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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
雪山と 精霊竜と ぬいぐるみ
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Page38「ティアの魔力は魔性のお味」

精霊竜の尻尾の根元に齧り付いていた子竜を回収したティア達は、そのまま坂を登り開けた場所に出る。

中央が少し窪んでおり、周囲には山肌から砕けた岩がゴロゴロと転がっていた。

いつの間にか精霊竜が暴れていた場所にたどり着いたようだ。

といっても巣ではないので、精霊竜が戻ってくることはなさそうだ。


「さてとー。その辺の岩に座って話そうか」

「異空間の方が安全ではないですか?」

「安全だし落ち着けるけど、その子が入れるかわかんないしねー。入れようとした生き物が拒否したら収納できないんだよ」


ペンシィはゴルディアが抱く弱った子竜を指差して答える。

生物も入れることができる異空間だが、メモリアが許可しない物と、入りたくないと拒否する意思を持っている者を入れることはできない。

あくまで拒否なので、操られていたり、寝ていたりして拒否の意思がない場合収納することができる。

ただ、強制的に生物を入れることはメモリアが許可しないので、実質入る意思を持っていない限り収納できない。


「そうなのですか…。では、あちらの岩場にしましょう」

「はーい」

『うむ』

『おう』


ティアが指差した方向には砕けた岩場があり、子竜を乗せやすそうな平らな岩から、ティアでも座れそうな小さな岩、ティアが好きそうな小石があった。

ティアは自分でも座れそうな高さの岩に異空間からクッションを取り出して座る。

さすがに岩に座ると小振りなお尻が痛くなり、足がしびれてしまうので。

ペンシィはティアの肩に座るので岩の硬さは関係ない。

ゴルディアは平らな岩に子竜を置き、その近くの岩に座る。

レインも同様だった。

この2人の体はぬいぐるみなので、岩の硬さをもろともしない。

そもそも精霊なので足が痺れることはないが。


「まずは治療だと思うんだけど、竜の鱗は魔力を通しづらいから難しいんだよね。だから外部からの治療は諦めます!」

『となると活性化か』

「ゴルディア正解!ティアちゃんは知らないと思うから説明するけど、活性化って言うのは魔力を使って体の調子を整えたり傷を治したり動きやすくする方法なんだよ」

「魔法ではないのですか?」

「魔力を使う点は同じなんだけど、体内の魔力の流れを早くするだけで勝手に起きる現象だから魔法とは違うかなー」


治療の魔術は存在する。

患部を魔力で覆い、その魔力を対象の魔力に同調させながら細胞を作る魔術だ。

ただ魔術として発動するだけでなく、相手の魔力に自分の魔力を同調させる必要があるため、とても高度な魔力操作を求められる。

ペンシィであれば可能だが、竜の鱗が邪魔をして本来の効果が得られないため、活性化での対処を選んだ。

活性化は体内の魔力速度を速めて体内の動きが活性化され、通常よりも自然治癒力が増したり身体能力を強化できるが、消費魔力が多い。

また、身体強化の場合は使用後に体が怠くなることがある。


『俺もゴルディアも人間だった頃は使ってたけど、ぬいぐるみだと活性化しても何も起きなかったぞ。活性化できる生身の部分がないからか?』

「うーん。普段流れてる魔力の量を増やしたり、早くしたりするものだからねー。ぬいぐるみには流れてないからできないんじゃないかな?今は魔力で満たしてそれを動かしてるんだし」

「本で読んだゴーレムと同じですね!攻撃されると魔力が減っていって最後には動けなくなるんですよね?」

「そうだねー。でも、この2人はアタシ経由で魔力が回復できるから動けなくなることはないよ。うーん。強化するとしたらゴーレムと同じ感じになるのかなぁ。アタシはゴーレム使いじゃなかったからそんなにしらないんだよねー。ティアちゃんが読んだ本には何か書いてあった?」

「えっと…。魔石から出てくる魔力を使って表面を覆って硬くしたり、後ろにたくさん出して早く移動したりすると書いてましたね。あとはその方法を組み合わせたり、ゴーレムの形状に合わせて色々工夫するみたいです」


