Page27「空飛ぶ?ティア」
子竜を見送った場所で、空を飛ぶことを宣言したティア。
飛ぶことにおいて先輩になる子竜を見て、何か気づいたらしい。
ちなみに、常に浮いているペンシィを参考にすることはなかった。
ティア曰く、『浮くということがよくわかりません』とのこと。
「それで、どうやって飛ぶの?」
「その前にまずは確認です」
ペンシィの疑問を他所にいつもの剣を一本出し、ゆっくりと飛ばす。
ある程度進ませると、横に回転、縦に回転、縦横無尽に飛ばし、しばらく続けたところで剣が消えた。
「【複製】したものを動かす練習?」
「そうですね。消えるのは困るので多めに魔力を入れて、長時間出せるようにすればいけると思います」
「え?どういうこと?もしかして…」
ペンシィが言葉を続けるよりも早く、ティアが何かを【複製】した。
それは盾だった。
冒険者が持つ丸盾ではなく、騎士が持つようなしっかりとした四角い盾だった。
その盾の持ち手を上に、防御面を雪面に付けて置く。
盾の置き方を見て、ペンシィは自分の考えが間違っていないことを確信した。
ティアは盾に乗って飛ぶ気である。
「やりたいことはわかったけど…なんでそんな考えになったのかな?」
「先ほどの子竜さんがスノーラビットを咥えて飛んでいました。それを見て、私が飛ぶのではなく、飛ぶものに運んで貰えばいいと考え、【複製】したものを飛ばして、それに乗ることにしました」
「なるほど…盾が子竜で、ティアちゃんがスノーラビットなんだね」
「そうですね。私がウサギさんです」
「もう一個聞くけど、なんで盾なの?身を守るため?」
「そうです。下から襲われたときのためです」
「う〜ん。まぁティアちゃんの魔力量があればできる気がする…今まで聞いたことないけど。まぁやってみればいいんじゃないかな!」
「はい!」
元気よく返事して盾の上に座る。
中央に持ち手があるため、中央より下にお尻をつけ、持ち手近くに膝がくるように座り、持ち手を握っている。
このまま飛べばティアの重さの分、ティア側が下がり斜めになるはずだ。
飛んで来るのを正面から見れば、斜めになった盾の前面によって、ティアの姿が隠れてしまうため、空飛ぶ盾という新種の魔獣か怪談認定されることは間違いないだろう。
「飛びます」
そう宣言し、盾を浮かすティア。
そして、ペンシィが密かに予想していた通り、斜めになった盾からティアが落ちた。
ティアは運動が苦手なので、盾の上でバランスが取れなかったのである。
幸い、スノーラビットと戦う時に突き立てた剣の柄ほどの高さだったことに加え、下が雪だったため怪我は無かった。
「あはは…盾を飛ばすだけだったら簡単だろうけど、それに人が乗った状態で飛ばしたとなると、その人の分飛ばし方を考慮する必要があるよね」
「飛ばし方ですか?」
「うん。ティアちゃんの重さで盾が傾いたでしょ?傾くこと前提に前の部分を下げるように操作してもいいし、もっと大きな板とかを出して、バランスを崩さないよう真ん中に座るとかかな」
「なるほど………わかりました」
何か思いついたのか、立ち上がって雪を払い、出していた盾を収納して新たにタワーシールドを出した。
軽く湾曲していて、ティアが2人並んでも覆えるほどの横幅、縦幅も同様に2人分以上ある。
そのタワーシールドを先程と同じく、防御面を雪面に付けて上に乗る。
今度は持ち手に被さるように四つん這いになる。
飛ばす盾に座ると、バランスを崩しやすいことに気付いたようだ。
「飛びます」
盾をゆっくりと上昇させる。
やはりバランスを崩すが、手足に力を入れることでなんとか耐える。
そのまま柄より高く浮かんだところで、盾を横に回し周囲を見る。
「私、飛んでます!」
「うん、まぁ…飛んでるってことでいいのかな?飛んでるのは盾なんだけどね…」
笑顔で盾を横回転させるティアと、成功したことにどこか納得のいかないペンシィ。
ティアは横回転を止めると、坂に沿って登っていく。
その速度は慣れない雪山を歩くよりは速いが、大人が歩くよりも遅い。
「ティアちゃん。もうちょっと速く動かせる?」
「………無理ですね。もう少し速くできそうですが、バランスを崩して落ちます」
少し速くしようとしただけで左右にフラつく。
ティアが乗っていなければもっと速く動かせるが、それは盾を動かすことだけに集中できるからであって、乗ることにも意識を割かなければならない今の状態では速度は出せない。
まだ慣れていない魔力操作に加え、体勢を維持する必要もあるため、今はこれが限界だった。
「そっか。歩くよりはちょっと速いから、しばらくそれで移動してみる?」
「そうですね。ただ、もう少し高く飛んでみますね」
「大丈夫?高さはアタシが合わせるけど、落ちないでね」
