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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
98/106

Page98 「司書ごっこ」

リリエーナは浮遊椅子に座り、左右をティアとリッカに挟まれて門を通り、領主の館を背にして大通りを進む。

ティアの後ろにチャコが並び、リッカの後ろにミーアが付いている。

更に後ろからは、チェスター家を遅れて出てきた護衛が数人付いてきているが、その全員がチャコに捕捉されている。

しかし、王家付きの護衛も数人付いてきていることには気づいていない。

最優先護衛対象のクレアが比較的安全な所にいるため、手が空いている人員をティアに割いた結果だった。


「それで、今から行くのは屋台通りでいいかな?」

「はい。大丈夫です」

「お肉を食べるのじゃー!」


ティア達はまずリッカの空腹を片付けることにした。

事あるごとにティアから漏れ出ている魔力をつまみ食いしているリッカだが、人型では魔力効率が悪いたためそれでも足りていない。

ティアが起きている場合は食事の時に魔力を出してもらい、異空間で寝ている時は周囲の魔力を吸い込むように食べる。

リリエーナの家に泊まった昨日は、夜中に起きて竜形態になり周囲の魔力を吸収した。

人型に慣れればもっと燃費は良くなるのだが、良くも悪くも殆ど平和に進めているため人型での魔力の使い方や維持の仕方を学べていない。


「私はあまり出歩けないので行きつけのお店はないんだけど、お母様からオススメのお店を聞いているから期待しててね!お母様は食べ物と綺麗になることにはうるさいから」

「よろしくお願いします」

「のじゃ!」


リリエーナはアレイアから受け取ったオススメのお店が書かれた羊皮紙の切れ端を見せながら言った。

足の都合でお土産としてもらうことはあっても、こうして自ら足を運ぶことは滅多にない。

クロステル内にある支店に商品を運ぶ時に数回寄り道してもらっただけだ。


「リリエーナちゃんも大きくなったら綺麗になることにうるさくなるはずニャ」

「そうなんでしょうか?」

「きっとそうニャ」

「チャコさんもですか?」

「私は今でもうるさいニャ。毛並みには気を使ってるニャ」


後ろで話を聞いていたチャコが苦笑いを浮かべながら言った。

まだ幼いリリエーナやティアはよくわかっていないが、早い者では結婚を考え始める年齢になっているチャコ達はそれぞれ気を使っている。

チャコは毛並み、カコは洋服や仕草、シュトは料理。

クレアは無駄な肉がつかないように体を動かして細いウェストを維持している。

それでもコルセットを付けなければならないドレスを憎むほどに嫌っている。

そのため、冒険者になった理由の1つにドレスのことが入っているのでことは隠していない。


「まずはここから!中央の諸島群で作られている一風変わったスープでお肉を煮込んだ料理!パンには合わないんだけど、スープで煮込まれたお肉が柔らかくて美味しいし、スープも寒いここには合うんだー!」

