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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
84/106

Page84「初めてのお友達」

「ガゥ!」

「ひゃっ」

「わっ」

「のじゃ?!」


獣化して白い虎になったチャコをもふもふしていたけどティア達は、いきなり立ち上がりながら吼えたチャコに驚いた。

驚かせてしまったことに申し訳なさそうに一度振り返ったチャコだったが、即座に正面玄関をぶち破って外に出た。


「うぉぉぉ?!虎の魔獣?!」

「なんでこんな所に?!」

「しかも白いぞ!雪を操るタイプじゃないか?!」

「あ、あなた達!高い金を払っているんです!早くやってしまいなさい!私を守りなさい!」


破壊された玄関からあわてた声が聞こえてきた。

この屋敷の持ち主である商人と、商人が雇った冒険者だった。

商人はこの屋敷の管理を盗賊こと自国の騎士に任せていたが、それでも虎がいないことはわかっている。

仮に獣化できる獣人だとしてもヒュームの人間が作戦に使うことはない。

使ったとしても獣人の奴隷を戦争の最前線や鉱山などの危険な場所で酷使する程度である。


「グルルルルル……」

「囲め!」

「相手は獣だ!」

「間合いを調整しろ!」


レインとゴルディアを先頭にカコに続いてティアとリッカが扉から出ると、チャコは4人の冒険者に囲まれていた。

盾を構えた冒険者に圧迫されながら、隙間を縫って槍を突きつけられている。

残りの2人は商人を守るように武器を構えている。

ちなみにクレアとシュトはアルバートとリリエーナを守るために玄関からは出ずに様子を伺うだけに留めている。


「ガルル!ガァ!」

「ティアちゃん!みんなを守るように結界を張って!」

「え?!あ、はい!わかりました!」


チャコが短く唸った後クレアに向けて吼えた。

すると吼えられたクレアがティアに結界を張るように言った。

いきなり言われたティアだったが、いつでも結界を張れるように意識していたため、少し戸惑っただけで結界を張ることができた。

屋敷の入り口を守るように大きな結界を張ったが、もちろんチャコは入っていない。


「張れました!」

「グルゥ……ゴアァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「なっ?!」

「うぉ?!」

「がっ!」

「ぐっ!」

「かはっ!」

「なっ?!お前たち!どうし……ぐぁ!」

「っ!」


ティアの結界が張られことを確認したチャコが大きく吼えた。

チャコの口から目に見える咆吼が放たれティアの結界を揺らす。

魔力を乗せた咆吼で相手の体だけでなく魔力にまでダメージを与える技で、いくら獣の顔をした獣人でさえ獣化していない状態では反動が大きすぎて使えないものだ。


それを至近距離で受けた4人は咆吼で吹っ飛ばされた。

起き上がろうにも振動で脳を揺らされ、さらに体内の魔力も乱されているので魔法も使えなくなり、その上脳を揺らされた平衡感覚の狂いとは別に不快感が体を襲っている。

もう戦線には復帰できないほどのダメージだ。


離れていた商人とその護衛には衝撃はこなかったが、魔力の流れは届いた。

商人と護衛の1人は蹲くまったが、もう1人は少し顔をしかめただけで耐えた。

魔力の扱いが上手いか、体内魔力が少ないのかもしれない。


「ガァッ!」


チャコは耐えた護衛には目もくれず走り出し、吹っ飛ばされて転がった4人を前足で殴りつけて屋敷の前に移動させる。

カコ達に縛らせるためだ。


「ぬ……く、来るな……守れ……」

「はぁ!」

「ガル!」

「ぬぁ?!」


商人の近くで蹲っていた護衛も弾き飛ばしたチャコは、そのまま商人に向かって行った。

商人は唯一蹲っていない護衛に命令したが、その護衛が振った剣はチャコに避けられる。

そして商人の襟首を噛んで玄関前に飛び込んだ。


「はい。おつかれさ〜ん」

「ぐぁ!」

『ギュッと行くぜー!』


地面に放り出された商人はカコに踏まれて動きを制限され、レインによって手足を縛られた。

他の護衛もすでに縛られているのだが、異空間に入れるのは全員を動けなくしてからということになっている。


「クシュ!クシュ!」


商人を運んだチャコは少し離れたところでクシャミをしたり顔を拭っている。

商人が嗜みとして付けていた香水の匂いで鼻にダメージを受けたせいだった。

そのため、残りの1人はカコが相手をすることになる。


「もうあんただけやで?」

「俺が全員斬り伏せてそいつを助けだせばいいだけだ」

「せやな〜。じゃあ、これで終わりや〜。マッドフィールド」

「使わせるか!な?!」


護衛が一歩踏み出した瞬間足が地面に沈み込んだ。

地面のすぐ下が泥になっていて、バランスを崩した護衛は握っていた剣ごと腕を泥に取られる。


「すでに使ってんねんな〜。あんたは魔力量が少ないみたいやからチャコの咆哮の影響が少なかったみたいやけど、その分感知も無理やったみたいやな。魔術名を言ったのはただの誘いや〜」


