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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
73/106

Page73「馬車の残骸調査」

リッカが馬車が倒れている伝えてきたので、クレア達は急ぎつつも慎重に進んだ。

御者席ではクレアが操車し、チャコが警戒、竜から人形態に戻って服を着たリッカがチャコの膝の上に座っていて、馬車と御者席の間にある扉からティアが外を覗いている。


馬車の残骸が見つかった時点で警戒度が上がっているため、ティアは馬車から出させてもらえなくなり、今もカコがティアの後ろに控えていて、馬車の後方をシュトが警戒している。

ただ、ティアは報告を受けてからわかりやすく怯えていて、今もただリッカを心配して扉から覗いているだけで、自分で残骸を見たいわけではなかった。


そんなティアの気持ちを知ってか、クレア達は他愛のない話で気を紛らわせながらゆっくりと走った。

その結果、日は完全に落ちたが道の途中に不自然に積もった山に辿り着いた。


その山はクレア達の馬車をなんとか飲み込める程度の大きさだったが、周囲には何もない。

森であれば雪の重さに耐えきれず、連鎖的に倒れた複数の倒木が重なることがあり、そこであればこのような小山ができるかもしれないが、あいにくとここは何もない街道だ。

街道なので馬車が通る可能性はあるが、盗賊が罠を仕掛けない限り倒木はありえず、例え罠を仕掛けるとしても、何もない街道を選ぶことはない。


「リッカちゃんはどうしてこれが馬車だとわかったの?」

「何となく突っ込んだだけなのじゃー。そうしたら中に色々あったのじゃ!」

「空から突っ込んだのニャ?」

「のじゃ!」


クレアとチャコの質問にリッカが答えた。

リッカは竜形態で周囲を飛んでいる最中に小山を見つけ、好奇心だけで飛び込んだ。

そうすると中に馬車の残骸や馬の死体があったのである。

その時に開けた穴は既に雪で埋まっている。


「じゃあクレアお願いするニャ」

「任せて。カコは温度の維持、シュトは警戒よろしく」

「了解や〜」

「……わかった……リッカはここ……」

「のじゃー」


クレアとチャコが御者席から離れて雪山に近づく。

火の精霊持ちのクレアが離れるので温度調節をカコの魔法に、チャコが雪山に意識を集中するので警戒をシュトにお願いした。

カコは慌てることなく火の魔法を展開し、シュトはクレア達と一緒に行こうとしたリッカを掴んで手元に寄せる。

寄せられたリッカはあわよくばと思っていたのか、即座に大人しくなった。

ちなみにティアは扉を閉めて、覗き窓から外を見ている。


クレアとチャコが雪山に近づくと、クレアの火の精霊が力を発揮して湯気を立てながら蒸発していった。

そして、雪山のあった場所には首に矢を受けた馬と、首が切られた馬。

その2頭の馬に引かれていたであろう幌馬車が横転していて、周囲には冒険者と思われる人間の死体が3つあった。

どれも筋肉質で、体には切られた跡や魔法を受けたのか焼け焦げた部分があるが、そのどれもが装備を奪われたのか服しか着ておらず、武器や防具の類は一切なかった。

幌馬車は幌が破れていて、中には木箱が散乱しているだけで中身は空だった。


「冒険者は死んでるニャ」

「護衛が3人なのは普通か少し少ないぐらいかな」

「うーん。全員筋肉質だから前衛だと思うニャ。だとしたら後衛が1人は居てもいいはずだけど、周りには居ないニャ」


クレアのおかげで周囲の雪が溶け、地面がむき出しになっている。

そこには他に死体がないので、こことは違う場所で殺されたか、連れ去られたか、そもそもいなかった可能性もある。


「チャコは馬車や死体を調べてくれる?私は周囲に何か無いか確認してみるから」

「わかったニャ」


クレアはチャコが火の精霊が温めている空間から外れないように注意していながら、横転した馬車を中心に周囲を歩き回り、周囲を探索する。

チャコは冒険者の死体をひっくり返し、傷口や装備を確認していった。


シュトは兎耳をピンと立てて周囲に気を配り、カコは火の玉をくるくると回して魔法の練習をしながら温めていて、リッカはそれをジーっと見ている。

時々手がピクピクと動いているので、動いている火の玉が気になるようだ。


そんなリッカ達とは別でティアは覗き窓を閉じて馬車の中で本を読んで周囲を見ないようにしていた。

冒険譚なんかで盗賊や魔物が人を襲っている描写はあり、それによって人が死ぬことがあることも知っていたが、読むのと見るのでは大違いで、いざ目にするとわかった瞬間怖くなっていた。

