第1章 時空干渉と契約 最終話 守りたいモノ
カストルとのことがあってから5日たった。あの後裕希たちはあの暗黒王、間違えたアン国王がいる王城へ飛行機を使って完全にリターンして、それからはずっとそこに寝泊まりしている。リオンやフェリス、アテナなどと喋ったりして過ごしていたが、外の世界はそれほど平和ではない様子だ。
一昨日はフランソワ城下街郊外で爆発テロがあったそうで一日中廊下はバタバタしていた。フランソワ教過激派がフランソワ領でテロを起こすことはかなり稀ならしく、国の対応もすぐ回らなかったようだ。死者は18名、惜しくも救えなかった方がいたにしても被害はいつもよりも少ないらしい。
それに続き、昨日はマルコ領のクレリア地域という、住宅街が立ち並ぶ風情ある場所で銃発テロが起きた。何人かが分かれて行なった犯行で、死者は約100人、歴史的な公会堂や、教会の破壊など、前例の少ないほどの大きな被害が出たそうだ。
「フェリスは行かなくていいのか?なんか色々忙しいっていうか、やばいみたいだけど。」
「私やお母様みたいな王族は事件や事故などの対応は一切手を出さないことになってるんじゃよ。命に危険があるからな、周りも心配してくれての決まりじゃ。」
「そうだね。危ないもんね。」
「それにしてもなんの暴動なんだこれらは。これから革命でも起こす気なのか?」
「18世紀初頭から主流になった自由主義的思想は今も続いているし、変わることもないと思う。…………じゃが、それ以外の考え方も生まれつつある…。その流れがどう転がるかは国民次第じゃがな。この暴動はそういう国民の反発的なものか、宗教的なものか、いずれかじゃな。」
フェリスはそう言うが、裕希は八割型後者だろうと思った。
国を変えるためにテロを起こすというのはとてもではないが非効率すぎる。自分はほぼ生きて帰って来れないし、それを起こしたからといって国が動いてくれるかどうかも分からない。国がもう少し国民の意思を分かってあげることができればそれが一番いいのだろうが、それが無理な以上国民は地道に国に自分達の意思を訴える必要があるのではないかと思う。
「それはそうと、ここの暮らしにはもう慣れたか?色々不自由とか、感じてない?」
「早くもホームシック感じててちょっとやばいかもしれないけど、まあもう少しいれば慣れると思うよ多分。」
「そう?私はもう慣れたけどね。むしろ毎日朝ごはん作んなくても出てくるし、朝は割と遅くまで寝てても大丈夫だし、結構前より楽な暮らししてる気がする。」
「ユーキが楽してるぶんリオンが苦労してたということじゃな?」
「それを俺に聞くのは残酷だろ。」
正直なことを言えばここの自分の部屋は、高級ホテルみたいに豪華だし、ベッドはふかふかだし、そこそこ上品な暮らしをしている自覚はある。だが、それで落ち着くかと言われればそれはまた違う話だと言いたい。
それこそ慣れるしかないのだろうとは思うのだが、空間がやたら広いとこが主な落ち着かない原因だと思う。この空間にラブライブのタペストリーとかフィギュアとかあればだいぶ落ち着くと思うけど!
