第1章 時空契約と干渉 第14話 第悪魔『ルート』
「……あなた達が、過去から来たという……」
「あ、えと……まあ、はい。」
王室はフェリスによると王様の仕事部屋ならしい。なので中は装飾まみれのアレな空間ではなく、どちらかと言えば社長室に近い雰囲気だった。
さすがに目の前にいるのが王様なため、少し緊張気味ではあるが、思っていたよりは動転しなかった。
彼女はアン国王3世という。王女であるフェリスの母親で、フランソワ教の神官も務めているそうだ。それにしても、アン国王と暗黒王って似てるな…。まさかこの方がラスボスではないだろうが、もう少し名前の付け方があったと思います!
「お母様、この2人の国籍登録と移住申請の承認の許可をいただけますか?」
「もちろんよ。用心深いあなたが選んだ方なんだもの。信頼はしているわ。」
「いや、俺たちそこまですごい人ではないですけど……。」
「別にあなた達がすごい人などとは言っていませんよ。フェリスと共にいて安心できる、ただそれだけの存在です。加えて言うならば、私もフェリスが選んだ人なら信用できると言うことですね。」
「はあ……。」
「あなた達の国籍登録と移住の許可を宣言いたします。ちなみに皆さんフランソワ教になりますが大丈夫ですか?」
「それは問題ございませんよ、お母様。私たちは共に生活する次第ですので、彼らには同じ宗教に入ってもらいます。」
フェリスは当たり前のように他人である裕希とリオンをフランソワ教に入団させた。いやまあ入るだけだし別にいいんだけどね?少しは聞いてもいいと思っただけなんだけどね?
「では、下がっていいですよ。」
「はい、お母様。失礼いたしました。」
フェリスがアン女王(ほんとに暗黒王みたいでやだから女王と呼ぶことにした)にお辞儀をしたので、思わず裕希とリオンも頭を下げた。こんなんで登録できたのか、少し心配だが、裕希達一行は部屋を後にした。
「お前の母親なんて言うか、国王っぽくなかったな。あの部屋といい、なんかほんと社長の方が近い気がしたよ。」
「とんでもないことを言うなぁ……。あの人は怒らせると魔力が神がかるからあまりに変な態度をとると、そなたも死んでいたかもしれん。」
「そんなすごい人だったんだ!?」
王室と王様がああだったから少し変な感覚になっていたが、廊下は王城そのものに近かった。
あかりは昔ながらのシャンデリアでものすごく装飾されていて(フェリスによれば魔法で火をつけたり消したりする術式が施されているらしい。)、階段はカーブにされ赤色のカーペットまでしかれている。この辺は裕希達の時空の宮殿やらに負けていないと思う。
裕希達は今、王室でアン女王の許可をもらった後、フェリスの部屋にむかっている。そこで今後どうするか話し合うらしい。世界を救うなんて事を口にしていたが、一体何をするのだろう。
「ここじゃから、少し……待っていてくれ。」
フェリスは懇願するように裕希達に切り出した。考えてみれば今のこれは先と同じシチュエーションともいえる。きっとフェリスもこれ以上探られるのは嫌なんだろう。
裕希が頷くと、フェリスは中へ入り、何やらガサゴソとやっている。部屋が汚いのだろうか。そう言えば、今までリオンの部屋以外女子の部屋なんて入った事ねえな。うわ、なんかそれだけで緊張してきたんだけど。
と思いつつフェリスに呼びかけられ中へ入ってみたのだが
「こりゃ、女の子の部屋じゃねえな。」
「可愛く……ない…!」
「何やらボロクソを言われている気がするぞ。君たちは何をそんなに期待していたんだ。」
目に映ったのは、試験管や大量の薬品、実験に使うのか、それらしき大型の機械の山である。そんなものがしきりに置かれているのにもかかわらず、部屋が割と狭い。
「ここでお前が毎日カオスな事をしているということか。」
「研究者に向かって何を言うんだ。これは定めだ。宿命といってもいいだろう。これが私のやりたいことで、実際にたくさんの成果を挙げた場所でもあるんだ。ある意味聖地だぞここは。カオスな要素がどこにある?」
