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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
山村と 爆裂王女と 冒険者
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Page48「初めての食事とお風呂の誘惑」

冒険者組合に併設された酒場。

その2階には高ランク冒険者用の個室がある。

混雑時の個室使用は高ランク冒険者に優先権が与えられるが、話の内容やクレア達の身分を考慮した結果、個室の方がいいということになりなり交渉した。

店員は渋っていたが…。


「絡んで来た相手を処理した際に店を壊してもいいなら1階でもいいですよ」


と言うクレアの台詞が決め手になった。

2階の個室に案内されたティア達は、ひとまず果実水をと日替わり定食を人数分頼み、人化の影響について話し合った。


「…という感じなんよ〜」


カコはリッカの空腹が人化の影響だと説明し、類似として排泄のことも可能性があると話した。

まだ、注文した料理は来ていないのでマナーとしてもギリギリセーフである。

相手が王女なのでアウトかもしれないがクレアは気にしない。


「なるほど。それじゃあリッカちゃんの面倒を見る人が必要になるわね」

「……私がする……妹で慣れてる……」

「あの、私の従魔になっているので私がするべきだと思います」

「ん〜。無しやな〜。ティアちゃんはまだ小さいし、司書としても色々せんとあかんやろ?お姉ちゃん達に任せとき〜」


人の生活に慣れていないリッカに教える必要があり、即座にシュトが立候補する。

それに対してティアが意見するが、カコに止められる。

クレア達もティアが一人前の司書であればこんなことは言わなかった。

しかし、どう見ても一人前ではないので、リッカの面倒を見れるとは思えない。

そもそもメモリアの司書は下手な冒険者より強いと言われている。

それは、司書になる前に戦闘訓練も行うからで、護衛についても護衛をする側になる程の訓練を行う。

クレア達はマリアリーゼと知り合いなので実力を知っているので比べてしまい、ティアには手助けが必要だと判断した。

それはお金のことを知らなかったり、よく転けたりする所などそれぞれに決めてはあった。


「でも、皆さんへの依頼内容を超えているように思えますが…」

「報酬が良すぎるから気にしなくていいニャ!」

「せやな〜。竜結晶なんて国か魔導師が使うぐらいやから白金貨何百枚で取引されるで〜」

「では、護衛依頼はおいくらですか?」

「色々条件はあるだろうけど、私達の人数でここからマーブルなら金貨2枚ってところかな」


護衛の食事や移動方法などで条件は変わるが、1人大銀貨50枚で、税を含めて二ヶ月程の生活費になる。

移動に合わせて受けることで移動費を抑えるだけでなく報酬ももらえるため人気の依頼である。


「なるほど…。では、皆さんにお願いしてもいいのですね?」

「任せとき〜」

「……任せる……」

「よろしくお願いします」

「のじゃー」


話がまとまったところで食事が来た。

今日の日替わり定食はスノーラビットのやわらか煮込みとサラダとパンが4つだった。

リッカはお皿から立ち上る香りを嗅ぎ続け、ヨダレをボタボタと垂らしている。

それを隣に座ったシュトが拭う。


「お腹空いたニャー」

「さっそく食べましょう」

「せやな〜」

「「「「「いただきます」」」」ニャ」

「……いただき…ます……」

「のじゃー?」

「……食べる前の…挨拶……」

「わかったのじゃー。いただきますなのじゃー」


スノーラビットの肉を野菜と一緒に塩で煮込んだシンプルなスープで、パンも少し固めである。

一般的な食べ方としてはちぎってスープにつけて食べるか、パンの後にスープを飲むなど柔らかくして食べる。

リッカを除き、スープはスプーンで、サラダはフォークで、パンはちぎって食べている。

リッカはシュトに教わりながら食器を使うが上手くできず、パンは強靭なアゴでバリバリと、スープは皿を掴んで一息に、サラダは手掴みで食べた。

それを見たシュトは、ゆっくりとでも食器の使い方を教えることを決意した。

妹が小さい時を思い出しながら。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまニャー」

「ごちそうさま〜」

「……ごちそうさま……」


クレアとチャコが食べ終わり、果実水を飲みながらティアを見る。

ティアは小さな口で頑張って食べているが、冒険者用の食事なので量が多い。

スープとサラダは半分も減っておらず、パンはまだ一個目だ。

