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第1章 時空干渉と契約  1話 始まりはいつも学校から

暑い。夏だから仕方ないと言えばそうだが、それにしても、だ。

制服は汗でびしょびしょに濡れ、史上より圧倒的に気持ちが悪く、頭の中が溶けてしまうと一瞬思ったぐらいだ。

大きな荷物を担ぎ、長い坂道を全力で駆け上がる。学生など全く誰もいない時間に走っているその姿は全く持って異質であるといえるだろう。


「――――っくそ!!」


その少年の名を伊波裕希という。本来なら裕希はこの時間、自宅で寝ていたことだろう。それは、夏休みだからという前提を消してもなされていたはずだ。

彼が不登校になったのは、高校が始まって2週間後の事だった。

裕希が通うはずだった高校には入学早々大きなテストがある。知ってて入学したんだろうということは置いておいて、そのテストの絶望的な点数を見て、萎えてしまったのだ。あと、部活やクラスの人間関係なども含め、裕希は最悪のスタートを切った。それに加え、学校の事務連絡用のメールボックスに「週休7日希望!!」といった内容のものを送り、親とともに学校のあらゆる先生に全力で怒られたりしたこともあり、それが彼の学校で一番記憶に残った出来事だろう。

だがしかし、そんなのはたった少しの理由でしかない。というのも、彼にはもっと大きな不登校の原因になる問題が在った。


曰く、三次元のリア充に期待をするぐらいだったら、死んでから二次元の世界に新たな期待を寄せるとしよう。


曰く、嫁がこの世に存在しない世界に生きる価値があるのだろうか?


曰く、学校で青春を送れ?バカなことを言うんじゃねえ。青春ってのは夢や希望に満ち活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたものっていうんだよ。3次元に夢や希望時代なんてねえよ。


自分でも何を言ってるのか分からなくなることがある。バカを言ってるのは明らかに自分だろうと自覚するときもあるぐらいだ。

友達にすすめられて裕希はアニメや漫画といったものを見てしまったのは、学校でちょうど友達にふさわしい人と話し始めたときだ。そこから、2次元という深い闇の中に自分から入ってしまい、どっぷりはまった今となっては抜け出せない、いうなれば薬物のような存在に、彼は心酔していった。こんなに素晴らしい感動があるのに、いざ、戻ってみれば、それとはかけ離れた現実世界。そのギャップにはどうにも耐え難かった。自分の将来のための高校だ?未来のために大学への進学を希望する?

そんな馬鹿みたいな妄想のために学校なんて行ってられるか。もっとも、アニメや漫画の世界のような「奇跡」とやらがこの世にあるのなら、話は別だが。

自暴自棄になった日に、ふと思ったそれが、自分を不登校寸前まで追いやっていった。数少ない友達も、高校で話した人を除くと、みんな違う高校に行ってしまって、裕希とは話さない関係になってしまい深く落ち込んで考え込んで、いつしか答えを自分の中で出した。もう、学校なんて行く意味ないんじゃね、と。

だが当然、親はそんな自己中は許さない。自分で決めて進学した高校でしょう、と言った母親に内心ぐきりとはきたが、それでも行く意味なんてないと裕希は言い張り続けた。自分は正しい。おかしいのは周りの方なんだ。それを連呼する親との戦いだった。

それでも親は譲らない。第三者から見たって裕希が悪いなんてことは明らかだし、自分でもそれは自覚しているのだ。ギャップという計り知れない恐怖から逃げていただけで、正しいことは一つもないと。

かれこれあって高校が始まってから2週間、何かきっかけがあった訳ではなく、唐突に裕希は学校へ行くことを決心し、実行した。

周りの憐れむ目など、それこそ興味の範囲外にもほどがあるが、学校側がさらに裕希を追い込んで行った。

それが今、この夏休み中に外周を走らされるという現状につながる。

学校を休んでいた日にちは12日。もうこの時点で指定校推薦は不可能になってしまったわけだが、そんなどころの話では済まされない状況を彼は知った。

体育の単位だけ、最低ラインを下回っていたのだ。それがつまりどういう事かというと、高校1年生の最低限の学習ができていないということ。つまり、留年だ。

今度こそほんとに中退してやろうかと思い先生に聞きつけたところ、彼にとって幸か不幸か、裕希に夏休み補修をしなければ、と付け加え、チャンスを先生は与えた。

外周20週目になってふと思う。


「――こんな過酷なことみんなにやらせていたのかよ………。」


もちろん逃げようと思ったりもした。だがそれで「留年してしまいましたちゃんちゃん(・ω<) てへぺろ」的な展開の事を考えると、親の憤怒を想像してから身の毛もよだつ事だったと想像したことに後悔しつつ、逃げる選択肢のない今の状況にため息を吐きながら残り30周を走り続ける方がましだということに気づいた。

期間は1週間で一日50周。運動部のみなさん的にもおそらく顔を青くするだろう地獄の練習スケジュールだが、何とか毎日やり遂げてきた自分を讃頌してやる気を上げて、ここまでやって来た。

そして今、次学校が見えれば補修が終わり、留年の危機から逃れられる。

「この坂を上れば………!!」


ある意味の達成感が強いこの一週間。これ以上何も考えずに夏休みを過ごせるという幸せに胸を弾ませる。(もとい、夏休みの課題は頭の片隅にも留めていない裕希であった)それが今、裕希を突き動かす動力なのだろう。

