消して裕希に飛びかかる。それを交わしつつ切りかかると思い切り振ったカーリの剣に裕希は吹き飛ばされる。
裕希はフェリスを抱き守りながら地面に叩きつけられる。
「フェリスは……大丈夫か…。」
「そいつを早く渡せ。」
「寝言言ってんのはお前だろうがバーカ。」
「そうでもねえんだけどな…!」
彼が切りつけようとしたその時、時間が止まった。
アテナが時間を止める時のような不思議な感覚に慣れた彼は、同時にその時が来た時の感覚も身につけた。それによって彼は今の時間停止も気づいた。
『こんにちは。』
『気軽に挨拶できるような状況でもねえけどな。』
『大丈夫だよ。ここからは私がやる。君にはフェリスを持ちつつ戦うのはキツそう。』
『おう、なら、まぁ…安心だ。』
彼が言い終わると彼女は笑んで時間を再生した。
彼女(裕希を操作しているアテナ)は近づくカーリの剣を右足ではじき、左足で体を蹴って上方に飛ばした。
するとアテナは剣を持ち替えカーリの方へ跳んだ。
魔剣には特殊な力があり、それは剣を魔道具として使える事である。
魔道具の定義には[人間から発せられる魔力を道具を通して増大、又は減少させる物のこと]と、書いてある。つまり魔剣は文字通り魔法を放てる剣なのだ。
アテナはそれを利用して、裕希がカストルを復活させた時のように剣を振って風のような魔法を飛ばした。
爆発属性の魔法によりその風はカーリの目の前で爆発した。
「……っなん…!?」
「ふっ…………って笑っといてなんだけど、面白くないね?」
と、悪役が言ったらウザすぎワロタってレベルの発言をするとアテナは殴りかかって真下に彼を突き落とした。
地面に向かって落とされたカーリが直撃する前に、アテナは裕希の爆発属性魔法を撃つ。
大爆発が起きると、アテナはカーリに背を向け、フェリスを体の前方に持つ。
『逃げるよ。』
『え、この流れで逃げんの?』
『私には殺せないからね。あいつの命は君に終わらさせてあげるよ。』
『…よくわかんねえけど逃げるんだな?どこへ?』
『森に、私の記憶では小さい集落があったはず。そこへ行くよ。』
『5600億年前の知識を参考にしていいのか…?』
色々言いながらアテナは森の方まで駆け出した。
炎から逃げた時も、カーリと戦った時も、最終的にカーリから逃げた時も完全に忘れていた。不思議と、フェリスのことしか頭になかったのだ。彼は集落に着いた時、その大きな見落としという名のミスに人生で一番の後悔をする。




