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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
92/106

Page92 「メイドさんに連れられて」

モーニングスター大賞

二次選考で落選しました。

チェスター邸の食堂に入ってきたのは2人のメイドは、群青色の生地で仕立てられたロングスカートのメイド服の上に白いエプロンを着け、足元からはブーツが見えている。

頭にはヘッドドレスが付いていて、方や背の高いメイドは肩にかかる程度の黒髪をストレートに、もう1人の背の低いメイドは後頭部で纏めて小さなポーニーテールにしている。


背の高いメイドはクレア達より年上だが、背の低いメイドはクレア達より背が低く、顔つきも幼い。

リリエーナとクレアの間ぐらいだった。


「姫様。迎えに参りました。領主の館へ参りましょう」

「ネーア。それはできません」


背の高いメイド、ネーアがクレアに近付き領すの館への移動を促したが、クレアは即座に拒否した。

この場合の『姫様』はクレアとその仲間であるチャコ達を含んでいる。

そのため、領主の館へ向かうということはティアの護衛を放棄することになる。


ティアを連れて行けば問題ないのだが、その時のティアの立場に問題があるため簡単には連れて行けない。

ただでさえクレアには王女と冒険者という立場がある。


一介の冒険者学校の生徒を領主の館に招く理由はないため、領主はクレアをお嬢として招いている。

その場合、ティアは護衛対象ではなく客人、あるいはクレアの友人という扱いになる。

チャコ達はクレアの護衛なので問題ないが、招かれていない者を連れて行く場合、面倒な手続きが必要になる。


相手によっては案内する予定の客室を入れ替える必要もあるため、少なくとも事前に連絡を行わなければならない。

緊急時の場合はその限りではないが、貴族の家に向かうためには必要なことだった。


クレアはそれをしてまでティアを連れて行こうとは考えていないため、交渉の余地がないほどに拒絶している。

それは領主に会うのはチェスター商会の問題を解決する時だけでいいと考えているからだった。

今のティアでは権謀術数を得意とする貴族に対抗できるわけもないので、近づかせたくないというのクレア達の考えである。


「それでは、チャコを残して残りの2名を連れて行きましょう。そちらの司書様のお世話をするためにミーアを残しますので護衛としても問題ありません」

「どうして護衛をしていると知っているのですか?」

「それは彼女が自分の仕事をしていたからです」


ネーアはチャコを見ながらクレアの質問に答えた。

それを見たクレアは納得したが、カコシュト驚いていた。


「チャコ!仕事って何なん?!自分だけお説教から逃げるつもりなん?!」

「……ずるい……」

「ニャ……。クレアが護衛を振り切っ行動したら、定期的に報告をする仕事ニャ。だから、少なくともネーアはティアちゃんのことを知っているニャ」


チャコはクレアが独断でクロステルを経ってから、定期的に封書をクロステルに送ったり、密かに付いて来ている隠密部隊に回収させている。

表立った護衛を巻いたとはいえ、王女護衛が0になることはなく、隠密に長けた獣人による1部隊がずっと付き従っている。

フェゴの街を襲った獣や魔獣についても、いざとなれば助けに入る準備はされていたぐらいである。


お説教に関してはクレアを止めなかったことと、ネーア達に連絡を取ろうとしなかったことに対して行われることになる。

カコとシュトはクレアの冒険者仲間ではあるが、クレアを介して王家とも関わりがあるため、それなりの行動を求められる時がある。

立ち振る舞いやテーブルマナーなど、数多くの指導やお説教をネーアから受けているので、若干苦手意識がある。

今回で言えばクレアを止められなかったことと、どうにかして連絡を取ろうとしなかったことについてのお説教になる。


クレアと付き合いの長いチャコは同様にネーアとも長く、お説教と言う名のお小言を受けた回数は2人より多い。

そのため、こういったときにはネーアに連絡を取るように動けたのだが、チャコからすると同じようにお説教を受けていたカコとシュトも送っていると思っていたので2人に確認していなかった。

その結果がこれである。


「はい。存じ上げております。さらに、チェスター商会を襲ったフェゴの件も伺っています。ですが、領主への報告は私が行うことではありませんので、ティア様を館へお連れできません」


