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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
85/106

Page85 「浮かれるティアとリリー あとリッカ」

交易都市クロステルへ向かうクレアの馬車。

ただし、馬車の中にクレアの姿はなかった。

クレアだけでなくクロステルにチェスター商会を構えるアルバートの姿もない。


2人はティアの異空間で捉えた盗賊こと、隣国ヒュームの兵とその国の商人を尋問している。

ペンシィの監視付きなので、クレア1人でもアルバートを守りながら話をすることができる。

ペンシィは対象を制限しつつ小さな動きにも注視しているので、むしろ下手に動くと制裁を受ける可能性がある。


囚われた盗賊達は短い時間でそれを身を以て知っているので、騒ぐことはなかった。

ただし、内情を話すこともなかったが……。


そんなクレアとアルバートを他所に、馬車の中ではティアとリッカがクロステルについて話をしていた。

御者はカコとシュトが担当していて、チャコは獣化の疲労が残っているためまだグッタリしている。

それでも、ティア達を守ることはできる程度に回復しているので、使用人用の小さなコンパートメントの側で待機している。


チャコの見た目はうつ伏せで倒れているだけだが、いざとなれば飛び起きて対処できるので問題はない。

チャコ達もそれを知っているので特に何も言わないが、アルバートは少し不安そうにしていた。

ただ、アルバートはどんな状況でもリリエーナと離されると不安そうにするらしく、リリエーナの「早く仕事をしてください」という言葉で渋々異空間に入っていったという出来事もあった。


「でね、チェスター紹介はお父さんが代表なんだけど、切り盛りはお母さんがしてるの」

「どうしてですか?」

「お母さんの方が気が強いのもあるけど、無駄をなくすのが上手いからかな。お父さんは交渉と人付き合いは上手いんだけど、たまに変に割り引こうとしたりするからお母さんに怒られるんだ。利益を考えろって」

「だからリリーアルバートさんが行商に出てたんですね」

「そうだよ。まぁ、私は無理を言って連れて行ってもらったんだけどね」


リリエーナは、アルバートが自分に甘いことを利用して行商について行った。

ずっと家で使用人のお世話になっていたリリエーナは街の外を見たかったのだ。

そのリリエーナの想いを知っていたリリエーナの母親は、強い冒険者を護衛に雇い、リリエーナの前でいつもより利益を出そうと張り切っているアルバートを止めることができず送り出した。


「母は強いのじゃー!」

「そうだね。でも、なんだかんだで最後の決定はお父さんがするんだけどね」

「のじゃー?」


リッカはリリエーナの返答がよくわかっておらず、首を傾げていた。

リッカの父であるハクアは母であるリリィに頭が上がらないところしか見ていないのである。

実際にはハクアの方が戦闘力が高いのだが、性格と惚れた弱みというものでリリィには甘い。

もちろんアルバートと同じようにいざという時はビシッと決めるのだが、普段はそんな様子が一切ないためリッカは知らなかった。


「それで、クロステルなんですけど、東西南北に道が続いているのは話したよね?」

「はい」

「のじゃ!」

「北から穀物や畜産物、東から海産物や他国の交易品、西から山菜などの山で採れるものや動物のお肉、南から鉱物やそれの加工品が入ってくるの。だから色々なものが見れるし、美味しいものもいっぱいあるよ」

「楽しそうです!」

「のじゃー!美味しい物が食べたいのじゃー!」


クロステルは平地にあり、北に王都へと続く道、東に港のある街、西には自然豊かな山、南に高山のある街やメモリアへと道が続いている。

各街から程よい位置に行商人の休憩場所として村が作られ、盗賊対策として兵が派遣されて町になり、巨大な防壁や壁の中での生産を行うようになって街まで発展した。

チェスター商会はクロステルが村だった頃からあり、発展に尽力している歴史ある商会なのだが、リリエーナは店に立つことがないためそれを深く教えられてはないなかった。


大きな商会なので自国の貴族や旅の有力者が訪れることがあり、そういった者の中にはリリエーナの足が不自由なことに言いがかりをつけ、無理難題をふっかけてくる場合もある。

