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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
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Page82「囚われた理由」

ベッドに腰掛けた少女は、その頭を下げたまま微動だにしない。

緩くウェーブのかかった茶髪が重力に従って垂れている光景を見て、チャコとカコはどうすればいいかわからなくなった。


「あの、どうして謝るのですか?」

「え?あ、えっと、お父さんがご迷惑をおかけしたようだったので……」


動かないチャコとカコの陰からティアが顔を出して声をかける。

少女は自分より年下の女の子がいたことで動揺したが、すぐに誤った理由を答えた。


「迷惑は……少しうるさかったぐらいで問題ないニャ」

「せやな〜。それより、何でこんな場所で捕まってるん?」

「それは……わかりません。私は無理を言ってお父さんの仕入れに同行させてもらっただけなんです。そうしたら帰りに襲われました」


少女は俯きながら答える。

無理を言って同行したせいで盗賊に目をつけられて捕らえられたのではないかと考えているからだ。

少女とはいえ女なので狙われる理由としてはおかしくない。

それが商人と同行しているのである。

襲えば積荷と同時に女も手に入ると考えて襲われたと思っている。


実際には本物の盗賊ではないため、そのような考えで襲われたわけではないのだが、少女がそれを確かめる術はないので自分が原因だと思っている。

チャコ達は襲撃者が本物の盗賊ではないという事しかわかっていないので、少女の誤解を解くことはしなかった。

原因を調査してから答えるべきだと判断したのだ。

そこには、国に兵士が関わっているという恥を言いたくないという気持ちも含まれている。


「大変だニャ」

「まぁ、ウチらが来たからには安心やで〜。ちゃんと無事に帰れるからな〜」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ行こか〜」


カコの声で移動しようとしたティア達だったが、少女は動こうとしなかった。

お礼を言った時の花開いたような笑顔とは違い、苦笑いを浮かべて見ている。


「どうしたのニャ?」

「えっと、その……私の足は、動かないんです」

「ニャ……」

「あー……だから無理矢理付いて行ったんやね」

「そうです……。一度でいいので街の外に出たかったんです……」


少女は苦笑いのまま手をにぎにぎと動かす。

ティアはチャコの後ろからそんな少女を見ているが、何も声をかけない。

メモリアに居た頃の人との付き合いが少ないせいで同年代の子供、ましてや体にハンデのある子になんて言えばいいのかわからないのだ。


そんなティアをよそにリッカはトコトコと近づき、おもむろに少女の足に触る。

ムニムニと触られたことに少女は驚いたが、すぐにくすぐったくなってクスクスと笑いだした。


「リ、リッカちゃん?!」

「のじゃー」

「ご、ごめんなさい。急にどうしたの?」

「むー?動かないのじゃー?」

「別にいいですよ。生まれつき動かないんです。触られても感触はあるんですけどね」

「のじゃー?」


リッカは何かに引っかかるようだが、それを言葉にできないので首をかしげるだけに終わった。

それを微笑ましく見ていたチャコは、少女に近づくとおもむろに抱き上げた。

もちろんお姫様抱っこである。


「ひゃ……うぅ……」

「赤なっとるな〜。うりうり〜」

「カコやめるニャー」

「チャコ棒読みやで〜」


お姫様抱っこされた少女は、恥ずかしさから赤くなった。

普段から移動の際に抱き上げられているので慣れているはずだが、普段は声をかけられてから抱き上げられている。

それをチャコにヒョイっと持ち上げられたことに驚き、声をあげたことが恥ずかしかったようだ。


そして、赤くなった頬をカコに突かれさらに赤くなる。

少し沈んだ空気をどうにかするためにカコが動いたことをわかっていたため、チャコも言葉では止めているが本気ではない。


その後ろではカコを見たリッカが、ティアの頬を突つこうと指を伸ばしていた。

それに気づいたティアは自分から頬を差し出し、無抵抗に突かれたのだが、リッカの力が思ったより強く違う意味で頬が赤くなってしまった。

痛みを訴えるティアの様子を見てリッカがオロオロしていたが、ティアは頭を撫でて落ち着かせた。


後ろのやり取りに苦笑いを浮かべながら、チャコ達はクレアの元へ戻る。

そこには檻から出た商人がいて、チャコにお姫様抱っこされた少女を見て何か喚いているのだが、カコのかけたサイレントフィールドが解けていないので、少女は首をかしげるだけだった。


