Page39「従魔契約と子竜のお願い」
「従魔ですか?」
「うん。【鞭】の祝福に【魔物調教】があって、それの効果で生物を使役できるようになるんだけど…」
ペンシィはティアの従魔になった子竜を見る。
子竜はティアの膝の体を曲げて丸くなりながら、首だけで周囲の様子を伺っている。
主にぬいぐるみを気にしているようだ。
『あー、1ついいか?従属系の魔法を使ってないのに従魔になったのは司書の力なんだよな?鞭がどうのって話してたし』
「そうだよ。【魔物調教】って祝福があってね、条件に当てはまった魔物を使役できるようになるんだよ」
『その条件とはどのようなものが?』
「ちょーっと待ってね。アタシの担当じゃないから詳しくは調べないとわからないかなー」
レインとゴルディアへ返答したペンシィは薄い板を出現させペチペチしだす。
【魔物調教】の条件を調べているようだ。
子龍はそんなペンシィをチラッと見た後は、やはりレインとゴルディアを見ている。
その眼差しは不思議なものを見ているようだ。
そもそも勝手に動くぬいぐるみなので不思議な物だが。
「はいちゅうもーく!とりあえず条件はわかったよー。まずは一つ目!体力的に弱っていること!」
『さっきの精霊竜にやられたのかはわからないけどボロボロだったな』
「二つ目!魔力が少なくなっていること!」
『ティアの魔力に勢い良く食いつくぐらいには減っていたな』
「三つ目!司書が対象に魔力を与え、対象が魔力を受け入れる際に従魔になることを承認すること!」
「もしかして口に含んだ瞬間固まっていたのがそれなのでしょうか?私には何も起きていませんでしたが」
「司書が魔力を与えることが従魔にしようとしてることになるらしいね。とりあえずこれで仮契約状態になるの」
「仮契約ですか?」
仮契約と聞いたティアは膝の上の子竜を見る。
見られた子竜はぬいぐるみから目を離しティアを見つめる。
その瞳は嬉しそうだった。
そんなティアを微笑ましく思いながらもペンシィは話を続ける。
「そう!仮契約!仮契約状態になると従魔と念話ができるようになるんだ。その状態で従魔の望みを聞いて、司書が望みを納得できたら名前をつけて本契約。納得できなかったら仮契約解除か仮契約のまま協力するかだねー」
『ふむ。仮契約と本契約の違いは何だ?」
「仮契約は近くにいる場合念話ができるようになるのと司書から魔力を渡せるようになるだけ。本契約すると本が必要だけど召喚や強化ができるようになるし、念話の距離制限がなくなるの。後は従魔のや技の一部を使えるようになるね。こんな感じだよー」
『へー。一部ってことは翼が生えて飛んだりできるのか?』
ゴルディアの質問に答えるとレインも質問してきた。
心なしか声が弾んでいる。
どうやらレインもティアと同じく空を飛びたいようだ。
「うーん。どんなことが起きるかは相性で決まるからわかんないんねー。でも、翼が生えたりとかはしないはずだよ」
『そうなのか…』
レインに向かって答えたので落胆したが、密かにティアも落胆している。
空を飛ぶことを諦めていないのでレインが質問したときには膝の上の子竜から視線を外し、キラキラとした目でペンシィを見ていた。
しかし、返答を聞いたティアは少ししょんぼりしながら子竜に視線を戻した。
『ふむ。では、この後はその子竜の願いを聞くということか』
「そうなるねー」
《さっきから誰と話しておるのじゃー?》
子竜は精霊の声を聞くことができない。
ペンシィは実体のある精霊なので話せる。
しかし、レインとゴルディアはぬいぐるみの体は実体でも声帯はついていない。
そのため全ての精霊が使える念話で話しているのだが、精霊の声と言われる念話を聞き取るには才能が必要になる。
どうやら子竜にはその才能が無いようで、レインとゴルディアに対して念話をしようとしていないため2人にも聞こえていない。
