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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
雪山と 精霊竜と ぬいぐるみ
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Page40「お風呂初体験の子竜と精霊竜の助け方」

ティアは子竜を抱えて雪山から異空間に入った。

レインとゴルディアは先に収納されていたので、近くに立っている。

抱えられた子竜は、初めての収納が怖かったのか小さな体をさらに丸めてしがみついていた。

収納はゲートを潜るようなものなので一瞬で済む。

本が入り口になる部屋のようなものなのだ。

それでも、初めての移動の場合不安になるのもわかるので、同じく不安になったことのあるティアは声をかける。

「もう着きましたよ」

《わかったのじゃ…》


子竜はおどおどしながらも長い首を曲げて周囲を見回し、やがて目を輝かせて勢いよく飛び立つ。

その勢いでティアがヨロけたが、何とか持ち直して転ばずに済んだ。


《ご飯なのじゃー!》


大きく口を開けながら上昇する子竜と、羨ましそうに見上げるティア。

異空間はティアの魔力で満たされている。

ティアの魔力が美味しかった子竜にとっては極上のスープの中を飛んでいる事と同じなので、今は全身で味わっているところだった。

竜に翼はあるが飛行時の補助に使う程度で、飛行には魔法を使用している。

かつて竜を従え竜の声を聞いけた者が飛行魔法について聞いたところ、竜の感覚で話されたため結局知ることはできていない。

ただ、魔力の流れを見ることができる者たちは見て覚えることができ、それを解析して術にすることに成功している。

飛行魔術は陣を刻むことで使用できるため、様々なものに流用された。

その結果、長い年月を経て飛行魔術が残り、元となった飛行魔法を使える者が居なくなったのである。

そのため、ティアが自由に空を飛ぶためには自力で飛行魔法を習得するか、ペンシィに飛行魔術を付与してもらうか、飛行魔術の陣が刻まれた何かを手に入れるしかない。


「きゅっ?!」


空を飛ぶことに想いを馳せていたティアは、子竜の声と鈍い音で現実に引き戻された。

飛んでいた子竜を見ると落ちていく最中だった。

どうやら大きく口を開けて飛んで前が見えづらくなった子竜が天井にぶつかったようだ。

体制を立て直すことなく落ちていった子竜が家の陰に消えたとほぼ同時に、大きな水柱がたった。

お風呂に落ちたようだ。


「レインさん!私を運んでください!」

「お、おぉ!」


即座にお米様抱っこするレイン。

今回は進む方向に顔が来るように担がれた。

今も姫様抱っこではないことに不満があるティアだが、自分で走るよりもはるかに早いので妥協している。

そんな2人を呆気に取られたまま見送ったゴルディアに、入ってきたばかりのペンシィが声をかける。


「何が起きたの?」

『子竜が天井にぶつかって風呂に落ちたのをティアとレインが追いかけていったのだ』

「んー?空を飛ぶには狭いか…。まぁ天井はどうにかするよ。ティアちゃんはレインに任せるとして、ゴルディアはアタシと精霊竜を助ける方法考えようか!」

『うむ。承知した』


その場で話し出すペンシィとゴルディア。

薄情に見えるがティアの危機ではない上に、子竜といえど竜がティアのためのお風呂に落ちた程度でどうにかなるわけがないの。

そのため2人は今後について話すことにした。


「大丈夫ですか?!」

《うむー…きもちいいのじゃー……》


お風呂の入り口でレインに降ろされたティアが駆け込み、子竜の無事を確認する。

ティアの心配をよそに、お湯に浮かんが子竜は気持ち良さそうな念話を放ってきた。

口から天井にぶつかったはずだが、怪我をしている様子はなく、お風呂に落ちた影響もないようだ。

安心したティアは子竜と一緒にお風呂に入ることにした。

精霊竜からの逃走で、迫り来る精霊竜の威圧によって冷や汗をかいていたので。


「ふぅ…」


服を脱いでお風呂に入ったティアは一息ついた。

なんだかんだで疲れが溜まっていた上に精霊竜からの逃走である。

それに加えて予期せぬ従魔契約からの、父親である精霊竜を助けてほしいというお願い。

6歳のティアにはいささか忙しずぎる日々だった。


《ツルツルなのじゃー》


子竜は自分の鱗についた汚れが取れていることを確認して上機嫌だった。

精霊白竜山脈に住む精霊竜の行水は海で行われる。

