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第1章 時空契約と干渉 第22話 勘違い


あまりの驚きに、裕希は彼女のネタをツッコむことができなかった。それはどうやら裕希だけでなく、フェリスも同様なようだ。


「な、………なに、を……ーー?」


「なにをもなにもないでしょ。私は一言も自分のことを大悪魔だのルート?だの言ってないから。ページめくって確かめてみな?」


「え、なにお前、じゃあ大悪魔じゃないの?大悪魔じゃないのに戦ってたの?」


「ええ。そゆことね。」


そう言われて思い出してみると、確かに彼女は自分のことを大悪魔と言ったことはなかった、かもしれない。

だがそうすると、いくつかの疑問が生じる。

そもそもなんで大悪魔と言われた時に否定しなかったのか、否定してないのは肯定してるのと同じじゃねえかというのもあるが、彼女の言葉の一貫性のなさから、真っ先に彼女に言いたいことがあった。


「さっき戦いたくねえとかいってたけどよ、ほんとに戦いたくねえんならちゃんと自分は大悪魔じゃないって言っとけばよかっただろ。なんで言わなかった?ていうか、本当に大悪魔じゃねえんだろうな?騙してたなんてことはねえのか。」


普通に考えてこの状況は不自然だ。裕希たちとしては大悪魔ではないやつと戦う意味などないので、先に彼女がそれを教えてくれていれば、お互いに戦いあうこともなかったはず。

さらに言えば、彼女は負けそうな状況という中で、この話を切り出した。負けるかもしれないから、気を抜いた時点で裕希たちを欺こうとしたとしても、こちらに関しては、不自然ではない。

てなわけで、裕希はまだ警戒態勢を切らずに、彼女の話を聞く。


「私は、…………………」


「…そ、そうじゃ。私、昔大悪魔にあったことがあってその時にお前の糸みたいなのを見たことがある。だから私はお前を大悪魔だと判断した。でも…………」


「そうなんだとしたら、ほんとに信用できねえな。大人しくお前にはもう一度あの棺に戻ってもらおう。」


「わ……私に話させて…。……途中で話切られるのってこんなに腹立たしいんだね、ユーキ。今までごめん。m(._.)m」


「え、…お、おう。いや、別にそこまで気にしてなかったけどね?ていうか顔文字とかいれても俺に伝わらないからね?」


「伝わらないはずなのに、お兄ちゃんまるっきり反応しちゃってるし………」


裕希とフェリスがナチュラルにネタをぶち込んでいる途中、まさかここでフェリスが正気に戻ると、裕希は思わなかった。

彼女は大悪魔に対して相当な恨みを持っていた。だからこそ彼女の中に鮮明な記憶があって、大悪魔の特徴とかも覚えていられた。それで最初に彼女が大悪魔なんだと言い張ったのだと思う。

なのに、フェリスは彼女が大悪魔じゃないと"自ら"告白しただけで信じてしまったのか?と思っていると


「私は、彼女は大悪魔じゃないんだな、って今気づきました。ほんとごめんなさい。」


「なんでだよ?なんでさっきまで恨んでたあいつをそうも簡単に………」


「それは…………」


裕希は静かに受け入れる姿勢で彼女に問うた。それが甘えだったからかは分からないが、フェリスは言葉を濁らせた。

だが、彼女の答えはいたってシンプルだった。


「なんで最初間違えたのかほんとにわかんないんだけど、彼女と大悪魔、顔が全然違ったんじゃよ。さっき彼女が私は大悪魔ではないって行った時に気づいた。」


「…………………え?」


「あっははははは!!あ、まあうん、ふふ、確かにそうだよ。そりゃそうでしょ違う人間同士なんだから。」


フェリスの滑稽ともいえる間違いに裕希とリオンが圧感したと同時に、大悪魔と間違えられた彼女はフェリスの失態を全く怒ったりもせず、笑い話にしてくれた。彼女のそれには一縷の優しさがあったような気がした。はっきり信用はまだしていないが、確かにこいつが大悪魔ではないという気が少しだけしてきた。


