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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
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Page76「初めての殺人」

昼食を終えて片付けが済むと全員が戦闘準備を整えた。

と言ってもティアとリッカは馬車の中で待機だが。


戦う対象は獣や魔獣ではなくこちらを監視している2人。

チャコが戻ってくる少し前にもう1人の方に合流していた。

チャコは大きく迂回して戻ってきていたので、屋敷の確認も合わせて追跡者より遅くなってしまった。

たとえチャコが獣人で、追跡者が人間だとしても警戒して動かなければならない以上、速度はそこまで出せないため、追跡者の方が速かった。

ただ、チャコは速度を出せる場所では全力で移動していたので、昼食に間に合う結果となった。


「それにしてもティアちゃんは頑固やったな〜」

「そうだニャー。ここはまだ拠点じゃないからってことで馬車に入ってもらったけど、本当に攻める時にも異空間に入れないのニャ?」

「クライアントの意向だから仕方ないよ。ティアちゃんも危険なことはわかった上で言ってきてるんだし」


カコの言葉を皮切りに、ティアとリッカを馬車に入れる時の話が始まった。

と言ってもチャコが昼食中に、拠点を攻める前に追跡者を捕らえようという話に決まった際に、ティアが異空間に行くのを拒否した結界、馬車の中で待機することになっただけである。


