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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
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Page94 「ネーアとミーア」

お風呂から出たティア達は、先に上がっていたミーアに体の隅々まで拭かれ、更に火と風の複合魔法による温かい風で髪を乾かされた。

ティアより上手く使われる魔法は巧みで、髪だけでなく湯冷めしないように部屋全体を暖める風も同時に生み出していた。


「暖かいのじゃ〜」

「ありがとうございます」


いつも拭かれる時はジッとしていないリッカですら大人しくなっており、その姿にティアに加えて一緒に旅をしてリッカの暴れ具合を見ていたリリエーナも驚いている。

場合によっては人化を解いて飛び回るほどだったため、内心ドキドキしていたのだ。

チャコはミーアの手にかかれば当然という顔で自分の体を拭いている。

当然ミーアに乾かしてもらえないので、ティアにお願いして風を出してもらった。


「ティア様。風の後ろに周囲の空気を暖めるように火属性の魔法を展開してくださいませ。そして、風の魔法もただ出すだけではなく管のような物で通り道を覆うのです」

「こうでしょうか?」


ティアは長い馬車旅の中でカコに温風の魔法を教えてほしいと言えずにここまできてしまった。

大きな理由としてはお風呂の時間の違いである。

ティアは長風呂派だったため、すぐに上がるカコに乾かしてもらうことはあれど、教えてもらうことはなかった。

温風が気持ちいいのと、リリエーナとのおしゃべりが盛り上がり続けたのも原因の一つだった。


そんなティアだったが、ミーアの助言通りに魔法を展開するといとも簡単に温風の魔法ができた。

あとはこれを手の平サイズにするだけなので、苦戦することもなかった。


「お見事でございます」

「ミーアさんのおかげです」

「ティア様の実力でございます。それから、私のことはミーアと呼び捨てになってください」

「えっと、それは……」

「ミーア。ティアちゃんに強要するのはダメニャ。ティアちゃんもミーアのことは自由に呼べばいいニャ」

「それでは、ミーアちゃんでいいですか?」

「……承知しました」


チャコが間に入ったおかげで呼び方についての問答は収まったが、ティアからちゃん付けで呼ばれたミーアは少し驚いた表情をした後、元の表情に戻った。

ティアは新しく友人になれるかもという期待を込めてちゃん付けで呼ぶことにしたようだが、ミーア自身は幼い頃から使用人として教育されていたのでちゃん付けで呼ばれることがなく、どうすればいいかわからなかった。