勢いよく海に飛び込み、水の流れで汚れを一気に落とす方法だ。

子竜は波打ち際でぱちゃぱちゃする程度だが、どちらも塩が体に付着する。

魔法で完全に吹き飛ばすこともあるが、付着していても生活に問題はないのでほとんどの場合そのままだ。

なのでお湯に入ることも、鱗がツルツルになることも初めてなので興奮している。


「ツルツルですね」


ティアは近くを漂う子竜を撫でて鱗の感触を確かめる。

雪山では少しざらついていたが、今はとても肌触りが良かった。


《このお湯の入れ物はきもちいいのー》

「これはお風呂と言うのですよ」

《お風呂かー。わかったのじゃー》


子竜は尻尾の先をグルグル回して進んでいく。

追いかけようとしたティアだが、進んだ先は深いところなので諦めて見送った。

しばらく子竜が泳いでいるのを眺めて風呂から上がり、タオルで自分を拭いた後子竜も拭く。

拭かれた子竜は嫌そうに身をよじるが、しっかりと押さえられて拭かれる。

その後の風を浴びて乾燥することに対しては嫌がらなかった。


《むー。風だけでいいのじゃー》

「うーん。では今度からはそうしましょうか」

《うむー。よろしく頼むのじゃー》

「はい。わかりました」


ティアは笑顔で返事をする。

もがく子竜を押さえて拭くのはなかなかに重労働だった。

子竜といえど竜なので力が強く、また拘束から逃れようと人間にはない羽や尻尾を動かすため、予想外の動きに翻弄されてしまった。

今後は拭かずに風で乾かせるのでお風呂上がりに疲れる必要はなくなるので嬉しいようだった。


「では、私はお昼ご飯を食べてきます。子竜さんはどうしますか?」

《一緒に行くのじゃー》

「わかりました。こっちです」


着替えを終えたティアは髪を乾かし家に向かう。

子竜は飛び上がりティアの後を追うも、口を開けて魔力を食べながらだった。

家に入ったティアは自室へ行き、フィーリスボックスからチーズの掛かった固焼きパンと、ポテと言う白い実をすり潰してスープに溶かし込んだ物を取り出して食べる。

その横では子竜が空気中の魔力を吸っている。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」

《うまー》


食事を終えたティアが子竜を見ると、まだ魔力を吸っていた。

食べた魔力はお腹を膨らませているわけではないので体が大きくなることはない。

どこに消えているのか気になったティアは訪ねることにした。


「あの、ずっと魔力を食べてますが大丈夫なのですか?」

《んー?おいしいから大丈夫じゃー》

「いえ、そのお腹が膨れていないのが気になったのです。お腹いっぱいにならないのですか?」


問われた子竜は食べ終わった皿を見て、ティアのお腹を見た。

ティアのお腹は食べる前よりぽっこりしている。


《おー。竜はお腹が膨れないのじゃー。仕留めた獲物を食べてもお腹が膨れたことはないのー。お腹いっぱいというのもよくわからんのじゃが、魔力を食べても限界を感じたことはないのじゃー》

「なるほど?よくわからないので後で調べますね」

《わかったのじゃー》


そう言いながらも念話なので、ずっと魔力を吸い続けている。

ティアはじっと子竜を見たが、鱗の艶が増したぐらいしかわからなかった。

それも魔力を食べた影響ではなくお風呂に入ったせいなので、結局竜の食事内容はよくわからないままだった。

実際には竜は体内に魔力を溜める器官があり、一定以上溜まると魔力が結晶化する。

その結晶化された魔力は、魔石とは異なり莫大な魔力を宿すが、扱いが非常に難しいため複雑ではない魔術装置の動力源に用いられている。

代表的な物が浄水装置や一定以上の大きさの街にある街灯、魔道飛行船などの大型の船、城の管理維持に使われている。


「そろそろ行きましょうか」

《どこへ行くのじゃー?》

「ペンシィさん達とあなたのお父様をどうやって助けるか話し合います」

《おー。契約のお願いじゃったなー。よろしく頼むのじゃー》

「はい…。あの、なぜお父様があんな状態なのに落ち着いていられるのですか?」

《んー?生き物はいつか死ぬじゃろー?》

「そうですが…」

《うむー。人の考えはわからんのじゃが、生きている以上周りの者が死んだりするのは仕方がないことじゃ。弱い奴が強い奴に倒されるのは仕方がないのじゃ。自然の摂理というやつじゃと、父上や母上に爺や婆にもたくさん言われたのー。後は、死なないようにするために色んなことを学べとも言われたのじゃ。なのでティアがお願いを聞いてくれると言うから頼んだのじゃー》

