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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
山村と 爆裂王女と 冒険者
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Page44「知らない人の中で目覚めるということ」

赤い少女はハクアから受け取ったティアとリッカを抱えて、冒険者組合事務所の2階にある少女とその仲間達に割り当てられた部屋を目指す。

中に入った瞬間から好奇の目に晒されているが、少女は全く気にしていない。

唯一受付の奥で書類整理をしていた女性だけがティアを見て呆然としていた。


少女は割り当てられた部屋の前に達、中に居る仲間に声をかける。

左手でティアを支え、右手でリッカを抱えているためドアを開けることができない。


「あ〜け〜て〜!」


先ほどまでの真面目な様子は一切無くなった少女。

これが巣で、ハクアと話していた時は外向きの話し方だったのだろう。


「ねぇ〜!あ〜け〜て〜よ〜!」


少女の声に反応したのか寄りかかっていたティアが、身じろぎした後首に抱きついた。


「んふふ」


少女は嬉しそうにニヤニヤしだした。

その時、部屋の扉が開いた。


「もうなんニャ!自分で開けら…れ……る………誘拐ニャ?」


扉を開けたのは少女と同じぐらいの身長の白猫の獣人少女だった。

顔は猫でピンとした猫ヒゲが生えていて、薄い緑の瞳。

髪は短く切りそろえられており、頭には白い猫耳がピョコっと生えて、ふわふわの耳毛が見えている。

ところどころ黒い模様があるので、白トラ猫と言ったところである。

服は動きやすさを重視してかポケットの多い白い服の上に皮鎧を着て、灰色の長ズボンと黒いブーツを履いていて、お尻より少し上から長い尻尾が生えている。

手にも白い毛が生え黒い模様があるが、指は人間と同じ5本で肉球はない。

そんな獣人の少女は、赤い少女を見て誘拐を疑った。


「ちーがーいーまーすー!説明するから中に入れて!」

「わかったにゃ…」


部屋に戻る獣人の少女と、後に続いて入っていく赤い少女。

部屋の中にはベッドが6代あり、3台ずつ向かい合わせになっている。

ベッドの横には小さめのドレッサーが有り、質は良くないが鏡も付いている。

部屋に居るのは猫の獣人と赤い少女含めて4人。

使用していないベッドの1つに荷物を置いている。

赤い少女は使っていないもう1つのベッドにティアとリッカを寝かせて、3人に向き直るよう自分に割り当てられたベッドに腰掛ける。


「さぁ!説明するニャ!」


猫の獣人は、自分が使っているベッドに腰掛けて、赤い少女を指差しながら説明を求める。

その声に残りの2人も顔を上げて、ベッドに寝かされているティアとリッカを見た。


「え?女の子と子竜?しかも精霊竜やん!姫さん誘拐したん?!」


先に声を上げたのは狐耳と尻尾が生えた亜人の少女だった。

肩口で切りそろえられた金髪で金色の狐耳が生えている。

もちろんふわふわの耳毛もある。

瞳の色も金色、肌はスベスベでヒゲは生えていない。

服装はシンプルなクリーム色のローブを着て、ブーツを履いている。

傍らには白いマントと、少女の腕と同じぐらいの長さの杖が立てかけられている。


「姫……誘拐は…犯罪…」


もう1人のウサ耳を生やした亜人の少女も誘拐を指摘した。

見る角度によって色が変わるところどころ撥ねている腰まである髪に、同じ色の毛が生えたウサ耳。

眠そうな瞳は揺らめきとともに色が変わっているように見える。

亜人なので人の顔で、ウサヒゲは生えていない。

厚手の緑の服を着て、同じ色のズボンとブーツを履いている。

手には弦を外した弓が握られているので、整備の途中だったのだろう。


「なんでみんな私が誘拐したって判断するの?!」