「でも、まぁ……あともう少しで慣れれそうだよ。」
「ならよかった。」
フェリスは隠すことのない純粋な笑顔でそう言った。
その後、裕希は食堂で食事をとった。食堂というと食券を買ってカウンターで作ってもらうような和風なものをイメージしてしまうが、食堂と言いつつ80%洋風だし、そんなにお手軽な食事でもない。色々な食べ物が用意され、そこから好きなようにとっていく、というイメージだ。洋風のパーティとかでこんなイメージの食事を見たことがある気がする。
この王家では使用人として雇われている人も一緒に食事をしているため、非常に人数が多くなっている。裕希は人混みが嫌いだったので、庭の食事スペースへ足を運んだ。
「……………………。」
一人の時間というのは、あまりなかったのだが、夜の食事だけは裕希一人だけになることができる。この時間で色々なことを考えるのだ。
本当に色々なことを考えなくてはならない。フェリスやリオンを死から守ることができるのかとか、この国のために裕希がしなければいけないこととか、倒さなければいけない宿敵が一体どんな奴で、どんな強さで、どんな感情を持ち合わせているのか、ということなど。
本当はみんなと話し合うことが一番良いことだと思う。だが、それをフェリスに相談するということはあまりにも残酷で、どうしてもできなかった。
「……フェリス……………。」
「なんじゃ?私のことを真剣に考えてくれてるのか?それとも………い、如何わしいこと…でも………?」
「考えてねえよ!ていうかなんで来たし。お母様と話してたんじゃねえのか?」
ベンチでいつものように考え込んでいると、そこにはいつの間にかフェリスが立っていた。相変わらずの眩しい笑顔である。
「そなたと話している時間も、それはそれで楽しい。」
「それはそれでって……。まあ……………ちょっとは嬉しいけどさ…。」
「…………?」
フェリスは裕希の意味深なその言葉に疑問を感じたのか、不思議に思うような顔で裕希を見る。自分自信もらしくないなとは思った。
裕希は他人に自分の弱さを見せずに生きてきた。(別に見せる人がいなかったわけではない)それはまるで、相手より自分が劣っているかのようにみえるからである。
要するに認めなくなかったのだ、自分が本当は弱くて醜くて誰かがいないと寂しくて生きていけないような者だということを。
でも、フェリスやリオンも同じだった。リオンが裕希に心を開いてくれた時も、彼女は一人でそれが耐えられないと打ち明けてくれたし、フェリスも自分を独りにした大悪魔をその憎悪から大きく憎んでいた。
もしかしたら、結局はみんなおんなじだったのかもしれないと、裕希はそう思うのだ。
「自分と話してて、一緒にいて楽しいって言ってくれる人がリオン以外にいなかったから、フェリスみたいに俺のやってきたこととか、置かれてる状況とか何も考えずに受け入れて素直に楽しいって言ってくれるってことが、少し………結構嬉しいんだわ。」
「私もじゃよ。」
裕希の告白に、フェリスは即座に同意した。そのことが驚きでもあり、たまらなく嬉しかった。
「ユーキは私という全く知らない異世界人でも、信じてついてきてくれて、私のために無謀な戦いも挑んでくれた。この世界は私に厳しかったから、たくさんの痛みや悲しみが私を独りにして、それからずっとそのままで、………そんな私をユーキは助けてくれたの。」
「…ああ。」
フェリスは真剣になる時口調がコロコロ変わることがある。色々な人格を持っているのか、どれかが偽りの人格でどれかが真実の人格なのかというところが知りたくはあるが、彼女のその傾向によれば、今はかなり勇気を持った告白だと思う。
面と向かって言うのは少しばかり恥ずかしいだろう言葉も真剣に話せる彼女は裕希にはかっこよく見えた。
「だから、私も嬉しいよ。ユーキと出会えてさ。」
「ーーーー改めて言うことでもねえだろ。」
「…うん。ふふ、そうじゃな。」
これからどんな試練が待っているのか想像もつかない。だが、呆気なく終わらせられるような拍子抜けな奴ではないと思う。
だからこそここでお互いを信用し合うべきだと満面の笑顔で笑うフェリスを見て思わず顔を緩ませながら裕希は思ったのだった。
※
それは幼い少女だった。
我を忘れ、ただ孤独に泣き叫び、空気さえも壊そうという力でその腕を振るっていた。
何と戦っているのか不明だが、彼は彼女のその行為を見て悲しんだ。叫ぶ声もその形相も普通の人間じゃなかったからだ。
きっと俺みたいに、独りで寂しく悲しんできたんだ。でなければこんなに悲しくなるはずない。
彼女の孤独を癒してあげたい、心の傷も、痛みも全部受け止めて解放してあげたい、そう思った。
だから俺は………………抱きしめた、だけなんだ。
※
