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第1章 時空契約と干渉  第8話 落胆して激怒して安心する

 「なるほど、そんなことが…。」


 裕希は今日会ったフェリスに関する覚えている範囲のすべてのことを話した。案外、里音は真面目に、馬鹿にすることなく聞いていた。


 「で、俺としては里音がいない人生なんてありえないわけ。だから行くとしても里音が一緒についてきてくれるか、あるいはフェリスが里音同行を了承してくれれば、フェリスのいたという世界に行ってやってもいい。何かわかんないけど俺が必要ならしいからさ。」


 「やっぱロリコンじゃん。」


 「ロリコンちゃうから。必死な願いっぽかったから何とかしてあげたいと思っただけだから。」


 「まあ私のことが大好きなお兄ちゃんはもうその時点でだいぶアレなんだけどね。」


 「全国の妹持ち兄ちゃんに謝れよ。兄貴ってのはな、これが当たり前なんだよ。当たり前なんだよな……?」


 「誰に聞いてんのか知らないけど、多分限度ってのはあると思うよ。―――――まぁ、あたしも人のこと言えないけど……。」


 「だよな。知ってた。」


 伊波家の異常な兄妹事情を知ったところで、そろそろ本題に入り始めようと思う。


 「里音、お前の好きに決めていい。わかんないけど多分帰ってこれないかもしれないし、死にそうになったりするかもしれない。」


 「…………」


 「むしろ、里音とか、あるいは俺だって途中で死んじゃうかもしれない。」


 「……っ」


 フェリスが裕希に「私は未来から来た」発言をされた時の裕希とおんなじような顔を里音はしていた。

 里音はしばらくそうしていると、うつむいて顔を隠すようにして言った。


 「ふざけてるんだったら今すぐ謝ってもらうんだからね?面白くもなんともないから。」


「……は?だから言っただろ、そうだと仮定して聞いてくれって。それに俺はいたって真面目…」


「そうじゃない。……そうじゃないよ。」


「――――。」


里音はうつむいたままで、表情をうかがうことはできない。だが、だいぶ声が震えているのはここから里音の声を聞いていてもわかる。


「わたしより先に死ぬなんて許さないから。絶対に絶対に絶対に、……許さないから……。」


「――――――。」


裕希はなぜ里音がこんなことを言うのか、理解した。

裕希が途中で死ぬ、そのことを里音は許さないのだ。里音は一生裕希のそばにいると誓った日から、過剰に裕希が死についてしゃべりだすことに反応していた。そのこともこのことも実質的には同じだ。


「死ぬときは一緒、なんてありがちな言葉は使わなくても、少なくとも、私より先にいなくなるとか、自殺ものだから。」


「おい。お前こそそんな物騒なことは言うな。」


「お兄ちゃんが先に逝っちゃうのが悪いんだよ。そんな世界生きてる意味なんてない。」


その伊波裕希はもう死にましたみたいな話し方が多少気にはなるが、裕希は里音の言う通りだと思っていた。

先に逝かれることの恐ろしさを味わったことがないので何とも言えないが、想像したいとは思はない。母も父も里音も、いなくなるもんならいっそ自分もいなくなりたいって思う気がする。だから先に里音が言った自殺ものという言葉はけして極端な意見ではないのだ。


「今日は俺、失言が多いみたいだ。……ごめん。」


「うん。失言はいつものことだと思うけどね。」


変わり身早いな……。そのほうが裕希としては助かるのだが。

里音はいつの間にか顔をあげ、なぜか安心するような顔をしていた。


「いや、言っとくが今この時点ではまだ安堵する場面とは程遠いからな。お前の選択に寄ったりはするけども。」


「いや、お兄ちゃんはふざけて、そんなデリカシーのない質問する人じゃないんだなあって思って。けして安心はしてないよ。」


「お、おう。」


「でも、ほんとにさっきのこと、極端なんかじゃないと思うの。私、……ほら、弱いからさ。お兄ちゃんのいない生活なんか耐えられないよ。他の人なら、まだ………」


「おい、他の人ならとか言うな。」

軽口叩き合って今まで過ごしてきて、この時改めて、彼女の愛に気づいた。


「みんな、よく自分が死んだらどうなるんだろうっていうよね。もちろん、それは私も思うよ。でもね、私的にはお兄ちゃんが死んじゃったらどうなるんだろうって……ぅっ……そっちのほうが、………っ…想像、できなくて…」


