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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
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Page91 「晩餐とクレア宛の来客」

アルバートとアレイアが帰宅したので、少しの雑事をこなしてから夕食を取ることになった。

もっとも、ティア達は特にすることがないので準備が整うまで引き続き客室で待機することになる。


そして、他愛のない話で盛り上がることしばらく、夕食の準備が整ったことを屋敷の侍女が知らせに来た。

それを受けてクレア達は食堂へと向かう。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

「本日は息子達が街を離れているため、私達と娘のリリエーナのみとなりますがご容赦ください」


食堂に入ると正装したアルバートとアレイアが迎え、この場にいない家族について話してきた。

もっとも、クレア達にとっては知らない人間が増えるほど疲れるだけなのでありがたいことである。

冒険者として活動していても王女としての働きを求められることは多い。

それは本人だけでなく取り巻く者へも波及するため、疲れるのだ。


そのクレア達はティアの護衛をする冒険者としてここにいるため、マントや背負っていた道具などの旅装を解いただけの状態なので帯剣している。

シュトに至っては弓を持って入ってきているので、近付いてきた侍女にそれぞれ武器を預けた。


いざとなればティアが各自の武器を再現できるように収納済みだった。

そのため、仮にここへ敵が攻め入り武器を受け取る前に侍女が死んだとしても対応可能だ。

ただ、クレアの武器に関しては精霊まで再現することはできないため、ただの2本の剣になってしまう。


「それでは早速いただきましょう。我がチェスター商会で取り扱っている食品をふんだんに使いました。喜んでいただければ幸いです」


クレア達全員が席に着いたことを確認してからアルバートが軽く挨拶をする。

それを合図に給仕用の扉が開き、配膳用のカートを押した侍女が複数人入ってくる。

侍女は客人1人に対して1人付くようで、アルバートとアレイアは他の侍女よりも少し年嵩ないかにもベテランというキッチリとした侍女が付いている。


逆にリリエーナの場合はとても優しげで、ふんわりとした雰囲気を醸し出す侍女が付いていて、カートの上にはリリエーナの食事を切り分けるための食器が並んでいる。

普段であれば椅子に座るのも一苦労するリリエーナのためなのだが、今回はティアの出した浮遊椅子があるため、いつもより奥まで届くようになっている。

なので、もしかしたら使わないかもしれないのだが、そのことを考えたリリエーナ専属の侍女は少し気落ちしていた。

リリエーナが大好きなのである。

可能であればおはようからおやすみまでお世話したいほどに。


「ティアー」

「はい、どうぞ」

「んー!うまいのじゃー!」

「ティアちゃんの魔力っておいしいの?」

「どうなんでしょうか?以前私の食べ物に混ぜるように出してみましたが食べれませんでした」

「リッカちゃんだから食べることができるんだね」

「そうですね」


リッカがティアに声をかけると、前菜として出てきたクリーム状のソースがかかったサラダと魚をベースにしたスープに魔力を流すティア。

流すとは言っても実際には覆うというのが正しい表現なのだが、リッカはそれを器用にフォークで突き刺したりスプーンで掬って口にする。

だが、最終的にスープに関しては皿を掴んで一気に飲み干した。


それを見ていたリリエーナがティアの魔力について聞いてきたが、ティアは食べたことがないので答えられない。

もちろんティアが気にならないわけもなく、馬車で移動している最中に干し肉を魔力で覆って食べたり、それをクレアにも食べさせてみたのだが味に変化はなかった。

体内に魔力を作る器官はあれど、食べる器官はないので当然のことなのだが、そんなことを知らないティア達には人は魔力を食べることができないということ落ち着いた。


