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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
盗賊と 不思議な野営と お友達
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Page67「警戒」

クレアと一緒に馬車の御者席に座っているチャコ。

その耳がピクピクしていることにクレアは気づいた。

チャコが周囲を気にしているときの動きである。


「チャコ。何かあった?」

「うーん。見られているニャ」

「誰に?」

「馬車の中から4人。外から2人ニャ」

「馬車の4人は問題ないとして、外は何かわかる?」

「2人は固まってこっちを見てることから仲間だと思うニャ。敵意というよりも観察という感じで、こちらを探ってるような気配ニャ」

「盗賊かな?」

「多分そうニャ。今のところ襲ってくる気配はないから、夜のうちにカコとシュトに伝えるニャ」

「ティアちゃんにも伝えるべきじゃないかな。形上は雇い主なんだし」

「そこの判断はクレアに任せるニャ」


馬車の4人はティア、リッカ、カコ、シュトなので問題はない。

気にすることとすれば、なぜ一斉にチャコを見ているのかというところぐらいで、さすがに話を聞いていないチャコにはわからなかった。

ただ、その視線も不快なものではないので特に気にならなかった。

チャコはカコの視線からのみ弄るような雰囲気を感じたが、それはいつものやりとりと同じことだった。

この視線からチャコに関係することをカコが話したと確信したので、後で問い詰めることにした。


それとは別に感じる視線は、馬車の先からだった。

チャコの予想は通り2人は盗賊団の一員で、街道を通る馬車を確認する仕事中だった。


深い雪道を溶かしながら進む馬車は、通常であれば魔道具によって溶かすため、商人であれば魔道具を馬車に付けるぐらい裕福で、それ以外であれば貴族になる。

襲う側からすれば雪を溶かしてるだけで、観察するに値するのだ。


だが、溶かしているのは魔道具ではなくクレアなので、いくら馬車を観察しても魔道具らしき物は見つからない。

魔道具がつけられているのであれば、馬あるいは馬車に火属性の赤い魔石が付いた何かがあるはずなのだ。

そういった意味では真っ赤なクレアと真っ赤な馬車なので、遠目では判断できないかもしれない。


そして、馬車には申し訳程度に小さくマーブル王国の紋章が描かれている。

クレアは冒険者で王位継承権もほぼないに等しいが、成人する15歳までは王家の庇護下にある。

そのため、使用する馬車には王家の紋章が描かれているのだが、とても小さく描かれているため、これも遠目では判断できない。

王家の威信で門を通るならば、門番にだけ見えればいいというクレアの考えで、これは冒険者として活動するパーティ全員を守るためでもある。

王女一行が村や町を訪れれば騒ぎとなり、場合によっては歓待等でしばらくの間動けなくなることもあるからだ。


そのため、遠くから観察している盗賊2人組は、クレア達の馬車が貴族なのか商人なのかが判断できていなかった。

馬車の大きさや作りを考えると貴族になるのだが、護衛もおらず御者席に座るのは少女2人。

お金がない商人が護衛を雇わず、娘や使用人に操車させているようにも見える。

馬車が大きいので大量の物資を積んでいるか、あるいはそれを売ったお金を積んでいるかもしれない。


どちらか判断できない盗賊達は、一旦観察をやめて報告に向かった。

報告の中には、御者席に座る2人の少女が高く売れそうだということも含まれている。


「ニャ?!」

「どうしたの?」

「背筋がゾワっとしたニャ……。これで盗賊確定ニャ。近いうちに襲ってくると思うニャ」

「あぁ……。そういう視線で見られたんだ……」

「ニャ……」


いやらしい目で見られたことに反応して、とても嫌な気持ちになったチャコ。

その耳はペタンと閉じていて、尻尾力なく垂れ下がっている。