「誘拐はウチらという前科があるからな〜」


狐の亜人が自分と兎の亜人を交互に指差す。


「誘拐じゃない!友達を家に招待しただけ!」

「公園で遊んでる初対面の亜人と目が合った瞬間にメイドに支持して家に連れ帰るのは招待じゃないと思うんやけどな〜」

「うっ…」


赤い少女と亜人の2人の出会いは誘拐紛いらしい。

その指摘を受けて赤い少女は言葉を詰まらせる。


「まぁそれは置いといてや。その子等何なん?子守?」

「そうニャ!早く説明するニャ!」


ニヤニヤした狐の亜人は少女の反応に満足したのか、説明を求めた。

猫の獣人はそれに追随し、兎の亜人はジッとティアを見ているだけで会話には参加しなかった。


「説明するから!ん!この子達はリリィさんの夫のハクアさんから王都へ連れて行ってほしいと依頼を受けたの。これが報酬」


咳払いをして兎の亜人の注意を引いてから説明をする赤い少女。

最後にポケットから竜結晶を取り出して、3人に見せた。


「何ニャ?竜結晶?いらないニャ」

「竜結晶?ウチ欲しい!」

「…竜結晶……別にいらない……」


竜結晶を見た中で欲しがったのは狐の亜人だけだった。

竜の膨大な魔力が結晶化したものなので、個人の使い道はそれほど多くない。

それでも欲しがるということは彼女の中では使い道があるようだ。


「これのことは置いといて、依頼の内容はわかってくれた?」

「その子の護衛依頼ニャ?でも私達は冒険者学校の生徒だから護衛依頼は受けられないニャ!」

「ハクアさんからの個人的依頼ってことで組合は通さず受けたの」

「さっきまでの竜騒ぎで何でこうなったん?ウチらは姫さんに言われた通り部屋で大人しいしとったで?」

「村の外から来た冒険者の中は皆ハクアさんに恐怖して動けなかったの。私はリリィさんで慣れてるからいつも通りだったんだけど、それを見て根性があるって判断されたみたい」

「ふ〜ん。ウチらが帰るときに連れて行けばいいんやろ?それなら問題ないんとちゃう?」

「問題ないニャ!」

「……同じく」


説明を聞いた3人は反対しなかった。

狐の亜人だけが根性で選ばれたことに少し疑問を抱いたが、依頼内容がそこまで難しいわけではないので納得した。


「とりあえずはこの子が目覚めるの待ちだね」

「わかったニャ」

「これだけ騒いでるのに起きないのは、中々根性あるんとちゃう〜?」

「……次、私を見ながら根性って言ったら夕食のスープを爆発させるからね!」

「それは堪忍やわ〜」


ニヤニヤしながら赤い少女を揶揄う狐の亜人。

赤い少女は根性が有ると言われたことに納得していないので少しイラっとしたようだ。

兎の亜人と猫の獣人はそんな2人をそれぞれの作業に戻った。


「ん…」


しばらくするとティアが目覚めた。

その声に反応して4人は一斉にティアを見る。

それぞれ手入れしていた獲物を持ちながら。

赤い少女は1本を鞘に入れたままベッドの上に、もう1本を鞘から出して磨き、猫の獣人は両手の爪を出して、鋭さを確認し、狐の亜人は杖の先端に付いている魔石を眺め、兎の亜人は張った弦を弾いて確認していた。

体を起こしたティアは、そんな4人を見回した。


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようニャ」

「おはよ〜」

「……おは」


目が覚めたティアはとりあえず挨拶をしてから再度周囲を見回す。

その間4人の少女は無言でティアを見つめる。

手に武器を持ちながら。


「これは…誘拐でしょうか?」


首を傾げながら誘拐されたのか確認するティア。

それを聞いた赤い少女以外の3人は一斉に赤い少女を見る。

眠たげな瞳の兎の亜人でさえ目を見開いて。


「誘拐じゃないってばー!」


赤い少女の絶叫が響いた。

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