人が起きる要素は色々あるらしい。例えば音だ。鳥のさえずりで目が覚めたり、あるいは目覚まし時計のアラームで寝坊に気付けたり。体内の感覚もそうだ。この時間に寝て、この時間に起きればまず間違いなく起きるだろという時間はある程度ある。
だが、人間が一番目を覚ます要素は朝の光ならしい。例えそれが朝でなくても光が照りつければ人は大抵起きるという。
それはどうやら本当だったらしく、裕希は壮大なほどに広がる青空の下で目を覚ました。
「色々ツッコミたいんだけどまず言わせてね!?なんで青空の下で寝てんだよ!!」
裕希は目の前の異常な光景に思わず叫んだ。だがそれに反応する声や人影はなく、むしろそれ以外のものも何もかもがない、という不思議な場所であることに気づくことができた。
この光景は過去に見たことがあった。
「アテナと出会った場所だな…。また後ろから突然話しかけたりしねえよな……?」
「そこまで振られたら私も反応せざるを得ないよね。」
「やっぱりいたかお前。今度はなんでここに呼んだんだ?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえた時点で裕希は振り向かずに察することができた。
どうやらアテナが裕希が就寝した後にこの世界へ呼び出したらしい。この不思議な世界も、特徴のある幼い声もそれを確信させていた。
「ちょっと君に用があってね。でも、その前に、なんだけど………」
「なんだ?顔になんかついてるか?だとしたら別に気にしなくていいぞ。」
「いやそれは君が気にするべきでしょ……。そうじゃなくて、あの…………」
アテナは少し顔を神妙にさせた。裕希はアテナといない間自分が何かやらかしたのかと不安になったが、彼女の話したかったことはそうではないらしい。
「さっき君が見ていた夢……覚えてる?」
「は?夢?……いやあ、なんか見てたっけ?見てたとしても覚えてないけど…それが何?」
「………、いや、ならいいんだ。ちょっと見て欲しくなかった夢だったから……………」
「何それ怖い………。そんな恐怖的な夢見てたんだ俺。眠れなくなるといけないから俺も追求するのやめとく。」
人間はレム睡眠とノンレム睡眠を交互にとっていて、レム睡眠の間に見た夢はノンレム睡眠に入った瞬間に記憶から消えるケースがほとんどならしい。裕希の場合もおそらくその具合で忘れたのだろう。それにしてもレム睡眠って言葉を聞いただけで死に戻りできそうな気分になるのはなぜだろう。ついでにゼロから異世界生活始められそうだぜ。
「今日は君にやってほしいことが2つやって欲しいことがあって来てもらったんだよ。」
「やって欲しいこと?お前を抱きしめてあげるとか?」
「はは、それは魅力的な提案だけど残念ながら違うよ。」
「…完全に空笑いじゃねえか……。」
まあアテナは、フェリスやリオンよりも反応が批判的じゃなくて面白くはあるが。
「まず1つは、…まぁやって欲しい、と言うよりは今後守って欲しいことかな。」
「なんだ?」
「私の存在を現実世界の人に打ち明けないで欲しいってこと。君は異世界人だから分からないかもだけど、霊持ちということは他の人にはバラさないのが普通よ。霊持ちは霊を持っていない人にとって得体のしれないものなの。科学的に証明されていることでも、恐ろしいことだと思うから、心配をかけるべきじゃないんだ。」
「えっと、つまりお前の存在を他の人にバラさなければいいってことか?」
「うん。それだけはよろしくね?」
アテナは念押しをするように裕希に頼んだ。まあ回りから気づかれたくないんだったらいきなり体を乗っ取って、その体使っていきなりガチで戦い始めたりとかしない方がいいと思うけどね、あの時は助かったけど。
「それともう一つ、君に会って欲しい人がいるんだ。」
「なにお見合いの誘いだったらお断りだぜ?どうせ相手が俺に会った瞬間帰りたがるのわかってるからね。」
「そんな悲しいお見合いなんてあったらたまらないし、別にお見合の誘いじゃないし。君と一度は話をしておかなくちゃいけない人ってだけだよ。」
アテナはジト目をしてそう言ってきた。その顔は少し投げやりな気持ちが含まれているようにも見える。何か他人のどうでもいいような、自分に利がないような事を無理やりやらされているようななんとも言えないめんどくささが顔から出ているようだった。
「その人ってのはどこに行けば会えるんだ?」
「この道を真っ直ぐ進んだとこにある洞窟を抜けた場所に奴はいるよ。それからは私もよく知らないからそいつに聞いて。」
「お、おう。あの……道なんてないんだけど。平坦な大地が広がってるだけなんだけど。」
この場所は、この前みたいに見覚えのある公園はないが、おそらくアテナと初めてあった場所と同じだ。そのため、どこに向かえばいいという目印もオブジェクトもなく闇雲に歩いていくだけでは迷った時もこの場所に戻ってくることさえ難しい気がする。
なにせなにもないんだからな!
