Page65「クレア一行のお昼ご飯」
今日で投稿して1年になりました。
これからも頑張ります。
馬車を操るクレアから昼食の誘いが出たので、夕食と朝食を抜いて空腹のティアは即座に賛成、ティアが寝ていたため少ししか魔力を食べていないリッカも賛成した。
他の3人は馬車に乗っていただけなのでそこまで空腹ではないがティアとリッカに合わせることにしたようだ。
「じゃあ次の馬車留め広場でね」
「了解ニャ!」
御者席と客席をつなぐ小窓を間に挟んでクレアとチャコが話している。
しかし、周囲は雪に覆われているため、例え広場があったとしても昼食を取るスペースはないはずである。
馬車道でさえ他の馬車が通った跡が薄っすらと残っている程度だった。
「雪がいっぱいですけど大丈夫なんですか?」
「大丈夫やで〜」
「そうなんですか?」
「大丈夫ニャ」
「わかりました」
ティアは客室から外を覗いて周囲の雪を見ながら質問したが、カコとチャコは問題ないと返した。
そんなやりとりをしている間に馬車が止まった。
「窓から外を見て待ってるといいニャ!」
馬車が止まっても誰も動かないのでティアが動こうとするとチャコが止めた。
ティアが言われた通り外を見ると、窓の向こうに炎が舞った。
その炎は一瞬で消え、後には雪がなくなり乾いた地面が現れた。
「えっと…」
「さぁ。外に出るニャ」
「はい…」
「のじゃー!!」
炎を見て困惑するティアを、チャコが手を引いて馬車から連れ出そうとしたが、それより先にリッカが飛び出した。
リッカは馬車の中に飽き始めていたので外に出られることが嬉しいようだ。
「これを…クレアお姉ちゃんが行ったのですか?」
「そうだよ。雪道の運転は私かカコが担当するんだ。雪を溶かしながら進めるからね」
「姫さんの方が調整しやすいから、雪が深い場所は姫さん担当なんやで〜」
「そうなんですか…」
カコが操車する場合、継続的に火の魔法を使い続ける必要があり、威力や溶かす範囲などを調整しながら馬車を操らなければならないため精神的に疲労する。
また、雪が深い場合威力を上げなければいけないため魔力の消費が激しくなる。
その点クレアは火力調整を自身に宿る精霊に任せているため、本人は適度に魔力を渡すだけで、あとは馬車の操縦に専念できる。
そのため、雪に手間取りづらいクレアが担当しているのだった。
「じゃあティアちゃん。調理道具と食材を出してくれる?」
「えっと、何を出せばいいんでしょうか?」
「あー。ちょっと待ってね。シュト!何がいる?」
「……ゴロ芋、赤根、剥き玉、鶏肉、ヤギ乳、塩、包丁、大鍋……。……あとパン……」
「鶏シチューやね〜。まだまだ寒いしいいと思うよ〜」
「簡易調理台も出してもらったほうがいいんじゃない?」
「……じゃあそれも……」
リッカとチャコが追いかけっこしている間に、メニューが決まった。
調理担当はシュトで、内容は野菜と鶏肉を入れたヤギ乳のシチューとパンだった。
ゴロ芋は白い皮の芋で、ゴツゴツしているため皮が剥きにくい。
焼いても煮ても蒸しても食べられ、寒さに強いことからフェゴでたくさん作られていた。
赤根は赤い皮に赤い身の野菜で、甘いため皮をむいてそのまま食べてることもあるが、煮込むと甘さが増す野菜だった。
剥き玉は層になった野菜で、生で食べると辛いのだが、炒めたり煮込むことで甘さが増す。
切るときに涙を流すこともある野菜だ。
ティアは言われた野菜と、包丁と大鍋、簡易調理台を取り出した。
パンはシチューができてから取り出すようだ。
「あの。なぜ中のキッチンを使わないのですか?」
ティアは簡易調理台を出しながら、馬車の中にある簡易魔導キッチンのことを聞いた。
簡易魔導キッチンは1人であれば調理することが可能だが、馬車のため天井が低く、大きな鍋を使用したり、酒で香りづけするような料理に向かない。
