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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
旅立ちと 封印都市と 勇者と魔王
13/106

Page13「メモリアのキッチン」

きゅう〜。

ティアのお腹から空腹を知らせる音が鳴る。

いつものティアなら昼食を終え、精霊樹の下でお昼寝の準備をし始める時間になっていた。


朝からメモリアに会って祝福を受け、部屋に戻ればペンシィから祝福の説明。

その説明の中では体を動かす事もあった。

新しいことを知る興奮で昼食の事は忘れていたティアだったが、ひと段落した今はもう我慢できず、赤くなりながらお腹を押さえることしかできない。


「あ〜。戦う練習する前にお昼ご飯にしようか…」

「はい…」


空腹のせいか、あるいはお腹の音を聞かれた恥ずかしさからなのか、足取りの重いティア。

そんな状態でも覚えたばかりの【荷物入れ】から自分の靴を出し、ピンクのスリッパを【荷物入れ】に収納するぐらいには余裕があった。


部屋を出て食堂に入る2人。

既に昼食の時間は過ぎているため、クリスの作った昼食がキッチンの前にある受け取り口に置かれている。


「お祖母様はもう済ませているみたいですね」


言いながらプレートを取ろうとするティア。

まだ子供のティアからすると受け取り口は高い。

つま先立ちになって手を伸ばして取る。

それを内心ドキドキしながら見ているペンシィだったが、ティアは慣れた手つきでプレートを取り、近くのテーブルに向かうティア。

ペンシィはついて行きながら気になっていることを聞く。


「そのご飯はクリスが作ってるの?」

「はい。いつもお祖母様に作っていただいています。もっと司書の方が多いと持ち回りになるそうなのですが、今は私とお祖母様の2人だけなので…」

「そうなんだ…」


ペンシィは周囲を見渡した。

ティアの座っているテーブルは8人掛けの長机の端。

同じテーブルが4つずつ3列並べてある。

片方の壁には窓があり、そこから精霊樹が見える。

厨房には調理器具が並べてあるが、具材を保存する場所が無い。

食材は異空間にある農場から必要分だけ取り出すのが司書のやり方なのである。


テーブルに着いたティアは椅子に座り、食べ始める。

メニューは柔らかく焼いた白パン、野菜スープ、サラダ、鶏肉の塩焼き、ミルクだった。

ペンシィは食事を必要としない精霊のためぼーっとしている。

もっとも、必要としないだけで食べることはできる。ただ、クリスが作っている料理が普通すぎたため食べる気にならなかっただけだった。


「そういえば、ティアちゃんは厨房に食材が置いてない理由を知ってる?」

「いいえ、知りません。ですが今ならわかります。倉庫のような異空間から出しているのですよね?」

「う〜ん。半分正解かな〜」

「半分ですか?」

「そう!半分!異空間から出してるのは正解なんだけど、倉庫じゃなくて農場がある異空間から出してるんだよ」

「農場…異空間に……。あ、時間が進む空間だったら可能なんですね。でも管理する方が必要ですよね?」

「そうだね〜。管理や農作業はゴーレムがやってるよ〜」

「ゴーレムですか!?…農作業にゴーレム…」


ティアは鍬を持った岩や土でできたゴーレムが、一生懸命畑を耕している光景を想像して顔をしかめる。

そんなティアを見たペンシィは首をかしげる。


「あれ?んー…ティアちゃんが知ってるゴーレムってどんなやつ?」

「私が本で読んだのは遺跡や宝箱を守っているゴーレムですね」

「それは冒険譚に出てくるやつだね。今はそんなのほとんど残ってないよ。今の時代のゴーレムはサポート用が殆どで、売り物にもなってるはずだよ〜」


冒険譚に書かれているゴーレムは遺跡や宝箱を守っていて、主人公たちに倒される描写が多い。

しかし、今は殆どの遺跡が発見され、宝箱も開けられている。

まだ見つかっていない遺跡があればそういったゴーレムが存在するかもしれないが、探索しやすい場所は探し尽くされているため、過酷な環境を探すしかない。

例外としてダンジョンモンスターと呼ばれる建造物型モンスターの内部ではゴーレムが宝箱を守っていることもあるが、出会う確率は非常に低い。

また、ゴーレムは精製方法こそ秘匿されているが、用途ごとに分けて販売されている物でもある。


「そうなのですか…」

「ティアちゃんは冒険譚しか読んでないの?」

「冒険譚を中心に商人さんが置いていく商品リストを見るぐらいですね。技術や魔法などの本はもう少し大きくなってからと言われて読んでいません」

「なるほどー。そのリストにはゴーレムは無かったのかなー。じゃあクリスの手伝いは何してるの?」


実際にはリストにゴーレムはあった。

あったのだが『ゴーレム』という名前では書かれていなかったため、ティアは気づいていなかっただけである。


「新しく入ってきた本を分類分けして箱に入れる作業ですね。その箱を図書館エリアに運ぶのは他の方が行っています。それ以外はお祖母様から渡される冒険譚を読んでいますね」