カコはチャコが商人を加えて戻ってきた時点で魔術を発動する準備をしていた。

チャコがクシャミで動けないとわかった瞬間に発動。

その範囲が広がるまでその場から動かさないために話しかけていた。


魔術は仕組みさえわかっていれば口に出さずに発動することができる。

もちろん周囲の魔力は動くので魔法や魔術に精通していれば感知することができるが、この護衛は魔力量が極端に少ないので違和感すら感じていなかった。

すでに捕らえられたメンバーの中に魔術を使う護衛がいて、いつも魔力関係を任せていることが仇になっていた。


「くっ!ぬっ!抜けない!」

「とりあえず窒息するまで泥の中でもがき。じゃないと安心して拘束できへんわ」


もがけばもがくほど沈んでいく護衛。

チャコは泥の範囲を狭めて近づき、護衛が沈むのを待つ。

沈んだ護衛が吐き出す気泡が無くなってしばらくしてから魔力を使って引きずり出した。


「がはっ!ごほっ!げほっ!」


泥にまみれた護衛が放り出される。

その衝撃で泥を吐いたが意識が混濁しているようで、レインがロープで縛ることに全く抵抗しない。

それでも、剣を離さないのは流石である。


「終わった〜。後は話を聞いたりやけど、その辺は後ででええんちゃうかな〜」

「ですな。ティアさんよろしいでしょうか?」

「わかりました」


全員が拘束されたのでアルバートが出てきてティアに異空間へ収納することをお願いした。

ティアは泥にまみれた護衛を入れる時だけ少し躊躇したが、問題なく収納できた。

襲撃の際の門番も合わせて収納している。


「ティアちゃん。向こうにある馬車も収納してくれる?」

「わかりました。あれ?入りません」


ティアはクレアに言われてヒュームの商人が乗っていた馬車を馬ごと収納しようとしたが、入らなかった。

馬車はティアの物でも、仲間と認識しているクレア達の物ではないので収納することはできなかった。


「あー。これはティアちゃんの物でもクレアたちの物でもないから今は入れられないね。ちょっと待っててね」


ペンシィが一瞬だけ出てきて理由を説明した後消え、すぐに戻ってきた。


「もう入るよ!商人に許可を出してもらったから!」

「わかりました。あ、入りました!」


もう一度挑戦したら問題なく収納できた。

ペンシィが牢屋に入れられた商人に許可をもらったので入れることができたのだが、出してもらったのか出させたのかはわからない。


「あと、あの屋敷も入れてくれる?証拠も確保しないとダメでしょ?」

「できるんですか?」

「うん。許可をもらったから大丈夫だよ!」


クレアの質問にペンシィが答える。

ペンシィは馬車の許可を得る時に屋敷の許可も取っていた。

クレアはこの後屋敷の中を探索する予定だったのだが、屋敷ごと異空間に入れることができるのであれば、後で行える。

色々あって疲れた体で探索はしたくないのだ。


「わ、わかりました。収納してみます」


クレアとティアは屋敷に近づき収納しようと本を近づけた。

すると、目の前にあった屋敷が消えて地下室の形に窪んだ地面がみえるようになった。

外壁はそのままで、屋敷が丸々消えたのでとても不思議な光景だった。


クレアに抱っこされたリリエーナはそれを目の前で見ていたので驚き固まってしまった。

馬車が消えたことは人を収納した延長で見ることができていたが屋敷は規模が違う。

許可さえあれば簡単に引っ越せるし、戦争にも役立てる。

支所の力の1つとして話には聞いていても目の当たりにしたら驚くのは無理もないことだった。


「は〜。さすがやな〜」

「……やることは終わった……」

「それじゃあクロステルへ行きましょうか」

「移動はどうするんですか?」

「私達の馬車で行きましょう。ティアちゃん出してくれる?」

「はい!」


屋敷が無くなったせいで無駄に広く感じるようになった場所でティアがクレアの馬車を出す。

ティアがレインとゴルディアを収納してから扉を開くと、リリエーナを抱っこしたクレアが入り、アルバートとティアが続く。

