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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
山村と 爆裂王女と 冒険者
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Page60「移動許可と移動方法」

干し肉を買い占めたカコ達は、それをティアに預けると昼食のために冒険者組合に併設された酒場に向かう。

ちなみに、スライスされた干し肉を食べていたティアと、スライスされる元となった干し肉の塊を食べていたリッカだが、食べ終わるのはほぼ同時だった。


「リッカちゃんは凄いですね。あの硬い干し肉を塊のまま食べれるなんて」

「リッカはすごいのじゃー!」


ベッドの上で立ち上がり、バランスを崩して倒れるリッカ。

ティアはリッカを起こして座らせる。

今は干し肉を買いに行ったカコと、自分の買い物をしているチャコを待っていた。

2人が戻ってくると昼食に行く予定である。


ティアが食べた干し肉の量は少ないので昼食に影響はないが、リッカは塊で食べたためもしかしたら食べきれないかもしれない。

そんなことをクレアとシュトが考えていると、扉からノックの音が響いた。


「どちら様でしょうか?」


チャコカコであればノックをすることなく入ってくる。

その他にクレア達と話すのは組合長のリーフしか居ない。

もちろん、他の冒険者や店を構えている人の可能性もあるが、その可能性は圧倒的に低い。


「リーフだ。今時間はあるか?」

「大丈夫ですので入ってきてください。」


ノックをしたのは組合長のリーフだった。

そもそも冒険者学校の一環で来ているクレア達なので、依頼はリーフ経由でしか受けられず、他の冒険者との接点といえば絡まれる程度である。

そのため尋ねられることがあるとすれば謝罪しかないが、今は全て清算済みのため問題ない。


「失礼する。チャコとカコは何処かに行っているのか?」

「はい。買い物に出ています」

「そうか。では、これをクレアに渡そう」


リーフは手に持っていた手紙をクレアに渡した。

クレアは手紙に書かれている宛名を確認すると納得したように頷いた。

その様子をティアは首を傾げ、リッカは大きく口を開けてあくびをしながら、シュトはボンヤリとしながら見ていた。


「移動許可が降りたということですね」

「そうだ。ルートは【商業都市クロステル】を通ること。また、クロステルの組承認組合の組合長とティア様を会わせることが必須だ」

「途中の村には寄らなくてもいいのでしょうか?」

「問題ない。途中の村には準司書の部下しかいないのでリンクをつなぐ必要はないからな。では、出発の日取りが決まれば教えてくれ。くれぐれも忘れないように」

「承知しました」


リーフはティアとリッカの頭を撫でてから部屋を出て行った。

撫でられた2人は少し驚いていたが、撫で方が良かったのでフニャッとした笑顔になっていた。

エルフ族のリーフは伊達に長く生きていない。

ただし、目つきが鋭いため子供に避けられるので、撫で方は犬や猫を撫でて覚えたという寂しい過去がある。

もちろん最初は犬猫にも威嚇されていた。


「ただいまニャ」

「ただいま〜」

「おかえり」

「おかえりなさい」

「のじゃ〜」

「……おかえり……」


リーフが出て行ってすぐにチャコとカコが帰ってきた。

リーフとは廊下ですれ違ったはずだが、移動許可について言われなかったのか、普段通りだった。

チャコは荷物運びで疲れていたが。


「2人のやり取りは聞こえていたよ」

「カコが無理矢理持たせて来たニャ…」

「ウチより力持ちやから仕方ないやん」

「魔法で浮かせればいいニャ!」

「何があるかわからんねんもん。魔力は温存しときたいやん」

「私だって疲れるニャ!」

「はいはい。2人共ストップ!」


チャコとカコの間に入るクレア。

このやり取りは仲が悪いわけではなくいつものことであるためシュトは気にしていない。

だが、ティアはハラハラと落ち着きがなく喧嘩しているように見えた2人を交互に見ていたし、リッカは大きな声を出すチャコを警戒していた。


「とりあえずティアちゃんに買ってきたものを渡して異空間に入れてもらってよ。ティアちゃん大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「これは布と糸だから時間が止まる方じゃなくて大丈夫ニャ」