その点リッカは雪山で力尽きや人間を見たり、自分で獣を狩ったりしていたので、死体を見ても特に何も感じていなかった。

野生と温室育ちの違いである。


「チャコ。何か見つかった?」

「こっちは何も見つからなかったニャ。だから、しれがおかしいニャ。クレアの方はどうニャ?」

「それはおかしいね。私の方には盗賊の死体が1つだけだったよ」

「ふむ。それだと盗賊は奇襲したことになるニャ」

「そうだね。警告もなしに襲ったことになるね」


盗賊は無闇に人を殺さない者が多い。

人を殺すと領主軍や討伐隊が組まれてしまうためだ。

積み荷を奪う程度であれば、やりすぎなければ即座に討伐隊が組まれることはなく、最初に動くのは依頼を受けた冒険者になる。


見つけた馬の死体には矢が刺さっていて、周囲にある盗賊の死体の数が少ないことから、戦闘が行われたとしても随分小規模だったと推測される。

本来であれば数で囲み、積み荷を置いていくかどうかを聞き、拒否すれば殺さない程度に戦闘を行い、近くの村へ辿り着くのに必要な食料を残してそれ以外を奪っていく。

それが行われなかったということは、初めから殺すことが目的だった可能性も出てくる。


「幌に商会の紋章も無かったんだよね?」

「見つかってないニャ。随分ズタズタに切られてるから分かりづらいけど切り取られた跡もあるニャ」

「御者の死体も無いということは連れ去るのが目的の可能性もあるかな」

「むしろそっちが本命だと思うニャ」

「そうだよね」


チャコが確認した死体は冒険者3人と馬2頭で、冒険者が御者であれば別だが、馬車を操車していた人物の死体が見つかっていない。

もしも、冒険者だけで移動していた乗合馬車であれば冒険者の数が少なく、木箱の多さがおかしくなる。

そのため、この幌馬車はどこかの商会の物で、その商会に所属している人間を攫うために行われた可能性が高くなる。

ご丁寧に商会の紋章を切り取った上で幌をボロボロにして、どこの商会の馬車かわからなくする徹底ぶりである。

確実に計画されたものだった。

もしかすると、前日にチャコが気づいた盗賊はこの馬車を襲うために警戒していた人間かもしれない。


「それで、どうするニャ?」

「うーん。いつ襲われたかはわからないよね?」

「雪で死体が凍ってるからわからないニャ」

「とりあえず護衛対象のティアちゃんに説明しよう。このまま進むにしても、戻るにしても、盗賊を退治するにしてもティアちゃんの護衛が第一だからね」

「わかったニャ」


クレアとチャコは馬車に戻り、全員を集めて調査した内容を説明した。

ティアが怖がっていることを把握しているので、死体についてはボカしながらだったが、誰かがさらわれていることや、計画されていそうなことはしっかりと説明した。


「それで、これから取れる方法は3つあるの。1つ目はフェゴへ戻る。2つ目はこのまま進む。3つ目は盗賊を倒して攫われた人を助けてから進む。ティアちゃんには依頼主としてどれか選んでもらう必要があるんだけど、できる?」

「わ、私が選ぶんですか?」

「そうニャ。私たちはティアちゃんの護衛ニャ。本来であれば危険なところには行かないのが正解だけど、盗賊の目的がわからない以上進んでも危険ニャ」

「それに戻って冒険者を増やしても盗賊がいる限り危険なんは変わらんしな〜」

「どうすればいいんでしょうか?」


普通の護衛であれば進むか戻るかを選択して欲しいのだが、クレア達は盗賊を倒したいので、倒さないと危険だと言って誘導しようとしている。

ティアはいきなり話を振られたのでそれに気づいていない。


クレア達もティアを危険に晒してしまうことはわかっているが、異空間に入ってもらえばいいと考えているので、そこまで心配していなかった。


あとはティアの判断次第である。


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