「気をつけます」
そのまま上昇する。
速度は出せないが、高くすることはなんとかなっている。
今いる場所は比較的風が少ないため、バランスも取りやすい。
それでも、ある程度の高さになったら怖くなったのか、徐々に下がっていった。
最終的には一階の屋根程度の高さで落ち着いたようだ。
「ひゃっ?!」
しばらく進んでいると、盾の防御面に何かがぶつかってバランスを崩した。
バランスを維持するのに精一杯なため、下を覗く余裕がない。
ティアの代わりにペンシィが下を覗く。
「スノーモンキーが二匹いるね!雪玉を投げてきてるよ!」
「本を開く余裕がないので降ります!」
ペンシィの報告を聞いて戦うことを考えたが、両手はバランスを保つため、盾に付けている。
これでは本を開くことはできず、【複製】できない。
また、魔法で応戦しようにも、相手の位置がわからない上に、魔力を上手く出す余裕もない。
結果として降りるしかない。
雪玉が飛んでくる中ゆっくりと高度を下げる。
スノーモンキー達は、雪玉のおかげで飛んでた何かが降りてきたと思い、投げるのをやめて近づいていく。
地上が近くなった瞬間、盾を斜めにして滑り、足から着地する。
もちろん、膝と手をついた。
防御面をスノーモンキーに向けて盾を構えているので、余裕をもって立ち上がり、本を出していつもの剣を準備する。
「えいっ!」
盾を上に動かし、準備していた剣をスノーモンキーに向かって飛ばす。
スノーモンキー達は、目の前の壁のようなものが上に動いたことに気を取られ、無防備な腹や胸に剣を突き立てられる結果となった。
「スノーモンキーだとあっさり倒すんだね!お腹付近に刺さっただけで倒せてるから素材も取れそうだし、時間の止まる異空間に入れておいてくれる?町に着いたら売ろう!」
「わかりました。おサルさんから向かって来てくれるのでウサギさんよりは当てやすいです」
【貴重品入れ】に二匹のスノーモンキーを収納しながら戦闘について話し合う。
「そっか〜。それはいいんだけど、攻撃されたら降りないと何もできないんじゃ空は飛べないね〜」
「………ペンシィさんや、精霊さんに戦ってもらうのは無理なのですか?」
しばらく考えて、自分ができることで対処できないと思い、ペンシィや精霊の力を使えないか確認する。
「アタシが戦うとティアちゃんの経験にならないからダメだよ!もちろん、ピンチになったら守るよ!でも、今はまだたくさん経験しないと!あとは精霊だね。精霊は補助がメインになるから厳しいかなぁ。武器に宿らせて、その属性で攻撃する感じ。もちろん魔術を使うこともできるんだけど、そこまで威力はないんだよねー」
「そうなのですか…」
ペンシィの言いたいこともわかるので、強く言えない。
物量で無理矢理戦っているだけなので、戦法も増やしづらい。
魔法を織り交ぜて戦えれば戦法は広がるのだが、火は精霊樹を燃やし、水はクリスに吹き飛ばされ、風は強風と髪を乾かすのに使ったぐらいなので、戦えるかわかっていない。
火や水のせいで若干の苦手意識もあるので、使う決心がつかないのもある。
また、夢である空を飛ぶということが叶いそうにはなったが、今のティアでは戦闘になると対処できないため、しばらく使わないことになった。
それで落ち込んでしまう。
落ち込んだティアを見ていたペンシィは、しばし考えた後戦力増強案を口にする。
「まぁたくさん精霊が居るから、ぬいぐるみにでも宿らせればある程度戦えるかもしれないね。もちろん、たくさん魔力を使うことになるけどやる?」
「ぬいぐるみゴーレムですか?!もちろんやります!」
「おぉ…さすがの反応」
ぬいぐるみの話をする時点で、ティアがこうなることは覚悟していたペンシィだったが、ゴーレム化までは考えていなかった。
『マリオネット』と呼ばれる魔力の糸で人形を操作して戦う魔術がある。
それを教え、ティアの代わりに接近戦を行えるようにし、上空からぬいぐるみを操れるようになればいいなという程度だった。
精霊を宿らせれば、さらに威力が上がり戦いやすくなるはずなので。
「残念だけどゴーレムはまだ先だね!今のティアちゃんは接近戦ができないから、ぬいぐるみに魔力を纏わせ、ティアちゃんが操って接近戦をする感じかな!」
「私の代わりにぬいぐるみが接近戦…ですか?」
「そうだよ!ティアちゃんが魔力の糸でぬいぐるみを操るの!どう?」
「やってみたいです!」
「わかった!じゃあこの周囲に結界を張って練習しよう!」
「わかりました!」
元気な声と共に結界を作り始める。
今回は空からの攻撃にも備えて、四方と上を覆うように半円の結界を張った。
その後本を開いて、倉庫のぬいぐるみを確認しだした。
どのぬいぐるみを使うのか、真剣に悩んでいるようだ。