「大丈夫よ。別にどこに向かって歩こうとおんなじだから。」
「どういう事だよ。ていうかどんな世界だよ。」
「言ってみれば分かるよ。ほら、早く!」
「おい、分かったって。押すなって!」
アテナは強引に勇気を前に押し出した。なにをそんなに焦っているのかは知らないが、どうやら行かなければいけないようだ。
「あ、大事なこと言うの忘れてた!」
「なんなんだよ………。」
「石!」
「……………ん?」
「奴から石、もらってきてー!!」
「…石……?」
歩き始めてアテナがもう遠く見えてきたと言うあたりで、思い出したように裕希を呼び止め、石を持ってこいというよくわからない事を言ってきた。そのまま彼女は手を振ると、後ろへ下がって消えた。
不安な気持ちは抑えきれないが、ここはいくしかないと思い、裕希は取り敢えず進行方向へ歩いた。
しばらく経った。そんなに歩いた気はしなく、あのまま真っ直ぐただ歩いてただけの裕希だったが、ふと彼の体に異変が起きていることに気づいた。
「なんか、………ちょっとだるいな…。」
体に倦怠感と少々の吐き気があるのだ。この暑さで熱中症にでもなったのだとすれば、状況は最悪だ。
だがその懸念は裕希をさらに襲うように、徐々に裕希の体の異変を強めていく。
「うっ……………気持ちわる…………おぇ……」
裕希は自身の内部の悪い空気を除去するため、腹から空気を出そうとするが、口の中に少しだけ胃液を戻してしまった。それを飲み込み、裕希は楽になれるかなと思い、寝転ぶ体制を取った。
だが調子はますます悪化していく。むしろ、さらにそれに加えるかのように頭痛が裕希を襲う。頭を抱え込んでも、目を開けることさえままならないぐらいの痛みが続く。
「あ……………が…が…………………ーーーーーーーーー」
「……………す……、や…すぎ……な………」
何か声が聞こえた。女の人の声だ。こんな最悪な体調でも、少し聞き取れるぐらいの元気な声だった気がする。
だがそこから先の記憶は裕希にはもうない。
「…起きたか?」
「ん………………?」
気づいたら裕希は気を失っていた。命の危険を感じるほどの痛みだったので正直なにを考えていたのかもよく覚えていない。今はその痛みもなく起き上がれるほど回復している。
と、裕希はもう一つ気になる点を見つけた。
人が、それもアテナではない人が目の前にいるのだ。驚き、思わず裕希は立ち上がる。
そうするともう一つの異変に気付く。
「ここは………街か?」
「そうだよ。お前ははアテナのではない、別の世界に来たんだ。アテナから私のことは聞いてるか?」
裕希の些細な疑問に答えた彼女はアテナとのやりとりについて聞いてきた。
「お前が会いたいって言ってた人なのか?っていうか一つ絶対聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「俺、確か洞窟抜けたらそこに奴はいるって聞いた記憶あるんだけどまるっきりお前に至るまでが予定と違うじゃねえか。謎の吐き気に襲われて気絶して、気付けばお前の前に着いていたなんて流れはアテナからは聞いてないんだけれども?」
「洞窟が正しく生成されてなかったみたいだねー。いずれにしてもお前をここに来さすにはアテナの世界とうちの世界みたいに互いに隔絶してる世界を一時的に結合しなくちゃならなくて、その時に必ず起きる生理現象だからたとえ洞窟抜けたとかいうよくわかんないギミックつけてもお前の体は痛みに襲われてたよ。」
「そ、そうなのか。なんかめっちゃ洞窟の扱いがゲームのNPCみたいなんだけど……。」
「この世界自体実際にない仮想空間だから、結局ゲームみたいなもんだよね。まあ仮想空間といってもV(2)軸を魔法によって作り出してるだけなんだけど……って、お前はそういう学問的な話題は苦手だったな。」
「え…えっと………?」
改めて彼女顔をよく見てみる。