ティアはペンシィから渡されて読んだ「ぬいぐるみゴーレム」の内容を披露するティア。

ティアの言う通りゴーレムは対象物を魔力で満たし、命令を与えて動かすもので、攻撃されると魔力が散り、やがて動かなくなる。

魔石などの魔力を蓄えた物が埋め込まれている場合、そこから魔力が供給されることで自動的に修復されることもあり、継戦能力が向上する。

また、魔石がある場合その魔力を使って表面を硬くしたり、魔力を噴射して高速移動することもできる。

つまり、ティアが魔石代わりになっているので、今後2人は硬くした腕で殴ったり、魔力を噴射して的に近づくことになる。

もちろん魔力を使用すれば様々なことができるため、今後


「話を戻すけど、今のその子は魔力が少ないみたいなんだよ。さっきの精霊竜と戦ってたからかな?それで、ティアちゃんの魔力を食べさせて回復させようと思うんだ」

「魔力を食べさせるのですか?」

「うん。獣だと肉とか草とか食べながら魔力も食べるんだけど、竜は空気中の魔力を食べるだけでも生きていけるんだよ。でも、それだけだとただ漠然と生きているだけだから狩りとか生態に合ったことをしてるんだ」

「そうなのですか」

『火竜は溶岩を泳ぎ、水竜は海を泳ぐ。風竜は空を飛び、地竜は大地を走る。光竜は闇を照らし、闇竜は光を貪る。華竜は樹を慈しみ、雷竜は裁きを落とす。精霊竜は生物と共にあり、死竜が終わりを歓迎する。という語りがあるぐらい竜はそれぞれの生き方があるぜ』

『もちろんそれ以外の竜もいるし、それぞれの生き方があるがな』

「たくさんの竜が居るのですね…。それで、魔力を食べさせるにはどうすればいいのですか?」

「この子の前に魔力を流すだけでいいよ。この子が気に入れば食べるし、気に入らなければ見向きもされないから」

「わかりました」


ティアが読んでいた冒険譚には竜がよく出た。

しかし、ただの竜として時にはドラゴンとしか書かれていなかった。

そんなティアなので竜が魔力を食べて生きているは知らず、レインが言った竜種の殆どを知らなかったが、まだ6歳なので仕方がない。

子竜に魔力を食べさせる方法を聞いたティアは、子竜の目の前に顔を近づけ、額から魔力を流す。


「きゅ…」


真っ白い体の表面にいくつもの傷がついた子竜は、力なくグッタリとしながらも目の前に流れるティアの魔力を意識した。

グッタリしているのは傷のせいではなく、ただ単に精霊竜に噛み付いていた影響で疲れているだけである。

のっそりと立ち上がり魔力に近づく。

魔力の流れや質を確認しているのかじっと見た後、出どころであるティアを見て魔力を口にした。


「きゅ…」

「食べました!」


ティアは魔力を額から出している。

そのため目の前には子竜の顔があり、食べる様が至近距離で見れる。

子竜なので恐怖は全くないが、これが先ほどの精霊竜であればティアを丸呑みできるほどの大きさなので無邪気に喜べない。

そんな子竜は魔力を口に含んだ瞬間から、固まっている。

【看破】で見れば子竜の突き出た口の端からティアの魔力が出ていて、それが額に繋がっている状態で、子竜はティアを見つめている。


「おいしくないのでしょうか?」


さすがに魔力を口に含んだ直後から微動だにしないので心配になったティアだったが、ティアの疑問に答えるかのように勢いよく食べ始めたので杞憂に終わった。

一心不乱に食べるため、どんどん魔力を出す。

体の大きさよりも食べた魔力の方が多いが、即座に吸収されるためお腹が膨れることはない。


「たくさん食べますね」

「だねー。それだけ美味しいんじゃないかな」


ティアの出す量が遅いのか徐々に近づきながら食べる子竜。

むしろ飲んでいる。

やがて飛び上がってティアの額近くまで寄ってきたので、慌てて出す量を増やした。

すると、魔力に押し戻されるように岩の上へと戻ったので、そのまま流し続ける。

そんなやりとりを挟みつつもしばらくすると食べるのをやめたので、ティアも魔力の放出を止めた。


「お腹いっぱいになったのでしょうか?」

「きゅ!」


今度はティアの疑問に対して鳴いた。

すると子竜が光り出した。


「わっ」

「あ!」


突然のことに驚いたティアと、何かを思い出したペンシィ。

子竜が放った光は一瞬で、収まった頃には傷が治り、真っ白い鱗が太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


「治りましたね。これが活性化ですか?」

『活性化では光らないぞ。何か起きたんじゃないか?』

『うむ。ペンシィ殿は何かに気づいた様子だったしな』


3人に見られたペンシィは苦笑していた。


「あはは…。あー…その子、ティアちゃんの従魔になってる…」

「え?!」

『マジか』

『ほう』


ペンシィの答えに驚いたティア達は子竜を見る。

見られた子竜はティアを見つめて鳴いた。


「きゅきゅきゅー」


しかし、ティアとペンシィにはこう聞こえていた。


《うまかったのじゃー》


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