そして信号を渡る最後の横断歩道にたどり着いたとき


「…………?」


信号が青に変わるのを待っていると、一瞬の違和感が、裕希襲った。

周りが黄緑色になった気がしたのだ。周囲の人間は何事もないようにそれぞれの道を歩いている。それは、突如の静寂だった。


「――――――ちぃと疲れすぎたのかもな……。」


いまさら思いかえさなくても、一日何時間も朝から走らされていたのだ。陸上部でもこんな練習メニューは少ないどころの話ではないと自慢できるぐらいだと思う。

ものすごい疲労とストレスで倒れても死んでもおかしくない状況と言っていい。まずは今、自分がこの地面に立っていることを褒めてやることとしよう。

信号が青になると、自分の中ではラストスパート。全力で高校の方へ走る。

 校門が見えた。そこには体育の先生と、担任の先生が待ち構えていた。そこにもう一人、手を振って走り切った裕希を迎える……


「げっ………なんでいるんだよ。


母親の伊波秋が仁王立ちして苦笑するという不細工な格好を見せていた。




「全く、その……引きこもり?でもよく頑張るのね。これでさらに引きこもり覚醒してよかったわね。」


「なに言ってんのかわけわかんねえよ。引きこもりの意味わかってて言ってるんだったら、それは俺に対してケンカ売ってるんだと判断しちゃうけど?こんなアウトドアな引きこもりいてたまるか。」


「厨2病のあなたが引きこもり引きこもり言うから、てっきりそういう類のもなのかと。」


「厨2病って言葉は知ってるんだ……。」


茶番のような対話を聞きながら、校舎の階段を上り、先生は苦笑する。

これからについての面談があると聞かされ、裕希がため息を聞こえるように2回吐いてから2分ぐらいたった。

教室はキンキンに冷えた冷房で、走った後の裕希には、2次元世界の次に天国かもと思えるぐらいの快感を味わえる夢のような場所に変わっていた。たとえどんなに黒いことををやった人間であろうと、一応一週間全部含めて350週、外周を走った者への配慮なのだろう。だったらアイスとか用意しとけと内心で思ってしまったことはここだけの秘密にしておこう。

面談では秋と裕希、担任の田村とで行われる緊急の面談という形であり、そこではまさしく「これから」についての話し合いが行われるらしい。


「これをきっかけに授業もちゃんと参加してくれたら先生としては望ましいことなんですけどね。」


「馬鹿か。こんなダルいことは二度とごめんだから、体育の単位だけはちゃんととるけどぐえっ!!」


「先生にそんなふざけた口をきけなくなるように数学だけしか考えられなくなるような魅惑の魔法をかけてあげましょうか?」


「数学だけって…それはそれで困っちゃう気が……」


「痛い痛い!!でも古文の魔法にしないところあたり親としての甘えが出てきてるんだよね?」


「あんなクソ教科、おぞましくて人間としてかけてやれないわよ。そう、人間としてね。」


「聞き捨てならなすぎるんですが!親子そろって国語の教師に対する当てつけですか!!」


そんな調子で一見呑気に見える三者面談が始まった。

内容は今後の授業の流れについてと、聞きたくなかった進路についての事だった。大学に行くか、専門学校へ行くか、就職するか……


「あとは、ニートになるかだな!!」


「勝手に結論付けないでもらえます!?こっちはまじめな話をしているつもりなんですが!!」


 「まあ、そうかっかすんなって。怒ってばっかだとはげるぞ?それに俺はいたって真面目だぜ?最後のが一番重要だと思ってくれてもいいぐらいにな。こつこつ体力をためていざ、いせかいにしょうかんされた日のために…」


 「意味不明すぎて頭が追い付いていかないので少し君は黙っててもらえるかなあ!」


 「―――――――」


先から秋が黙りこくっている。いつもおしゃべりな秋がここまで黙っているのは天変地異がいつ起こってもおかしくないくらいにめずらしい。

  どうしたのか声をかけようとしたとき、


 「大学へ行きなさい。」


 「っ!?勝手に決めてんじゃ……」


「先生もそれをお勧めしますよ、裕希君。」


「――――――――――。」


絶句した。先生まで親の子供に対する固定された未来に肯定するのか。そこは自分の未来は自分で決めろとか心強い言葉がほしい。


「堂々とニート宣言した人に自分で決めろとは言えませんよ。」


「宣言してねえし、てか俺の心中を読むな。」


「繰り返し言いますが、大学へは行くべきです。」


母が今まで見たこともない真剣な目を裕希に向けてきた。


「でも、」


「今日日、今からどこへ就職するのか決まっていて、専門学校へ行く人以外、大学へ行かないと就ける職業なんて相当限られてくるの。」


「――――。」


「ニートになるなんて言ったけど、どうやって生きていくつもりなの?」


「――――。」


「お母さんは大学へ行ってくれたら、学費と食費は出すけど、それ以外は出してあげないつもりだから。」


一方的に息子の未来を決めていこうとしているところあたり、この人の親らしさが見えてくる。勝手に将来は大学だなんて決まるんだったら、一体何のための面談なんだ?

これでは裕希の参加する余地が見えてこない。でも本当に将来のことを何も考えていなかった裕希には何も言い返せなかった。

その後、面談は秋と田村の二人で行われていった。なぜ秋があんなに真剣だったのかは、分からない。

帰り道は、二人ともいつもの調子に戻っていた。




















日常が消えていくことを知る余地はあったんだろうが、それを含めていろいろなことが気づけないところが、伊波裕希の欠点だと、後々後悔することとなったと言う事を書き留めておくことにする。



短くコンパクトに!!毎回投稿しますね……(汗)

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