「里音………。」


泣いていた。とても苦しそうに、涙を流していた。

小さい頃から、里音はあまり泣かなかった。近所の仲が良かった友達が突然交通事故で亡くなった時も、親友が引っ越してしまった時も、森で二人で迷って朝まで帰らなかった日も、隣で少し泣いていた俺を馬鹿にするぐらいのメンタルとか強さは、あった。

にもかかわらず、その里音が涙をあふれさせている。


「っ……ご…ごめん、ね。なんで私、泣いてるんだろうね…?お母さんに、も…あんまり、泣いてるとこ…みせたこと、ないのに……。」


「謝るのはこっちだわ。ごめん。絶対お前を一人にしねえから。……その、変なこと言って悪いな。」


「……もう、私も、絶対…は、放さないんだからね…?」


そう言って里音は裕希に抱きついて、声をあげて泣いた。いや~母親が出かけていて本当によかった。

やれやれと思う。なぜ信じもできないようなことにここまで心が動かされるのだろうか。公園の時もおんなじ感じだった。現代の科学では不可能なことを信じ込んでそれに心を動かされて落胆して激怒して、安心したりしていた。それが不思議でしょうがない。この後、里音も同じことを思うのだろうか。

でもまあ、里音の本音も聞けたことだし、いいか。

正直彼自身始めは理解できなかった。嫌われても蔑まれてもおかしくないようなことしかしてこなかった裕希を親とはまた違った愛で受け入れてくれる、そのことがたまらなく、おかしかった。

でも今は違う。

勇気が里音のことを大好きなように、里音も裕希のことが大好きなのだ。それは兄弟だからなんて言う、取ってつけた愛などではなく、真実の愛なのだ。

ならば真実の愛とは一体どこからわいてくるのか。

理由なんて必要だろうか、と逆に質問したいと裕希は思う。そう、愛に理由なんてないのだ。好きなものは好き。ただそれだけなのである。

したがって、里音は何がいいからなんて言う理由はこれっぽっちもなく、ただ好きだから好き、といってくれるのであるのだ。……なんかそっちのほうが取ってつけた感あるな……。

だが、それの気付いた時、自分は馬鹿なんだと改めて思った。


「まあ、自分がバカなのは自覚してるんだけど。」


「ごめんね。それは私も否定できない。」


「フォロー期待したわけじゃねえけど、ばっさりだな。」


裕希の胸の中で里音が笑っている。背が裕希よりも小さいのでぴったりおさまっているところがとてもかわいい。

愛しい妹をこれ以上傷付けたくはない。そう裕希の心のなかで決心がついた。


「ここで里音が俺と一緒に行きたいって言ってくれねえと、物語の展開的にきついところがあるんだけど、どうする?」


「大丈夫だよお兄ちゃん。私はお兄ちゃんと違って空気が読める人間だからね。」


「おおそうか。それは頼もしいぜ。」


腑に落ちてしまう自分が情けないぜ。


「妹は捨てない、でもフェリスは助ける。って言ったら大分きつそうだけど、それでもやるしかねえな。」


「…?」


里音は不思議なものを見るような顔で裕希を見た。その頭を裕希は優しくなでた。

フェリスと里音、どっちもフェリスの母界に連れていく。それしか考えが浮かばなかった。妥協はなるべく少なくしたい。しかし、妥協が何かを挑戦するときに必然の如く現れるのは仕方のないことなのだと思う。妥協ばっかりで本当の目的を見失う時だってあるかもしれない。

だが、誰にだって妥協や葛藤を乗り越えてまで真っ先に守りたいものがあったっていいはずだ。そして、裕希は、それが里音であればいいなと思う。

愚問だが、だからもしフェリスに妹連れを断られたら時空越えはあきらめるしかないだろう。もともとかなりめちゃくちゃな頼みしかしていなかったような気がするし、そもそも自分にできることなのか、ともいまだに思う。

だが裕希はもう逃げないと決めた。立ち向かえるなら立ち向かう。ただし条件が付く、ただそれだけのことだ。

里音は心底心苦しそうに裕希の部屋を後にした。そんな彼女が窓のほうを見ていた気がしたので、ふいに振り向いてみた。


「…………。」



いつもより空が暗く、黒い気がした。

 年明けまでは投稿しません。休むことにします。

 ていうかしばらくテストがあって投稿できませんでしたすみません。

 では来年お会いしましょう。良いお年を~♪

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