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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
山村と 爆裂王女と 冒険者
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Page 61「フェゴ防衛戦ー準備ー」

警鐘が鳴り響く中、冒険者組合の前には22人の冒険者とクレア達が集まり、組合長のリーフが冒険者に向かって立っている。

何故かリーフの横にティアが立っているが、司書の服を着ているため気にされていない。

たとえ子供だとしても、その服を着ている以上は司書の仕事ができると認識され、仕事ができるということは大人として扱うことになる。

たとえティアが司書になったばかりで、仕事をしたことがないとしても、それを知らない人にとっては同じことだった。


ただ、ティアの横に立つリッカについてはチラチラと視線が向けられている。

当のリッカは何故か腰に手を当てて偉そうになっているので、尚更注目を集めている。

ちなみにリッカは一生懸命威嚇しているつもりなのだが、その効果は微笑ましい程度だった。


「冒険者諸君!組合長のリーフから君達に強制依頼として防衛戦に参加してもらいたい!本来であれば君達は直接戦闘に参加しないはずだが、現在フェゴでは人手が足りない状況にある!そのため冒険者学校の生徒も参戦することとなった!」


冒険者達の視線が端の列に立って居るクレア達に注がれる。

その中にはクレア達に絡んで返り討ちにあった者もいるので、彼女達が自分より強いとわかり少し安堵している。

年上の冒険者としては情けないと思われそうだが、裏を返せば自分の実力を把握している結果と言える。

低ランク冒険者でも村人の手伝いや中型程度の獣を仕留めることができるため、フェゴのような小さな村では高ランク冒険者よりも好まれる。

例えそれが才能ある女の子に負けたとしてもだ。


「敵は白竜山脈からおよそ200!魔獣によって獣達が使役されている状況にある!布陣は単純に弓と魔法で遠距離から削り、接近されれば近距離で仕留めるだけだ!尚、魔獣は私とクレア達で担当する!」


リーフの宣言でより一層クレア達に視線が注がれるが、誰も文句は言わなかった。

この場にいる冒険者は、護衛依頼を受けることができない程度しかいない。

護衛依頼を受けることができた冒険者は、数日前に依頼を受けて王都や商業都市に向けて出発したばかりで、メモリアからフェゴに向かっている冒険者達も到着まで数日はかかる。