ティアの言い分は盗賊を攻めると決めた時と変わらず自分にも何かできるというものだった。

その言葉に対してクレアが、ここは盗賊の拠点じゃないと言って無理矢理馬車に乗せた。


この後人同士の戦闘が始まるので、まずは安全な馬車の中から見させようという魂胆だった。

これでティアが怖気付けば屋敷を攻める際に異空間で待機させやすくなる。

クレア達としては、ティアには安全な場所にいてほしいのだ。


「それじゃあやろうか」

「クレア大丈夫ニャ?」

「震えとるで〜」

「……殺すのは任せて……」


クレアは震えていた。

盗賊を倒そうとする気持ちに偽りはないのだが、クレアは人を殺したことがなかった。

特化クラスとはいえ冒険者学校に通ってるお姫様なので人を殺した経験はなかった。

フェゴまでも護衛がいたため事前に対応されていた。


チャコ達3人はそれぞれ理由があってすでに人を殺している。

チャコはクレアと一緒に冒険者学校に入る前、国王から指示を受けて処刑人として。

カコはマーブル王国へ向かう途中に盗賊と遭遇して。

シュトは狩りに出た時に村で評判の悪い独り身の狩人に襲われそうになった時だ。


それぞれ殺人を経験した直後はしばらく呆然となったり、数日程塞ぎ込んでいた。

3人は冒険者に憧れを抱いてるクレアを気遣っているが、クレアは既に覚悟を決めている。

すでに魔獣は倒しているので、人間を殺すことになったとしても同じだと考えるように準備はしている。

ただ、所詮準備なので実際に殺した時にどうなるかはわからない。


「ふぅーっ。それじゃあやろう!」

「わかったニャ」

「チャチャッと終わらせるで〜」

「……最初は私が……」


クレアの合図で準備で全員が馬車の陰から出た。

陰に隠れて準備を進めていたので、追跡者からすると少し見えなくなったら武器を揃えて出てきたように見えた。

即座に武器を警戒したが、その瞬間にシュトが放った矢が1人の腕に当たり武器を取り落とした。


それを見たもう1人がその場から離れるために立ち上がった瞬間、右足に矢を当てられて地面に転がった。

シュトの腕なら初手で殺すこともできたが、尋問する予定なので戦闘能力を奪う程度に留めた。


腕を抑えて蹲っている方はチャコが、足を射られた方がシュトが確保。

その場で尋問を行うことにした。

馬車の窓からティアとリッカが見ていたが、あえて視線を遮らず見えるようにしているのだが、それはこの後の拠点襲撃のためだ。


追跡者達から装備を剥ぎ取った結果、着ている服こそ薄汚れていたがボロボロではなく、盗賊にしては手入れが行き届いた武器と防具、財布などの革製品は上質なものだった。

服だけわざと汚したような印象を受けるクレア達。

それに、体も盗賊とすれば不自然なほどに鍛えられていて、どこかの兵士としても通用しそうなほどには実力がありそうだった。


それを頭においた上で追跡してきた理由を尋ねると、獲物として襲うかどうかを決めるために見張っていたと言ってきた。


それを聞いたクレアは、鎧の内側につけた探検を取り出し、刻まれた紋章盗賊達に見せながらもう一度問いただした。

先ほどは1冒険者としてだったが、今度は王女としての問いだった。

しかし、追跡者達は短剣に刻まれた紋章を見て驚きはしたものの、次の瞬間には諦めたかのような表情となり、1回目と同じことを答えた。


短剣を見せたということは王女であると明かしたことになり、追跡者達盗賊でなかったとしても王族を追跡し、シュトによって未遂に終わったが武器まで用意していたのである。

通常であれば死罪は免れない。


クレアが自分の名の下に正直に答えるなら命は助けると伝えても、追跡者達の答えは変わらなかった。

それを聞いたクレアは短剣を戻すと左腰の剣を抜き、2人の首を刎ねた。


流れるように切ったので、チャコ達が止める隙はなかった。

躊躇えば止められると思っていたのもある。


「これでみんなと同じだね」

「そうニャ……」

「潔いな〜。もしかしたらどこぞの領主軍かもしれへんのに」

「……辛くなったら言うといい……」


チャコは猫耳をぺたんと伏せて悲しそうに、カコは敢えて盗賊ではなかったという予想を前面に出すことで殺したことから意識を逸らそうと、シュトはクレア自身が乗り越えるものだと信じて言葉をかけた。


「チャコ、シュト私は大丈夫。王女として悪人の処刑を見たこともあるし、する側に回っただけだよ。それにしてもカコ。短剣を見せた上で聞いたのに盗賊だと言い張ったんだよ。もしも領主軍だとしても盗賊だと名乗られた以上そう処理するしかないよ」


くれあは初めて殺人を犯したに関わらず、不思議と落ち着いていた。

それは冒険者に憧れた時点で、いつか盗賊と戦うことになるかもしれないという考えの他に、今まで奪ってきた獣や魔獣の命、王族として見届けなければならない罪人の最後、王位継承権が低いとはいえ、受ける必要があった王族としての教育、そしてクレアの考え方と性格。


様々な要素が絡み合った結果、クレアは全くと言っていいほどショックを受けてなかった。

それよりも王族として問いただしたにも関わらず、誤魔化そうとした追跡者達に嫌悪感を抱いていたせいもある。

ただの盗賊であれば王族とは敵対する可能性もあったが、殺した2人はどう見ても盗賊ではなかった。


「せやな。じゃあ、死体はウチの方で焼いとくな〜」

「ううん。ここは私に最後までやらせて」

「わかった。終わったら馬車まで戻って来いや」


カコはシュトを連れて馬車に向かった。

残ったチャコはクレアの様子を心配そうに伺っている。


「チャコ、本当に問題ないよ。殺されたのはこの2人の意思だったし、王族としての責務を全うしただけだから」

「それはわかってるニャ。そして、クレアが私が初めて殺した時とは違う感情を抱いてることもわかるニャ」

「そうなんだ。チャコはどうだったの?」

「私は怖かったニャ」


チャコの耳はペタンとなったままである。

今でこそ必要であれば人間を殺すことも厭わなくなったチャコだが、クレアの手が汚れてしまったことに少なくないショックを受けていた。


「そっか。こわかったんだ。多分その人の未来を自分の手で閉ざしたからかな?でも、私達王族は国民の手で生かされているし、その国民を殺すことも必要であればしないといけないからね。それは処刑じゃなくて戦争の指揮もそう。だから、いつかは間接的に殺すことになったんだと思うよ」

「でも、それは今じゃなくても良かったニャ」

「そうかもしれないけどね」


クレアが死体に向けて手を振ると炎が迸り、死体を焼いた。

聖霊によって焼かれた死体はチリも残さず全てを消した。

後に残ったのは熱で雪が溶けたことによってむき出しになった地面と、追跡者達が付けていた装備品だけだった。


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