クレア達も無学ではないので、盗賊に捕まったよ女性がどういう目に合うかは知っている。

冒険者学校で嫌という程教えられるのだ。


その教えの中で捕まったのであれば潔く死ねと言われている。

クレア達特化クラスは総じて戦闘能力が高いため、その子供にも影響する可能性がある。

冒険者学校としては、盗賊側に力を持った者が現れないようにするための言葉だったが、クレア達は死を勧められるほど酷いことをされると受け取っている。

そのため、盗賊に対するクレアパーティの考えは殲滅で一致している。

一切の慈悲もなく、全ての盗賊を根絶やしにするつもりで冒険している。


ただ、幸運なのか不幸なのかはわからないが、王都から様々な街や村を経由したにも関わらず、襲われることはなかった。

それは、クレア達が演習でメモリアに行くことになった時点で、各街に所属する王国騎士団が警戒に当たったからで、それによって大きな盗賊団のいくつかは壊滅している。

国王は過保護だった。


「見張りに2人っていうのは多いのかな?」

「どちらかというと少ない気がするのニャ。もう少し多ければ、小さな馬車を襲うこともできるニャ」

「もう少しってことは6人ぐらい?」

「そうだニャ……。それぐらいなら護衛なしの馬車を襲うことはできそうニャ」

「だったらそんなに数は多くないのかな?」

「う〜ん。わからないニャ。念のため20人ぐらいいると思っておけばいいんじゃないかニャ。人数には根拠はないけどニャ」

「それぐらいなら余裕だね」

「ニャ」


クレアとチャコは自身達が雪をもろともせずに進んでいるため、雪の中で待機する辛さを忘れている。

チャコは幼い頃からクレアと一緒に居た上に毛皮があるためで、クレアに至っては生まれた時から火の精霊と共にいたので、寒さに震えるということがなかった。

先程の盗賊2人組は雪の中に埋もれて観察することに長けた斥候で、そのような役割確保できるくらいには大人数の盗賊団である。


斥候のいない雪国の盗賊であれば、全員で観察して襲ってくる。

雪の上を移動する手間や、待機することで消耗する体力などを考えると一気に終わらせたいのだ。

非効率に感じるかもしれないが、雪は騎士の行軍にも影響するため、これでもなんとかやっていけるのだ。

それでも、平野に比べると圧倒的にやりづらいのだが。


このことは御者席にカコかシュトがいれば即座に訂正されたはずだが、当人達は馬車のおしゃべりしているため、今はまだ注意されることはない。

されるとすれば盗賊に襲われた時か、夜に行う予定の報告だろう。


「初めての盗賊退治ニャ」

「そうだね。とりあえず全員動けないようにするとして、捕まってる人がいれば助けるよ?」

「当然ニャ。ただ、心の傷は治せないニャ」

「そうだね。それは仕方ないよ」

「そうだニャ……」


2人はすでに勝つ気でいる。

戦闘能力のある4人の少女と、魔力の塊のようなティアに1頭の精霊竜。

相手は規模がわからない盗賊だが、盗賊で上位冒険者ほどの力があれば騎士団が動いているか、冒険者組合で注意を受ける。

フェゴでは注意を受けなかったので、そこまで強い盗賊ではないと判断しているのだろう。


実際にクレア達と共にフェゴで戦った冒険者であれば盗賊に負けるかもしれないが、メモリアから護衛をしながら帰ってきた冒険者であれば苦戦しないはずである。

そうなると、クレア達と護衛をしていた冒険者のどちらが強いのかという話になるが、現時点の実力では一部の護衛組には勝てない。

ただし、潜在能力等で考えるとクレア達に軍配があがる。


また、単純な火力で言えばクレア達の圧勝であり、クレア達も自分の実力は把握しているので、怯えはないどころか逆に返り討ちにしてやるという気持ちである。


「とりあえず今は見られてないし、ゆっくりと進むニャ」

「ゆっくりね」

「そうニャ。ゆっくりニャ」


クレア達は盗賊側に準備する時間を与えようとしていた。

全力で殲滅するためだ。


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