Page71「不思議な野営明け」
ティアが外に出ると前後左右と頭上が真っ白だった。
地面の雪は結界を張る前にクレアが溶かしていたので、茶色い土がむき出し気なっている。
ただ、結界を張った後に降ってきた雪はどうしようもなく、結界の上に積もった結果が一面の白い空間だった。
「どうすればいいのでしょうか?」
「ティアちゃんが結界を消したら雪が降ってくる?」
「そうだと思います」
クレアが結界を触りながら外を確認する。
結界を隔てた向こう側の雪がどれくらい積もってるかわからないので、下手に結界を消して雪に埋もれてしまうのは避けたい。
消した瞬間に炎で溶かせば問題なく、精霊を使えば問題なく消せるのだが、炎による消耗や火傷の可能性があるため簡単には提案できなかった。
「うーん。こうなることを予想してなかったニャ」
「普段の野営はクレアの精霊が雪を溶かし続けてくれてたしな〜」
マーブル王国首都から商業都市クロステルを経てフェゴ村まで来たクレア達だったが、夜間の雪は寝てるクレアから魔力を供給された精霊が周囲の温度を一定に保つことで溶かしていたので、野営明けでこんな自体にはならなかった。
今はティアのメモ帳から出て来た火の精霊によって結界内の温度が保たれているのだが、結界より先には影響がなかった。
これは、ティアが結界を張った時に大きさや厚さ以外に何も考えていなかったので、レインとゴルディア以外の出入りだけでなく、魔法や精霊による干渉も隔ててしまっている。
「ペンシィさん。どうすればいいでしょうか?」
「んー。誰か1人が結界を通れるように変更して、代表者が雪を退かすのはどうかな?」
「そうなるとウチか姫さんやな。他の2人でもできんことないけど魔法でちゃちゃっとやったほうがよさそうやろ?」
「そうだね。じゃあカコお願いしてもいい?馬車は私が操車するから」
「今日も姫さんなん?ウチでもええのに」
昨日はクレアが操車していたので、今日はカコが操車するつもりだったようだ。
事前に話し合っていないのでカコの中だけの考えだが。
「うーん。これだけ積もるってことは今も降ってるかもしれないでしょ?そうなるとカコの魔法で制御するの難しくない?」
「あ〜。そう言われるとそうやな〜。じゃあ、操車はお願いするけど、この雪溶かすぐらいはやるで!」
クレアなら魔力を与えるだけでいい感じにできることでも、カコは自分で操作しなければならない。
そのため、積もってる雪だけを溶かすのならばともかく、降ってくる雪まで溶かすとなると制御がややこしくなる。
そこを考えるとカコよりクレアが適任になるのだ。
「わかった。じゃあ、ティアちゃん。結界をカコが通れるようにしてくれる?」
「わかりました」
ティアが結界に手を触れて魔力を流し、構成を操作する。
もちろん細かい制御はペンシィが補助している。
ちなみにティア達が思考錯誤している間、リッカは結界に顔をくっつけて雪を間近で見ていた。
結界のおかげで雪の冷たさを感じずに見れるため、リッカにとっては新鮮だった。
竜形態であれば直接雪を見ても寒いと感じることはないのだが、人状態なので雪の影響を受ける。
前日雪の中を走り回ったりしたのは普段とは違う雪の感触を確かめていたのである。
フェゴでは雪かきが行われていたのと、落ち着いて遊ぶ機会がなかったのでこのタイミングになった。
「ほな行ってくるわ〜」
「気をつけて」
「よろしくニャ〜」
カコが結界に触れると、阻まれることなく沈んでいき、やがて向こう側に出た。
結界の向こう側は即雪なので、結界から出た手から火の魔法を発動するカコ。
手から小さい火が放たれるも、押し寄せてくる雪によって消されてしまった。
「もうちょい強いほうがええか〜」
今度は放射状に炎を出す。
それでも、炎によってできた穴を塞ぐように雪が落ちてくるため、思うように溶かせない。
かといって、一気に外に出て炎を出そうとしても雪が邪魔で出れない上に、失敗すれば生き埋めである。
もちろん埋まった状態で炎を出せば簡単に解かせるはずだが、好き好んで雪に埋もれる者はいない。
リッカを除いて。
なので、周囲の雪を溶かしつつ、慎重に前に進もうとしているのである。
幸い手の向きを変えるだけである程度の範囲を溶かすことができるので、時間さえかければ問題なく外に出ることができる。
現時点で右腕ほとんど外に出ているぐらいだった。
「これは……ひどいなぁ……」
外に出たカコが目にしたのは猛吹雪だった。
野営をするときは晴れていたのだが夜の間に吹雪き、結界すらも覆い尽くすほどに積もってしまったようだ。
