Page 9「祝福の効果 その1」
「大まかな仕事の仕方はわかったと思うので、次は祝福の効果についてのお勉強です!」
「はい」
「戦い方は後で実践しながら説明するね」
「わかりました」
「まず武器の祝福についてなんだけど、いきなり熟練者並みに戦えるようになるわけじゃないんだよ。その武器の才能と、ある程度のアシストがもらえる感じかな。だから使いこなすためには鍛錬が必要なんだよ」
「アシストですか?」
「なんて言えばいいかな…直感?的なやつ?こうすればいい!みたいなのが本能でわかる感じ。魔法は学ぶか、教えてもらうのが基本だけど、技は閃きが多いよ。もちろん技も教えてもらうことで覚えることもできるけど相性があるからね〜」
「直感ですか…やればわかる、というものでしょうか?」
「そんな感じだね〜」
ペンシィは話しながら本を開いた。
「で、次は武器の祝福じゃなく特殊技能みたいなやつの説明ね」
「特殊技能ですか?」
「そうそう。精霊の祝福は、その精霊が得意としていることに関する特性や技能を得るんだ。属性精霊の場合はどうなるか話したと思うけど覚えてる?」
「はい。その精霊が得意としている属性に対する耐性や、その属性の技を使用する際に強化されるのですよね?」
「せいか〜い!さらっと流してたのによく覚えてたね〜。じゃあ、メモリア様の祝福はどうなると思う?」
ペンシィは【本と羽根ペン】のマークを指差しながらティアに聞く。
「メモリア様は属性精霊ではなく技能精霊です…。なので、メモリア様が得意とする技能を祝福でいただけるということでしょうか?」
「またまたせいか〜い!メモリア様の祝福は複製と異空間だよ。メモリア様は魔法の本を使って旅をしてて、旅の途中で複製と異空間生成ができるようになったんだ〜」
「なるほど。つまり、他の武器もメモリア様と旅をした方が得た技能の祝福があるのですね?」
「そうです!なので次は剣の祝福についてくる技能を教えます!剣の技能は【魔力破壊】!使ってた人は魔力を切り裂いてたんだけど、名称は破壊になってるんだよね」
ペンシィは【剣】のマークを指差しながら首を傾げる。
ペンシィの説明を聞いたティアも首を傾げている。
「魔力を切り裂くのですか…剣で切るのですよね?」
「あ〜…絵は剣なんだけど、近接武器として使う刃物全般の祝福なんだ。だから片手剣から両手剣、斧やナイフに鉈なんかでも戦えるんだ」
「え!?剣だけではないのですか!?」
「そうなんだよ、剣だけじゃないんだよ。その絵わかり辛いよね〜。ちなみに【魔力破壊】についてなんだけど、ティアちゃんならナックルガード着けて殴ったら壊せるかもしれないよ。今まで剣とナックルガードの祝福を同時に受けた人はいなかったし、ナックルガードを使ってた人は肉弾戦ばっかりだったからどうなるかわからないんだ。使ってた本人は切ってばっかだったけど【破壊】ってなってるから実験してみてもいいかもね」
「実験ですか…殴って魔力を壊すイメージができません…」
「なんだろう…こう…飛んできた火球を殴って吹き飛ばしたり?上から降ってくる水を割ったり?かな?あはは…。まぁ実験は気が向いた時にしよう…」
「そうですね…無理に確かめる必要はないと思います」
「とりあえず魔法破壊してみよう!アタシが魔法で水の玉を出すから、ティアちゃんは【複製】でナイフを出して切ってみて!」
「わ、わかりました………あれ?」
本を手に取った状態で固まるティア。
「どうしたの?」
「複製の種類は聞きましたが、やり方については教えていただいてません!」
「あ…そ、そういえばそうだね!ごめん!えっとね、複製したいものを【検索】して、倉庫から出す時と同じように複製したいものをなぞるの。すると頭の中に2つの複製方法が浮かんでくるからどっちか選ぶんだけど、魔力が足りなかったり、素材が足りない場合は複製方法が浮かんでこないから注意してね」
「その時点で複製できるかどうかがわかるのですね?」
「うん。あと、素材を使う複製方法は2つ浮かぶ場合があるんだ。1つは共有倉庫の素材を使う方法、もう1つは自分の倉庫の素材を使う方法だよ。今回は魔力で生成してね。」
「わかりました」
