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第1章 時空契約と干渉 第21話 錯覚?



なにもないものだと思っていた。むしろそれを望んでいたのかもしれない。

純白のように綺麗で、鋼のように固く、誰からも壊すことができないようなかけがえのないものなはずだった。それが本当かどうかは分からないけれど、それは同時に、満天の星々のように、儚いものだったのかもしれない。


「嫌だ」


間違ったことをしてきたはずがない。他人の為に必死になって踠いて、足掻いて、それが誰かの役に立ってきたはずなんだ。

その行為にどんな間違いがあった?


「嫌だ嫌だ」


初めて独りになって、この絶望的な恐怖を理解する。誰かに支えられて生きてきて、自分も誰かを支えていたんだと、だから分かり合えると自分だけ自惚れていた。

それを誰かが望んでいたとは誰も言ってないのに。


「やめてよ」


走って走って走って、ようやくこの世界にはなにもないんだって確かめることができた。本当になにもないんだって安心するべきだった。

でも安心と反対の感情を抱いてしまうのはなぜ?


「嫌だ。やめてよ。知りたくないんだ。」


唯一、間違っていることがあるとすれば




××のために役に立てなんて、誰も望んでなかった、ということ





「ーーーーーーーーーーーーーーーーー」





愛しい××に早く会いたい。



状況を確認してみよう。

魔法を登録するとかいうよく分からんことを言わされた途端、裕希とリオンは、フェリスの飛行機に乗せられ、謎の洞窟へ連れてかれた。

ここまででもかなりよく分からないのだが、百歩譲って、いいとしても問題はここからである。

魔法登録をするために奥の魔石があるところへ行った。そこで裕希とリオンはそれぞれ爆発属性、回復属性という魔法を手に入れた。さらに、フェリスは奥にある剛剣と煌勾(それぞれ剣と盾の名称)を取りに行くと言うので、確かに奥にあった小さい隙間に入った。

そこには魔剣という、人間が今まで持ったことがないと言われる謎の双剣をなぜか裕希が持てて、そのあまりの強さに、奥に眠る大悪魔「ルート」と呼ばれる災悪を縛っていた鎖を剣の余力によって切ってしまった。

それと戦っていて、裕希は間違いなく死の瞬間を得た。だが、アテナという特殊な力で相手を死から逃してくれる霊に助けられた裕希はそのアテナに身体を乗っ取られ、その大悪魔を圧倒した。要するに、アテナが裕希の身体を使い、大悪魔を追い込んだのだ。

ここまでがだいたいのあらすじである。


『で、なんでそんないいところで、俺に身体を返してきたし!!』


裕希は心の中でアテナに向けて叫んだつもりだったが、アテナからは反応が全くない。

なにがしたいんだあいつは。ていうか、なにを求めんだ(主に裕希に)。

裕希に、戦いのセンスは今のところない。少なくとも彼女の方が圧倒的に高かっただろう。

アテナがなんらかの理由で仕方なく裕希に身体を返してきたのだとすればかなり詰んでいる。だが、もし他に何か意図があったのだとすれば、裕希になにができる?


『いや、いろいろ整理しといてなんだけどこんなん焦ってテンパることぐらいしかできないんだけど。』


今も大悪魔が苦しんでいる前に立っているが、その痛みが彼女からいつ消えるのかは分からない。今切れたら、また殺される可能性がある。

アテナがなんらかの理由で返したという可能性もあるとさっき言ったが、もし、さらに彼女が体から消えたとかもあれば、裕希はもう彼女に頼ることもできない。つまり、もう死ねないのである。

ここで選択を誤るわけにはいかない。


「……私は、…」


「あ?」


思わずぶっきらぼうな声が出てしまったが、裕希は突然痛みに耐えながらも言葉を絞り出し始めた大悪魔に言葉で反応した。


「………私を、殺すのか?」


「……………………………」


彼女が必死に息をしながら出したのは、"諦め"の言葉だった。もしかしたら命乞いに近いのかもしれない。

でも、彼女には、まだ生きれる、という気力が感じられない。あからさまな諦めモードに突入していた。

多分今まで負けたことがなかったのだろう。

変な例えにはなるが、裕希も今まで誰にも負けたことがなかったゲームで、(確かオンラインで対戦した人だったか)負けた時、一瞬にしてそのゲームに対するやる気は失われた。極端に言えばそれと同じようなことなのではないだろうか。

彼女は唯一自信があった戦いにあっさり負けて、信じられなくて、もう生きる意味なんてないと思ったのか。


「俺は、どうするべきなのか、正直わかんねえよ。」


「………。」


「殺すべきなのだということも分かる。お前がたくさんの人を殺してきて、それがまだ続くんだったら、止めなくちゃダメなんだ。でもそれが本当なのかは俺は直接見てきてないから分からない。だから、殺すべきではないというのも分かる。」


