Page45「自己紹介」
「という訳で、貴女を私達が使ってる部屋まで運んだのよ」
「なるほど。ハクアさんからの護衛依頼を受けられたのですね。よろしくお願いします」
「え?あぁ…うん…」
赤い少女の説明を受けて納得したティアは改めて御願いをした。
それを受けた赤い少女は、歯切れの悪い返事をする。
自分より幼い少女が綺麗な受け答えをしたからか、ハクアに託されたことを簡単に信じたことになのかはわからない。
しかし、ティアが信じたのはあらかじめ決められていたからだ。
「そんなに簡単に信じてもいいニャ?」
「せやで〜。ウチらが悪い人かも知れへんで〜?」
「大丈夫ですよ。ハクアさんと色々決めてましたから。もし、皆さんが悪い方だったとしても頑張って逃げるだけですから」
「は〜。ホンマに根性のある子やな〜」
「……すごい……」
ティアが笑顔で言い放った言葉に感心する少女達。
今度は赤い少女を見て根性といったわけではないのでお咎めはなかった。
巣を飛び立ったハクアは、手に乗せたティア一行とフェゴの着いた後について話していた。
といってもレインとゴルディアは場所を取るので収納されているため、ティア、ペンシィ、リッカしかいない。
主な話題は王都へはどうすればいけるかで、乗り合い馬車を使うか、冒険者を護衛に雇って馬車を購入するかべきかという話になった。
どちらにせよお金はかかるが、乗り合い馬車の場合いくら貯まっているか不明だがティアのお小遣いで。
馬車を購入する場合、ペンシィが管理している物を売るか、錬金術で売れる物を作ることに決まった。
その後はどの冒険者に頼むかという話になったが、メモリアを目指す冒険者は沢山いるので、逆に帰る冒険者に頼むことにして、その見極めはハクアに任せることになった。
最後にペンシィからの条件として精霊が宿っている、もしくは精霊に好かれている人物を選ぶことにした。
これもハクアができるということなので任せることになった。
いざとなればペンシィが本気でティアを守るため、ハクアに任せてもいいという判断である。
大まかに決めた後、ペンシィは調べ物や情報整理等を行うために本の中に入り、残されたティアはリッカといつ人化の魔法を使うのか話し合い、村に着いてからと言うことにした。
その後は望んでいた空の旅を満喫していたティアだったが、やがて疲れからか寝てしまい、することがなくなったリッカも同じく寝た。
ティアが寝たことで設置せず張っていた結界が消えたため、ハクアが手で覆うことで寒さから守りながらフェゴに着いたのである。
もちろん、手で覆わなくても火の精霊が頑張るので寒さでどうにかなるわけではないのだが、ハクアはそこまで知らなかったので。
そんな取り決めがあったとしても、目が覚めたら武器を持った少女達にがこちらを見ていたのである。
誘拐かもと思ってしまったティアを責めることはできない。
彼女達が武器を持たず、パン等を持っていればそんな誤解は生まれなかったかも知れない。
「とりあえずこの4人で君とあの子を首都マーブルまで護衛することになったんだけど、簡単に自己紹介してもいい?」
「はい。お願いします」
赤い少女が立ち上がり、残りの3人を背にしてティアに向けて自己紹介の確認をする。
特に問題はないので、ティアも了承する。
「ん!まずは私から、マーブル共和国人族王の娘、第三王女のクレア・マーブル・ローズラント。12歳で冒険者学校の特別クラスの1年生です。ひとまずはこれぐらいですね」
「王女様だったのですか!えっと、どうすれば…」
咳払いして話し始めた赤い少女改め、クレアはメモリアが所属するマーブル共和国の王女だった。
マーブル共和国は様々な種族が共存している国だが、半分ほどが普通の人族のため人族側で王族を立てた。
しかし、人族主体で国の舵取りを行うと精霊大陸の各国に残る人種差別を嫌って興した国なので、世代を重ねるにつれて人族が幅を効かせることを懸念した。
その結果人族以外の亜人、獣人、魔人等の普通の人ではない種族から1人国王を決め獣王と名乗り、二大国王制度で政治を行うこととなった。
主に外交を人族が、軍事を獣族が、内政を協力して行っている。
その片方の王族の第三王女が目の前に居る訳なので、メモリアから出たことがない世間知らずなティアでも驚いてあたふたしだした。
「えっと…別に王城じゃないし、冒険者学校の生徒として活動しているから気にせず他の人と同じように接してくれればいいわよ」