実は姉のフィーリスから送られた食事は、全てティアサイズとなっていた。

なので、冒険者用の量はとても多く、必死に口を動かしていて、そんなティアを早々に食べ終わったリッカが見つめている。

よく見るとティアというより食べているものを見ているので、一人前では足りなかったらしい。

食べることに集中していたティアはリッカに見つめられていることに気づいていなかったが、お腹が膨れ、ふと視線を上げると目が合ったことで気づいた。


「私はもう食べれません。リッカちゃんはまだ食べますか?」

「食べるのじゃー!魔力も出してほしいのじゃー!」

「わかりました」


ティアの申し出に飛びついたリッカ。

人になったことで味覚が鋭くなり、食事の楽しさがわかったようだ。

ティアはクレアに頼んでリッカまで食器を回してもらう。

ティアはチャコとクレアに、リッカはカコとシュトに挟まれているため対面なので小さなティアでは届かない。

食器がリッカまで回り、リッカが食べ終わったことを確認して、額から魔力を出してリッカの前に漂わせる。

デザート代わりである。

リッカはそれを一息で吸うと…。


「ゲフゥ」


ゲップした。

食べている時は満足げな柔らかい表情だったが、自分の出したゲップに驚き口を開け閉めしている。

ゲップについて説明するシュトを他所に、カコはティアの額を見つめていたが、特に何も言わなかった。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「のじゃー?」

「……食事の後の…挨拶……」

「わかったのじゃー。ごちそうさまでしたなのじゃー。人が食べる物は美味しいのじゃー」


リッカは木のコップに入った果実水を飲みながら楽しそうにしている。

どうやらコップは使えるようになったようだ。


「この後はどうする?」

「部屋に戻って体でも拭くニャ」

「せやな〜。これからのことは明日組合長の用事を聞いてから決めよか〜」

「組合長の用事って話がしたいってやつ?」

「せや〜。服買いに行く時に言われたやつ。遅なったから明日にしてって言ってくるわ〜」


カコはテーブルを飛び越え、個室から出て行った。


「じゃあ私達も戻ってお湯で体拭こう」

「了解ニャー。あー早くお風呂入りたいニャ!」

「……お風呂……入りたい……」

「お風呂なのじゃー?」

「……ここに…お風呂は…ない……」

「そうなのニャ。体拭くだけなのニャ…」

「宿にもないんだよね」


項垂れるクレア達。

リッカは子竜の状態で入ったお風呂を思い出したのか入りたそうにティアを見つめる。


「あの、お風呂あります。私の管理する異空間の中ですが」

「え?!お風呂あるの?!」

「入りたいニャ!」

「……入れる?……」


クレア達の勢いに気圧されるティア。

クレアは王女なので日常的にお風呂に入っていたし、他のメンバーも知り合ってからはクレアと一緒にお風呂に入ることが何度もあった。

そのためお風呂の魔力に取り憑かれているのは間違いない。

冒険者になればお風呂に入れず、体を吹くだけになるということは覚悟していたが、それでも入りたいものは入りたいのだ。

そんな時にお風呂があると言われれば、誰だって詰め寄ってしまうだろう。

クレア達は悪くない。


「えっと、お風呂は異空間にあります。みなさんが異空間に入ることを拒否しなければ問題なく入れるはずです。入りますか?」

「もちろん!」

「あったりまえニャ!」

「……入る……」

「入るのじゃー!」

「わかりました。では、お部屋でカコお姉ちゃんを待ちましょう」


個室を出て部屋に戻るティア達。

食事代は組合長に話しに行ったカコが払っていたので、組合2階にある部屋に戻った。

しばらく待っているとカコが戻ってきた。


「遅いニャ!」

「早く!」

「……急ぐ……」

「え?何なん?」


入ってきたカコを3人が引っ張る。

その手にはそれぞれの着替えが抱えられていて、カコの分はシュトが持っている。

引っ張られて進む先には、辞書のよう厚さの本を開いたティアがいる。


「え?!ホンマに何なん?!」

「お風呂があるのよ!ティアちゃんが持っている本の中に!」

「メモリアの司書が使う異空間の中にお風呂があるニャ!早く行くニャ!」

「……カコを待ってた……」

「え?お風呂?あ、ちょ!」


そのカコの言葉を最後に4人が消えた。

無事に入れたようだ。

カコは混乱していたので、肯定していないが拒否もしていないので入れたようだ。

後はリッカとティアだけなので続けて入る。

リッカは3人の勢いに固まっていたので、ティアに手を引かれて入った。


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