チャコからもたらされた情報は、ネーアがクロステルに残された護衛部隊を動かすかどうかの判断に使われているだけなので、領主に対してティアのことは報告されていない。

メモリアが封印されたことは各地の司書や準司書を通じて為政者に伝えられているが、クロステルの領主もまたその情報しか持っていない。


よって、ネーアがティアの存在を知っていてもクロステル領主が知らないため連れて行けないことに変わりはない。

ティアのことを伝えるのはクレアの使用人であるネーアの仕事ではないのだ。


「そうですか。領主との兼ね合いもありますし、その辺が妥当なところでしょう。ネーアの提案通りに動きます」

「かしこまりました。それではアルバート様。クレア様のお着替えに使用するため、部屋を1つお貸しいただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですとも!客室にご案内しましょう!」


アルバートが客室に案内しようと動き出す。

使用人を使わずにアルバート自らが案内することで、賓客だということを表そうとしている。

王女としての活動するクレアに対する行動としては当然のことだった。


「ミーア。ティア様のお世話をお願いします」

「かしこまりました」

「カコ、シュト。貴女達は武器を持って玄関先に集合しなさい」

「はい」

「……はい……」

「それでは姫様、参りましょう」

「えぇ。チャコ、ティアちゃんに軽く説明しておいてね」

「わかったニャ」


ネーアに言われて小柄なメイドのミーアがティアの元へと近づいて行く。

警戒しているのか、リッカがジロジロと上から下まで見てもミーアは笑顔を崩さず一礼した。


カコとシュトはティアから預けていた武具を受け取ると玄関へ、クレアはアルバートの先導でネーアと共に客室へ向かった。


残されたティアとリリエーナはどうすればいいのかわからず固まったままで、リッカはミーナへの興味を失いシュガーボックスを食べている。

アルバートの妻であるアレイアは頰に片手を当てて、少し困った表情でチャコを見る。


「チャコさんはどうするおつもりですか?」

「予定通り私とティアちゃんとリッカちゃんはここに泊めさせてもらうニャ。その間の護衛を私とあっちのミーナでやるニャ」


チャコに言われたミーナがアレイアに向けて頭を下げる。

ティアとリリエーナもミーナを見て、なんとなく頭を下げた。

2人とも自分より少し年上のメイドが護衛としても働けることに驚いた結果、勝手に体が動いてしまっていた。


「そうですか。それでは人数が少なくなりましたが、お風呂に入られてはどうでしょうか」

「ティアちゃん達はお風呂でいいニャ?リリエーナちゃんも一緒にみんなで入るニャ」

「お風呂なのじゃー!」

「入ります!」

「それでは、私がお背中をお流しします」

「あらあら。楽しそうね」


シュガーポットを食べ終えたリッカに追従するようにリリえーなが元気よく返事した。

さらにミーナが背中を流すと言い出したので大人数の入浴となり、アレイアが楽しそうに笑った。


アレイアは『私も入ろうかしら』と言いそうになったのだが、リリエーナの楽しそうな顔を見て言うのをやめた。

ティアとリリエーナであれば許可を出しそうなので、下手に母親が入って友達の交流に水を指したくなかったのだ。

ティアがクロステルを離れるとしたらリリエーナは付いていけないので、楽しい時間を少しでも多くしてあげたいという母親としての気持ちだった。

本音を言えばとても楽しそうなので入りたいのだが、何とか我慢した。


「お風呂は私が案内しますね」


アレイアの案内でお風呂に行くことになった。

ティア達はそれぞれ着替えを用意して、浴室へと向かう。

途中着替えているクレアに対して扉越しにお風呂に入ると伝えると、中から羨ましそうな声が聞こえてきたが、即座にネーアの注意する声で掻き消された。


「それではお手伝いいたします」

「え?!」


アレイアは案内するとすぐに戻ったので、子供だけになった。

そして、すかさずミーアが動き出し、ティアの服を脱がし始めた。

されるがまま服を剥かれたティアは、気がつけば裸になっていて、リッカも同じように瞬時に剥かれた。

リリエーナだけはチャコに抱っこされていたこともあって時間がかかったが、それでも自分で脱ぐより早かった。


幼いながらも王家に仕えるメイドなので、その技は確かなものだった。


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