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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
81/106

Page81「親バカ商人」

地下へと繋がる扉のある部屋に入ったクレアたちだったが、仕掛けのせいで扉が見つからなかった。

部屋には雑多にものが置かれ、壁際には本棚が並んでいる。

部屋の中央には木箱や麻袋が置かれているので、倉庫のようにも見える。


クレアは精霊から下に向かって道が続いていると聞いているが仕掛けを解く方法は分からない。

もう一度クレアが精霊を放つが、やはり解く方法どころか、どういった仕掛けがあるかもわからなかった。


それに気づいたティアの精霊たちもメモ帳から出てきて仕掛けの施された床に触れたり、突き抜けたりした。

だが、クレアの精霊よりも位階の低い精霊しか出てこなかったため結果は同じだった。

これが上位の精霊であれば何か気づくかもしれないが、そういった精霊のほとんどは、請われなければ動かないため今回も動かなかった。


「本棚が怪しいニャ」

「あえて、周囲の置物というのはどうやろ」

「……わからない……」

「レインさんとゴルディアさんは何か気づいたことはありませんか?」


クレア達は周囲を物色するも、仕掛けを見つけることはできなかった。

なので、勇者や魔王としての知識を頼ることにした。


『こういうのだと専用の魔道具か、魔力でどうにかするのが多いな。物によっては対象の魔力を判別する物もあるが、一商人が買えるものではないし、牢屋の管理には向かないからないな』