こういった時にメモリアの本を使うということを考え付かないのは司書としての日が浅く仕事をこなすことがなかったためである。

もしも町中で調べ物の依頼を受けていれば、自分で調べることも思いついていたはずなのだが、それは今後の成長に期待するしかない。


「子供達が嬉しそうにしているのはいいですね」

「あぁ、そうだな」


アレイアとアルバートはそんなティア達を眺めながら食事を続け、つられるようにクレア達も目を向ける。

ティアとリリエーナはクレア達の視線を気にすることなく運ばれてきた料理を口にし、それぞれ感想を言い合っている。

しかし、リッカは人形態とはいえ竜なので視線が気になるのかチラチラとクレア達を見て、時折睨みつけている。

食事が終わるまでに1番睨まれたのはアルバートで、親バカが原因だった。


「これ美味いわ〜」

「ニャ!これは鉱石豚ニャ!」

「おぉ。よくご存知で。その肉はエメラルドのみを食して育てたエメラルド豚のステーキですよ」

「鉱石豚なんて食うたことないわ〜。めっちゃお金かかるんやろ?」

「そうでもございませんぞ。鉄や銅であれば数が必要になりますが、金や宝石などを与える場合は長い時間をかけて消化するので数が少なくて済むのです」

「へ〜。それでも宝石を食って育つなんて贅沢やな〜」

「それを私たちは食べているけどね」

「……爽やかでも美味しい……」


メインディッシュとして出てきたのは、鉱山都市で飼育されておる鉱石豚と呼ばれる一風変わった豚のステーキだった。

この豚は成長するまでの食べた鉱石によって味が変わることで知られ、その味の調整が難しいことから国で飼育者を育成するほどである。


今回アルバートが用意したのはシンプルな味に仕上がる1つの鉱石のみを食べさせたもので、エメラルドで育った鉱石豚はその肉や脂に爽やかさを持たせることができる。

王族であるクレアの口に入れることを考えれば3種以上の宝石や特殊鉱石を食べさせて複雑な味にした物を用意するべ気だったかもしれないが、そこはリリエーナやティアに合わせてわかりやすく美味しい味を選んでいる。


複数の石をただ単に食べさせただけでは味がぼやけることも多く、場合によっては辛味と酸味に苦味が同時に襲いかかってくる肉もある。

そういった肉も需要がないわけではないがとても少数なので、頼まれない限り作ることはない。

そして、子供はわかりやすい味を求めるため、チェスター家ではお祝いで同じ宝石を食べた豚を出すことが多く、高級料理特有の複雑な味に疲れている領主もお気に召すほどだった。

それは宝石の品質を高めてから食べさせるという努力の賜物なのだが、消費者としては知る必要のないことだ。


アルバートの狙い通りクレアもとても満足していて、リリエーナやティアも美味しそうに食べている。

リリエーナ専属侍女はその光景を見ているだけで満足そうな笑顔を浮かべていた。


「旦那様」

「どうした?」


食事がひと段落し、デザートとして雪砂糖のシュガーボックスが配膳された頃に使用人の男性がアルバートに何かを伝えにきた。

このシュガーボックスは中に入っている果物がわからないように作られている物で、子供に人気のデザートなのだが、ティアは食べたことがなかった。

当然リッカもである。


リリエーナに食べ方を教えてもらいながらティア達が食べていると、話を聞いたアルバートがクレアに語りかけた。


「クレア様のメイドと名乗る方がお2人来られています。王家の紋章が刻まれた物を提示されているので身元は問題ないとは思いますが、心当たりはございますか?」

「あー。はい。あります」

「ついに来たニャ……」

「思ったより時間がかかったんやね……」

「……気合いを入れる……」

「ネーアとミーアでしょう。案内してください」

「かしこまりました」


アルバートは伝えに来た使用人に連れてくるように伝えた。

クレアを含めて4人のテンションが下がり、カコはシュガーボックスを食べている手を止めて耳をペタンと折るほどだった。

とても嬉しそうに食べていたカコの元気がなくなったことを疑問に思いつつも、ティア達は自分達のシュガーボックスを食べるのに夢中だった。


そして、少しすると2人のメイドが入ってきた。


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