若干つり目寄りの目つきをしている。赤い髪の毛はあまりまとまっておらず、少し砂で汚れていた。褐色の肌と白いターバンの素材を使った服はエジプトの風情を醸し出していた。
声ははっきりしていて、大きい。少し大胆なイメージが持てるような人間だ。
どことなく戦いの雰囲気がにじみ出ているような気がして、裕希は彼女を、アテナと似たような認識で受け入れていた。
「お前、名前はなんていうんだ?」
「うちの名前はアナト。アテナよりももう少し後に生まれて、兄貴に殺されて今はあなたの霊になったって感じだね。」
「お前も霊なのか?」
「うん。何千億年経ったのか分かんないけど、やっと器を見つけたんだ。それも結構果てしない、お前っていう器をね。」
「なんか……そこまでいろんな人にすごいすごいって言われると、確かに自分ってすごいかも、とかダッセェこと考えちゃうんだよなぁ…。」
「今のままではダメダメだけどな?もっと底なく強くなれるんだよお前は。」
ニカッと笑うその姿は少年のようだった。危機が迫っても全部を守ってくれるのではないか、という安心感がその印象を強くしている。
「今日はそんなに時間ないみたいだからね、一応説明だけするよ。私がお前にできることは大きく二つある。一つは、翼を生やしてお前を落下の衝撃から守ったり多少飛べるようにする事。もう一つは、土属性の魔法を干渉させるようにする事。」
「いやいやちょっと待て!なんで契約する話に進んでんの?俺まだお前をしっかり信用してねえんだけど。」
「………………………。」
街中の胡散臭いセールスでも、そこまでトントン拍子に契約まで持ってかねえぞ……。
「せめてもう少し一緒にいて信用できるようになったらがいいんだけど……」
「うーん、そもそも一緒にいるには契約が必要なんだけど………まあ契約はうちが完全にお前を乗っとらなければ、魔法契約っていうのはいつでも解除できるんだよ。でも結ばないとうちの能力も使えないし、もううちとは関われなくなる。」
「…そうか。」
「だから結んでも大丈夫だと思うけど。てかもしうちが悪霊だったらもうお前なんかとっくに乗っ取ってるよ。」
「そ、そうか…。」
まあアナトの言っていることは概ね筋が通っている。乗っとることができるようなやつが悪いやつだったら一瞬でに乗っ取ってもおかしくない。
そもそもアテナが紹介した人なのだ。その時点で少しでも怪しい要素があれば契約などさせないだろう。
「分かった、結ぶよ。俺にとって悪くはない能力だしな。」
「ほんと!?そう言ってもらうと助かるよ!じゃあ……」
裕希が契約を認めると、彼女は顔をぱあっと明るくさせて裕希を手で道の先へ招いた。
今裕希たちは噴水がある広場にいる。そこはかなり広い場所なので誰もいないそこは不自然極まりなかった。だが、アナトは気にせず前へ進むので、裕希も怯まずアナトの行く道へ行く。
アナトの目的地はすぐそこだった。
「ここは…………池、なのか?」
「オアシスだよ。この街にはここにしか水がないんだよ。まあ欲しいのは水じゃなくて………」
そうすると、アナトはオアシスの奥へ行って何かを取ってきた。彼女の手にあるのは小さい何かだった。
「これ、持ってって。アテナが言ってたでしょ?」
「これは、宝石か?……そういえば確かに石を持ってこいとか言ってたなあいつ。」
これがアテナが言っていた、いわゆる「石」ならしい。藍色に輝く綺麗な石だ。
「今度は気絶しない程度の体調に調節できるように頑張ってみるよ。今度こそ洞窟通らせてあげる。」
「洞窟は別に行かなくていいけど、あの体の痛みは本当にやめてね?二度とあんな経験したくないから。…ていうか、契約しなくていいの?」
「うん、後でまとめてアテナがやってくれるからね。言っとくけどお前まだアテナと魔法本契約結んでないからな?それも一緒に後でする。」
「そうなんだ……。」
なんか契約するって言われた記憶あったんだけど気のせいだったのかな……?なんか殴られた気がするんだけどあれは幻だったのかな?