「これは干し肉だから時間が止まるほうやね〜」

「わかりました」


ティアは、チャコからカゴに入った布と糸玉を受け取り収納し、チャコが指で指し示す床に置いた箱に近づいて収納する。


「じゃあ準備ができたことだし、明日出発でいいかな?」

「……いいよ……」

「私はいつでも大丈夫です」

「のじゃ〜」

「どこかに行くニャ?」

「異空間で山登りとか?」


リーフとすれ違った時に移動許可の話をしていないので、時間を潰すための観光だと思っているチャコとカコ。

チャコは周辺にある見れるとこを頭の中で思い浮かべるも、今はないメモリアぐらいしか思いつかなかった。

カコは模擬戦をした異空間に湖や森、遠くには山もあったことから、そこに行くのかと考えていた。


「馬車でクロステルを経由して王都までかな」


クレアはリーフからの移動許可について話さず、移動方法と目的地を話した。

帰って早々言い合いをしていた2人に対する罰でもあった。

2人にはすぐ話すつもりだったにも関わらず、言い合いでタイミングがなくなったので、ある意味自業自得である。


「馬車でクロステル経由の王都までニャ?」

「移動許可出たん?」

「そうよ」

「なんですぐに言ってくれなかったニャ?」

「2人が言い合いしてたからよ」

「う…。それを言われるとなんも言われへんわ…」


2人が反省して大人しくなったことでようやく話を進めることができるようになった。


「あの、明日出発はわかるのですが、馬車の準備はいつ行うのですか?いきなり乗れるものなのですか?」

「あぁ。私達には自前の馬車があるから、いつでも出発できるんだよ」

「みんな動かせるニャ」

「馬車も8人乗りやから余裕あるしな〜」

「……問題ない……」


クレアは冒険者学校に通っているとはいえ一国の王女である。

移動は馬車で護衛付きが当たり前の生活だったのだが、護衛は振り切ったため馬車だけになっている。

それでも数人の護衛は潜んでいるが、感覚の鋭い獣人であるチャコ以外は気づいていない。

また、担当している護衛はチャコの知る人物なので警戒もしていない。


「私、馬車に乗るのは初めてです!」

「リッカもなのじゃー!」


メモリアは食糧生産を異空間で行なっているため、施設が全て屋内にある。

なので、移動時に馬に乗ることがあっても、馬車に乗ることはない。

リッカは竜だったのでもちろん乗ったことはない。

ちなみに馬車を襲ったこともないので、馬車が何かもわかっていない。


「そうなんだ。じゃあ昼食の後に見に行こうか」

「いいんですか?!」

「大丈夫だよ」

「リッカも!リッカも行くのじゃー!」

「……もちろん……」

「ウチは今度こそ組合長に出発のことを言いに行くわ〜。で、その後は昼寝しとくな〜」

「私は馬の様子を見に行くニャ」


昼食を取った後にカコ以外は馬車を見に行くことになった。

カコはリーフにちゃんと伝えることで、失敗を乗り越えようと思っているのかもしれない。

決して昼寝をしたいから言い出したわけではない。


「じゃあお昼を食べに行こうか」


クレアの言葉に各々返事をして昼食を食べに向かう。

野菜スープとパンとチーズだったのでリッカが肉を欲しがった。

それに対してシュトが自腹でスノーラビットのステーキを購入して食べさせた。

リッカのお腹からすると、干し肉を食べていても関係ないようだ。


食事を終えた後はカコが冒険者組合に戻り、残りのメンバーは道沿いに北上して行く。

村の入り口付近に馬車留めがあり、馬の世話も任せているのだ。

しかし、馬車留めに向かっていたが、村に響き渡るように鐘の音が鳴り響いたため、足を止めた。


「何の音でしょうか?」

「頭に響くのじゃ〜」

「これは警鐘だよ!」

「村に獣や魔獣なんかが迫ってきている時に鳴らすものニャ!」

「……カコと合流……」


シュトは言いながらリッカを抱え、それを見たチャコがティアを抱き上げて来た道を戻る。

クレアは周囲を見回しながら人の少ない道を選んで先導して行く。


すぐに組合までたどり着き、カコもそこに居た。

加えてリーフや他の冒険者もいたのだが、リーフは浮かない顔をしている。


「どうされましたか?」

「うむ。冒険者の大半が護衛で王都に向かっていたり、メモリアから戻って来ている最中なので圧倒的に手が足りないのだ。君達にも防衛に出てもらう必要がある」

「わかりました。お任せください」


クレアが代表で答える。

リッカはワクワクした表情だったが、ティアは不安そうな顔でクレアを見る。

それを見てクレアはウィンクしながら答える。


「大丈夫だよ。ティアちゃん達のことは私たちが全力で守るからね」


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