Page51「精霊ズの紹介と今後」
ウィンクを決めたペンシィは固まる4人を無視して話しだす。
「ティアちゃんどう?この人たちが護衛で大丈夫?」
「えっと、一緒にいて楽しいので大丈夫だと思います」
「ふむふむ。ティアちゃんもリッカちゃんも懐いてるから問題ないかなー。後は実力だねー」
「実力ですか?」
「そうそう。別にレインとゴルディアでもいいんだけど、もうちょっと数は欲しいからね。後で実力を見るよ」
「わかりました」
「のじゃー」
ティアがペンシィと話しているとクレア達が動き出した。
と言ってもお湯に戻っただけだが。
「マリアリーゼさんのノートンと同じメモリアの精霊だよ」
「いきなりでびっくりしたニャ…」
「そういやマリアリーゼさんも、異空間は司書の魔力で自由に作れるって言うてたな〜」
「……納得……」
お湯に浸かった4人は顔を付き合わせてボソボソと話している。
それを聞いたペンシィは会話に混ざる。
「本の中から聞いてたけどマーブルのお姫様なんだって?だからマリアちゃんとノートンのこと知ってるんだね」
「マリアちゃん?!」
「さすが司書の精霊ニャ!マリアーゼさんを愛称で呼ぶニャんて…」
クレア達にとって、いろいろ教えてくれるマリアーゼは尊敬する大人だ。
それを子供扱いするようなペンシィに対して驚くのも無理はないが、精霊には寿命がないのですぐ納得する。
要はおばちゃん扱いである。
「んで、私達の実力を見るんやろ?どうやって見るつもりなん?」
「んー?冒険者なんでしょ?獣でも狩ってもらって、それを見ようと思うんだけど、どう?」
「私達は冒険者学校の生徒なので組合の依頼を受けることはできません。今回はフェドまで遠征し、野宿等を経験する実地訓練で来ています」
「そういえば冒険者学校の生徒って言ってたねー。じゃあ、明日組手してもらおうかな!」
ペンシィはレインとゴルディアを使って4人の実力を見るつもりである。
精霊になったぬいぐるみの体の元勇者と元魔王である。
少なくとも12歳の少女達には負けないと思っているのだろう。
「あの、冒険者学校っていうのは何ですか?冒険者の技術を学ぶ所ですか?」
「ん?大体そうだよー。子供がいきなり冒険者になっても、技術とか無くてすぐに死んじゃうかもしれないでしょ?だから、基本的なことを教えてくれる学校だねー」
「なるほど。クレアお姉ちゃんは特別クラスでしたが、それはどういう場所ですか?」
「どういう場所なの?」
ティアが冒険者学校について質問しペンシィが答えたが、特別クラスについては知らなかったようなのでクレア達に丸投げした。
「組手の後にお教えします」
「手の内を晒す真似はしないのニャ!」
「てか、本で調べたら出てくるんとちゃうの?」
「……すぐ出る…はず……」
クレア達は教えてくれなかった。
ちなみにクレアはよそ行きモードになっている。
ペンシィとは初対面なので。
「調べたら出るけどさー。本って知りたい情報以外も出てくるから調べるのに時間がかかるんだよねー。後は君たちが知らない情報も出てきて、話したら齟齬が出たりもするし。だから、先に当事者から聞いとけば言わなくていいことがわかるから楽なんだよ」
「ペンシィさんの言い分はわかりました。ですが、組手が終わってからというのは変わりません」
「はーい。じゃあ組手が終わってから説明してねー」
「わかりました」
ペンシィはめんどくさがりなので調べたくないのもあるが、言ってることも本気である。
下手に本の情報で話すと、秘匿されている事を言ってしまう場合がある。
例えば、今は教育施設だが昔は洗脳して戦場に送り出すための収容施設だったり、政略結婚時の情勢から読み取れる互いの駆け引きの内容だったりする。
メモリアは情報の収集と開示を行うための組織なので、不用意な情報漏洩は行わないよう気をつける必要がある。
そして、特別クラスについては分かっていないペンシィだが、クレア達4人の能力については大体把握している。
メモリアの司書は本に物を入れる事で分析する。
つまり、クレア達はお風呂に入りに来た時点で、ある程度の身体能力や魔力量、装備品等を分析されているのだ。
なのでペンシィはクレア達の大体の実力を把握している。
組手はティアに実力を見せるためと、レインとゴルディアの2人とクレア達が共闘できるか確かめるためである。
「じゃあお風呂出たら家の前まで行ってね。組手相手が待ってるから、顔合わせしといてねー。だからと言っても焦らなくていいよ」
「はい。よろしくお願いします」