それでも、好意しかない声音だったので了承した。


「それで、ティアちゃんはリリエーナちゃんの部屋で寝るということでいいニャ?」

「はい!」

「そうなるとリッカちゃんも同じ部屋ニャ?」

「のじゃ!」

「ミーアは?」

「もちろんお供いたします」

「それじゃあ私も護衛として同じ部屋ニャ!」

「あの、私の部屋には使用人用の控え部屋はありませんが、よろしいのでしょうか?」


流れで全員がリリエーナの部屋で寝ることになったが、リリエーナは大商人の娘であって貴族ではない。

動かない足が原因で専属侍女はいるものの、貴族のように常に控えているわけではないので、続き部屋として使用人用の部屋はない。

そのため、ティアとリッカはリリエーナと同じベッドで寝ることができたとしても、チャコとミーアの寝る場所が無いのだ。


「私は床で寝るニャ。そういった道具もあるし問題ないニャ」

「私も立ったまま寝ることができますので問題ありません」

「立ったまま……ですか?」

「はい。少なくとも私と姉のネーアはできます」

「2人が特別ニャ。まぁ同種の侍女や使用人はいくらかいるけど、全員王家の使用人になっているニャ」

「そうなんですか」

「すごいですね……」


ミーアの睡眠方法に驚きつつもリリエーナの部屋へと向かうティア達。

リリエーナ本人は浮遊椅子で移動しているため、先程から端で待機していた専属使用人はやることがなかった。

主人であるアルバートからミーアの仕事ぶりを見ることが今日の仕事だと言われたことが原因で、ミーアからも質問があればなんでも答えると言われている。

そのため、専属侍女は先程からミーアの動きを観察し続けているのだが、見られていることに何の反応も示さずティア達の世話を焼く姿に尊敬の念を抱き始めていた。


「ここが私の部屋です」

「どうぞ」

「ありがとうございますミーアちゃん」

「……いえ。当然のことですので」


リリエーナが自室まで案内するとすかさずミーアが扉に近づき、目でリリエーナに確認を取ってから開けた。

リリエーナからもちゃん付けで呼ばれたことに少し戸惑ったミアだったが、即座にいつもの調子に戻った。


「ミーアちゃんはどんなお仕事をしているのですか?」

「私の仕事ですか?」

「はい」


リリエーナの部屋に入り、ソファへと座ったティア達。

専属侍女が運んできたティーセットを使ってミーアがお茶を入れ、全員がそれを楽しんでいるとティアが口を開いた。

ティアはクロステルへの旅でもリリエーナに普段の生活や、アルバートについていった行商について聞いており、ミーアに対しても仕事内容に興味があったようだ。

もちろん、普段の生活内容も隙あれば聞くつもりでいる。


「私はまだ見習いですのでお料理や他の侍女に対しておもてなしの練習を行っています。その他にはネーアについて実際の動きを見せてもらったり、戦闘訓練を行っています」

「戦闘訓練ですか?」

「はい。王家の使用人は最低限の戦闘が出来なければなりません。いざという時に盾になるためです。そういった意味ではネーアはいささか突出しすぎているかもしれませんが……」

「お姉さんは強いんですね」


ミーアは侍女としての能力は高いが、経験不足である。

それを周囲の先輩侍女や姉のネーアによって連れ回されることで勉強している最中だった。


そして、ミーアは料理やお世話が得意なのだが、ネーアは掃除が得意だった。

その掃除が箒やハタキで綺麗にすることなのか、武器を持って不審者を綺麗にすることなのかは言及されていないが、ネーアのことを知るチャコは、両方だということを知っていた。


「はい。私もまだまだという事を実感するぐらいには強いです」

「侍女は凄いのですね」

「ティアちゃん。ネーアやミーアが特別ニャ」

「そうだよ。私の家で働いている人たちは戦えないよ?」

「そうなんですか」


ティアはリリエーナの専属侍女に視線を向けた。

向けられた侍女は苦笑いを浮かべながら頷いた。

全く戦えないわけではないが、相手が冒険者や国の騎士であれば全く歯が立たない程度の実力しかない。

これがミーアであればある程度の冒険者には勝て、騎士でも相手によれば勝てる。

ネーアの場合は英雄と呼ばれるような戦闘力を有していない相手であれば勝てる。

つまり、クレア達はネーアに勝てないのである。


「ミーアちゃんは私のお世話をお願いされたけど、問題ないのですか?」

「はい。見習いとはいえ技術はあります。私に足りないのは経験なのですが、ネーアから言わせると十分だそうです。なので、ネーアの判断で許可が出ています。もしもこの場で失敗した場合、責任はネーアになるぐらいですね」

「大変だニャ〜」

「誰かさんたちが原因です」

「ニャーニャニャ〜」


少ない経験は連れ回される事で補われているが、実際に一人前と判定されるためには試験を受ける必要がある。

それを受けていないミーアを誰かに付かせた場合、その指示を出した者が責任を負うことになる。

基本的に足の引っ張り合いがない王国侍女達だが、なかなかこれを実践することはない。

ネーアとミーアは姉妹でありながらも師弟でもあるので行えたと言える。


そして、口を挟んだチャコにミーアが冷たい目を向けるも、紅茶の入ったカップを持ち上げて明後日の方向を見た。

紅茶が湯気を立てているので飲めないので急遽鳴いたようだが、当然ごまかせるわけでもなく、しばらく視線が戻らなかった。


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