「何いってんのフェリス、カオスな要素しかなかったじゃん今の。」
「納得いかない!!」
こうやって話していると、自然とフェリスの機嫌も回復する。単純な性格で良かったと思う。
で、でもフェリス、お前がいくら弁解しようとも、お前のソレはカオスとしか言いようがねえぞ……。
「これからのことについて、今から話したいと思う。」
「おう。お前からはまだ世界を救うってめっちゃ抽象的な目的しか聞いてねえからな。何をすればいいのか正直気になる。」
「わ、私にできることがあるなら、なんでも手伝うよ!」
「分かっている。まずは目的から話そう。」
「おう。」
フェリスは裕希とリオンに紅茶を出すと、話し始めた。
「いま世の中には大悪魔と呼ばれる非常に悪質な魔法使いがいる。テロリストみたいなものじゃな。そいつはとても固く、強いフランソワ教の信者でマルコ教を全面否定し、そこら中で破壊活動を繰り返している。マルコ教には急進的過激派、いわゆる、人を殺したり、建物や資産を壊したりして社会を変えていこうとする集団、みたいなのは少ないから、反抗できないんじゃ。私たちはそう言う人たちの根本と言われる『ルート』を倒すのが、まあ、目的じゃな。」
「ルートって……根本をそのまま英語にしただけじゃん。」
「よく知ってるな……。っていうかすっげえ気になるんだけどさ、なんでお前らみんな日本語喋ってんの。」
「それは、ここは昔日本の植民地だったんだから当たり前じゃな。」
「なんてことが起きてんだ!」
「日本とフランスって結構離れてるはずなんだけど……。」
このようにこの3人で話していると、ストーリーがなかなか発展しない。(どっかのこの作品の筆者のように)
なので、簡単にこの後どんな事をフェリスが言ったのか後に書いておく。
その大悪魔は過去になかなか前例を見ない強さの持ち主でそう簡単に殺せるような奴ではないらしい。
それに伴い裕希達はそれに対抗する勢力と強さがなくてはならない。
そこで、テロ行為に関しては、各地に警備を万全に配置しておき、ルートは我々、3人がなんとかして倒すことになった。その力をつけるために裕希達は『剛剣』と『煌勾』と、それぞれ呼ばれている剣と盾があるだろう場所へ向かうのがまず第一の目的だ。
ただその前に裕希とリオンは魔法登録という、内に眠る魔力のパターンを引き出す、ような事をしておくべきであるので、本来なら街にある施設を利用すれば10000円で登録できるのだが(物価やレートはほぼ裕希達の日本と同じならしい)、何しろ毎日3時間も待たなくてはいけないので、面倒だ。
なので、人工的に魔法登録が出来るところが、その『剛剣』と『煌勾』があるだろうところにあるので、これからそこへ向かうということになった。
「ほうほう、なら俺たちはこれからそこへ向かえばいいんだな?」
「そうじゃ。庭の小型飛行機を使って今からそこへ向かうぞ。」
「また飛行機かよ……。」
「安心しろ、音速を超えることはないから衝撃波に悩まされることもあるまい。」
「ならいいけど。」
嫌な予感を感じつつ、この後少し雑談をしてから現地へ向かった。
「まもなくだね。君にもう一度会える事を想像しただけで涙がでそうだよ。」
何もない公園でその少女は空を見上げて呟いた。愛する人がようやく自分の存在に気づいてくれるという予感に胸を弾ませる。
「君は……………きっと、覚えていないんだろうな…。それは、少し寂しいけれど………」
言葉が詰まる。何千億という時を経て、ようやく会えた、ようやく気づいてくれた存在に自分を否定されたらどうだろう。
想像しただけで気持ち悪い。吐き気がする。
せめて好意的に思われるよう努力しなくてはならない。
「今度は、私がーーーーー」
風が強く吹いている。揺れる草木は穏やかな匂いを漂わせ、季節と終末の終わりを告げている気がした。
「君を、助けるばんだね。」