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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
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Page78「精霊が調べた結果」

クレアが精霊放ってから周囲の温度が下がり始めた。

これは、温めていた精霊を屋敷に向かわせたことが原因だ。


カコが温めればいいのだが、その場合火が発生するので盗賊にバレる可能性が増える。

なので、火が発生しない精霊に頼ることになるのだが……。


「ティアちゃん。これは多すぎニャ」

「ここまで多いと逆に暑なるわ〜」

「……暑い……」

「ごめんなさい。みんな張り切っちゃってるんです」

「まぁ、精霊の格も違うから仕方ないよ」


クレア達が待機している場所の近くには、ティアのメモ帳サイズの本から出てきた火の微精霊が30体ほどいる。

クレアの精霊は中位精霊のため2体で十分だったが、微精霊の場合同じ広さを温める場合数が必要になる。


ティアの異空間にはクレアと同じ中位精霊もいるが、クレアが精霊にお願いした瞬間、微精霊が大量に出てきたので出番がなくなってしまった。

ティアが位階も指定してお願いすればよかったのだが、リッカと出会った白竜山脈では精霊達が勝手に動いたのでどう指示すればいいのかわかっていない。


クレア達の中で精霊と契約しているのはクレアのみである。

そのクレアも火の中位精霊が2体のみなので、複数の精霊属性、複数の位階の精霊がいる場合の指示の出し方は知らなかった。

本来であればペンシィが教えるべきことかもしれないが、ペンシィ自身はティアが聞いてくるまで教えるつもりはなかった。

司書として契約精霊をうまく使わせるための訓練を含んでいるのもあるが、実際は面倒なだけである。

もちろん、ティアの身に危険が及べば全力で守り、自身の知識の全てを使うつもりでいるが、それは今ではないらしい。


そんなこんなで、大量の精霊に囲まれて暖をとっていると、クレアの精霊が戻ってきた。

門番として立っている盗賊に見つからないことをいいことに、顔の周りをグルグルと飛んでから戻ってきた。

クレアと一緒に生活している間にこういう性格になってしまったのだ。

ティアのと一緒にいる精霊達がどう成長するか、実に楽しみだとペンシィは密かに考えていたりする。


「それで、どうだったニャ?」

「とりあえず中にいた盗賊は20人で、精霊が見える人はいなかったみたい。そして、地下牢に恰幅のいい男性が1人と、ティアちゃんと同じ歳ぐらいの女の子がいたらしい。商人の子供だと思うけど、女の子はさらに深い牢屋に入れられていて互いに話したりはできていないみたい」

「子供を人質にしてるん?」

「う〜ん。そこがよくわからないんだよね。両者共に危害を加えられたりしてないみたいで、ご飯も普通の物を食べてるみたい」

「なんでそんなまどろっこしいことしてるニャ。拷問とかしそうなのにやらないのは何か理由があるのかニャ?」

「できるだけ怪我を負わせたくないのかもしれないけど、それでも追い詰め方は色々ありそうなのにね」


2体の精霊は屋敷を上から順に探索していた。

その結果わかったことは、クレアが言った通りである。

屋敷の間取りなども精霊から聞くことはできるが、イメージで送られてくるわけではないので、詳細は聞かなかった。

クレアは突入するので、案内させればいいだけである。


これが氷の精霊や土の精霊であれば模型を作ることも可能だが、火の精霊では難しい。

土のティアの異空間にいる土の精霊を経由すれば可能だが、誰もその考えに至らなかった。

他の精霊に頼むことも、模型を作ることも頭にないので当然ではある。


「それで作戦はこのままでいいん?」

「問題ないと思うけど、何か気になることはあるの?」

「う〜ん。ティアちゃんぐらいの女の子を安心させるためにティアちゃんを連れて行った方がいいんちゃうかと思ってんけど、危険やからなしやな。そもそも女の子が人質なのかはわからんし」

「親子じゃない可能性があるってことだね」

「せや」


商人の子供であれば、要求を飲ませるために交渉に使われるはずだが、そうしない理由があるのか、あるいは商人の子供ですらないのかもしれない。

もしも後者の場合、1人で山賊の拠点に監禁されているので、精神的に参っている可能性が高い。

その状態で女性とはいえ武器を持ち、おそらく道中で返り血を浴びるであろうクレア達を見せるのはどうかと思ったカコの発言だったが、救出依頼ではないので見知らぬ女の子よりティアを優先した。


