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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
旅立ちと 封印都市と 勇者と魔王
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Page15「教導戦 VS司書長 クリスティーナ・メモリア」

石を倉庫に入れ終わり、小川近くの草原で小川を見ながら一息ついているティアとその肩に座ってぼーっとしているペンシィ。


「精霊石いっぱいあったね〜。この精霊石を投げて使えば相手の魔法を消したり、出した魔法を強化できるからその練習も必要になるね〜」


ティアが倉庫に入れた精霊石は属性が違えど300個以上あった。

うまく売れば数ヶ月は暮らせるほどの価値があるが、ペンシィは売るつもりがないようだ。


「投げて使うのですか?強化はわかりますが消したりもできるのですか?」

「鍛冶でも使えるけど(微)だとそんなに強く無いからね〜。無理に投げずに置いた精霊石に魔法をぶつけてもいいけど、チャクラムの慣れのためにも投げていったほうがいいと思うよ〜。で、相手の魔法を消すのは、相手が使ってきた魔法の反対の属性を持った精霊石を投げる感じ。火と水、風と土、光と闇だね〜」

「なるほど…」


そう言ってティアは立ち上がり、倉庫から石を出して小川に向かって投げるが、小川には届かず河原に落ちる。

ちなみに投げたのは精霊石ではなく普通の石である。


「まぁ今はそれでいいんじゃ無いかな〜。いざって時はアタシが魔法で強化してあげるから〜」


さっきまで肩に座っていたペンシィは投げた時の動きで転がったのか、肩の上に仰向けになっている。


「あ〜ティアちゃんの肩は落ち着く〜」

「そうなのですか?」


そんなのんびりとした2人の背後からティアの祖母、クリスティーナが声をかける。


「ペンシィ。一通り教え終わったからくつろいでるんだろうね?」


その声に寝転がっていたペンシィは飛び上がり、クリスに向いた。

遅れながらティアも振り返った。


「も、もちろん教えたよ!でも、ティアちゃんはまだちっさいから剣とか振れないんだよ!教導戦はまだ早いと思うんだけど!」

「それはわかってるさ。ただ、習わしだからやらないといけないのさ。それが契約でもあるしね。ティア、ついてきな」


二人は草原を進み、周囲に何も無いところまでくると、少し距離を開けて立つ。


「今から教導戦をするよ。教導戦ってのは実戦訓練みたいなものさ。精霊からは使い方を教わるけど、実際に使うには戦うのが一番だからね」

「お祖母様と戦うのですか…」

「そうだよ。いくら魔力が強くてたくさんの祝福を受けていようが、司書になったばかりのティアには傷1つ付けられないから全力でやりなよ。まずは好きに攻撃してきな」

「えっと…少し時間をください」

「あぁ、構わないよ」

「ありがとうございます。ペンシィさん!」


ティアは近くに来たペンシィに相談する。


「あの…どうすればいいのでしょうか?」

「やるしかないね〜。新人司書を戦えるようにするのも司書長の仕事だからね〜」

「そうなのですか…あと、教導戦とは何でしょうか?模擬戦ではないのですか?」

「模擬戦は実戦訓練だけど、教導戦はティアちゃんが戦い方を覚えるためのものだよ〜。今のティアちゃんは大雑把にできることを知ってるだけの状態でしょ?知った力を実際に使ってみて、ダメなところを指摘してもらったり、アドバイスしてもらうんだよ。実力が離れてないとうまく教えれないしね〜」

「なるほど…今日学んだことを活かして戦うのであれば魔法と結界と本と羽ペンですね」

「他に戦闘に使えるのだと【看破】で見て本で叩きながら魔力を流せば【魔力破壊】【物資破壊】も使えるね〜。武器は使えないけどたくさん【複製】して物量で押しつぶすってのもできるけど、慣れてないティアちゃんには物量は厳しいから、クリスの進行方向に何か出して妨害するぐらいかなー」

