Page47「冒険者組合と人化の影響」
冒険者。
冒険をする者と言えば聞こえはいいが、ゴミ拾いから薬草収集、狩りに護衛、遺跡巡りに迷宮探索など、依頼があればなんでも行う便利屋的存在だ。
家を継げない次男以降、嫁に行かない男勝りな女、強くなることを追い求めたり、一攫千金を夢見る者がなる以外にも、村人がお小遣い稼ぎでなる者もいる。
簡単になれるため、依頼を取り纏めたり、冒険者同士の揉め事や、依頼主との折衝などを行う必要がある。
それを情報を取り纏めることに長けたメモリアが行うことで、各国の冒険者組合との連携を取りやすくなり、冒険者の活動範囲が広がった。
これにより、高位の冒険者が遺跡を発見したり、魔素が満ちていて魔物が蔓延る成長する洞窟や、見た目よりも広すぎる城など様々な迷宮と呼ばれる場所が見つかった。
迷宮では金銀財宝から魔法が宿った武具など、価値のある物が手に入るため、今では冒険者と言えば迷宮と言われるぐらいになっている。
そんな冒険者の取りまとめを行なっている冒険者組合だが、主な内容は4つある。
・依頼を取りまとめること
・冒険者を管理すること
・依頼状況を各組合の準司書に報告すること
・各国との連絡を行えるようにすること
1つ目は依頼主から依頼内容を聞き取り掲示し、受注者がいれば記録。
以降は依頼の状況を確かめ、依頼期間が過ぎれば破棄したり、組合お抱えの冒険者が対応する。
依頼主に報告した時点で依頼は結了となり、報告まで組合員が行う。
2つ目は冒険者の登録から、昇降格、揉め事の解決などになる。
3つ目は依頼の内容や冒険者の動向を司書の本に記入するか、書類にまとめて取り込ませる。
そうすることで別の組合にいる司書が情報を取得でき、緊急の場合は応援を頼むこともできる。
4つ目は国から組合へ緊急連絡の依頼を発行し、組合を通して他国へ連絡を行うことで、異空間を通して書類を受け渡すことで成り立たせている。
また、冒険者組合の他に商人組合もある。
こちらも内容はほとんど同じで、管理対象が冒険者から承認に変わる、依頼が商売内容に変わる。
大きな街ではそれぞれに準司書が居るが、このフェゴのような村では、両組合を1人の準司書が管理している。
そんなフェゴの冒険者組合は二階建てで、二階には会議スペース、図書室、宿泊部屋などがあり、一階には受付や依頼ボードなどの業務関連や、冒険者用の酒場が併設されている。
本来であれば村の酒場を使用するべきだが、フェゴはメモリアへ向かう人間が利用するので、よそ者同士のいざこざが絶えない。
解決策として当時の組合長が出した案が、組合で酒場を作り、冒険者は村の酒場の使用を禁止するというものだった。
その結果、いざこざは激減したため、今もなお冒険者組合に酒場がある。
そんな酒場を併設した冒険者組合の入り口はスイングドアなのだが、そのスイングドアの下を小柄な幼女が駆け入ってきた。
「のじゃー!!!」
リッカである。
練習の結果走れるようになったのが嬉しいのか、とても元気に入ってきた。
それを追ってリッカより少し背が高く、スイングドアより低い少女が同じように下を駆け抜けて…転けた。
「お、おいおい…大丈夫か嬢ちゃん…」
リッカを呆然と見送ったおっさん冒険者は、続けて入ってきて転んだ少女に声をかける。
もちろんティアである。
「は、はい。大丈夫です…」
「そうか。結構な勢いだったが怪我はないか?」
「はい。ご心配をおかけしました。怪我はしていません」
ティアの服には【状態維持】がかけられているため破けていないどころか汚れてすらいなかった。
服自体の性能も高いので何も付与されていなくても転ける程度であれば問題ないが。
「あー!また絡んでるニャ!」
「またですか?」
「そんな小さい子にまで絡むのはあかんで〜」
「……ダメ……」
スイングドアを押して入ってきたクレア達は、ティアに声をかけたおっさん冒険者を見ると口々に注意し出した。
「いやいや、今回はこのお嬢ちゃんが転んだから様子を見ただけだ。あと、絡んだことは悪かったからもう言わないでくれ…」
「ティアちゃんを心配しただけならいいのニャ」
