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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
山村と 爆裂王女と 冒険者
56/106

Page56「組合長からのお願い」

冒険者組合と承認組合。

フェゴの村にある2つの組合の長を兼務しているエルフの女性が主人の部屋に、ティアとクレア一行は居る。

異空間での組手を終え異空間から出ると、元の寝泊まりに使っているベッドのある部屋ではなく、書類が積まれて執務机と応接室のようなソファセットがある組合長室だった。


「さて、カコ・キンクウ。何か言うことはあるか?」


2つあるソファの片方に薄い緑色の髪をベリーショートに整えたエルフの女性が座り、ソファの横で正座しているカコに対して、切れ長の緑の瞳で睨みつけながら話し始めた。


「えっと…あの……その……」


睨まれたカコは狐耳をペタンと下げて組合長と目を合わせないように俯いている。

戻ったら組合長室で、組合長と目が合った瞬間に約束を思い出したのだ。

そして、流れるようにソファの横に正座した。


組合長の仕事は比較的少ない朝食後に行うはずだったが、お風呂と組手のインパクトで忘れてしまっていた。

お風呂にも原因があるためクレア達も同罪だ。

それをわかっているクレア達はソファに座っているが、カコと同じように俯き、チャコに至っては猫耳を下げている。


「ふむ。勘違いしているようだが私は別に怒っていないぞ」

「そうなのニャ?」


組合長の声にピクリと右耳を上げ、恐る恐る視線を合わして…また俯いた。

怒ってないと言ってもその目つきは鋭いのだ。


「何も告げず居なくなったので心配しただけだ」

「う…ごめんなさい…」

「ふぅ…今後は予定が変わったら連絡することだ」

「はい…」

「うむ。では、座りたまえ。ティア様もどうぞ」


組合長に促されてカコがソファに座る。

3人がけのソファに細身の女の子が4人座っているのでティアとリッカの場所がない。

それに気づいた組合長が動こうとしたところ、それよりも早くチャコとシュトがティアとリッカを捕まえるため動いた。

チャコは姿勢を低く、這うようにしてティアの元へ。

シュトは床を勢いよく踏みつけ、座った体制のまま宙返りをしてソファの後ろに回り、リッカの元へ。


組合長とカコのやり取りに固まっていたティアと、ティアの服を掴んであくび混じりにボーッとしていたリッカは、なすすべもなく2人に抱きかかえらた。

ティアは無意識にチャコの首に腕を回して抱きついてしまう。

組合長が怖いのかもしれない。

リッカはというと両脇に手を入れられて掲げられているが、特に気にした様子もなくボーッとしている。

眠いのだろうか。


ソファに戻ったチャコとシュトの膝上に、ティアとリッカを座らせると組合長が話し始めた。


「まずは自己紹介からだ。私はフェゴの冒険者組合と商人組合。2つの組合長兼任しているリーフだ。種族はエルフで、年齢は256歳だ。よろしくお願いする」

「えっと…ティア・メモリアです。6歳です。この子は精霊竜のリッカちゃんです。4歳です。よろしくお願いします」


組合長のリーフに合わせてティアも年齢を言った。

それを聞いたリーフは苦笑しなている。


「あー…私は種族柄年齢を話すようにしているだけなので、君たちは年齢を言う必要はなかったぞ」

「そうなのですか?」

「あぁ。エルフは長寿でな。年齢も言わないと小娘扱いされてしまうのだ」

「なるほどー」


ティアはリーフをまじまじと見る。

リーフの外見は、人間の20代前半程度で、クレア達と並べば少し年上のお姉さんに見えなくもない。

耳からエルフということはわかるが、年齢を言われなければ小娘扱いされるかどうかは、人生経験の少ないティアにはわからなかった。

下手に何かを言って睨まれると、動けなくなりそうなほど鋭い目つきで、纏っている雰囲気も鋭い。

怒ってないと言われながらも目が合ったティアは、実際に動けなくなった。

そんな人が小娘扱いされているところが想像できなかった。


ティアの認識はもっともだが、目付きはともかく身に纏った雰囲気は組合長になってから得たもので、冒険者として活躍していた時期は小娘扱いされ続けていた。

年齢を言っても実力を示すまで小娘扱いされることもあり、最終的には睨んで黙らせるほどになった。

それでも、初対面では年齢を伝えることで、女性や常識的な人からは肯定的に捉えられるので続けている。


「話を続けよう。と言ってもこちらからはクリスティーナ様から依頼を受けてもらうだけだ」

「お祖母様からですか?」

「そうだ。内容は簡単だ。これから立ち寄る町や村にも準司書は居る。私を含め各準司書とリンクを繋いで欲しいのだ。そして、ティア様の異空間を使って物の受け渡しを行いたい」