「あの中は狭いからね。お茶を入れるぐらいならなんとかなるんだけど、この人数の食事を用意するのはめんどくさいんだよ。外で調理したほうが余裕を持ってできるんだ」
「まぁウチらには難しいだけで、あのキッチンを使いこなす人もおるけどな〜。揺れる馬車の中でクッキーを焼いて紅茶を入れれるんやで〜」
「それはすごいですね。それはお姉ちゃん達ではないんですか?」
「残念ながら違うな〜。ティアちゃんもそのうち会うと思うで〜。少なくとも王都では絶対に会うで〜」
「わかりました。楽しみにしておきます」
ティアの王都での目標が1つ増えた瞬間だった。
揺れる馬車の中のキッチンを使いこなせる人がいると聞いたので、その人を見たくなったらしい。
「……カコ、水と火……」
「は〜い。任せとき〜」
シュトに促されて大鍋に魔法で水を入れるカコ。
そのあとは簡易調理台に付いている火をつける場所に薪を入れ、魔法で火をつける。
「調理はシュトお姉ちゃんが担当なんですか?」
「せやで〜。ウチと姫さんは料理できへんねん。チャコは多少できるけど味付けが大雑把やから美味しくない時もあるんや〜」
「シュトは兄妹のために料理もしてるから美味しいんだよ」
「楽しみですね」
シュトは会話を気にせず野菜の皮を剥いたり、鶏肉を切り分けたりしていく。
クレアは魔力回復のためにのんびりと空を見上げ、カコは周囲の警戒、チャコはリッカが遠くへ行かないよう回り込みながらの追いかけっこをしている。
ティアはすることがないので、クレアの横に座って同じく空を見上げた。
いきなりの司書任命からメモリアが封印され、リッカを従魔にして、クレア達と出会い防衛戦に参加。
気づけばフェゴを出ていた。
そんなことを振り返っていそうな目だったが、実際はお腹が空きすぎてぼーっとしているだけだった。
お腹に手を当てて食事ができるのを待っているティアを横目に見ながら、シュトは調理を急ぐ。
と言っても煮込む必要があるので、早く出せるわけではない。
手早く別の料理を作ろうにも、材料を出してもらわないといけないので、結局はティアを見守るだけになった。
そうこうしているうちにシチューが出来上がり、ティアがお皿を出してシュトがよそう。
それを見たチャコは急いでリッカを捕まえて戻ってきた。
捕まえられたリッカは、外を思いっきり走れたので満足そうな顔をしていた。
「やっとご飯ニャ。リッカちゃんを追いかけてたらお腹空いたニャ」
「私もお腹が空きました」
「ティアちゃんはご飯を抜いてたから仕方ないニャ」
「そうそう。ゆっくり食べるんだよ」
「いきなり掻き込んだらお腹がびっくりするんやで〜」
「……ゆっくりで……いい……」
「はい!よく噛んで食べます!」
リッカを除いた全員に心配されながらの昼食は、穏やかにすぎていった。
ティアはお腹が空いてたせいでおかわりをした。
食後にリッカに魔力を食べさせると、満腹からくる眠気に負けて、ティアとリッカが寝てしまった。
寝た2人をチャコとシュトが馬車に運んでから、次の御者どうするか、クレアとカコが相談し始めた。
「姫さんここから先は1人じゃあかんと思うねんけど…」
「盗賊のこと?確かに、私だけだと危ないかな」
「じゃあ、いつも通り姫さんはチャコと組む?」
「そうしようかな。これから先も雪は深いから、しばらくは私が操車するよ」
「う〜ん。姫さん疲れてへん?大丈夫?」
「まだまだ大丈夫!まぁ今日の野営での警戒からは外して欲しいかもだけどね」
「そこはウチとシュトに任せてもええんちゃう?」
「要相談かな」
「せやね〜」
昼食後もクレアが操車することに決まった。
警戒のためにチャコを隣に置いて。
そのため野営時の不寝番からクレアを外すことになりそうなのだが、2人はティアの持つ異空間で寝れることを忘れていた。
どちらにせよ、不寝番は必要かもしれないが…。