「えっと…」
ティアは他の3人を見る。
ティアの困った表情から何を言いたいのか察したので答えた。
「クレアは王城でドレス着てるとき以外は普通に接しても問題ないニャ!クレアもそれを望んでるけど、今はちょっと外交モードになってるニャ!」
「せやな〜。普通に扱ってくれって言いながらもよそ行きモードで話してるねんから難しいと思うで〜。ウチらと話すときと同じようにしたらええのに」
「……姫…矛盾……」
「うっ」
3人に指摘されて視線を外すクレア。
少し頰を染めて答える。
「だって今まで小さい子と話す機会が無かったからどうすればいいかわかんないんだもん!仕方ないじゃない!」
「う〜ん。まぁ末っ子だし仕方ないニャ。しばらくは我慢してほしいニャ」
「せやね〜。護衛してしばらくしたら打ち解けるやろうし」
「……頑張って……」
「わかりました…」
顔を真っ赤にしながら叫ぶクレアを見た3人は、時間が解決すると考え、ティアにアドバイスすることにした。
普通の冒険者が護衛依頼をこなす場合、クレアの対応が正解だが、若さなのかティアが少女達よりも子供なので砕けることにしたのかは定かではない。
「じゃあ次は私ニャ!チャコ・フェルトって言うニャ!猫の獣人で、クレアと同じく冒険者学校の特別クラス1年生ニャ!」
「チャコさんですね。よろしくお願いします」
「猫の獣人ですからね」
「うんうん。猫やね〜」
「……チャコは…猫……」
猫の獣人改め、チャコは元気よく自己紹介をする。
なぜか猫を押すクレア達だが、ティアは疑問に思わずニコニコしている。
ペンシィを呼び出していればツッコミが入り、追求するはずだが居ないものは仕方がない。
「次はウチやな!ウチはカコ・キンクウって名前やねん。狐の亜人やで〜。学校とかは前の2人と同じやから言わんでええやろ〜」
「わかりました。カコさんですね」
「ん〜。さん付けやとなんや背中がムズムズするな〜。カコお姉ちゃんでもええで〜」
「えっと、では…カコお姉ちゃんで」
「んっは!これは効くわ〜!」
猫の獣人改めカコはティアの呼び方を改めた結果、精神的ダメージを受けてニヤけている。
お姉ちゃん呼びを聞いたクレアとチャコは少し羨ましそうにしているが、少なくとも自己紹介割り込んでまでお願いするつもりはないようだ。
つまり、隙があれば呼び方を変えてもらうつもりではある。
「……最後……シュト・ラビッツ……兎の亜人………学校は一緒………話すの苦手…………ごめん……」
「なぜ謝るのですか?私は気にしませんのでよろしくお願いします。シュトさん」
「……私も……お姉ちゃんがいい……」
「わかりました。シュトお姉ちゃん」
「……いい………」
兎の亜人改めシュトもお姉ちゃん呼びをお願いし、ティアが聞き入れたため残り2人の我慢が限界に達した。
シュトの顔がほんのり赤くなっていて、喜びが伺えるのも一因ではある。
「ずるいニャ!私もお姉ちゃんつけてほしいニャ!」
「私もお願いします…」
チャコは元気よく、クレアはまだ少し顔が赤い状態でお願いする。
もちろんティアは嫌がることなく了承する。
「わかりました。チャコお姉ちゃんにクレアお姉ちゃん!よろしくお願いします!」
「ニャ!」
「あぁ…」
ニコニコしたティアにお姉ちゃんと呼ばれた4人は恍惚としている。
そんな4人を他所にティアは自己紹介を始める。
「私はティア・メモリアと申します。先日司書になったばかりで、今は王都に居るお母様のところへ向かっている途中です」
「司書?準司書じゃなくて?あ、マークが司書のマークだ」
「いやいやクレア!それよりもティアって名前ニャ!マリアリーゼさんの娘さんと同じ名前ニャ!」
「むしろメモリアを名乗ってる以上本人やろ〜。この可愛さを見たら親バカになる気持ちもわかるわ〜」
「……納得………」
「あ…」
クレアはティアの自己紹介を聞いた後三角タイのマークを見て司書だと納得したが、他の3人は司書よりもティアの名前に注目した。
チャコは名前からマリアリーゼの娘かもしれないと推測し、カコが断定しながらティアを抱いて膝に乗せ、シュトが納得しながら頭を撫でる。
流れるような綺麗な動作で抱えられたティアは、頭を撫でられてさらに笑顔になる。
「そういえばマリアリーゼさんの娘さんもティアだったね。ティアちゃんのお母さんはマリアリーゼさんなの?」
「はい。お母様はマリアリーゼです」