アルバートの中では、母親に付いて書類仕事を覚えてもらうつもりなのだが、そういった事情もあって教えるか未だに悩んでいた。


母親は無駄になるかもしれなくとも教えればいいと思っているのだが、アルバートが許可しないため使用人に小型の馬車を走者させて街を見せる程度に留めている。

これは仮に商会の仕事ができなくても自分の住んでいる街を知ることで、将来を考えるキッカケになればいいという母親の想いなのだが、言葉にしていないのでリリエーナにとっては気分転換という認識だったりする。


「リッカちゃんは何が好きなのかな?」

「にくー!魚も好きなのじゃー!」

「野菜は嫌いなの?」

「うーん。嫌いじゃないけど好きでもないのじゃ」

「そっか。ならお肉やお魚の美味しいお店に行こうね」

「行くのじゃー!」


リッカは雪山でスノーモンキーやスノーラビット等を狩るだけではなく、極寒の海に飛び込んで魚を捕ったりしていたので、肉や魚は問題なく食べることができる。

むしろ、人間形態になれるようになったことで味覚が発達し、以前より美味しく感じるようになった。

野菜に関しては、ティアについてくるようになってから口にしたためまだ慣れていないのだが、食べられない物は今の所出てきていない。

生で食べる筋張ったスノーモンキーやスノーウルフの肉と比べると、生野菜の青臭さは気にならないのである。

煮込んだり焼いたりした物であれば美味しく感じるほどだった。


「ティアちゃんとは雑貨屋さんとか劇場に行こうかと思ってるんだけど、いいかな?興味ある?」

「雑貨屋さんに劇場ですか?」

「うん。行ったことはある?」

「雑貨屋さんは色んなものを売っているところですよね?だとしたらあります。ですが、劇場はないです」


ティアの言う雑貨屋は地面に布を広げて、そこに売り物を並べた露店なのだが、リリーの中での雑貨屋はしっかりと店を構えている。

メモリアにもそういった雑貨屋はあるが、ティアを連れたクリスティーナ活動範囲外だったため、入ったことはなかった。


「そうなんだ。じゃあ、雑貨屋さんじゃなくて劇場に行ってみよう。演目の中にはティアちゃんと私が好きな冒険譚のものがあるからね」

「わかりました。どんな感じなのかわかりませんが楽しみにしています」

「うん!きっと気にいるはずだよ!」


劇場では冒険譚以外にもラブロマンスや純粋なアクション物、大陸のどこかで実際にあった話をオマージュしたものが披露される。

そのどれもが魔法によって演出されるため、小さな子供でもある程度楽しめるものに仕上がっている。

それでもラブロマンスは子供には早いので、リリエーナは冒険譚かアクションを見せられている。

本人はとても喜んでいるので問題はないのだが、ラブロマンスを見せない理由の中にアルバートの思想が入っているのは秘密である。


ティアとリリエーナは劇場での演劇、リッカは美味しいものを楽しみにして、馬車の中でさらに話を続ける。

御者席に座るカコとシュトは、その話を聞いて笑顔になった後すぐに曇らせる。

チャコもまた馬車の床に転がりつつ同じ反応を示している。


「やっぱりおると思う?」

「……確実にいる……。いないとおかしい……」

「せやんな〜。ティアちゃんとリッカでどうにかならへんかな〜」

「……ならないと思う。……私達とティアちゃん達は別枠……」

「やな〜」


クレア達は国が用意していた護衛を振り切ってフェゴに向かっている。

そのため、その護衛がクロステルで待ち構えている可能性が非常に高い。


通常、護衛対象より弱い護衛を派遣することはなく、それが王族ともなればある程度の実力を求められる。

今回はその実力が戦闘に寄ってしまったため、撒かれるということに繋がっている。


そして、その護衛の中にチャコ、カコ、シュトが苦手としている者がいる。

その人物に会う事を考えると、全員の耳と尻尾が垂れ下がってしまうほどで、床に転がっているチャコは転がったまま膝を抱えるほどだった。


「やってもうたもんはしゃない。覚悟決めていこか〜」

「……そうだね……」


馬車の外で意気消沈している者がいることに気付かず、ティア達の話は盛り上がる一方だった。


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