「うーん。考えていてもキリがないし、とりあえず助けてからにしない?最悪、ティアちゃんの異空間で静かに過ごせば落ち着くでしょう」

「そうニャ。お風呂に入ってのんびりすると落ち着くニャ」


監禁されて衰弱していたとしても、ティアの異空間であれば落ち着いて過ごすこともできる。

また、気持ちのいいお風呂や、綺麗な景色を見ることで精神的にも癒されるはずである。

また、調理設備も揃っているので、材料さえあれば様々な料理を楽しむことができる上に、必要なものはティアの魔力で作り出せばいいのである。


「というわけで、助けた人たちはティアちゃんの異空間に入れるつもりだけど大丈夫かな?

「はい。大丈夫です。あの、盗賊の方を生かして捕らえないのですか?」

「余裕があれば……かな」

「わかりました」


可能であれば生かして捕らえるつもりではいる。

だが、相手の実力も未知数なので、下手に手加減して危険を冒すつもりはない。

冒険者学校では生き残ることを教えるため、相手を無力化する方法は教えていない。

つまり、クレア達は殲滅に特化しているのだ。


ここで、闇魔法が使えるゴルディアや、ペンシィを頼ればよかったのだが、やはりクレア達の中にその考えは浮かばなかった。

ペンシィやゴルディアを信じていないわけではない。

ただ単に実力のあるクレア達が他人の頼ることに慣れていないのと、ペンシィ達が何をできるか知らないためである。


「それじゃあ、手筈通りやろうか」

「ん?待つニャ!後ろから何人か来てるニャ。少し様子を見てくるニャ!」


クレアが開始の指示を出そうとしたらチャコが止めた。

どうやら来た道の方向から何かが来ているらしい。

即座に確認のために移動したチャコを止めることはできなかった。


「戻ったニャ。馬車に商人らしき男が乗ってたニャ。あとは、その護衛で6人ニャ。見張りや中継がいなかったことに気づいて警戒しながら近づいて来てるニャ。どうするニャ?」


ほんの少しの時間で戻って来たチャコは、見て来たことを報告した。

護衛の6人は武器を手に取り、周囲を警戒しながら近づいて来ている。


道から離れたところに隠れているクレア達だったが、そこまで大きく離れたわけではないので、警戒されている状態だと見つかる可能性もある。

また、この状況で無理に攻めれば後ろから挟まれるの確実である。

やって来た商人によって囚われている人が運び出される可能性もあるため、一度異空間に退避して日を改めるという選択肢もない。

やって来た商人を止めるには証拠がないので、襲った場合クレア達が罪になる。

色々考えた上でクレアが出した結論は……。


「決めた。強行突破で行こう!全員で攻めれば問題ないよ!人質が確保できれば撤退すればいいからね!」

「わかったニャ!」

「まぁ、その方がええな〜。最後は全員ティアちゃんの異空間に入れてもろて、動きの早いチャコ1人で逃げ切れればええんやし」

「……私でもいい……」

「いや、チャコには奥の手があるやん?シュトもあるけど、使ったらしばらく動かれへんようになるし、そもそも逃走に向いてへんやん」

「……わかった……」


クレアが出した結論は、全員で攻めて地下にたどり着き、人質を回収したら撤退するという方法だった。

議論の結果、撤退要員はチャコになり、それ以外の全員は異空間に退避することになった。

つまり、チャコが精霊石を持って走るということになる。

クレア達は異空間と精霊石の関係をペンシィから聞いているため、この発想に至ったのである。


「あとはティアちゃんだけど、異空間に入るためにはティアちゃんも一緒に行く必要があるよね?」

「そうですね。異空間に収納するには私がやる必要があります」

「じゃあ、結界を張りながら移動することはできる?」

「えっと、どうでしょうか?やってみますね


ティアが少し離れて、自分を囲うように結界を張った。

そのまま進むと、貼られた結界ごと動くことができた。

動けるようにした関係上、結界は地面に触れていないため足元が空いていたが、しゃがむことで防ぐことができるようになっていた。


「大丈夫です!」

「わかった。じゃあ、ティアちゃんも一緒に行こう!」

「はい!」

「のじゃー!」

「もちろんリッカちゃんもね!」

「ティアは任せるのじゃー!」


リッカはティアの張った結界に張り付きながら手を振り回してアピールした。

あとは、商人が来るまでに屋敷を攻め落とせるかどうかだ。


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