「物量で攻めることもできるのですね…」

「そんなことできるのは魔力が多いティアちゃんだけだよ〜。あとは前にも説明した通り、普通の司書は魔法を使うほど魔力に余裕がないからクリスは魔法を使ってこないよ〜」

「接近戦になるということですか?」

「それはないかなー。ティアちゃんは武器を使えないし。クリスからの直接的な反撃はほとんどないと思ってていいよ。ティアちゃんが何かして、クリスが防ぐって感じだから」


直接的な反撃は無いが、間接的な反撃はあるということにティアは気づかなかった。


「なんとなくわかってきました…」

「んじゃアタシはティアちゃんが頑張ってる姿を記録しておくからがんばってね〜」


ペンシィは先ほどの草原に戻ると複数の光の玉を出し、ティアとクリスを囲むように移動させた。

これは司書の仕事の一つ【記録】の応用である。

本来であれば武術家や魔術師が己の編み出した技を記録してもらい、閲覧されるとお金がもらえるという仕組みだが、教導戦においては司書の動きを確認するために記録する。


「相談は終わったかい?」


クリスが本と羽ペンを出しながら問う。

本を右前方に開いた状態で浮かせ、右手に羽ペンを握っている。

左手は腰に当て普通に立っているだけだった。

熟練者が見れば構えていないのに隙がなく見えるが、ティアから見ればただ本を開いて立っているだけに見えた。


「は、はい」


ティアは両手を前に出した。いきなり魔法を使うつもりである。

当然突き出した手から魔力は出ず、額から勢いよく魔力が放出され、一瞬で水になった。放出した魔力の勢いそのままの水はクリスに向かって流れる。その勢いは荒れた日の川のようだった。


「魔法か…いいねぇ!」


槍の祝福を受けていないクリスは【看破】が使えない。

しかし、長年に渡る経験によって魔力の流れを見れなくとも感じることはできるようになっていた。

ティアが両手を前に出し魔力が動いた当初は、両手装備の何かを出すかと警戒し、手ではなく額から放出されたことで一瞬動揺したが、放出された魔力が結構な速さの流水になったことで切り替え、魔力量の多さで魔法が使えるという結論に至った。