「あーなるほど…。えっとねそこのぬいぐるみ2つには精霊が宿ってるんだよー。でね、その宿ってる精霊と話してたんだよ」
聞こえてくるのは幼い女の子の声だった。
どうやらこの子竜は雌で、ティアぐらいの年齢のようだ。
《ぬいぐるみとはなんじゃー?ティアの魔力の中にあるのが精霊なのかー?小さいのじゃー》
「ぬいぐるみっていうのは…布とか皮で綿とかを包んで他の生き物の形にしたやつかな…飾ったり遊んだりする物かな。精霊はその小さいやつで合ってるんだけど、何でティアちゃんの名前知ってるの?」
《ぬいぐるみで遊ぶのかー。名前はさっき魔力をもらった時に覚えたのじゃー》
「あー。【魔物調教】の情報と一緒に流れたんだねー。うーん…何が流れるのか詳しく載ってないのかなー。ちょっと調べてみるね」
透明な板をペチリながら話すペンシィは、そのまま調べごとに集中し始めたので、ティアが代わりに続ける。
「他には何を覚えたんですか?」
《うむー?お願いを叶えてもらったらついていけばいいのじゃろー?後はよくわからんのじゃー。》
「そうなのですか…」
どうやら子竜には【魔物調教】の内容が難しかったようだ。
もちろんティアもよくわかっていないので説明することがない。
そのため本題に入ることにしたようだ。
「うーん。では、あなたのお願いは何ですか?」
《それは決まっておるのじゃ!父上を助けて欲しいのじゃー!》
「父上?もしかして噛みついていた大きな精霊竜がお父さんですか?」
《そうなのじゃー!少し前に黒いやつを止めようとしてからおかしくなったのじゃ…。最初はぐったりしていたのじゃが、しばらくしたら具合が悪くなったのでなー。狩をして獲物を食べさせておったのじゃー》
「もしかして私が戦っていたスノーラビットを奪って行きましたか?」
《う、うむ。ごめんなさいなのじゃ…》
「あ、別に怒っていませんよ!気にしないでください!」
《わかったのじゃ…。それでなー、急に暴れ出して攻撃してきたのじゃー。痛かったので怒って噛みついたのじゃが、そこが逆鱗だったのじゃー》
「逆鱗を噛んでも大丈夫なのですか?」
《大丈夫じゃないのじゃー。とても痛いのじゃー。だから父上がさらに暴れたのじゃー。それでも噛んだ瞬間は止まるので頑張って噛みついてたのじゃー》
「そうだったんですか。大変でしたね」
《うむー。大変だったのじゃー》
子竜はむふーっと鼻息を荒くしている。
ティアと子竜が話している横では、調べ物を終えたペンシィがレインとゴルディアに話の内容を伝えており、どうすれば魔獣化した精霊竜を元に戻せるか話し合っている。
その空気を壊すようにティアのお腹がなる。
《おー。ティアはお腹が空いておるのじゃなー》
「はい。お腹が空きました」
ティアの膝の上に乗っていたため至近距離でお腹の音を聞いた子竜は、少しびっくりしながらもティアに問いかけ、ティアはそれに答える。
ある程度安全が確保されていたとはいえ、ティアにとって精霊竜に襲われたことは緊張の連続で、とても消耗が激しいものだった。
「あー。じゃあ異空間で昼食を取って、精霊竜を助ける方法を考えようか」
『うむ。その方が安全であろう』
『だな。何か思いついたら試せるほどの広さもあるしな』
「わかりました。わっ…こほん。では結界も張りましたし異空間に行きましょうか」
《どこに行くのじゃー?》
「安全なところですよ。一緒に行きましょうね」
《わかったのじゃ…》
子竜を抱えて立ち上がるティア。
思ったより重かったのか、少しバランスを崩したが持ち直した。
レインとゴルディアを収納して周囲に結界を張りながら、ざっくりとした説明をするティア。
説明になっていない内容だったが、不安げな子竜ごと異空間に入ることには成功した。
ペンシィはそれを見届けた後、ティアを追って異空間に移動した。