「えっと…皆さんはお祖母様の異空間を使っているのですよね?」

「そうだな。だが、メモリアが封印された影響か、物の出し入れに使う魔力が大幅に増えて支障が出ているのだ」

「支障ですか?」

「そうだ。具体的には大きなものと、大量にあるものが取り出しづらくてな。クリスティーナ様自身も封印されたメモリアの中に居るからだと予想されている」

「よく…わかりません」


眉間にしわを寄せて首をかしげるティアにカコが助言する。

魔力のことはわかるが、封印がよくわかっていないので、カコ以外は全員同じ表情をしていた。

魔法や魔術に長けたカコだけがリーフの説明を理解できていたため、説明するのもカコになった。


ちなみにリーフはあまり魔法は得意ではないので、クリスティーナから送られてきたメッセージ通りに説明しただけだった。

魔法が使えないわけではなく、魔法で戦うよりも剣で戦う方が楽しいということで近接戦闘を好んでいる変わり者なのである。


「リーフさん達は自分の魔力と、ティアちゃんのお婆ちゃんの魔力を使って仕事するやろ?」

「お祖母様の魔力を渡すのは知っていますが、自分の魔力も使うのですか?」

「使うぞ」

「司書の魔力を分け与えると聞いていたので、お祖母様の魔力だけかと思っていました」

「それだとクリスティーナ様の負荷が高くなるからな」

「それもそうですね」


ティアが受けた説明は、準司書に魔力を分けるというものだったので、準司書本人が魔力を使うとは思っていなかった。

使い方としては、上司である司書の魔力を準司書の魔力でカサ増しするイメージである。


「話を戻すよ。今、ティアちゃんのお婆ちゃんは封印されたメモリアの中におるよね?」

「そうですね」

「そうなると、司書は封印された所から魔力を持ってきたり、封印された所で物の出し入れを行なうようになるから、魔力消費が大きくなってるんやと思うよ。合ってますか?」

「うむ。クリスティーナ様の予想ではな」

「なるほど。そこで、封印されていない私が作った異空間を使うことで、今まで通りの運用をお行いたいということですか?」

「その通りだ。ひとまずはマーブルに向かう途中にある村や街だけでいいそうだ。マーブル全体はマリアリーゼ様が統括されるらしい」


ティアの母親であるマリアリーゼが、マーブル王国周辺や、ティアの進行上にない村を周り、リンクを繋ぐ。

ティアがマリアリーゼとリンクを繋げば、それぞれを経由して物資を渡せることになる。


「お母様がですか…。わかりました。お受けします。ですが、お祖母様から直接メッセージが来ない理由が気になります。何かあったのですか?」

「何かが起きたというわけではない。メッセージを送る際の魔力消費も増えたので、業務メッセージ以外を送る余裕がないらしい」

「そうですか。よかったです」


クリスの無事を聞いてホッと一息ついたティア。

その頭をチャコが無言で撫でる。


「では、最後だ。個人カードを出してくれ。冒険者登録と商人登録をしておく。これで、組合の出入りがしやすくなるだろう」

「わかりました。……どうぞ」


座った状態でホルダーからカードを取り出すのに苦戦したティア。

膝の上でティアのお尻が踊るのを見ていたチャコはニヤニヤしていて、それを横で見ていたクレアとカコもニヤニヤしている。


カードを受け取ったリーフは、机の上にある黒い箱の中にカードを入れて、表面に出てきた魔術陣に手を当てた。

しばらくすると箱が開く。

中からカードを取り出したリーフがソファに戻り、ティアにカードを返す。

カードを見ると冒険者と商人が追加されていた。


【ティア・メモリア 6歳 職業:メモリアの司書 閲覧ランク:10 冒険者ランク:特1 商人ランク:特1】


「ランクの所に書かれている「特」はなんですか?」

「特別って意味だ。それを受付で提示すれば、組合長にすぐ会えるようになってるんだ」

「なるほど。わかりました」

「あぁ。では、頼んだよ」

「はい。頑張ります!」

「では、失礼します」

「お疲れ様ニャー」

「お疲れ様です〜」

「……失礼します……」


ティア達は組合長室を後にして部屋に戻る。

リッカが何も言わなかったのは、自己紹介を終えた段階で寝ていたからで、今はシュトに抱えられている。

やはり眠かったようだ。


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