「じゃあ、ばいばい。」
「おう。またな。」
裕希はまた会えると思いつつ、彼女と軽い挨拶を交わした。彼女は街の方へ戻り、裕希は門を抜けて砂漠の方へ出た。
アナトによればこの世界はアテナとは全く別の仮想空間なのだそうだ。よって、アテナのあの何もない大地とは雰囲気がかなり違った。
まず、アテナの世界は砂さえなかったが、アナトの世界(今裕希がいる場所)の大地は砂漠なので砂もあるし、砂が多い場所ではかなり高低差がある。裕希は高低差があまりないところを狙って進んで行く。
そうすると
「これか………。」
砂漠の山の途中に大きな不自然な穴があった。ここがアナトが生成したという洞窟なのだろうか。
「ん?なんかあの穴、明るいぞ…?」
近づいてみるとトンネルのように、真っ直ぐ続く道の先に明るい光が見える。てっきり裕希は頑張って洞窟を探索して出口を探したりするのかと思っていたのだが、そんなめんどくさい作りに敢えてする必要はないのか、道は至って単純だ。
裕希は黙って洞窟の先へ進む。
アナトの言う通りここが世界の境目なのか、徐々に体のだるさが増していく。だが、先程のような立てないほどの体の痛みではない。なんとか耐えて裕希は明るい場所へ出た。
「ーーーーーーーーえ?」
予想外だった。あまりの驚きに目の前の状況に出す言葉がなかった。
そこにはアテナ以外の人、それも男がいた。
「それも男って言い方は意味わかんないけどな。別に男でもいいだろ。」
「いや、今まで男キャラマジで俺ぐらいしか出てねえから正直反応に困るわ。」
洞窟の外で出迎えていたのは茶髪の青年だった。長袖の上着と体に対して裾の長い長ズボンをだらしなく着ていて、不良な感じを絶妙に出している。
川崎でもしこんな人に会ったら俺は絡まれないように頑張ります!
「ここはまた別の世界なのか?」
「ああ。お前はなかなか無い霊3つ持ちだったらしい。俺も詳しいことはよく知らんがとりあえず契約主似合わさせないとな。」
「え?なに、お前じゃないの?」
「は?俺じゃねえよ。俺はギラファ、魔剣ギラファってもんだ。お前の契約主は俺の親父だ。」
「お、親父?おっさんと契約結ぶの?まあそれは置いといて、じゃあなんでとお前この世界にいんの?ここって霊が意識魔子?としているから、さっきみたいに話せたりするんじゃなくて?」
霊ではない人が意識下で話しかけてくるのはこれが初めてだ。彼はいったいどう言った役目を持っているのだろうか。
「とりあえず来い。」
「え?あ、おう。……あ、ってか待てよ!」
ギラファは急いでいるのかせっかちなのかホモなのか(?)少し早歩きで先へ進む。
この世界はアテナのと似ているが、確かに少し違うようだ。
緑色の苔や植物などが生えていたり、多少岩などのオブジェが所々にある。まるで荒野のようでなかなか見たことのない雰囲気に思わず落ち着きなく周りをキョロキョロしながら歩いていると
「……………………………………なにあれ…?」
「グラファ城だけど?ああ、言っとっけどアテナとかアナトみたいにめっちゃ古い世界じゃあねえぞここは。せいぜい1000年ぐらい前だろ。」
「その時代に生きてたお前がなぜ知らないんだろう………。」
目の前にあるのは一目に収まりきらないぐらいの大きな城だ。この大きさは山と例えても不自然と言えないまである。
ギラファは色々頭の悪そうなボケを呟きながらその大きな城へ堂々と足を踏み入れる。
中に入ると、目の前に現れたのは大きなカーブ階段だ。大胆にレッドカーペットで天井も派手な装飾がしてある。ギラファは両サイドのカーブ階段の中央にある扉を両手で両ドアを開ける。
そこが、いわゆる王室のようだ。
「来たか。」
「………………やば……」
先へ進めば王座に人が座っているのに気がつく。
まさに王だ。貫禄が他の人物と違いすぎる。
髪色はギラファと違い、漆黒の色をしている。彼はローブを身にまとっただけで最強のオーラを出しきれていて、まさに真の王と呼ぶのに相応しい姿だ。
「あの…………その……」
「そんなに怯えなくていい。むしろ私は君に助けられたんだ。」