「ティアちゃん大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
おっさんはティアと話していた理由の後に申し訳なさそうに言う。
どうやらクレア達はこのおっさんに絡まれたことがあり、そしておっさんの反応から返り討ちにしたようだ。
街中で行う雑事も冒険者が行うため、登録に年齢制限はないが、どの組合にも脅し役が存在する。
実力不足の子供や、浮ついた集団に対して脅し役が絡む。
もちろん、依頼申請かどうか確認した上で行うので、ある程度の礼儀を知っている者が任命される。
クレア達は、まだ少女という年齢なので、絡まれたのだろう。
普段から騒がしいのも原因の1つかもしれない。
「……リッカ……どこ?……」
「ん〜。あそこやな!」
おっさんとのやりとりを早々に放棄したシュトとカコは、先に入ったリッカを探した。
ティアの近くには居なかったので、ティアが転けたことには気づかずにうろちょろしているはずである。
「……居た……あそこ……」
シュトが指差した先にリッカは居た。
酒場のテーブルで食事をしている冒険者の向かい側の椅子に立ち、食べ物を凝視しながらヨダレをボタボタと垂らしている。
見られている冒険者は若い男だが、とても食べづらそうだ。
「早よ回収しよか〜」
カコが即座に動き、椅子の上に立っていたリッカを抱える。
食事をしていた冒険者に食事代を渡して謝り、事なきを得た。
「リッカちゃんはお腹が空いてるの?」
「お腹が空くとはなんじゃー?山で嗅いだことがない匂いがしたから見ていただけじゃー」
そう言ったリッカのお腹から盛大な音が鳴った。
それを聞いたカコは吹き出し、シュトはお腹を凝視している。
笑われたリッカは、そのことよりも自分のお腹から音が鳴ったことに驚き、ペタペタとお腹を触っていた。
「音が鳴ったのじゃー。むー。この辺が気持ち悪いのじゃー」
リッカは胃のあたりを指差しながら話す。
「……リッカ……お腹が空いてる……」
「竜の時はお腹減らへんの?」
「むー。竜の時は腹は鳴らんし、気持ち悪くなったこともないのじゃー」
「へ〜。じゃあ何も食べへんの?」
「魔力を食べるのじゃー。仕留めた獣も食うが、全部魔力になるのじゃー」
竜は魔力を食べるが狩もする。
リッカは食べた全てが魔力になっていると思っているが、それは間違っている。
実際は魔力を使って肉を分解しているだけである。
昔から竜の素材は重宝されているので、狩られないように進化した結果、糞や尿を出さないよう食べたものを体内で完全分解するようになり、果てには狩を行わずに生きれるよう、長い年月をかけて魔力を食べて生きていけるようになった。
そのためハクアは獲物を渡し、魔力を吸い出すだけで食べれる魔石を手に入れている。
「ふーん。トイレは行かへんの?」
「といれとはなんじゃー?」
「えっと、食べた後何も出さないの?」
「んー?この間竜結晶を出したのじゃー」
「そうじゃなくて…。糞とかそういうの…」
「獣がしとるやつじゃな!リッカはしたことないのじゃー!」
「そうなんやねー」
「……人になったから……出るように…なるかも……」
「あ〜。お腹も空いてるし〜?あるかもな〜」
「んー?」
シュトとカコはリッカが人になったことでお腹が空いたので、排泄も同様に発生すると思っている。
人化したことで体の構造が変わるため、空腹になり、排泄も行うことになる。
排泄に関しては意識すると竜と同じようにできるのだが、リッカは無意識でやっているので多分できない。
「何してるニャ?」
「ん〜。リッカちゃんがお腹空いとるんよ〜」
「そうなんですか?」
「むー。わからんのじゃー!」
「どういうこと?」
「……人化の影響……」
「私達もご飯の時間だし、食べながら話そうか」
「そうするニャ!」
「ええで〜」
合流したティア達は説明を受けたが、お腹が空いていることしかわからなかった。
むしろリッカはお腹が空いているのかもわからなかった。
それでもリッカはお腹に手を当てているし、夕食の時間でもあるので、このまま組合併設の酒場で夕食をとることにした。




