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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
旅立ちと 封印都市と 勇者と魔王
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Page 5 「ティアと精霊」

魔法陣の光が収まると、直径10m程の円状になった舞台に立っていた。

篝火などの明かりはないが、壁や床自体が薄っすらと光っている。

目の前には下に降りる階段、舞台の周囲にはティアの身長程の小さな柱が立っていて、剣、盾、槍、弓、杖、包丁、ハンマー、ナックルガードとグリーブ、ロザリオ、鞭、チャクラム、本と羽根ペンを模した石細工が置いてあった。

足元には先ほど光っていた魔法陣が残っていたが、黒くなっていた。


「お祖母様、ここはどこなのでしょうか?」

「ここはメモリア様が祀られている祭壇への道だよ。メモリア様が管理している異空間の一つだね。異空間は本を通して繋がる別空間だよ。地上からは行けないんだ」

「異空間ですか。他にもあるのでしょうか?」

「司書ごとに倉庫があるし、共有の素材を入れる倉庫や、表の図書館や博物館に出せないものを保管している倉庫、他にも色々な異空間あるけど、アクセスは精霊に任せないと無理だよ。ちなみにここは私と一緒じゃないと来れないからね」


メモリアには、外部から訪れた人の為に情報を開示する図書館や、収集した情報や物を展示する博物館等、情報が得られる施設がある。

そこで得られる情報は一般公開されても問題がない程度の情報しかなく、それ以上の情報を得るには、メモリアに情報や物品を渡し貢献度を上げるか、個人で司書との関係を結ばなくてはならない。

ティアの家族は、個人で関係を結んで各国や施設の代表付きになり、その国での情報を得る反面、メモリアにある情報を渡している。


「それでは周囲の柱の上にあるのは何を表しているのでしょうか?」


石細工が気になるティア。


「あれはメモリア様とその友人が使っていた武器を模しているんだよ。メモリア様は本と羽根ペンだね」

「本と羽根ペンで戦えるのですか?」

「戦えるよ。私も本と羽根ペン主体で戦ってるんだ」

「戦い方がよくわからないのですが、お祖母様が戦えると仰しゃるのであれば問題ないのでしょう。ペンシィさんに教えていただけばいいのでしょうか?」


これまでのやりとりで、詳細はペンシィに聞くように言われると予想したティア。


「あぁ、ペンシィに教えてもらいな。何でもかんでもペンシィに丸投げしてるように感じるだろうけど、教えるのも契約精霊の仕事だからね。私が契約した時も精霊に色々教えてもらったさ」

「わかりました。ペンシィさんに教えていただくことがどんどん増えてきますね」


ティアは微笑みながらペンシィを見た。

ペンシィは杖の石細工を触っていた。


「ん〜?戦い方とかは元から教えるつもりだったし、整理仕事じゃないならどれだけ増えても大丈夫!」

「そんなに整理が嫌なのですか?」

「楽しくない!あれを楽しく感じる人はおかしいと思うね!」


杖から離れ、ティアの前で胸を張って言い放つ。

司書見習いの仕事として整理を行っていたティアには、ペンシィの主張がよくわからなかった。


「整理しないとどこに何があるかわからなくなりませんか?」

「本とか一度読めば覚えるし、使うものは念じれば出せるから整理する必要なかったんだけど、みんなが使うものも整理してなくて怒られたのよ…」

「自業自得だね。ペンシィのせいで必要な情報が得られないことがあってね。それをメモリア様に相談したら整理の仕事が割り振られたらしいよ」

「うぅ〜。整理してなかったアタシが悪いのはわかってるんだけど、他の精霊の分まで整理しないといけなくなったのはいまだに納得できない!」


プンスカと怒るペンシィを尻目に階段を降りるティアとクリス。

ペンシィは慌てて付いていく。


しばらくすると小さな広間に出た。

広間は4m四方で、先程までと同じように薄っすらと光っているため明かりはなく、正面に無骨な扉があるだけだった。

クリスは扉の前まで進むと振り返り、ティアに問いかけた。


「さて、ティアにはメモリア様が主精霊だと言うことしか教えていなかったけど、ティアの事だから一般開放区画で色々調べたんだろう?」

「はい、調べました。ですが、主精霊についてはこの世界を構成する《火、水、風、土、光、闇》の6属性しか見つからず、メモリア様の《記憶と記録》については見つかりませんでした」

「そうだろうね。私たちは《メモリアという都市にある図書館や博物館を管理する司書で、血統による固有魔法を使って情報収集する集まり》っていう認識をされてるのさ」

「メモリア様が主精霊だと言うことは知られていないのですか?」

「昔は知られていたけど事情があって隠すようになったんだ」

「事情ですか?」

「それについてはメモリア様が教えてくれるさ。さて、次は主精霊についてだ。原初の主精霊はティアの言った通り6属性だけど、精霊を統べる王、つまり精霊王だね。色々な条件があるけど、精霊王に任命されると主精霊になるんだ」