「あ…………はい、助けられた?」
「やっと魔剣を託すのに相応しい人に出会えて、ね。」
魔剣というのは聞いたことがあるし、使ったこともある。あのカストルと戦った時に使った剣だ。
確かにフェリスは魔剣はその霊がいないと使えないはずだなんて言ってたような…。
「えと、本当に俺でいいんですかね。なんかあまり自覚ないんですよね、そういうの。」
「君が戦いを極めれば、間違いなく最強になれる、そうだろ?」
「ああ、使われた感じかなりの潜在能力は感じたな。少なくとも今まではあんなのなかったね。」
「ん、……どゆこと?」
今の彼らの会話に裕希は疑問を感じた。ギラファは使われる、という奇妙な表現をしていて、そして何故か裕希の能力について知っているはずもないギラファにそれを聞くというのも不思議だ。
「君が使っていた魔剣、『魔剣ギラファ』っていうんだが、そこにいる彼なんだ。」
「ちょい待て、全く意味がわからないんだが、お前が魔剣っていう奴が、そこに立っているあいつが人間なんだよ。カマならともかくね?」
「俺はソウル=イーターじゃねえよ!」
つまりグラファが言うことを要約すれば、彼が裕希が使った魔剣の一部ということなのか。
「別に俺が現実世界で剣になったり人になったりするわけじゃねえよ。俺自身は魔剣とお前の意識魔子を行き来して一応人間として話せるのは親父の意識下だけだ。あの剣は俺の意識魔子が含まれてないと扱えない仕組みになってて、まあだから魔剣の霊を持ってないと使えないんだよ。」
「で、ギラファが魔剣を行き来するのには私がいないといけない。そのために私とギラファは共に過ごしているんだ。」
「なるほど。」
魔剣の力がどれだけなのかは、裕希は身を持って知っている。うっかり大悪魔を復活させてしまうほどの力だ。あ、あいつは大悪魔じゃなかったんだっけ……?
「うん、アテナも認めてるみたいだし、もちろん契約しますよ。」
「ああ。そういうと思っていたよ。」
「俺もだ。そういうと思ったぜ。」
「お前はザナークか。」
ギラファがグレートマックスなオレ状態になっているところで、グラファはローブの中から例のものを出す。
「これを持っていけ。アテナが彼に渡せって言ってたのでな。」
「はい、俺も聞いてます。頂きます。」
裕希はグラファに頭を下げて石を受け取る。今度はエメラルドグリーンのような色をした宝石だ。
これさえ貰えばあとは戻るだけだ。
「俺はこの後どうすればいいんですか?」
「大丈夫だ。一瞬で返してやる。」
「え…………どうやっ…………ーーー」
グラファに帰宅詳細について問おうと思うと、その前にグラファは澄ました顔で指パッチンをした。その意味ありげな状況に何事かと周りを見渡した。
だが、それはできなかった。謎の浮遊感と共に意識が飛んでしまったからだ。
「おーーい!裕希!」
「ーーーーん、……あ?」
大体予想はついていたかもしれないが、裕希はグラファに"非常に強引なやり方"で意識を奪い、この場所、アテナの世界まで戻してきたのだ。
「ああアテナか。石、持ってきたぜ。」
「えー、なんかもっと嬉しそうな反応してよ…。やっと私のところまで戻ってきたんだよ?」
「ああ嬉しい嬉しい。てか、お前洞窟なんてなかったぞ。お前が手抜いたせいでめっちゃ苦しい思いしたの分かってんのか。」
「う………それは返す言葉もないけど…。ごめんね。世界拡張するの結構久しぶりだったんだよ。ほら、私まだ幼いから!」
「5600億歳で押さないとか言ってんなよ………。」
何はともあれ、アテナの他に裕希が持っていた霊、アナト及びグラファから石を回収し、裕希もやっとアテナと契約が結べるのだ。
霊の存在はフェリスが教えてくれた魔法学理論の中に少しあった。人間の中の意識魔子に干渉して色々な特殊能力を発揮できるが、詳しいことは分かっていないという。
ここにきて、もし裕希に霊がいなければ魔剣も使えてないしカストルに落とされて骨折していたかもしれないし、そもそも死んでいたかもしれなく、少なくともカストルには勝てなかったはずだ。そこまで霊の影響力というのは絶大なのだ。