「とりあえず結界の周囲を燃やそか〜。ファイアトルネード〜!」
間延びしながらも呪文名だけで魔術を発動し、結界を中心に炎の竜巻を発生させる。
魔法を使う者から見ると、ティアの結界に込められた魔力は相当な者なので、簡単な魔法や魔術であれば防げる。
そのため、結界の周囲に魔法を展開するのではなく、結界を中心に発動させていた。
つまり、結界に対して魔術を放ったということになる。
「うわぁ……周りが燃えてますね」
「綺麗なのじゃー」
ティアとリッカは結界の向こう側で踊る火の竜巻に見入っていて、竜巻が近すぎることに気づいていない。
ペンシィは結界に対して魔法が放たれたことを理解しているが、結界の厚さを把握しているため特に気にした様子もない。
ティアが結界に込めた魔力は、級魔術程度であれば苦もなく防げる上に、結界に対してダメージが入ることもない。
よってダメージがないと結界見た目が変わることもないので、ティアは気づくことがなかった。
「クレア。結界に対して攻撃魔法使ってるように見えるニャ」
「……同感……」
「その通りだよ。たぶん、結界に使われてる魔力量から問題ないと判断したんだと思う……」
ただし、クレア達は気付いていた。
自分たちの周囲を炎が回る程度なら問題なかったが、上を見上げると結構な高さまで巻き上がっている。
これによって魔法ではなく、あらかじめ決められた効果を及ぼす魔術だとわかった。
カコ実力であれば、半球状の結界に沿って炎を出すことなど問題なくできる。
ただし、魔力をうまく結界に合わせて流し、その後火に変える必要があるため、少し制御が面倒になる。
その点カコが使用したファイアトルネードは、込めた魔力量によって範囲が変わる炎の竜巻が発生する魔術なので、魔力量を調整するだけで雪を溶かすことができる。
カコは魔力制御が苦手なわけではないが、無駄に頑張るよりも速さを優先しただけである。
それを理解できたクレア達ため息をつくしかなかったが。
「まぁ、結界の強さを認識した上だから問題ないよ」
「そうだニャ。ちょっとビックリしたけど仕方ないニャ」
「……カコなら問題ない……」
クレア達の中でも結論が出た。
ただ単に自分たちが攻撃魔術の中にいることに少し驚いただけで、カコの腕を疑ったわけではない。
むしろ信じているからこその落ち着き具合だった。
「あ、治りました」
「のじゃ……」
炎の竜巻が消えると、積もった雪で真っ白から目の前には猛吹雪で真っ白に変わった。
ティアは頭上に雪がないことを確認すると、積もる前に結界を解除した。
直後吹雪が襲ってきたが、即座に火の精霊がメモ帳サイズの本から出てきてティアを守り、近くにいたリッカも守られた。
しかし、クレア達はティアの精霊からは守られなかった。
クレアは自身の火の精霊が守ったが、チャコとシュトは守られなかった。
これはクレアの意思ではなく精霊の意思だったのだが、チャコとシュトからするとたまったものではなかった。
「ティ、ティ、ティ、ティアちゃん!け、消すなら言って欲しかたニャ!」
「…………」
チャコはいきなりの吹雪に震え、シュトは蹲りジッとし始めた。
ティアの精霊によって温められた空気は、結界が無くなった時点で吹雪に追いやられてしまっていた。
「ご、ごめんなさい!」
「あ、暖かくなったニャ!」
ティアがリッカを連れてチャコとシュトの元にやってきたので、周囲が暖かくなった。
蹲っていたシュトも立ち上がり、クレアを見る。
「……クレアはどうして……」
「ん?馬を優先しただけだよ」
クレアは馬の周囲を火の精霊を使って温めていた。
クレア自身は精霊が勝手に温めてくれたので、即座に馬をたために移動してしまった。
なので、取り残されたチャコとシュトが吹雪にさらされてしまったのだ。
「うぅ……それじゃあ仕方ないニャ……」
「……うん……」
「みんな何してるん?」
チャコとシュトが納得したところで、カコが周囲に火の玉を4つ浮かべながら近づいてきた。
結界が消えてから誰も来なかったので、カコから近づいてきたようだ。
「カコお姉ちゃん。レインさんとゴルディアさんを見ませんでしたか?」
「うん?さっき一緒に燃えてたで」
「え?!」
「いまはもう復活してるんとちゃうかな〜」
カコが指差した先には、少し焦げ跡があるぬいぐるみが2体立っていた。
色々あってTwitter始めました。
@hoshizatou_book
です。
投稿したら呟きます。
日常に関しても呟く予定です。
よかったらフォローお願いします。