「柔らかいお肉はいいですね!楽しみです!」

「リッカは歯ごたえがある方が好きなのじゃー」

「大丈夫!横にはスープのベースにもなっているソースを使った串焼きがあるよ!」

「のじゃー!」


リリエーナが決めたお店はアレイアのメモにも載っているが、アドバイスをしたのはミーアだった。

朝食の取り方からティアはまだ顎の力がそこまでなく柔らかい物を好んで食べていた。

逆にリッカは竜由来の噛む力を存分に発揮するため歯ごたえのある野菜と肉を好む。

好き嫌いなく何でも食べるのだが、シャキシャキと鳴る野菜が密かにお気に入りだった。

それを後ろに控えながらも観察したミーアによって、リリエーナがメモを見て悩んでいたところで助言したのである。


「これは美味しいです!クニュクニュしていて噛み切りづらいのですが、小さく切られているので問題ないです!噛めば噛むほど味が滲み出てくるのもいいですね!」

「リッカはこっちのお肉の方が好きなのじゃー」

「リッカちゃんのお肉はソースが焼かれて香ばしいいい香りがしてるね〜」

「どっちも美味いニャ!」


ミーアの助言で決めたお店は好評だった。

そしてそのまま屋台通りを他の肉料理や野菜料理、お菓子にジュースと色々なものを楽しんだ。

雑貨類に関しては軽く眺めるだけに終わりそうだったのだが、リッカがキラキラと光るだけの石を熱心に見ていたのでそれだけ買った。

リッカ本人もなぜ気になったのかよくわかっていないのだが、欲しいものは欲しい。

自由になるお金ができたら色々買い食いするつもりだったのだが、少しだけ綺麗なものを買おうと決めたリッカだった。


「あれ〜?お姉ちゃんも司書さんごっこしているの〜?」

「え?いえ。私はメモリアの司書ですよ」

「じゃあこっちだよ〜」

「え?あの……リリーちゃんどうしましょう」

「ふふっ。せっかくなので行ってみましょう」

「のじゃー?」

「あー。懐かしいニャ。いいんじゃないかニャー」

「そうですね。いざとなれば私たちが出るだけです」


屋台通りを抜けて広場で休んでいると、ティアが着ているメモリアの司書のような服を着ているリッカよりも小さな女の子が近づいて来た。

帽子はなく、バックルに本と羽ペンは刻まれていない。

生地も上等なものではないが、司書の服を模して作られたものだとわかる真っ白な服だった。


女の子はティアの手を取って広場の片隅へ引っ張ろうとした。

どうしたらいいか困ったティアだったが、リッカを除く全員が止めなかったこともあってそのまま全員で移動した。

何が行われるのか分かっていないのはティアとリッカだけで、残りの全員はにこやかに向かっていく。


その先には同じような服を着た子供達が羊皮紙を折り曲げて本の形にした物を持って並び、その子供達に大人が話しかける。

それに子供が羊皮紙を捲りながら大人に何か答えると大人がお菓子を渡していた。


「これは何でしょうか?」

「司書さんごっこだよ〜」

「それは先ほども聞きましたが、司書とはメモリアの司書ですよね?あの羊皮紙が本の代わりなんでしょうか?」

「そうだよ〜。わたしのはこれ〜。お母さんが書いてくれたものを読んだらお菓子がもらえるの〜」


女の子はティアの手を握っているのとは逆の手に持っていた羊皮紙を見せながら言った。

そこには母親が仕入れた美味しい料理を出すお店の話や、どこの商会がどの街に行商へ行ったのかなどの情報が書かれていた。

それ以外にも当たり障りのない井戸端会議で知った情報も書かれている。

大人はここに書かれていること聞き、子供はそれを読むことで字の勉強にもなるというものだった。


「お姉ちゃんも行こ〜」

「あ……」

「ティア〜」

「リッカちゃん大丈夫だからここから見ておこう」

「う〜。わかったのじゃ〜」


女の子がティアを引っ張って子供達の方へ行く。

リッカもついて行こうとしたのだが、それはリリエーナに優しく手を握られて止められた。

子供の遊びをしたことがないティアにほとんどの子供がやる『メモリアの司書ごっこ』を体験させてあげようと考えたのだ。

本人は本物だが。


「あら?見ないの子ねー。別の地区の子かな?どういった情報を取り扱っているの?」

「え、あ、基本的にはほとんどの情報を扱っています」

「そうなの。なら、ここあたりで1番美味しいお肉を売っている場所はどこ?」


ティアが子供達のところに行くといきなり声をかけられた。

普段見ない顔だから声をかけたのだが、とっさに反応できずそのまま対応し始めるティア。

本来であれば羊皮紙を持っていないことや服装で気づくべきだったのかもしれないが、ここではほとんど毎日司書ごっこに興じる子供がいるのでいつもの対応をしてしまったのである。


「少々お待ちください。えっと……」

『検索結果を表示したよ〜。無料だから「そちらの情報であれば無料で開示できます」って言えばいいよ〜』

「そちらの情報であれば無料で開示できます。開示しますか?」

「え?あ、あれ?本物?!子供の司書さん?!」

「はい。そうです」

「ほわ〜。お姉ちゃんすご〜い!」


悩みながらも本を出したティアは自分(・・・)のカードを表紙に当てて検索した。

その結果、依頼された調べ物は無料になったのだが、元の値段も無料だっため問題はなく、ペンシィは注意を後回しにした。

だが、検索したのはいいものの、依頼者への伝え方がわからなかったため固まってしまった。

なのでペンシィがサポートしたのだが、今度は情報を求めた女性が狼狽えたあと固まった。


ごっこ遊びをしている中に本物の司書が紛れていたのだ。

当然の反応ではあった。

しかし、子供にとってはそうではなく、何処からともなく本を出して調べ物をした凄い人だと思われてしまった。

この街にいる司書に調べ物を頼む時はあらかじめ本を出しているので、このように取り出されるとは知らなかったのである。


「はいはい落ち着くニャ。そんなに勢いよくきたらこの子が困るニャ」


その場にいた子供達が一斉にティアの元へ向かおうとしたので、チャコが止めに入った。

そこからはティアは参加せず子供達の羊皮紙を参考に普通の会話をしたのだが、時折何処からか噂を聞いたのか普通の調べ物をしにくる人もいた。

その時はペンシィの指示通り相手のカードを使って調べ、正規の金額を受け取って答えた。


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