話終わったペンシィは、湖の上に出現した屋敷に飛んで行った。
今はまだ屋敷しか作っていないので、中に家具を作るつもりである。
目的はもちろん移動中の拠点にするためだ。
「はぁ〜。遠征先でまで組手なんて…ぶくぶくぶくぶく…」
「護衛の実力を把握したくなるのも仕方ないニャ」
「せやな〜。ウチらなんてペンシィさんから見たら小娘もええところやからな〜」
「……頑張る……」
クレアは王族で冒険者を目指しているので、家にいる時は毎日組手をしている。
他のメンバーもクレアとパーティを組むようになってからは参加させられているが…。
「ねぇティアちゃん。組手の相手ってどんな人?紹介するってことはペンシィさんじゃないんだよね?」
「多分ですけど、レインさんとゴルディアさんですね」
「ふーん。勇者と魔王と名前は同じだね。でも、相手の詳細を聞くのはフェアじゃないからこれ以上は聞かないでいいかな?」
「いいニャ」
「同じく〜」
「……いい……」
冒険者を目指しているのに騎士道精神で正々堂々である。
冒険者であれば相手の情報を聞き出し、勝つための全力を出すべきである。
騎士でも同じことだが、大規模な組手の場合当日に相手が決まることもある。
そのため、クレアは詳細を聞かなかったのである。相手が元勇者と元魔王だとは思っていないので。
「じゃあ、そろそろ上がろうか。リッカちゃんも寝そうだし」
「わかったニャ」
「はぁ〜。久々のお風呂は気持ちよかったわ〜」
「……うん……」
「わかりました。タオルは服を脱いだところにあります」
「のじゃ…」
リッカと手を繋いだシュトを先頭に続々と上がり、タオルで体を拭いていく。
もちろんリッカはシュトに拭かれ、ティアはクレアとチャコに拭かれた。
カコは水球を浮かべて、いつでも水を飲めるようにしながら、手から温風を出して髪を乾かしている。
カコの戦闘方法は魔法なので、日常的にも便利に魔法を使い訓練している。
ティアはクレア達に拭かれながらカコの魔法をじっと見ていた。
「着替えは…あれ?綺麗になってる…」
「ペンシィさんがやってくれたのだと思います。私の服もやってくれるので」
「なるほどニャ。着替えを持ってきてなかったから、タオルを巻いて服を取りに行くところだったニャ」
クレア達が脱いだ服は、ペンシィにより洗浄と乾燥をされているため、再度着れる状態だった。
なのでカコに髪を乾かしてもらってから服を着た。
その時にティアは魔法を教えてもらおうと思ったが、温風の気持ちよさに意識を持っていかれ言えなかった。
『よぉ。待ってたぜ』
お風呂を出て家の前に行くとレインとゴルディアが待っていた。
クレア達はぬいぐるみが動いたことと念話に驚き固まっている。
全員ペンシィが見えたので、レイン達の声も聞こえている。
『お前達が組手の相手か。明日はよろしく頼む。ゴルディアだ』
「どう見てもパオパオのぬいぐるみニャ」
『俺はレインだ!』
「どう見てもパカパカのぬいぐるみやな〜」
「「『『………』』」」
ゴルディアとレインが名乗るが、チャコとカコに外見を突っ込まれ固まる。
「ティアちゃん説明してくれる?」
「わかりました」
そこから司書になった経緯、メモリアが封印されたこと、レインとゴルディアの正体、王都マーブルを目指す理由など、クレア達と出会う間のことを話した。
話の途中でティアのポケットに入っていた手帳からたくさんの精霊が出てきたが、クレア達に驚くことなく周囲を飛び回っていた。
精霊達もクレア達を認めたようだ。
リッカは眠気が限界に達したのかシュトの腕の中で寝ている。
「冒険者組合では黒い波って呼ばれてるあれが魔王の攻撃だったとは…」
「昨日、組合から波の調査を中止して様子を見ることなったのはティアちゃんの報告のおかげニャ」
「結局は様子見しかできへんけどな〜」
「……寝よう……」
ティアの話を聞いたクレア達は納得し話し始めたがシュトが遮る。
ティアが眠い目をこすっていたからだ。
抱えているリッカも小さな寝息をたてているので早くベッドに行きたいようだ。
「では、組合の部屋に戻りましょう」
「というわけで明日はよろしくニャ!」
『おう!任せろ!』
『ティアを頼む』
「任せてください」
クレアはレインとゴルディアにもよそ行きモードだった。
眠気に負けそうなティアが本を出し、全員が組合の部屋に戻る。
ティアとリッカは空いているベッドに横になって即座に眠ったが、クレア達は話し出す。
話の内容は元勇者と元魔王とどうやって戦うかだったが、カコは忘れている。
組合長と会う約束をしていたことを。