「……………。」


「もちろんだけど、お前のことなんてこれっぽっちも信用してねえ。当たり前だ、初めて会った人間なんてそう簡単に信じれるものか。」


「うぐっ…………」


後ろでフェリスが、刺さったような声をあげた。いや確かにフェリスもこの前会ったばかりの人ではあるけど、あいつは俺を裏切ったりはしないとは思うけどね?多分。


「でもさ、初めて会ったんだから、どれだけのことをやってきたのか、いい意味でも、悪い意味でも、分からないんだ。だから、フェリスみたいにすこぶる嫌いにはなれない。そうやって人から渡ってきた本当かも分からない情報だけで、人を決めつけたりしたくない。」


「………そう。」


「だから、どうするべきかなんて決めらんないんだよ……。」


生かしもしないし、死なせもしないなんて事は出来ない。だからどっちかを妥協してどっちかを選ばなきゃいけない。

その答えがどっちか分からないとき、どうしたほうがいいんだ?

こいつのことをもっと知ってあげるべきなのか?まだ会ってからそう経った訳でもない人間だけれど、話せばきっと分かるはずだ。

でもそんな甘いことでいいのか。


「殺したいなら殺して構わないけど、なら私の話を聞いてくれる?」


「……………そんな、いきなり殺したりなんかしない。さっきは、フェリスが驚愕してたから、流れで戦っちゃったけど、ごめん。」


「ユーキ、そいつは………」


「本当に大悪魔的な存在なのか、聞いただけじゃわかんねえからさ」


フェリスは、やっぱり大悪魔と話そうとすることを止めようとした。彼女らに何があるのかは分からないし、これから知る事があるのか疑問が残るが、これはフェリスと大悪魔の問題とは別だ。

だからフェリスに止められようとも、決着は裕希のやり方でつけるべきだと思う。


「わかんねえから、一緒にいて確かめるんだよ。そんぐらいやらせてもらうぞ。」


「ーーーーーーーーー。」


驚いた顔を浮かべた。死ぬかもしれないような事を敢えてするような馬鹿な真似はしてこなかった裕希が、こんな無謀なことを言ったのに驚いたんだろう。


……簡単に、人は殺せねえよ。


その意図が届いたのか、無言でフェリスは了承した。


「私は、ここにずっと眠ってた。そら、たまにこの剣とか盾を取るために私を解放するあんたたちみたいな連中もいたわ。でも大抵の人は私が脅せば帰っていったの。でもあなたたちは帰らずに戦った。こんなの…初めてだよ……。」


「……………………………。」


裕希は頷きながら黙って彼女の話を聞いた。


「私、戦いって嫌いなの。」


「ーーーーーーーー。」


意外な一言に、少し裕希は驚いた。戦う事が彼女の生きる意味ではなかったのか。


「戦いたくないから、そうやって脅して、来る人みんな帰らせたの。そうすれば戦わずに済むじゃん。戦いはお互いに憎しみしか生まない。楽しくもないし。傷つけるのが楽しいわけない。」


「そう…………だったのか。」


「胡散臭いでしょ?ならなんで全力で殺しにかかってきた、って話だもんね。」


「……ちょっとさあ…………」


我慢しきれなかったのか、フェリスが極限まで抑えだだろう狂気の声で言った。


「傷つけるのが嫌?戦いたくない?だからいろんな犠牲者に殺しをやらせてたのかよ。傷つけるのが楽しいはずがないなんて綺麗事ぬかしてんじゃねえぞ、大悪魔め。やってることは、お前が一番最悪なんだよ。」


「フェリス……。」


憎悪からくる声に、裕希は寒気がした。こんな嫌な声は聞きたくなかった。

確かに大悪魔ルートの言ってることはおかしい。殺したくも戦いたくもないのに、それを誰かにやらせて、自分は何もせずにある意味綺麗事と言えるようなことを言う。一見裕希を騙そうとしているようにも見えなくはない。

さっき負けかけたのはアテナのおかげとも言えるが、騙して欺いて殺したいのだとすれば、いつでもタイミングはあったはずだ。

こいつは一体何がしたいのだと思っていると、


「ふーん。フェリスちゃんはそう思うんだ。」


「その呼び方はやめろ。吐き気がする。」


「あのさ、一つ言わせてもらっていい?」


「なんだ?」


ここで何か間を挟むこともなく、聞くこともできただろう。でもこのあと彼女が言うことが、あまりにも聞き捨てならなく、思わず聞き返してしまった。







「一体いつから、『私があの有名な大悪魔ルート』だと錯覚していた?」







「え………は……あぁ……え?なに?錯覚?」



終盤になってきました。

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