「そうだったのですか…」


子竜なりに父竜をどうにかしようとした結果、まずは狩りで獲物を捕らえ魔力の回復を狙い、暴れ出したら逆鱗を噛んで止めようとし、最後には内容を変えることのできない従魔契約で願った。


「責任重大ですね!では、ペンシィさんのところへ行きましょう!」

《わかったのじゃー》


ふんすっと気合を入れて拳を握ったティアは、早速ペンシィのところへ向かった。

途中、子竜が窓から見えたペンシィに向かって飛び出そうとしたが、ティアがギリギリで止めた。

そんな子竜を連れてペンシィの元に着いたティア。

その場にはペンシィとゴルディアに加えレインも居たが、なぜかしょんぼりと項垂れている。


「レインさんに何かあったのですか?」

「んー。何もないよ。まぁ何もないから落ち込んでるんだけどね!」

「どういうことでしょうか?」

「えっとね、精霊竜を助ける方法を考えたんだけど、レインの出番はなさそうなんだ。あってもティアちゃんを運ぶぐらいかな」

《父上は助かるのかー?!》

「多分だけどね。方法は精霊竜に刺さってた棘をゴルディアが魔力を同調させて抜くの。今のゴルディアの魔力とは違ってるけど、元は自分の魔力だから干渉しやすいだろうしね」


レインとゴルディアは精霊化によって魔力の質が変わっている。

そのため同調するために多少苦戦するかもしれないが、全く無関係なティアが行うよりはずっと安全だ。


「で、棘を消した後はティアちゃんの【浄化】で魔力の流れを正常にしてもらうかな」

「【浄化】というと【ロザリオ】の祝福ですね?」

「そうだよ!【浄化】単体でも魔素を無くせるんだけど、今のティアちゃんだと難しいんだよね。そこで、魔力を出しすぎても君に食べてもらって調整しようと思うの。できるかな?」

《任せるのじゃー!ティアの魔力はうまいのでいくらでも食べれるのじゃー!》


ペンシィ子竜に声をかける。

子竜の返事はレインとゴルディアには聞こえていないため、2人にはティアから話す。

【浄化】は対象の魔力を正常に戻す技だが、かけ過ぎると対象の持つ魔力自体も浄化してしまい、魔力の空白地帯ができてしまう。

生物でいうと血が流れなくなることと同じなため、使用には細心の注意が必要になる。

今のティアでは魔力操作に難があるため悩んだペンシィだったが、ゴルディアが棘を操作した後の仕上げ程度の使用であれば問題ないと判断した。

今更ながら黒い雪で【浄化】の練習をさせていれば良かったと後悔するペンシィだが、もしも練習していればさらに進行速度が遅くなり、精霊竜が助からないぐらい魔獣化が進んでいたかもしれない。


「あなたのお父様はどこにいるのかわかりますか?」

《うむー。この山にいる間はわかるのじゃー》

「では、案内をお願いします」

《わかったのじゃー》

「では、皆さん行きましょう」

「うん!」

『おう!』

『うむ』


レインとゴルディアが出される。

その後に子竜を抱いたティアが出る。

まだ怖いらしい。

最後にペンシィが出るのだが、出る前に天井を見上げた。

ペンシィが天井に向けて指を振ると石造りの天井が消えて、空が現れた。

青い空には白い雲が漂っていて、太陽も輝いている。

石造りの床に、周囲には壁はなく、上を見上げれば青い空に白い雲と爛々と輝く太陽。

この空は今いる場所の空を映し出しているので、時間把握に使える。

それに加えて実際の空と同じなため、子竜が飛んでもぶつかることはない。

ただし成層圏を抜けると空間の狭間に飛び出てしまうため次に入ってきた時に注意しておこうと意識するペンシィは、出来栄えを確認してからティアの元へと消えた。


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