「魔力で生成する方を選ぶと持続時間について頭に浮かぶから、持続させたい時間分魔力を込めればいいよ。持続時間を思い浮かべると込めるべき魔力が感覚でわかるはずだから、問題がなければ【複製】って念じるの。すると魔力が吸われて複製品が頭の中に浮かぶから、どこに出すか決めれば複製されるよ」
「なるほど…やってみますね」
ティアが「ナイフ」で検索すると本が浮き上がり、ティアの眼の前でページが捲れる。
白紙のページに文字が浮かび上がり、文字でいっぱいになると次のページが開き、また文字が浮き上がる。
それを幾度も繰り返している。
「検索は細かく条件を指定しないとダメだよ〜」
「そうでした。検索し直しますね」
ペンシィに指摘されハッとしたティアは、検索条件を「初心者 ナイフ 女の子」で検索した。
それでも複数ページに文字が浮かび上がったが、数ページで止まった。
最初のページの一番上に出てきた【料理練習用子供ナイフ 0】をなぞろうとしたが、なんとなく使いたくない気持ちになったティアは同じページの【初心者冒険者向け解体ナイフ(女性用) 0】をなぞった。
頭の中に【魔力複製】【共有倉庫素材消費複製】が浮かび上がったので【魔力複製】と念じる。
【共有倉庫素材消費複製】が消えて【持続時間】が浮かび上がってきたので、【5分】と念じると必要な魔力量の情報が流れ込んできた。
ティアは感覚で微々たるものだと感じたので時間を変更せず【複製】と念じた。
すると、本の上に半透明な無骨なナイフが浮かび上がってきた。
柄が少し細く、女性でも握りやすくした普通のナイフだった。
ティアが右手でナイフの柄に手を添えると光がはじけてナイフが現れた。
「ナイフ出せたね〜。どんな感じ?」
「少し大きいですが問題ありません」
右手で持って上下にブンブンと振るティア。
ナイフに慣れてないせいか、危なっかしい振り方だった。
「じゃあ水球出すね〜」
体格的にナイフの振り方を教えることができないペンシィは、いずれ誰かに聞く機会があるだろうと思い、ナイフの振り方に触れることなく水球を生み出す作業に入った。
ペンシィが手を突き出すと、手が青く光りだした。
手の先にはペンシィを包めるぐらいの水球がふよふよと浮いていた。
「この水球の端っこをナイフで切ってみて〜」
「今気づきましたが…切ると床が濡れるのではないでしょうか?」
「それが濡れないんだよね〜。仮に濡れてもアタシが乾かすから大丈夫!」
「そうなのですか…では、やってみます」
ティアは水球の前に移動するとナイフを両手で持ちなおした。
腕を上げて水球を見ながら勢い良く振り下ろす。
「えいっ」
ティアが振り下ろしたナイフは水球の端を切り離した。
切り離された水は床に落ちることなく空中に溶けてなくなった。
「切られた水が消えて無くなりました…」
「魔力に戻ったんだよ〜。だから床が濡れることはないんだ!じゃあ次は真ん中を真っ二つにするように切ってみて!」
「はい」
ティアはナイフを上に掲げ、一息に振り下ろす。
しかし、ナイフの刃先が少し沈み込んだだけで止まった。
ナイフを押し込むが、水の反発があるだけだった。
「切れません…」
「魔力が多いところを切ってもらったからだね。さっきは端っこだったから慣れてないティアちゃんでも切れたんだ」
「慣れれば切れるのですか?」
「そうだよ〜。スパスパ切れるよ〜。で、慣れるために原理を覚えましょう!魔力破壊は武器に魔力を纏わせて、対象の魔力の流れを分断するんだ〜。だから次はナイフに魔力を纏わせて切ってみて!」
「魔力を纏わせる…やってみますが、魔力はどうやって出すのでしょうか?」
「あ〜。アタシがティアちゃんと会ったときに魔力をたくさんもらったでしょ?あの時疲れてたと思うんだけど、体から何かが出て行く感覚なかった?」
「ありました」
「それが魔力を外に出す感覚なの。そうだね〜まずは体の中に意識を向けると魔力の塊を感じるはずだから意識してみて」
「はい」
ティアは目を瞑り、ペンシィに魔力を渡したときのことを意識する。
あの時は体の中から外に魔力が流れていた。
その流れを遡るように体の中に意識を向ける。
しばらくすると体の中に何かがあるように感じた。
ティアの頭に浮かぶイメージは石のような塊だった。
ティアの中にあるはずなのに、ティアの何十倍もの大きさの塊だった。