「ご、ごめんなさい。」


「んー、らしくないよね。そんな弱気なフェリスちゃん。」


「なんかその呼び方ほんと意味わかんないんだけど、お前ら大悪魔じゃなくても知り合ってるの?」


「いや別に。私は全く彼女を見た記憶もないぞ?」


普通、印象とどれだけ一致していたにしても、見たこともないやつをいきなりラスボスだって断言できるのかよ…。てか、いきなりラスボス来られて勝ったとしても、こっちもなんかよくわかんない気分になって終わるかもしれないけどね?いいか、ダウンロードしてすぐに極限の闘技場双極の女神は倒せないんだ。つまり始めていきなりラスボスに登場されても無理ゲーもいいとこなんだって。分かったら今後パズドラはアヌビスとかクシナダヒメみたいな初めてでもすぐ無双できそうなモンスター作んな。いやいつもお世話になってたけど!


「私は、フェリスちゃんが王女様だから知ってるだけだけどねー。」


「ああ、そうか。そゆことかなるほどね。ここに引きこもっててもそういう情報はちゃんと入ってくるシステムにはなってるんだね。」


「引きこもり言うな。棺の中に自主的に封印されてただけだし。」


「自主的に封印されてたっておかしな日本語だと思うけどね。」


色々話してみると、割と本当に大悪魔じゃない気がしてきた。うまく言えないが、彼女の放つ言葉一つ一つに悪意が感じられないのだ。これがフェリスの態度が急に変わったことによる錯覚かどうかと言われると、正直微妙なところがある。

いずれにしても一度信じてみてもいいかもしれないと裕希は思った。


「お前が大悪魔じゃないのは、じゃあ分かったよ、百歩譲って。だとしても戦いたくないはずのお前がなぜわざわざ戦うだろう方向へ自分から向かった?」


「百歩譲ってってとこが少し気になるけど?………まあ、いつか知ることになるから。その時まで楽しみにしてて?先に、あたしは絶対に裏切らないって約束するよ。」


「……………………。」


百歩譲って、とか一度信じてみても、とかいう言い回しを使ったとは言え、裕希は、実は心の中ではなぜかもうほとんど疑ってはいなかった。

それが、誰かを信じてみたいという自分勝手な欲望に過ぎなかったら怖いが、リオンとフェリスの命を守るように警戒しつつなら一緒にいてもいいと思う。


だがそれにしても、いつか知ることになる、と言うのはどういうことなのだろう。そうやって答えを先延ばしにされるのはなんとなく落ち着かない。

後で教えてくれるのか、それとも明日?明後日明々後日?もしくは数年後なのか何十年か先なのか。そもそもそう言いつつ本当は教える気がないのか。

だが多分いつか知ることになる、そんな気がした。


「まあ、いいよ。お前がほんとに大悪魔なんだったらここで封印されてんのも変な話だしな。その点は分かったことにする。で、お前はこれからどうするんだ?てかお前の本当の名前教えて。」


「名前なんて特にないんだけど、…………まあ幼い頃にはカストルって言われてたかな。」


「カストル…。星の名前か。」


「あ、そうそう。ふたご座の恒星ね。死んだ兄貴がポルックスなの。まあ私たちが双子だったからそう呼ばれてたのかも。その名前で呼んでくれればいいよ。」


パズドラのモンスターにそんなのいたから知ってただけなんだけどね………。


「で、これからなんだけど、私、……あなたたちに協力しようと思う。」


カストルと名乗った彼女は真面目な顔をして言った。これからまた引きこもるなんて言ったらさすがに呆れるレベルだったが、さすがにそれはなかったようだ。

しかし具体的なところがまだ何も決まっていない裕希たちに協力すると言ってもとりあえず今は特に何もやってほしいことなどないけど、助けてほしい時にこういうある程度力の持った者がいてくれると確かに助かるからできるならそうしてもらうか?なにしろカストルの力は絶大だったから、誰かと戦うことになればその時に絶対呼ぶと思うが。


「……ほんとに?」


「うん。私あなたに負けちゃったしね。」


「おう、まあ俺も殺されかけてたからあまり強要はしないけどね。」




「あなたは死なないからいいじゃない。」




「ははは。……それはどういう意味で言ってんだ?」


「いや、別に………。」


カストルは口を滑ったと言わんばかりの顔をしていた。正直裕希も驚きと焦りの気持ちが浮かんだ。

アテナの存在を他の人に話していいのかというのはまだ分からないので置いといたとしても、"何故彼女がアテナの存在、加えて、アテナの持つ能力を知っているのか"というのは疑問だ。


