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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
旅立ちと 封印都市と 勇者と魔王
20/106

Page20「封印都市メモリア」

記録管理機構メモリアの中央に位置する精霊樹は、精霊メモリアから魔力を供給されて育ち、その魔力を糧に精霊が住んでいる精霊達の家に値する。

精霊は魔力で構成された意思のある生物なので、常に魔力を必要としている。

体の維持のため魔力を多く含んでいる物や人に宿ったり、魔力の多い場所でゆっくりと過ごしている。

そんな精霊樹の東西に、精霊樹より大きな本が一冊ずつ、樹を守るように置かれている。


「ティアちゃん!西から闇属性の攻撃!東からも光属性の攻撃が来てるよ!」


轟音が響き、太陽の光が隠れるほどの闇属性の攻撃がメモリアの結界に阻まれている状況で、ペンシィが光属性の攻撃も逆側から来ていることを伝えに降りてきた。


【看破】で空を見上げると迫り来る闇を阻むように、薄っすらと膜のようなものが見える。

メモリアの周囲を囲む円形の防壁から、地上と地下を含めて球場に張られている結界だった。

通常気候制御の範囲分けに使われる程度の名ばかりの結界だったが、それでもある程度の攻撃は防げることが幸いした。

広範囲を覆う結界は、どうしても脆い。

歴代の司書が何度も重ねがけを行った結果である。


「わ、私はどうすればいいのですか?!」

「このままだと結界が破壊されるから、建物を異空間に退避させるはずなんだ。その次が精霊樹だからそれまで守るのが仕事だね!遠距離魔法攻撃っぽいし本で戦闘用の異空間に流せばいいだけだから大丈夫だよ!精霊樹が退避された後はティアちゃんも異空間に退避すれば安全!」

「えっと…私にできるでしょうか?」

「大丈夫!大丈夫!奥の手もあるしね!」

「奥の手ですか?」

「うん!使うときに話すよ!っと、そろそろだね…」


ティアの足元に様々な色に光る線が浮かび上がった。

周囲にも何本かの線や、見たことのない文字が浮かび上がっていた。


「あの、これは何でしょうか?」

「これは異空間に収納する時の魔術陣だね!ティアちゃんが出し入れしてる時は魔術として発動してるから陣は出ないんだけど、今回のは大きいから陣を使うんだよ!魔術とか陣とかの説明は落ち着いてからね!」

「は、はい」


上から見ると、精霊樹を中心に建物を囲うように幾本もの線と複雑な文字が絡み合った魔術陣が描かれていることがわかるが、ティアは地上にいるため近くに描かれた線しか見えない。