その塊は硬そうなのに、心臓の音に合わせていたるところに波紋が浮び、塊全体から霧のように魔力が漂っていた。
「これが魔力ですか…?私の何十倍もの大きさの塊を感じました…」
「それが魔力だよ〜。魔法で戦う人でも自分と同じ大きさぐらいだから、ティアちゃんの魔力量が凄いことはわかっといてね」
「私の魔力量が凄いことはわかりました…」
ペンシィは呆然としたティアを気にせず説明を続ける。
「その塊から漂っている霧みたいなのがすぐ使える魔力で、塊を溶かして使うのが基本だね。というわけで霧みたいなのを手へと流すことを意識してみて。風や水が流れるイメージかな」
「魔力を流す…」
ティアが意識すると手に魔力が流れ始めた。
魔力が流れた場所は、ほのかに熱を帯び始める。
「手に魔力が流れたらナイフに流すように出してね。出す時のイメージは体の中を流すのと同じ感じで〜」
ティアが意識すると柄を包む手のひらから透明な魔力が漏れ出してきた。
漏れ出した魔力はナイフを覆うように、少しずつ上り始める。
魔力がナイフを包むまであまり時間はかからなかった。
刃先まで魔力で覆われたことを確認すると、魔力の放出を止める…するとナイフを包んでいた魔力が無くなった。
「消えました…」
「今のは魔力を放出してただけだからね〜。出した後に留める必要があるんだ。これもイメージだね」
「出した後に留める…」
「ちなみにさっきのやり方は魔力でナイフを包んだだけだから、魔力破壊には使えないよ〜。ナイフの中を通して魔力を流す感じでやってみて!」
「包むのではなく通す…」
「そうそう。紙で包んだナイフでは切れないでしょ?魔力で包むとナイフの外側を守ることになるんだよ。今はナイフの切れ味を魔力で強化したいから中を通すの。違いを学ぶために包んだ状態で切ってみてもいいよ?」
「そうなのですか。では、包んだ状態で切ってみますね」
もう一度ナイフを魔力で包み込む。
今度は放出を止めても無くならなかった。
ティアは魔力で包まれたナイフを振り下ろすが、刃は水球に触れていない。
よく見ると刃と水球の間にティアが流した魔力があり、水球を少し凹ませていた。
「切れないけど、私の魔力とティアちゃんの魔力で押しあってるよね?これが相手の攻撃だった場合反らすことができるんだよ〜」
「覆っているだけだとこうなるのですね…では、次はナイフに流してみますね」
ティアは手から出る魔力をナイフに流し込む。
覆う時とは異なり上手く魔力が流れない。
「物に魔力を流す場合はただ流すだけじゃなく、その物の形に合わせて流すといいよ。今の流れは丸い形に四角い形を入れようとしてる感じだね」
「形を合わせる…」
いろいろ試しながら魔力を流すことでペンシィの言っている事を理解したティア。
理解してからは所々詰まりながらも魔力を流すことに成功する。
魔力が流れたナイフは薄っすらと光っている。
「流れたね〜。今はナイフ全体に流れてるけど、慣れたら刃に集中させたりもできるから毎日練習することだね〜」
「わかりました。では、これで切ってみますね」
「スパッとやっちゃって!」
魔力を流したナイフを水球に向かって振り下ろす。
水球は真っ二つになり、溶けるように消えた。
「切れました!」
「おめでとう!ティアちゃんの理解が早くてアタシも楽だよ〜」
「いえいえ。ペンシィさんの教え方がわかりやすいからですよ」
互いを褒め合う二人。
その時ティアが持っていたナイフが消えて、ナイフに込めていた魔力が溢れて二人を吹き飛ばした。
尻もちを着くティアと、縦に回転するペンシィ。
ティアは呆然とナイフを持っていた手を見つめていた。
「あ〜。ナイフの時間切れで、込めていた魔力が解放されたせいだね〜」
「そ、そうなのですか…使い終わったら魔力を抜かないとダメなのですね」
「そうだね〜。遠くに投げて解放してもいいけどね!」
「それだと周りに迷惑がかかりますよ!」
「戦闘方法としてはありだよ!たくさん込めて一気に解放!ティアちゃんならできる!」
「危なそうなのでやるつもりはありませんよ?」
「えー。戦い方は後でやるから、その時試してみよ?」
「周りの迷惑にならなければやってもいいですけど…」
「決まりね!じゃあ次の祝福の説明にいくよ〜!」
「わかりました」