『彼女とは私が若い頃に会ってるんだ。その頃自慢ではないけど私も有名だったから多分それで知ってたんだと思うよ。明らかに今日の戦いが、なんで死んだはずの攻撃で死ななかったのかとか、不可解なかわし方があったこととか、不自然だったから気づいたのかもしれないし、もしくは相手の霊が見れるのかもしれないし。』


『相手の霊が見えるって…霊能者かよ……。ていうかアテナ、お前さっきどこ行ってたんだよ。後少しで死ぬとこだったじゃねえか。』


急に心の中で声が聞こえたと思ったら、どうやらアテナのようだ。いきなり戻ってきたので少し驚いたが、彼女はけろっとしたような声で語りかけてきた。


『喋るのはどうも苦手なの。結局君の方が得意だったじゃん。…彼女をあのまま殺すわけにはいかないよ。君もそれでよかったって思うでしょ?』


『うん、…まあそうだな。あと一応聞きたいんだけど、あいつは大丈夫なやつなのか?』


『うん、……普通にしてれば大丈夫だと思う。』


『そ、そうか。…ならなんでお前まで俺らが戦おうとしてたことに便乗してんだよ……。』


『まあまあ……。』


アテナはカストルと同じように何故分かっていたのに止めなかったのかという点をはぐらかした。なにか重要なことがあるのだとすればすごく気になるのでとても追求したかったのだが


「とは言ってもまだ何も予定とかないよね。やってほしいことあったら、また来てよ。」


「私、あなたにひどいことしたのに……協力なんかしてもらっていいの?」


カストルの言葉にフェリスは本当に申し訳なさそうな声で言った。その言葉にカストルは目を丸くする。


「ほんとにらしくないよね。さっきの威勢はどうしたのよ。」


「恨んでる時しかああいう言葉遣いはしない…。なんでもない人に暴言を吐くのは、罪だと思うから。」


「あ、そう。気にしてないって言ってるでしょ。剣と盾が奪われたくなかったから戦いはしてただけだし、剣に関しては、彼が魔剣使えるみたいだし。もうさっきの戦いはなんの意味もなかったんだから、あなたには関係ないわ。」


「そ、そう。その……ありがとう。ーーーーまた、来るよ。」


「ええ。待ってるわ。」


フェリスはそういうと目配せで帰ろうと裕希とリオンに促した。

こうして今回のよく分からん騒動は幕を閉じるのだが、最後の終わり方とかあっけな過ぎて裕希としては少々こんなもんなの?っていう気持ちが残るが、とりあえず誰も死ななくてよかったなと思いました。


なにこれ…………………。





















フェリス達が帰ったあと、カストルは外で久々の外気に触れていた。外の空気の美味しさに思わず感嘆のため息を吐いた。


「アテナ、あなたが彼に教えてあげないと、なにも進まないよ……。」


カストルは独り言を呟いた。伝えるべき人に伝わらないもどかしさが体を苦しめる。


「アテナ、あなたの切った『神の糸』、まだ痛み残ってるんだけど。昔から容赦なかったけど、それは今も変わらないのね。」


あの断末魔のような声は確かに少し大げさではあった。だがそれは、そこらの人間じゃ絶対に耐えられないぐらいの強烈なものだ。それを分かっていて切るというのは勇気のいることだと思う。


「アテナ……、あなたにーーーっ、あなたにさぁ……会い、たいよ…………。」


会いたい気持ちは彼女の中でいつしか涙に変わっていた。いつ動き出すかも分からない彼らに期待を寄せ、再会を待ち望むことを受け入れるのは、カストルにとって非常に困難だった。


いつか、あたしから会いに行かせてよ、アテナ。

次回で一章最終回にします。そして、次回出したらしばらくなろうさんの方にはあげません。(たぶんその次は7月ぐらいになると思います。)予告通りMF文庫さんの大賞には出す予定ですので、みなさん応援よろしくお願いします。

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