戦闘力で言えばリーフの次にクレア達になる。

また、ティアも祝福を使えばここにいる冒険者に勝つことはできなくても負けることはない。

それが例え結界で周囲を覆い閉じこもったとしてもだ。


「村の住人が避難でき次第、広場を結界で覆う!負傷した場合は即座に広場に戻り手当を受けるように!」


結界で覆うという発言の際に、ティアが緊張した表情を見せたが、気づいたのはクレア達だけだった。

ティアがリーフの横に居るのは、村人を守るために広場に結界を張るためで、冒険者達が山脈側に展開した後に貼る決まりになっている。

冒険者達は誰が結界を張るか知らないが、聞いても何もできないのでおとなしくリーフの言葉を聞いていた。


「それでは山脈側に移動開始!」


シーフの言葉で移動を開始する冒険者達。

その足取りは重く、諦めの表情を浮かべる者も居た。

ティアとリッカは移動せず広場に残り、冒険者達を見送った。

この場にいるのはティアとリッカにリーフとクレア達だけになった。


「ティア様。結界の件よろしくお願いします。クレア達も手早くな」

「わかりました」

「了解です」


リーフは一言だけ話すと冒険者の後を追った。

入れ替わりにクレア達が近づいてくる。


「ティアちゃん。本当に大丈夫?」

「大丈夫です。結界を張るだけですし、リッカちゃんやレインさんとゴルディアさん。ペンシィさんもいます」

「それはそうなんだけどね」

「ティアちゃん。クレアはここに居て怖くないのか聞いてるニャ」

「ちょっと怖いですけど、皆さんが守るって言ってくれたので信じています」

「む。それもそうニャ。しっかり守るから安心するニャ」


チャコがティアの頭をポンポンする。

クレアも対抗してか、頭を撫でる。


「まぁ私達なら大丈夫だから、くれぐれも気をつけてね」

「はい!」


名残惜しそうに手を離すクレア。

その横ではカコとシュトがリッカに話していた。


「ええか?何かあったら竜になってウチのところに伝えにくるんやで」

「わかったのじゃ!」

「……リッカはお留守番……」

「ティアを守るのじゃー!」

「……がんばれ……」

「うむー!」


カコとシュトもリッカの頭を撫でて、その後ティアの頭も撫でてからリーフの後を追って山脈側に入り口に向かっていった。

残されたティアは心配そうに、リッカは笑顔で送り出した。

その後入り口を塞ぐように結界を貼り、さらに広場を覆うように半円の結界を張った。

冒険者達が戻ってきた場合、一時的に入り口の結界を解除して広場前まで進ませ、再度入り口に結界を貼り終えてから広場の結界を変形させて迎え入れる手筈になっている。


「クレア達が心配?」

「そうですね。皆さん強いのはわかっているのですが、30人も居ないのに200の敵を相手にするんですよ?」


いきなり現れたペンシィからの問いかけにティアは答える。

ティアが見たクレア達の戦闘は異空間での模擬戦のみ。

それだけでは実力の全てを把握出ていないため、単純に数の差が不安につながっている。


「まぁそうだよね。いざって時はアタシが出るつもりだから、ティアちゃんは結界のことだけ考えていればいいよ」

「はい。お願いしますねペンシィさん」

「任された。リッカちゃんもティアちゃんをよろしくねー」

「うむー。任せるのじゃー」

「とりあえずレインとゴルディアはまだ出さないでね。危険が迫れば出していいから」

「わかりました」


ペンシィは言葉の通りいざという時は出る気でいたが、そのいざはティアに危険が及んだ時である。

つまり、クレア達が負けた後の話だったが、ティアはクレア達がピンチになればペンシィが出ると思っている。

ペンシィにとってはティアが第一だが、ティアにとってはみんな大事なのでそう認識している。

ペンシィはティアの想いに気づいているので、ティアが願えばクレア達を助けるつもりだが、自分からクレア達を助けるつもりはない。

それに、ピンチになれば自分より先にレインとゴルディアを向かわせることにしている。

あくまでティアが最優先なのだ。

また、レインとゴルディアを出さないのは、ぬいぐるみが動き回る姿を見せないためだった。

常にティアの周りに出しておけば問題なかったかもしれないが、戦闘中にいきなり現れた場合敵と認識されるかもしれない。

それは、先ほどのリーフの横に立っていた時に出していても、慣れていない冒険者から見れば同じことになる。

相談の結果リーフから出さないように言われたので、今は出していない。


「じゃあ結界張っちゃおうか」

「はい」

「のじゃー」

「リッカちゃん。食べちゃダメですよ?」

「うむー。お腹が空いたら言うのじゃー」


ペンシィに促され結界を張るティア。

貼られた結界をじっと見つめるリッカに、ティアが注意を促す。

このままだとリッカは、結界に齧り付きそうだった。


ティア達がそんなやりとりをしている間、山脈側入り口では冒険者達の配置が終わったところだった。

弓や魔法を使う者が前衛に立ち、そのすぐ後ろに剣や斧を持った者が待機している。

リーフの作戦通り、初手は遠距離で魔法と弓を使って数を減らすためである。


「結界が張られたみたいやね〜」


カコが結界をノックしながら話す。

魔力の流れを感知したので張られたことがわかったので、それを周知するため声に出している。

ノックはそれを視覚的に見せるためだった。


「ふむ。準備は良さそうだな。ではカコも持ち場に戻ってくれ」

「は〜い。ほな姫さんにチャコもがんばってな〜」

「そっちこそシュトと一緒にがんばってね」

「シュトは大丈夫だけどカコは調子に乗ったらダメニャ!」

「いざって時はチャコが止めてな〜」

「今回の数はいざってほどでもないニャ。いつも通りやればいいニャ」

「せやな〜。じゃ!また後でな〜!」


カコは最前列の中央に向けて走っていった。

弓を構えたシュトの横である。

今回の戦闘に参加する魔法使いはカコを入れて3人。

弓はシュトを入れて5人と少なく、できるだけ序盤で削りたいところではあるが、厳しい状況だった。


クレア達がカコ達遠距離部隊のやや後ろに立った所で、遠くの山に動く点が見え始めた。

魔獣に統制された獣達が見える位置に到達した。


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