裕希はそのような、いわゆるチート能力みたいなものを使っていいのか最初は不明だった。
だが、今は絶対にあるべきだと確信している。何故なら世の中が、こんなにも危険で儚くて、難しいからだ。
守りたい人がいる。守らなくちゃいけない人がいる。なのにそれを、ずるいからと言って霊を使わずに、守るべきものを守れなくていいのか。
そんなの否に決まってる。あまりにも愚問だった。
「俺は、お前らを信じたい。」
「……うん。」
「守りたい人が、できたんだ。失くしたないんだ。その………ずるい、とは思うんだ。敵はなにも持ってない、まっさらな人たちだと思うんだ。だから、そんな人たちを本来ない力で圧倒するのはあまりにもずるいと思う。でもそれじゃフェリスは守れない、リオンは守れないんだよ。あいつらを守れなくて、俺が生きてる意味なんてないんだよ……。だから、お前らの力を借りて、守っていいか?」
「なによ、改まって。いいに決まってるじゃない。そのために私たちはあなたの元へ来たんだよ?」
アテナは優しく包み込むように裕希に寄り添って来た。フェリスよりも小さい体はあまりにも儚く、ありえないぐらい暖かかった。
守りたいって気持ちは彼女も同じなのだ。そんなことを今更彼女に問うのは必要ないことだ。
彼女もその小さい体で裕希をら守りたいという気持ちがあるのだろう。
それが分かった途端、裕希は自分がとても愚かだと思った。
「……泣いてるの?」
「ち、ちげえよ!……ちょっと、目にゴミが…………」
「目にゴミが…っていうのは、私は泣いてますって伝えてるのとおんなじだから。もう情けないなあ。大丈夫だよ。フェリスもリオンも私が死なせないから。」
「お……おう。分かってるよ。俺も、自分の実力、つけるために頑張るよ。」
「うん、頼むよ。」
アテナは裕希の胸から顔を上げると優しい笑顔で微笑んだ。その笑顔で裕希も心を安心させた。
しばらくして、
「じゃ、石ちょうだい。」
「うん、いいんだけどなにに使うんだ?」
落ち着くとアテナは石を要求してきた。裕希はポケットから二つ、アナトとグラファからもらった宝石を出し、アテナに渡した。
彼女はそれを手に持つと目を瞑った。その途端
「ーーーーーおお……すげえ。」
宝石はそれぞれの色をさらに輝かせるように光を放ち始めた。そのあまりに美しい光景に裕希は感嘆の息を吐く。
「ねえ、裕希?」
「ん?」
「私は君といて嬉しいよ。君は、私といて嬉しい?」
「………当たり前だな。お前みたいな強い奴がいてくれれば、すごく安心する。」
「ふふ、そこは私といて嬉しいって言ってくれればいいんだけど。でも、私も安心するのはおんなじだよ。」
「そう、なのか?」
「私は君のその優しい心に動かされたんだよ。君のその心に誓って、私たちと、時空契約、してくれる?」
泣いている彼女の顔はひどく悲しく、不安で、………そして、美しかった。
守る、という言葉を乱用したくない。その価値が下がってしまう気がするから。
でもフェリスはその目的を果たすために時空まで超えてやって来てくれた。
そのことがたまらなく嬉しい。
それに報いるためにも、アテナと、…俺は………………
※
「王女様がついに動き出したか」
そこは散らかった酒場だった。誰も寄せ付けないような危険な雰囲気を敢えて作り出しているようだった。
彼の名前はカーリ。殺戮の神カーリーから授かった名前だという。
彼は大悪魔の命令の元、王女様を殺しに行かなくてはいけない。
だがその計画は一時休止していた。
なぜなら
「イナミユウキ、奴は何者なんだ………。あのカストルを味方につけるなんて……………。」
カストルは大悪魔に負けないぐらいの力の持ち主だった気がした。カーリも殺されかけたところをなんとか大悪魔様に助けていただいたのだ。
そんな彼女を彼はなんと圧倒したのだ。
だからまずは
「イナミユウキ、お前は絶対に殺す。」
これで一章は終わりです。
これからも応援よろしくお願いします!!
ここまでの話をMF文庫大賞さんに提出しますので結果を期待していてください。