カコとシュトは御者席に座った。


チャコはクレアが馬車の中から出した予備の服や靴を背中に乗せてもらうと馬車の陰で獣化を解いて服を着た。

その後にシュトが回収していた装備を受け取って装着してから馬車に入る。


「お疲れ様〜」

「ちょっと疲れたニャ。少し寝るニャ」


カコに労われたチャコは馬車に入ると床に寝転がるとすぐに寝息を立て始めた。

獣化は魔力と体力を大幅に消耗するので、使用後は基本的にこうなってしまう。

そのことをわかっていたのでカコとシュトが御者席に座ったのだ。


「少し狭いですがここでよろしいでしょうか?」

「いえいえ。乗せていただけるだけで大変助かっています」

「あ、ありがとうございます」


クレアは荷物置き場と化していたもう1つのコンパートメントの荷物をティアに収納してもらうと、出てきた椅子にリリエーナを座らせた。

やっと王女の腕ん中から解放されたリリエーナは、ようやく一息つけたようでグッタリしている。


「アルバートさんは私と一緒にこちらへ着てください。今後の話もあるので」

「畏まりました」

「ティアちゃんはリリエーナちゃんと一緒にいてくれる?リッカちゃんも」

「わかりました」

「のじゃ!」


クレアはアルバートを連れていつも使っているコンパートメントへ移動して扉を閉めた。

防音の魔術が使われているので、扉を閉めると話し声は聞こえなくなる。

そのため、ティア達耳には馬車の車輪の音が聞こえるだけだった。


「あ、あの、この度は助けてくれてありがとうございます」

「助けたのはクレアお姉ちゃん達ですよ?」

「でも、その、ティアさんはとても凄かったじゃないですか」

「そうでしょうか?」


ティアは役に立ってないわけではないが、そこまで活躍したとは思っていない。

戦ってこその活躍だと考えてしまっているのだ。

冒険譚の読みすぎである。


「あ、あの……」

「どうしました?」


しばらく無言が続いた後、再度リリエーナがティアに声をかける。

ティアもリリエーナにどう接していいかわからなかったので、ずっと無言だった。

ちなみにリッカは、ティアとリリエーナを見比べながら干し肉を齧っている。

空腹だったのだ。


「司書の方に言うものではないかもしれませんが、お友達になってもらえませんか?」

「お友達ですか?」

「はい。その、私は足が不自由なので、その……友達がいないんです。ティアさんがクロステル経つまででいいので……ダメでしょうか?」

「えっと、私もお友達はいないので、どうすればいいのかわかりません。でも、お友達は欲しいです!私でよければ!」


ティアはメモリアで司書以外との交流は殆どない。

同年代に至っては皆無と言っていいほどだ。

そのため、リリエーナに友達になって欲しいと言われて頭に浮かんだのは、やはり冒険譚だった。

物語の勇者に仲間以外にも帰りを待つ家族や友人がいた。

ティアにとって友達は作り方がわからないけど欲しいものだった。

なので、リリエーナに友達になって欲しいと言われて断るという選択はなかった。


「ありがとうございます!えっと、ティアちゃんって呼んでもいいですか?」

「はい!大丈夫ですよ。リリエーナさん」

「あ、私のことはリリーと呼んでください」

「わかりました!リリーさん!」

「あの、できればちゃん付けにして欲しいです」

「リリーちゃん?」

「そうです。ティアちゃん」

「これでリリーちゃんとお友達ですか?」

「多分そうだと思います」


互いに首を傾げながらも友達だと納得した。

互いに友達だと思った瞬間から友達だ。


「リリーちゃん」

「ティアちゃん」


2人は互いの名前を呼び合い、自然と笑顔になった。

それを御者席から聞いていたカコとシュトも笑みがこぼれていた。


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