「カコ。魔術を解かないのニャ?」

「もう少し落ち着くまで待とか〜。今解いたらうるさそうやし」

「そうだニャ」


少し時間がかかったが、商人が落ち着いたことでようやく話をすることができるようになった。

場所は未だに地下牢エリアで、入り口側をティアの結界で塞ぎ、更にレインとゴルディアが見張っている。

クレア達が全員話に参加したいと言い張ったのでこうなった。


「改めまして娘共々助けていただきありがとうございます。私はクロステルで商いをさせていただいております。アルバート・チェスターでございます。そちらは娘のリリエーナでございます」

「リリエーナ・チェスターです。ありがとうございます」


商人ことアルバートが頭を下げ、それに続けて娘のリリエーナも頭を下げる。

リリエーナは未だにチャコにお姫様抱っこされているのだが、それはアルバートに抱っこされることを嫌がされたわけではなく、ただ単に腰の心配をされたからである。

どうやら行商で行った村でリリエーナを抱きかかえた際に腰を痛めたことがあるそうで、今腰を痛めるのは不味いということになった。


「チェスターというとチェスター商会ですか?」

「そうですな。ご存知なのでしょうか?」

「クロステルで1、2を争う大商会だニャ。クロステルに行ったことがあるのなら知らない方が珍しいニャ」


ティアは交易都市クロステルに行ったことがないので首を傾げていた。

それとなくチャコがフォローしたことでティアは納得したが、商会がわからないリッカは首を傾げたままだった。

フェゴでの買い物でも商会はなく、ただのお店として説明を受けていたのが原因である。

ただ、口の端から涎が出ていたので、何か食べ物だと勘違いしているかもしれない。


続けてクレア達が自己紹介をしたことで少し驚いたアルバートとリリエーナだったが、ティアが正式な司メモリアの司書だと自己紹介をした時は更に驚き、リッカが実は精霊竜だと言ったことでもっと驚いた。


クレア達の事は商売をしていない者ですら耳にすることがある。

王女が冒険者学校に入学するぐらいおてんばだという話や、実技が優秀すぎる、パーティメンバーが異常といった話があり、今回の実習では行く先の街にそれとなく冒険者になった王女が来るという話が広まるようになっていたのである。


来るとわかっていれば警備も強化されたり、一目見ようと周辺の町や村から人が集まって経済に影響が出るためなのだが、当の本人がそれを知らなかったのでそこまで上手くいっていない。

クレアは冒険者として動いている間は王女ではないと思っているのだが、周囲はそうではない。

それを理解していないための結果である。


ティアとリッカの話をする際にメモリアのことを伝える必要があり、その際にティアが俯いたのだが、チャコに頼んでかがんでもらったリリエーナがティアを抱きしめて慰めていた。

リリエーナはティアの2つ上の8歳で、体にハンデはあるものの商売の才能があるらしく、人の心の機微に敏感だった。

そのおかげでティアは落ち込まずに済んだ。


「それで、アルバートさんはどうして捕らえられたんですか?競争相手の紹介による妨害だと思っているんですが」

「うーん。どう説明したものか……。とりあえずわかっているのは私の紹介を乗っ取るのが目的ということと、それを実行しようとしているのが隣国の『ヒューム』の息がかかっているということです」

「え?!実行犯はこの国の人間でしたけど、隣国が関わっているのですか?」

「実行犯が誰かは知りませんが、ヒュームが援助している商会が関わっているのは事実です。そこまで大きくない商会なのに妙に羽振りがいいのです。異常なほど安い値段で商品を販売するので不審に思って調べた結果です」

「そうなんですか。厄介ですね……」


マーブル共和国は、隣国である人族至上主義国家『ヒューム』と度々小競り合いをしている。

ヒュームは獣人や亜人、魔人などを人として見ておらず、奴隷にするために戦争を仕掛けて来るのである。


本格的な戦争にならないのはメモリアと、ティアの祖母クリスティーナの存在が大きい。

無論、ヒュームのも化け物染みた人間はいるのだが、メモリアの司書はその本を活かして通常ではあり得ない戦闘を行うことがあり。

そのため迂闊に攻めることはできないのだ。


ただし、現在はそのクリスティーナが動けない。

その情報がヒュームに渡れば戦争に踏み切られる可能性もある。

マーブル共和国にはティアの母がいるのだが、クリスティーナと比べると個人の戦闘力が低い。

脅威ではあるが、戦争を避けるほどの理由にはならない。


「なるほど。それじゃあ、ここに向かってきている商人はヒュームの人間ってことね。捕まえましょう。チャコ、全力を出していいよ」

「わかったニャ」


クレアはこの屋敷に向かってきていた護衛付きの商人を捕らえ、詳しく話を聞き出すことにした。

すでにアルバートとリリエーナを救出しているので、後は脱出して逃げるだけだったが予定変更である。


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