この魔術陣はペンシィが説明した通り、メモリアが管理する異空間に収納する魔術を陣にしたもので、あらかじめ対象と設定している物を、陣に触れた部分から収納している。

地下にある施設から収納しているため、地表に出てくるまで時間がかかっていたのである。

また、建物と精霊樹は別の空間に収納する設定をしているため、別々に収納するしかなかった。


その足元に浮かんだ線が徐々に浮き上がり、やがてティアの膝まで上がった。

初めて見るものに対して恐怖より興味が勝るティアは落ち着いて様子を伺うも、靴も靴下も変わらず、目の前にある自分が出した本もそのままだった。

後ろにある精霊樹や、ティアに群がる精霊への影響もなかった。

ティアの周囲には影響がなかったが、精霊樹と本の隙間から横目に見える建物には変化があった。

魔術陣が地面から空に向かって上がっていくため、建物の下から収納されていく。なので残った1階の中ほどから上が空中に浮いていた。

その光景をジッと見ているティアにペンシィが声をかける。


「下から収納してても、収納先とは繋がってるから落ちることなく浮いてるんだよ」

「えっと、魔術陣で切れているように見えますが、実際には切れているのではなく、異空間にある1階部分と繋がっているということですよね?」

「そうだよ!」

「なるほど…」


建物の最上階である3階の半分を超えたあたりで、結界に異変があった。

闇に覆われた膜にヒビが入り始めていた。

ヒビは防壁から上空に向かって徐々に伸びている。

よく耳をすますと、光属性の攻撃が来ている逆側からもピキピキパキパキと結界にヒビが入っている音が聞こえる。

ティアはヒビが伸びている空と収納されていく建物へと頻繁に視線を移しながら焦り始める。


「大丈夫なのでしょうか?」

「どうだろう。多分収納は間に合うはず…」


収納状況を確認しているペンシィに、いつもののんびりとした雰囲気はない。

そのペンシィの目は、建物を確認した後、空へと向けられた。

結界のヒビが大きくなり、反対側のヒビと繋がるのも時間の問題だった。

また、繋がらなくとも縦横無尽にヒビが入っているため、所々結界が剥がれ、攻撃が結界内に流れ込み始めていた。


「あ…」


ペンシィが小さく声を上げたと同時に、割れた結界から流れ込んだ黒い線が魔術陣に当たり、当たった部分が黒くなり色が変わらなくなった。


「まずい…」

「どうしたのですか?」

「魔術陣に攻撃が当たったところが黒くなってるでしょ?あれは陣を作った魔力と、攻撃してきた魔力がぶつかった結果、攻撃してきた方が勝っちゃったの。あれぐらいなら影響はないけど、もっと増えると収納に時間がかかったり、最悪途中で終わっちゃうかもしれないんだ…幸い建物は無事終わるところなんだけど…」


その言葉通り建物が消え、役目を果たした魔術陣も消えた。

残されたのは一部が崩壊している防壁と結界、土がむき出しになった建物跡、精霊樹と草原だった。

その草原には先ほどの魔術陣に落ちた闇属性の攻撃が溢れ出した黒い線だけでなく、白い線も混じっていた。

それは逆側の結界も破れ始め、光属性の攻撃が流れ込んできていることを意味する。


「次は精霊樹の収納ですよね?」


横目に見える空から降ってくる白と黒の線に不安な表情を浮かべるティア。

それに答えるペンシィの表情は苦いものを口にしたときのように歪んでいる。


「今の状況じゃ…無理ね…。陣を展開しても攻撃にやられて失敗するだろうし、防壁ももう崩壊するだろうから空からじゃなくて直接流れてくるし」

「では、精霊樹はどうしますか?」

「精霊樹は守れない」

「そんな!精霊さん達の住処ですよ!住処がなくなった精霊さんは徐々に弱って最後には消えてしまうんじゃないんですか?!」

「そうだよ…だから、精霊樹に宿る精霊達には、ティアちゃんに宿ってもらうおうと思ってる」

「私に…ですか?」

「うん。ティアちゃんの魔力量が異常だからできるんだけどね…メリットは精霊の祝福を受けた時よりも効果が上がることかな。攻撃も防御も。デメリットは常に魔力を取られるんだけど、微々たるものだしそこは心配ないかな。後は精霊の意図がなんとなくわかってくるから、お願いを聞かないとうまく動いてくれなくなるぐらいかなぁ」

「わかりました。宿ってもらいます!」

「即決だね!」

「はい!そうしないと皆さん消えてしまいますし…それは嫌なので!」

「わかった!じゃあ手っ取り早くティアちゃんの異空間を拡張して、そこを【精霊用】って名前にするね!全員そこに入れて終了!」

「そんなに簡単なんですか?」

「本来はもっといろいろうんざりするぐらい複雑なんだけど、ティアちゃんの場合精霊達から望んできてくれるらしいし、ティアちゃんの魔力でできた場所に入った時点で宿ることになるんだ!だから簡単!」


ペンシィの言葉を肯定するかのように、精霊樹に宿る全ての精霊がティアに群がった。

その間にペンシィがティアの魔力で異空間を作る。

名前はさっき宣言した通り【精霊用】で作成した。


「異空間を【精霊用】で作ったから本を出してくれる?精霊を入れるだけだから開いてるだけでいいよ!」


いつ防壁が壊れるかわからない状態なので、チラチラ見つつもティアに指示を出す。

ティアが本を出して開いたと同時に、また地面に線が浮かび上がった。

先ほどよりも小さい魔術陣のため、ティアの目に映る線や文字はさっきより多かった。


「精霊樹を収納するのでしょうか?」

「多分ダメ元でやるんじゃないかな。ティアちゃんに精霊を宿らせることはメモリア様経由では伝えてるけどね。精霊樹が無事だったら戻せばいいだけだし、こっちはこっちでやろう!」