伊達に歳は取っていない。


クリスは左手に大楯を出現させ、表面に結界を張って流水と地面の間に斜めに突き入れ、結界を広げて盾を上に振った。


結界に乗った流水は跳ねあげられ水飛沫となった。

その水飛沫の向こう側には両手を前に出した体制で、何が起きたかわからないという表情のティアが見える。


「戦場で惚けてる暇はないよ!」


そう言ったクリスは左手に持っていた大楯を消し、走り出しながら翠に輝くナックルガードを出現させ、装着した。


空中に結界を複数出し、それを足場に跳び上がるクリス。

ある程度跳び上がると左手を振りかぶり足場にしていた結界から飛び出る。


ティアからある程度離れたところに向かって落下、ナックルガードに包まれた左拳から落ちた。


体の芯に響く重い音が周囲に響き、バキバキと何かが割れていく音が聞こえてくる。

クリスが落ちた場所はクレーターとなり、周囲はひび割れ、地割れのように隆起していく。


「ひっ」


ティアが立っていた場所はクレーターの外側だったが、ひび割れていく範囲内だったため、揺れと隆起に耐え切れず尻餅をつく。

そして最初に跳ねあげられた水飛沫がクレーターを中心に降り注ぐ。

尻餅をついたティアも、クレーターの中で立ち上がったクリスもびしょ濡れだった。


クリスは濡れた前髪を掻き上げながらティアに問う。

その表情はいつもの祖母ではなく、戦闘を楽しむ者の表情だった。


「まだできるだろ?」

「で、できます」


ティアは急いで立ち上がりクリスに体を向け、本を開く。

鉄の剣を【検索】し、クリスの上に【複製】して落とす。

だが、クリスは降ってくる剣を見ずに左手で弾く。


「出す場所を見てたら予測されるよ」


司書でなければ視線で何かを予測することはできても、それが魔法か物理的なのかはわからない。

クリスではなく一般的な冒険者や武芸者であれば見てから避けている。

しかし、クリスはティア指先の動きで【複製】だと判断したため、魔法ではないと判断し弾くことにした。


対するティアは魔法も複製も弾かれたためどうすればいいかわからず固まってしまった。

しばらくそれを見たクリスは仕掛けることにした。

司書長としての仕事を。


「これで…最後にするよ!」


クリスは全身に魔力を巡らせ、威圧した。

ティアからするとクリスが何倍もの大きさに見えるほどの威圧だった。


過去数回怒られた時とは比べ物にならない威圧を混乱している状態で受けたティアの混乱は加速する。


「わあぁぁぁぁ!!!!」


深い混乱状態に陥り、本能的に目の前の存在を排除することに至ったのか、閉じた本に魔力を注ぎながらクリスに振り下ろす。


「なっ!?」


クリスに向けて振り下ろされた本は縦に振り下ろされていた。

縦に振り下ろされていたにもかかわらず幅がクレーターよりも厚かった。

手加減したとはいえクリスの作ったクレーターはティアがすっぽり入り、クリスの腰ほどの深さで、範囲はクリス二人分程の直径だった。

それを超える厚さの本が降ってくる。

クレーターの中で受ければ建物にも当たり、それは横にそらしても同様である。

クリスが取れる手段は空中で受け止めるか、ティアの意識を刈り取るかの二択だった。

使用者の意識がなくなった場合、魔法は維持できず消える。司書の本も同じく消える。


これが敵だった場合迷わず後者を選び、場合によっては息の根も止めるクリスだが、孫娘を殴ることなどできない。少なくとも今は覚悟ができていない。

当然空中で受け止めるしか無くなる。


「ふぅー」


大きく息を吐き、左手につけたナックルガードと右手に握っていた羽ペンを消す。


再度結界を足場にして跳び上がる。

跳び上がりながら一瞬光り、タワーシールドと共に白く輝くローブを着た状態になった。


空中に出した結界に立ち、タワーシールドを大きく振りかぶり、迫る本に向かって振る。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


硬いもの同士をぶつけ合った重い音が周囲に木霊する。


本と盾がぶつかり、足場にしていた結界にヒビが入る。

衝撃が伝わったのか川は氾濫し、窓ガラスが割れ、精霊樹がミシミシと音を立てた。


衝撃が収まり周囲が静かになったころ、本が小さくなり始めた。

込めた魔力が切れたのである。


クリスはヒビが入った結界から飛び降りティアの前に降り立つ。


「あー…悪かったね…。教導戦の一回目は格上の存在を教える決まりなんだ。ちょっとやりすぎたよ…」


本来であれば司書になるべく様々な訓練を行い、12〜15歳あたりで祝福を受けて司書になる。

訓練に加え祝福の効果で強くなる司書は調子に乗りやすく、それを諌めるため一回目の教導戦は少しやり過ぎる程度にする決まりであった。

しかし、訓練を行っていないティアには当てはまらなかった。

その結果…


「い、いえ…大丈夫です…」


ティアはクリスと目を合わせようとしない。

初めての戦闘が遥かに格上、それに加え祖母の戦闘力を目にしたティアは怯えていた。

当然、伸びてもいない鼻をたたき折られているので、もう少し続けていたら消えない傷ができていた。


「そうかい…大丈夫ならいいさ…。戦闘の振り返りはペンシィとしてもらうとして、普通に祝福された司書なら2、3日に1回のペースで教導戦をするんだけど、ティアの場合はしばらく基礎訓練だけにするよ」


怯えられていることに少し傷つきながらも司書長として新人司書の教育方針について話す。


「わかりました…」

「でだ、今から色々渡す物があるんだよ。全部にカードとか手紙がついてるからとりあえず異空間にしまって後で開けな」

「渡すものですか?」

「あぁ…」


質問する時でさえ目を合わせないティアにさらに落ち込むクリス。

クリスが落ち込むと不機嫌に見えるため、さらにティアが怖がっているが、そのことには気づかない。


気持ちを切り替えクリスは大小さまざまな箱を11個出した。

箱の上には手紙やメッセージカードが置かれているものから、箱そのものに文字を刻んでいるものもあった。


この箱は現在の司書からのお祝いの品である。

中身はそれぞれが活動している土地のものから旅の途中で見つけたもの、家族愛で満ちているものなどが入っている。


「とりあえず全部時間が経過しない方に入れな」

「わかりました」


ティアは出された箱を【貴重品入れ】に入れる。


「あとはこれだね。これをティアのベルトのバックルに当ててくれるかい」


そう言って差し出した手にはティアの手のひらに乗るほどの青い玉があった。


「はい」


ティアは恐る恐る受け取るとベルトのバックルに当てた。

するとバックルが青く光り、開いた本の絵に羽ペンが追加された。


「お祖母様と同じ絵になりました…」

「司書と見習い司書や準司書とを分けるのは羽ペンの有無だからね。これで外に出たら司書の仕事を頼まれるようになるさ。本当は祝福を受けた時点で渡さないとダメだったんだけど急ぎの仕事があってね」

「いえ、お仕事があったのでは仕方ないです。ありがとうございます」


お礼を言う時でも目を合わせないティア。

クリスはペンシィに丸投げすることにした。


「ペンシィ!見直しは任せたよ!あと、濡れてるから風呂に入らせといてくれ!」


呼ばれたペンシィが近づいてくる。


「あと、渡した箱の内容はあんたが把握してティアに教えるんだよ!」

「はーい!まかせといて〜!ティアちゃん行こ!」


二人は建物中に戻る。


クリスは八つ当たりのように自身の契約精霊のレイズを呼び出し、戦闘による被害を戻すように命令した。


本の中からやり取りを見ていたレイズは、即座にその仕事に取りかかった。

下手に話すとさらに落ち込みめんどくさくなること間違いなしなので。


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