「なるほど、メモリア様は精霊王に任命されて主精霊になったのですか…他にも主精霊がいるのですか?」

「メモリア様が主精霊になった時点では原初の主精霊だけだったらしい。それから新たな主精霊に遭遇したって情報はないね」

「そうなのですか...見つかっていないだけでいるかもしれないのですね」

「メモリア様が主精霊になってから800年経ってるからね。可能性はあるよ」

「800年も前なのですか…ペンシィさんは800年前からいらっしゃるのですか?」

「そだよ〜。メモリア様とはずっと一緒だね。ちなみにアタシは主精霊に従う上位精霊で、精霊樹には下位精霊と微精霊が居たんだよ。その違いはわかる?」

「上位精霊は会話ができて人と共存することができる精霊。下位精霊は言葉はわかるけど会話はできなくて、契約することで使役できるようになる精霊。微精霊は物に宿る精霊で、契約がなくても魔力があれば使役できる精霊ですよね?」

「さすがティアちゃん!よく調べてるね!その認識でいいよ!」


ティアはペンシィに褒められたことで、少し顔を赤くした。

クリスはティアを見つめながら、本を取り出した。


「さぁそろそろ行こうか。ティア、本を出しな」

「わかりました。そういえば、この本に名前はないのですか?」

「司書の書とかメモリアの書って言われてるけど、名前はないよ」


タイトルが無いことが気になっていたティアは、本を出しながら聞いた。その目は表紙に注がれており、タイトルが無いことを確認するとクリスの本に目を向けた。

契約後もタイトルが無いのは変わらず、クリスの本も同様だった。


「せっかくの本なのにタイトルが無いなんて…」


ぷるぷるし始めたティア。

このままでは長くなると感じたクリスは話を逸らすことにした。


「メモリア様に会う時は本と契約精霊を出す決まりだから私の契約精霊を出すよ。出てきなレイズ」


契約精霊の名前を呼ぶとクリスの前に光が集まり、精霊が現れた。

青色の肩まである髪、薄藍色の瞳でツンとした雰囲気が漂う顔立ち。ペンシィとは異なり胸が大きい。クリスと同じ薄紫色のワンポイントが施された司書の服。ロングスカートではなくスラックス、つま先の尖ったパンプスを履いていて、できる秘書のような雰囲気を醸し出している。


「クリス様、メモリアを訪れていた方々の退去が完了いたしました。現在メモリア内には関係者のみとなっております」


クリスに呼び出されたレイズは、一礼と共に報告した。

頼んでいた仕事の報告を受けたクリスは、場所を選ばず報告したことに呆れていた。


「報告はありがたいんだけど、周りを見てほしいね」

「え!?あ!申し訳ございません!」


言われたレイズは周囲を見渡しティアとペンシィに気づき、ペコペコ頭を下げだした。

ティアはレイズを見て微笑み、ペンシィは笑っている。


「あはははは!!レイズは相変わらず残念ね!!」

「ふふっ…お祖母様の精霊さんも楽しそうな方ですね」

「な!?残念じゃないです!タイミングが悪かっただけです!念話しようとしたら呼ばれたので口頭で報告しただけです!!」

「それでも周りを見ないのはダメだね」

「う…すみません…」


シュンとしたレイズをさらに笑うペンシィ。

二人は互いに頬を引っ張り始めた。

じゃれあっている二人を見ながらティアとクリスは話を続ける。


「お祖母様、訪れていた方々の退去とはどういうことでしょうか?」

「勇者と魔王の決闘で色んな影響が出るから、全員帰国することになったんだよ」

「なるほど、それをレイズさんが行ったのですか?」

「そうだね、レイズが館内の司書に指示を出して、その報告を聞いてもらってたのさ」

「精霊さんはそんなこともできるのですね」

「色々できるさ、何かやりたいことがあればペンシィに相談するといいよ。私も色々やったものさ」

「お祖母様の武勇伝ですね。司書になったら教えていただく約束なので楽しみです」

「仕事が落ち着いたらね。ほらお前達!いつまで騒いでるんだ!行くよ!」


互いの頬を引っ張り合う精霊達を一喝しながら扉に触れるクリスと、精霊のやり取りを見て笑顔のティア。

扉にはここに来る時と同じ、開いた本に羽根ペンが描かれた魔法陣が現れ輝きだした。

扉は開かず、魔方陣に触れたクリスの手が沈む。

そのまま進みながらティアの手を取るクリス。

ティアはクリスに手を引かれながら魔方陣へと進み、消えた。


ペンシィとレイズは赤くなった頬を摩りながら魔方陣に飛び込んだ。


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