ティアの周囲に漂う精霊達に指示を出すと、我先にと本に飛び込んで行く。

一度に5、6体の精霊が入っていくがまだまだ終わる気配がない。

その光景を眺めていたティアの耳に東西から轟音が聞こえた。

防壁が崩れたのである。

その直後東西に開いて置いていた本に衝撃が走った。

防壁を破壊した攻撃が本に届いた結果だった。

ティアはとっさに本を操作し押し返そうとするも、攻撃の勢いの方が強く、さらに力を込めてなんとか拮抗状態にまですることができた。

しかし、その状態は実戦経験に乏しいティアにとってはこの状態を維持するのも苦しいもので、今のまま異空間に退避することは不可能に近い。


「ひとまずティアちゃんを浮かせて本で開けた穴に入れるから、本の維持に全力を出して!」

「わかり…ましたっ!」


気合を入れて三冊の本を制御するティアを風魔法で浮かせ、ゆっくりと移動して、本で開けた穴に横たえた。

ティアが立っていた場合頭が出る程度の深さしかなかったが、寝かせる場合すっぽりと入るどころか余裕があるほどだ。

その隙間にペンシィも入る。


「次はこの穴を塞ぐように結界を出して!本よりティアちゃん優先で!」

「うぅ…」


本を制御しながら額から魔力を出し、なんとか結界を作る。

作った結界は穴にピッタリとはまっている。

結界を作れたことで気を抜いたのか本が大きく後退する。

ちょうど結界の上に本が乗ってしまったため、周囲の様子を確認することができない。

それでも本に意識を集中すること数分。

何かが倒れる音と共に大地が揺れた。


「多分だけど精霊樹を収納していた魔術陣が壊されちゃって、切断された精霊樹が倒れたんだと思う」

「そんな…」

「あと少しで精霊達が全員入るからもう少し耐えて!」

「わかりました…!」


精霊樹が倒れたことで少し動揺してしまい、さらに本が後退する。

ティアの出した結界の一部から闇属性の攻撃が見えた。

このまま防壁の結界と同じようにヒビが入り、やがてティアにも攻撃が当たってましうかもしれない。

そんな想像がペンシィの脳裏を過ぎり、歯を食いしばった瞬間、攻撃が収まった。


「終わった…?ティアちゃん!本に手応えある?!」

「い、いえ…急に軽くなりました」


突然のことで目をパチパチさせながら防御に使った本を浮かし、結界を消して立ち上がる。

まず初めに目にしたのは、攻撃の跡だった。

大地が黒く染められ、禍々しい雰囲気が漂っている。

その染められた先には壊れた防壁が見え、その向こうにある雪山が見えた。

振り返ると横に倒れた精霊樹があった。

攻撃は直撃していないものの、勢いによって大部分の葉が散らされている。

その前には開いたままの本があり、周囲には精霊隊の姿がない。


「精霊達は全員ティアちゃんの異空間に入ったみたいだね」

「そうですか…精霊樹は守れませんでしたが精霊さん達が無事なのはよかったです」

「むしろ収納しなければ葉が散るだけで終わったかもしれないけど、あの時は収納する破談しかできなかったし、仕方ないよ」


ペンシィがティアを慰めながら、次に何をするか考え始めたその時、ティアの本のページが光った。

クリスからのメッセージである。


「えっと『司書・準司書へ このメッセージは一斉連絡である。メモリアに対して決闘で放たれた勇者と魔王の流れ弾が直撃した。施設は収納したが精霊樹は守れなかった。また、メモリアにおける人的被害はゼロである。現在、収納時に流れ込んだ魔力の影響で、異空間内の魔力が大きく乱れている。異空間の移動、収納、取出しにおいて通常の数倍の魔力が必要となる。これを元の状態に戻すには数年かかる見込みである。しばらくは気をつけてほしい。最後に上記影響により、メモリアの全施設を異空間から取り出せなくなっている。いわゆる封印状態に等しく、解除するための手段は模索中である。各国への連絡は司書長である私から行うが、各員への問い合わせが多発すると思われる。各組合員は憶測等で不安を煽らないよう注意することを望む。 司書長 クリスティーナ・メモリア』とのことです」


クリスからのメッセージではあったがティア個人に向けたものではなかった。

クリスは司書の一覧を見てひとまず無事なことを確認してから対応を開始したのである。

いくら溺愛している孫でも組織のトップとしては事態の収拾に動かなければならない。

しばらく会えないことに心の中で泣いていたとしても。


「封印状態かー。厄介だなー」

「異空間に収納しただけですよね?なぜ封印になるのですか?」


そんなクリスの考えを知らないティアはペンシィと現状把握に努める。


「異空間制御中に攻撃が当たってたのは見たと思うんだけど、その影響で術が乱れちゃったみたいだね。通常なら魔術陣で出せばいいだけなんだけど、魔術が変質しちゃって出せなくなってるんだよ。で、出すためには変わった魔術を解析して、ちゃんとした手順じゃないと出せなくなってるんだよ。この解析して対処することを封印解除って言うから、今のメモリアは封印状態ってこと。古い遺跡やお城の宝物庫とか重要な場所は、それぞれの技法で封印されてたりするんだよ」

「なんとなくはわかりましたが、私の帰る場所が無くなったという認識でいいですか?」

「えっと…そうなる…かな」


ペンシィの返答を聞いて徐々に涙目になっていくティア。

普段はサボることに全力そそぐ脳をフル回転させ、対応方法を考えるペンシィ。

すぐさまメモリアに指示を仰いだ。


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