対象の魔力を判別する場合出入りを管理する全ての人員の魔力を登録する必要がある。

また、こういった物は国の重要物を保管している場所に使われることが多く、遺跡から発掘された物は国が買い取ることが多い。

一商人が買える額ではないのだ。


そのため、仕掛けとして使われるのは専用の道具を使うだけのものが多い。

その道具さえ奪われなければ開かないからだ。

そのため、商人が金庫の管理等で利用することが多い。

もちろん魔道具なので、制作に特化している者がいれば複製することは可能だが、相手の拠点に潜入した上で魔道具を作る余裕はない。


もう1つの方法として魔力を使うものがある。

これは一定の魔力を物に込める物や、決められた属性の魔力をぶつける物が多い。

遺跡などの仕掛けで多く使われていて、まだ使える仕掛けをそのまま取り出し、国や豪商が使用することがある。

魔力を検知することができれば違和感があるはずなので、それを頼りに探すことが多い。


『レインの言う通りだ。この中で検知に長けている者がいれば魔力を見るだけでわかるかもしれないが……我とレインには無理だ』

「私とカコならできるかもしれませんが、無駄に魔道具が置かれているので難しいです」

「せやな〜。互いに干渉していて魔力の流れが滅茶苦茶になってるわ〜」


ゴルディアとレインが精霊になる前であれば検知はできていた。

今は魔力量が少なく、周囲の魔力を操ることすら難しい状態なので、検知しようにもできない。


クレアは精霊と契約しているので魔力の流れを感じることができ、それは魔法や魔術に特化しているカコも同じである。

しかし、この部屋には使い道のない魔道具が至る所に置かれているので、魔力の流れが乱れている。

つまり、至る所が不自然に感じるのだ。

この状態でどれだけ探そうとしても見つからず、かといってその魔道具を移動させたりすると更におかしくなることもある。

クレア達では探すことができなかった。


この話を横で聞いていたティアは、目に魔力を集めて【看破】を使った。

魔力を見ておかしな場所を探すつもりだった。


「この木箱の下がおかしいです」

「え?下というと床だけど、そこがおかしいの?」

「はい。他の場所は魔力が渦を巻いていますが、ここだけ流れていません」


ティアの目には周囲の魔道具が放つ魔力が映っている。

そrwは他の魔道具の魔力と反発し合い、道具の周囲に渦を巻く結果になっていた。

しかし、ティアの指差した木箱の下にだけ魔力が流れないようになっていたのである。

周囲の魔力もそこを避けるように動いているので、目に見えて違和感があった。


「ここね。これを退けてっと……。あー、これは気づかなかった」

「せやな〜。木箱の中に魔道具が入ってるから下手に動かしても変なことになりそうやったし、その木箱から漏れてる魔力のせいで下が絶魔力石になってるとは思わんかったわ」

「それにダイヤル式ニャ」

「……誰も得意じゃない……」

『俺は無理だぞ』

『我も無理だ』


クレアが退かした箱の下には、周囲の床と色の違う石がはめ込まれていた。

それは絶魔力石と呼ばれ、魔力を通さない特殊な効果があるものだった。

これは一部の地域や遺跡で発掘されるので、王城謁見の間など一部に使われている。

周囲に魔力が満ちている上に木箱で隠されているため、魔力の通らなかい場所に気づかなかった。


また、この石にはダイヤル式の仕掛けが施されていて、ご丁寧にそれもまた絶魔力石で作られていた。

なので、魔力を流して答えを調べる方法が使えず、力のない精霊では通ることができないためダイヤルの確認ができない。

つまり、解除には専用の道具と技術が必要になるので、ここにいる誰も対応できなかった。

あえて魔力を使わない仕掛けを使った商人の考えが勝った瞬間だった。


「壊すニャ」

「え?」

「グダグダやってても仕方ないニャ。さっさと助けて終わらせるニャ」


解決策が思いつかず、しんと静まっていた部屋にチャコの発言が響いた。

それに反応したのはクレアだけで、残りのメンバーは言われたことを理解しつつも言葉が出てこなかった。


そして、チャコが爪を出して気合を入れて一閃。

絶魔力石は硬いので、一閃では足りなかったのか追加で2回振った。

その結果、石の床はダイヤルごと砕かれ、その先の階段を転がり落ちていった。

ダイヤルを回して鍵を解除した後は、上に開くようになっていたが、それを切り刻んだ結果である。


「開いたニャ!早く行くニャ!」

「せ、せやな」

「そうね。行きましょう」

「おー。綺麗に切れているのじゃー」


チャコを先頭に下に続く階段に入って行く。

その際にリッカが切られた石の断面を眺めた後、それをポケットに入れていたのだが、誰も気にしていなかった。

それどころかティアも拾っていた。

リッカは綺麗に切られていたのが気に入り、ティアは魔力を通さない不思議な石なので、石好きとして拾っただけである。


「誰も気づいてないニャ」


長い階段を進みながらチャコが呟く。

切った石の破片が階段を転がったにも関わらず、階段を登ってくる気配がない。

下で待ち伏せているのか、単に気づいていないのかはわからない。


それでも全力で警戒しながら降りたチャコだったが、誰にも遭遇せずに降り切ることができた。

そして、シュトとクレアが上から追いかけてくる盗賊を警戒していたが、誰も現れなかった。


「男の人の叫び声が聞こえるニャ」

「せやな。でも、拷問されているわけではなさそうやで」


階段を降りた先は通路になっていて、1番奥に扉があるだけだった。

その扉の先から聞こえてきた声を受けて、チャコとカコの耳がピクピクと動く。

漏れ聞こえてくる声は苦痛ではなくただの怒鳴り声だったので、盗賊が商人に対して何かを強要していると考えた。


それを全員に伝えてさらに進んで行くと内容がハッキリと聞き取れるようになってきた。


「だから!それをミーナに食わせる前に私に食わせろ!変なものが入っているか確認する必要があるだろう!もしもミーナが体調を崩してみろ!お前たちの要求は絶対に飲まんからな!」

「だから、あんたに食わせた物と同じ材料だって言ってるだろう!」

「材料が同じでもメニューが違うだろう!使う調味料が変わったことで差が出るだろう!」

「あーもううるさいなぁ!」


扉の向こうから聞こえていた声は恰幅のいい商人と、牢屋番の盗賊の声だった。

だが、怒鳴っているのは盗賊ではなく商人だった。

どうやら奥にいる女の子に料理を運ぼうとしていた盗賊に対して、商人が難癖つけているようだ。


「何なのニャ」

「面倒そうやな……」


チャコは扉を開けて盗賊との距離を一気に詰める。

そして、手に持っていた食事を先に奪い、開いた腕を使って盗賊を締め上げて落とした。

食事を守ったのはこの先にいる女の子のためだった。


「うぉ?!き、君たちは誰なんだ?!いや!そんなことはどうでもいい。この先を曲がったところにいる私の娘を助けてくれ!盗賊を倒したということは助けに来てくれたんだろう?!私には娘がいるのだ!それはもう可愛い可愛い娘がぁ!!」

「このおっさんうるさいわ〜。サイレントフィールド」


盗賊を倒したチャコに対して、牢屋に入れられた恰幅のいい商人の男が喚いた。

それに耐えられなかったカコが、半ばキレ気味に消音の魔法をかけた。

魔術をかけられた商人はそれでも喚いていたが、チャコとカコは無視して先に進んだ。


クレアとシュトは入り口に待機し、残りのメンバーで奥へと進む。

左右にある牢屋は誰もいないどころか、1番奥ある扉付近にも見張番の盗賊はいなかった。

どうやら先程チャコが落とした盗賊が1人で監視していたようだ。

相手が恰幅のいい商人とその娘なので、見張りに割く労力を惜しんだのかもしれない。

そもそも、見張る必要すらない相手だったが。


「む。扉に鍵がかかっているニャ」

「鍵はさっきの見張番が持ってたから、ウチが貰っといたで」

「助かるニャ」


カコから鍵を受け取って扉を開けるチャコ。

扉の先にはベッドに腰掛けた、茶色いウェーブのかかった髪を、肩にかかる程度まで伸ばしている少女がいた。

年齢はティアと同じか、1つ2つ上ぐらいだ。


「あの、親バカな父親がご迷惑をかけて申し訳ありません」


少女の最初の言葉は助けてもらったお礼ではなく、謝罪だった。


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