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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
95/106

Page95 「領主の館へ」

ティアとリッカはリリエーナと同じベッドで眠り、ミーアはソファで、チャコは床に座って背を壁につけた状態で眠った翌日。

1番初めに起きたのはミーアだった。

その動きでチャコも起き、立ち上がると体を伸ばす。


クレア達と旅をする時にやり慣れているとはいえ、体が凝り固まるのは仕方がない。

だが、獣人特有の機能なのか、軽く動かしただけで体が温まり、いつでも動ける状態になった。

もちろん不審者が侵入してきた場合体を伸ばす時間はないが、その時は一気に戦闘態勢へ移行するため問題はない。


「ミーア。今日の予定は決まっているのニャ?」

「昨日のうちにクレア様から事情説明が行われているはずなので、ティア様とリッカ様には徴収した屋敷と下手人を領主様へ渡していただくことになるかと思います」

「なるほど。それじゃあ2人が起きたらおめかしするニャ」

「はい。昨日の時点である程度合わせた服を見繕っていますので、多少手直しするだけで問題ないと思います」

「さすがだニャ」


ミーアは隠密に長けた護衛からティアやリッカの体型を聞いていた。

実際にはネーアからだが。


ネーアは受け取った情報の中で屋敷を丸々異空間に収納したことも聞いていたので、領主と会うことを考えてミーアにティアとリッカのドレスを購入させているのだが、リッカはともかくティアは司書として会うため服はいつもの司書服になる。

司書の世話をしたことがないネーアのミスであったが、場合によっては晩餐会等に呼ばれる場合もあるため、無駄にならない可能性は残されている。


「ティアちゃんおはよう」

「おはようございます……」

「おはようニャ。まだ、早いからゆっくりしているといいニャ」

「わかりました……」


ミーアがドレスを取りに行っている間にリリエーナが目覚め、続けてティアも起きた。

チャコの言葉を聞いたティアは、大の字になって気持ちよさそうに寝ているリッカを起こそうとする手を止め、座った体勢のまま微睡み始めた。


「戻りました。お2人は……まだ夢の中のようですね」

「そうですね」

「ん?ミーアは着替えてきたニャ?」

「え?変わってないですけど……」

「流石ですねチャコさん。着替えてきました。リリエーナ様、私達にとってこれは仕事着ですので、同じ物を20着以上所持しています」

「20着!すごいですね!」

「あー、例によってネーアとミーアが特殊なだけニャ。普通はもっと少なくて魔術で綺麗にしているニャ」

「あ、確かに……」


リリエーナの頭に浮かんだのは、チェスター商会の従業員が着ている服だった。

当初はそれぞれ自分の私服を着ていたのだが、交易が盛んになるにつれて店の数が増え、それに伴い人口も増えた。

その結果、他の店に侵入するような法を犯す者も出て着たため、大きな店はその店に所属していることを表す印などを服につけるようになった。

それが時間をかけて豪華になり、やがて各店の財力を表すようにお揃いの服で仕事をするようになっている。


提供している側のリリエーナからすると、1人当たり3着で済んでおり、まとめて魔術で綺麗にしているところも見ていた。

そのためネーアとミーアの特殊性が理解できたのだが、自身がその対象になっていなかったためチャコに指摘されるまで気づいていなかった。


「どうしてそんなに数があるんですか?」

「見た目にはわからない程度に色々改造しているのです」

「へー?」


リリエーナは見た目にわからない改造が理解できなかった。

戦闘を行うメイド達は、それぞれ自身が使う武器を服の中に隠している。

その為に裏地に隠しポケットを追加していたり、デザインはそのままで生地の厚みや種類を変えたり、中に繊維状にした鉄を仕込んでいる物もある。

護衛対象や行く先によって着替えを行うのがネーアとミーアのやり方だった。


「それで、ティアちゃん達は結局行くことになったのニャ?」

「はい。その指示も頂いてきました。また、リリエーナ様とアルバート様も召喚されることとなりましたが、リリエーナ様はティア様と参られますか?」

「え?私ですか?どこに行くんですか?」

「領主様の元へです」

「えぇ?!」

「先の件でお話を伺うとのことです」

「あー……えっと……私は……足が動かないので……難しいのではないでしょうか……」

「問題ありません。ティア様が出されている浮遊椅子を使用してください。領主様との謁見といえど畏まった場所では行いませんので問題ありません」

「でも……」


リリエーナは自分達が拐われたことについて聞きたいという領主の考えはわかっている。

だが、通常であれば領主が抱えている私兵による聞き取りが行われる程度だと思っていたのだ。

確かにリリエーナは当事者だが、関わっているのが王女であるクレアに屋敷を異空間に仕舞うことができるほどの能力を持つティアなので、ことはそう簡単に済まないことに気づいていない。


せめてティアだけであれば聞き取りと屋敷の引き渡しを分けた可能性はあった。

だが、リリエーナの足を理由に断れるほど話は小さくない為、どちらにせよ行く必要はある。


「わ、わかりました。浮遊椅子を使ってもいいのであれば、ティアちゃんと行きたいです」


悩んだリリエーナが出した結論はティアと行くことだった。

浮遊椅子の使用許可が出ていると言われても、それを作り出しているのはティアである。

そのティアと離れて使うのは不安だった。


「かしこまりました。それでは、こちらに着替えていただきます」


リリエーナの返事を聞いたミーアは足元に置いていた革製のケースを開け、1枚のドレスを取り出した。

シンプルな黄色のワンピースタイプのドレスで、所々にフリルがあしらわれた物だった。

そして、ケースの中には色サイズ違いで同じデザインの物が2枚入っていた。

ティアが水色でリッカが黄色である。


「え?あ、え?今からですか?」

「いえ、朝食が済んでから身だしなみを整えてからになります」

「あ、え?あ、はい。あの、そのドレスは……」

「クレア様からの贈り物となりますのでお代は不要です」

「え?!」


クレアからのプレゼントということに驚いたリリエーナだったが、クレアが原因での召喚である為、クレアに割り当てられている年間経費から出されている。

もちろん本人には了承を得ていないのだが、父親である国王の承認は得ているため問題はない。

『クレアが原因で起こる金銭の支払いは本人に割り当てられた費用で処理すること』と。


「ん……どうしましたリリーちゃん」

「え、あ、えっと」

「おはようございますティア様」

「あ、おはようございますミーアちゃん。リリーちゃんもおはようございます」

「うん。おはよう」

「ティア様。本日ですが、昼前に領主様の館へ向かっていただき、指定された場所で押収した屋敷の解放と下手人の引き渡しをお願いします」

「はい。わかりました」

「その際に領主様の館に向かうため、清掃していただく必要があります。ドレス等はすでに用意を済ませているので、まずは身だしなみを整えましょう」

「身だしなみですか?」

「はい。お風呂です」


そこからのミーアは早かった。

リッカをやんわりと起こして3人をお風呂に入れた。

ドレスを取りに行った際にお湯の用意を他のでいたのである。


そして、昨日と同じように体や頭を洗い温まった後、温風の魔法で髪を乾かしながら梳かした。

その後、ドレスを着させて裾や装飾品を整えていったのだが、ここでティアが司書として向かう為にドレスではダメだということに気づき大きく動揺してしまった。

ミーアは経験が少ない為、不測の事態に弱かった。

ネーアがいればフォローしてくれたはずだが、いない為チャコが間に入って落ち着かせ、とりあえずは準備ができた。


ティアは白い司書服を着て、リッカとリリエーナは用意されたドレスである。

その3人を連れてチェスター商会の馬車で領主の館へ向かう。

もちろん護衛としてチャコも一緒に向かった。


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