「ほら!マリアリーゼさんがぬいぐるみ送りまくってる娘のティアちゃんニャ!」
「あー。チャコはぬいぐるみ繋がりなんやね〜。ウチは魔術書読ませてもらった後に話される感じやわ〜」
「……私は……日向ぼっこしている時に……ただ聞いてるだけ………」
「みんな結構聞いてたんだ…。私はあんまり聞いてないなぁ。お茶会で少し聞いたぐらいかな」
「皆さんお母様の事を知っているのですね」
「うん。みんなお世話になってるよ」
「そうニャ!まぁクレア繋がりなんだけどニャ」
「やね〜。クレアが居なかったら知り合うことはなかったと思うわ〜」
「……マリアリーゼさんから……ティアちゃんのことを聞いてる……」
ティアの母親がマリアリーゼの娘だという確認を取ると、それぞれがティアの自慢話を聞いたタイミングを話し合う。
全員バラバラに聞いているのでマリアリーゼは少なくとも4回同じ話をしているか、それぞれに違う話をしているかだ。
ティアはメモリアから出たことがないので、話の種は祖母のクリスティーナから届くメッセージが中心で、たまに帰った時の話もある。
ティアは4人が話す母親の娘自慢話を聞いて少し赤くなっていて、話題を変えるためリッカの紹介をすることにした。
「あの!この子は精霊竜のリッカと言う名前です。私の従魔でハクアさんの娘です!」
「リッカなのじゃー!」
ティアが指差した方向にはベッドの上で胡座で座っている全裸の幼女がいた。
ティアと同じく腰まである銀髪で、額には小さな白い角が2本生えている。
瞳は空色で竜独特の縦長に切れた瞳孔が見える。
背中には羽が生えていないが、出そうと思えば出せる。
何も身につけていない真っ白な肌はツルツルで、肌触りが非常に良さそうだ。
右手には竜結晶を握っているので、ティアからは人化の魔法を使った事がすぐにわかった。
「さっきまでの子竜?リリィさんやダリアさんと同じように人化したんだろうけど…可愛い…」
「ニャ…。ティアちゃんと並べたら姉妹でも通じるニャ…」
「これはあかんな〜。王都までじゃなくてずっと一緒におりたいわ〜」
「……同意する……」
「のじゃー?」
リッカは首を傾げて4人を見る。
なぜか動かない4人を放置してティアが話しかける。
「リッカちゃん。いつ人化の魔法を使ったのですか?」
「ティアがそこの人間達と話していた時なのじゃー」
「気づきませんでした」
リッカはクレアの自己紹介が始まったあたりから警戒を解いて、人化の魔法を使っていた。
うまい具合にティアが壁になっていたのでクレア達からは見えず、ティアは背中を向けていたため気づかなかったのだ。
カコがティアを膝の上に乗せる際に人化したリッカの姿が目に入るはずだが、ティアまっしぐらだったカコは気づいていなかった。
この辺りの観察眼や察知能力が低いのは経験不足であり、冒険者学校の生徒として学んでいく必要があることだ。
「それで、なんでリッカちゃんは裸なの?」
「初めての人化なので服がないんです。服を買ってから人化してもらおうと思ってたのですが、リッカちゃんには村に着いてからって話していたので人化したのだと思います」
「うむー。もう着いたのじゃろー?約束通りなのじゃ!」
「そうなの。チャコ、リッカちゃんに合う服なんてないよね?」
「流石にないニャ。布地もないから作れないニャ」
「ほな、服屋行こ!早よ行かな閉まってまうで!」
「……急ぐ……」
「あ、ちょっと!」
カコの膝に乗せられていたティアは降ろされ、カコに手を引かれて部屋の外へ向かう。
シュトはマントでリッカを巻き、抱っこして後に続く。
残されたクレアとチャコも急いで後を追った。
クレア以外冒険者として必要な武器を持たずに。
こういったところもプロの冒険者とは違うところなのだが、全員素手でもある程度戦える自信からの行動でもある。
ただ、ティアがなぜ1人で旅をしているのか等の情報を得ようとしないのはダメなところである。
もちろん依頼主の事情を詮索しないように教えられているのもあるが、若すぎる司書、数日前にメモリアに向かっていった謎の攻撃など聞くこべきことはあったはずである。
落ち着いてから聞くつもりなのかもしれないが。
そして、リッカの服を買いに行くことになったことで、ペンシィとレインとゴルディアの紹介はできていない。
手を引かれて服屋に向かっているティアは、ひと段落してから話すことにしたようだ。




