Page25「快適異空間作成開始」
フィーリスから送られた箱を、一応時間が進まない異空間に入れて異空間の拡張ほうほうを話し合う。
「じゃあ異空間を快適にするための基本を説明します!」
「よろしくお願いします」
石畳の広い空間に直置きされた椅子に座り、収納していたカタログを読み始めたティアを呼んで説明を始めた。
「まずこの空間がティアちゃんの魔力でいっぱいになってるのはわかる?」
「はい。私の魔力で拡張しているからですよね?」
「そうだよ!で、もし何かを作る場合、ティアちゃんが魔力を出して、その魔力で作るの!」
「なるほど。【複製】みたいなものですね?」
「んー。大体あってるね。この空間から外に魔力が出て行かないから時間制限がない【複製】って感じかな?」
「外に魔力が出ないのと、時間制限がなくなる関係がわかりません」
「えっとね、外だと徐々に魔力が溶け出して、形が崩れちゃうんだ。でも、この空間だとティアちゃんの魔力で満たされてるから、溶け出す空間がないんだよ。もちろん、空間に満ちてる魔力を減らせば溶け出した魔力が流れる余裕ができるから、時間制限はついちゃうよ!」
「なんとなくわかりました。それで、これからどうすればいいのですか?」
「まずはティアちゃんの住む家を仮で建てようと思います!」
「家ですか?それも魔力で作るのですか?」
「そうです!材料を揃えて、建築してもいいし、すでに建ててある建物を収納してもいいけど、今の状況だと作るしかないからね〜」
雪山に建築に使える材料はなく、探せば使われていない建物もあるかもしれないが、あったとしても朽ちているはずである。
そうなると魔力で壁や天井を作り、家具を配置するしかない。
「なるほど…具体的にはどうすればいいのですか?」
「それは簡単!いつものように【複製】するだけ!検索する対象が武器じゃなくて建物や壁とか天井になるんだよ!まぁ今は建物を作ればいいかな。いらなくなったら魔力を吸い出して無くせばいいだけだし」
「そうですか…取り敢えず家を検索しますね」
まだよくわかっていないティアだが、取り敢えずやってみることにした。
家を検索すると大量に出てきた上に、一人で住むには明らかに大きい貴族用の建物ばかりだった。
そこから「一人」「小さい」「二階建て」等の条件を追加し、【複製】するに至った。
複製するとき時間について思考することなく出せた。
出てきた二階建ての小さな家は普通の木造住宅だった。
見える範囲の一階に窓が一つ、二階には二つある。
「できました?」
「できてるよ。なんで疑問系?」
「中が見えないので…」
「じゃあ入って確認しよう!」
「わかりました」
扉を開けて中に入ると廊下が続き、右に曲がるとキッチン兼リビングがある。
廊下からリビングに入ると、左手にキッチン、右手中央に外から見えた窓、右手すぐには二階へ上がるための階段がある。
「何もありませんね」
「まぁ家だけだしね!」
二階に上がると廊下に二ヶ所窓がある。
それぞれの窓の向かいには扉がある。
扉の中はティアの部屋より少し狭い程度で、奥に窓があった。
それが二部屋ある。
「なんで二部屋?」
「部屋の数などは載ってるんですが、間取りがわからなくて…よくわからなかったので一番上にあるやつを出しました」
「あー。他の人はどうやってるんだろう。アタシが知ってる人は城どーんってした人と、建てた物を入れる人だけだから…まぁしばらくはこれでいいんじゃない?いつか建てた物を入れてもいいんだし」
「それはそうですが…お家は高いんじゃないでしょうか?」
「うーん。高いけどやりようはあるかな。材料を持ち込んで作ってもらうとか、安く作ってくれる人を探すとかいろいろだね!」
「まずはお金を稼がないとダメですね」
「そうだね!お金の稼ぎ方は町に着いてからでいいかな!雪山では獣の素材を集めるぐらいしかできないし」
「わかりました」
司書がお金を稼ぐ場合、司書の仕事に加え、冒険者や商人としての仕事、専属司書契約や、祝福の力を使って稼いだりする。
ティアは全ての祝福を受けているため金の卵である。
しかし、今は雪山を進んでいるだけなので、雪山にある様々な素材や獣を狩るぐらいしかできない。
また、ティアは何が売れるかわかっていないので獣だけをターゲットにしている。
ペンシィが売れるものを判断しようにも20年間自分の空間に引きこもっていたので、何が売れるのかわからないので言わなかった。
「じゃあ、外にある家具を運ぼう!」
「え?!家具は重いです!」
「そりゃ重いよ?でも外にはティアちゃんの魔力があるから、腕を作って運び放題だよ!」
「なるほど…できそうですね」
「がんばろー!」
階段を降り、廊下を通って外に出る。
出た瞬間ティアがキョロキョロと周囲を見回したが、何も言うことなく家具が集まっている所に行く。
「じゃあ、少しだけ自分の魔力を出して、周囲の魔力と混ぜるように腕を出してくれる?慣れてくると魔力を出さなくてもできるようになるけど、今は無理だと思うし。魔力を追加した分少し広がるけど、そこは気にしないでいいよ」
「わかりました」
前髪を少しだけそよがせて魔力を出し、周囲の魔力と混ぜるように渦を巻くように流した。
周囲にあった魔力と混ざり合い、少ない魔力で大きな腕を作り出せた。
「本当すぐできちゃう!優秀だよね!」
「ありがとうございます!」
作った腕でベッドを持ち上げ、家に運んでいく。
時折よろけるもなんとか階段を登り奥の部屋に置いた。
続けて机、クローゼット、机、イス、ぬいぐるみ、その他小物などを運んだ。
運び終わったティア達は外で話し合っている。
「外の風景が寂しいんだよね?」
「そうです。石畳がひたすら続く風景が寂しいのです」
「んー。ティアちゃんはどうしたい?」
「草原とか、湖とか、自然が欲しいです」
「それぐらいだったら時間と魔力がかかってもいいなら作れるよ!どんな感じにしたいの?」
「できるのですか?!時間がかかるのは仕方ないですし、魔力は好きに使ってください!それで、湖は家の裏に欲しいですね!遠くに山があって、滝から川につながって湖に流れ込んでて欲しいです!」
「ほ、ほうほう」
「あとは家と湖の周りには柔らかい草原が広がっていて、花畑や森も欲しいですね!」
「な、なるほど」
「他にも色々ありますが、まずはこれくらいですね!」
「うん!できなくはないから頑張るね!」
「お願いします!」
言いたいことを言い切った満足げなティア。
ペンシィは肩を落としながら作るもののアタリをつけ始める。
軽くできると言ったはずだが、山や滝まで作らなければならなくなった。
後悔しながらも、完成系を想像してニヤつき始めた。
勝手に異空間を広げるくらいには、好きだった。
ただ、ティアの要求が予想以上だっただけである。
「軽くやってみるからティアちゃんはそろそろ寝ていいよ」
「わかりました。ありがとうございます」
精霊樹を守り、慣れない雪山を登り始めたティアの疲労はピークに達していた。
家具を運んでよろけた内の半分は眠気で、残り半分はただ単に、腕の操作を誤ったのが原因だった。
「おやすみなさい」
「はーい、おやすみ〜」
家に入っていくティアを見送り、ティアの魔力を引き出して湖の穴を作り始める。
明日は何を目的にするか考えながら。