「本の仕分けかーめんどくさいからやりたく無いなー。ちなみにクリスはなんで冒険譚を渡してくるの?」

「『将来の戦い方の参考に』とのことです」

「ふ〜ん。参考になるのかな〜。あ、ごめん!先にご飯食べちゃって!」


ペンシィは話すのに夢中でティアの食事が止まっていること気づき、続きを促した。

ティアは小さな口を一生懸命動かしながらチマチマと食べている。


ティアが食事を終え、プレートとコップを返却口に運ぶ。

ティアは今のところ嫌いな食べ物がないので、綺麗に食べている。


「さっきの続きだけど、そのプレートを洗ってるのもゴーレムなんだよ〜」

「そうなのですか?いつもお祖母様が下げてくださるので、そのまま洗っているのだと思っていました」

「ティアちゃんをクリス管理の異空間に連れていっていいかは聞かないとダメだけど、そのプレートが異空間に消えるのを見せるのはティアちゃんも異空間の能力持ってるから問題なし!どうせだし見てみる?」

「見ても問題ないのでしたら見たいです」

「まぁそんなに楽しくないけどね…しばらく待ってたら見れるよ〜」


そう言われて少し離れた椅子に座り、返却口に置いたプレートを見つめるティア。

床に立ったままだと返却口が高くて見えないのだった。


しばらくすると返却台を挟んだ向こう側の空間が揺らいだ。

揺らいだ空間の中心には横に線が入り、線が上下に開いた。

開いた先は暗くて見えないが、水が流れる音が聞こえてくる。

その異空間から球体関節の腕が二本出てきてプレートとコップを掴み、異空間に引っ込んだ。


空間の向こうから『ザバザバザバザバ………キュッキュ』と音がすると、異空間からプレートとコップを掴んだ球体関節の腕が出てきた。

そのプレートとコップは汚れが落ち、濡れていなかった。

腕は返却口横に積まれたプレートの山に掴んでいるプレートを裏返して乗せ、コップの山に被せるようにコップを置いた。


「ゴーレムが洗い物をしたのですか?」

「そうだよ〜。布で拭いてもいるよ〜」

「そうなのですか…」

「あの異空間は設置型異空間で、キッチンからしか行けないんだけど、洗い場になってるの。メモリアの中にはそんな場所がたくさんあるんだよ〜」

「設置型異空間ですか?」

「うん。固定された場所からしか入れない異空間だね〜。ティアちゃんの異空間は本を介せばどこからでも繋げられるけど、金庫の役割で異空間を作ることもできるんだよ。そうすると繋げ方を知ってる人以外触れない最高の金庫ができるわけ。あと、さっきみたいに洗い場を異空間に作れば小さな空間に沢山の施設を入れることができるから、職人に頼まれて異空間を作ったりすることもあるんだよ〜」

「異空間を作る仕事もあるのですね」

「細かい仕事は説明しきれないほどあるからねー。まぁ、やる時は説明とアドバイスするから大丈夫だよ!というわけでご飯も食べたことだし、次は精霊樹の近くで戦い方を学ぼうか〜」


その言葉にティアはきっぱり否定する。


「いえ、まずはお昼寝です」

「お昼寝?」


そのティアの放った言葉に理解が追いつかないペンシィ。

クリスの指示で食後に精霊樹の根元で昼寝を行い、精霊への魔力を流しやすくする訓練を行っているティア。

ティアにとってクリスからの指示は仕事だった。


「はい。精霊樹の根元でお昼寝です…それも私の仕事です…」

「あー。じゃあとりあえず精霊樹に行こうかー」

「そうですね…」


ティアは目をこすりながら歩き出す。

いつもより遅い昼食、いつもより遅い昼寝の時間。

すでに眠気は限界に近いようで、眠れることがわかってからは抑えきれなくなりそうで、精霊樹に着く頃には足取りもふらふらしていた。


精霊樹の根元に着いたティアは丸くなりすぐに眠った。

そしてティアが眠ったことを確認した精霊樹に住む精霊達が、一斉にティアに群がった。

それにより、ティアは繭に包まれたようになっていた。

様々な属性の精霊により繭の中は快適な空間になっているので睡眠には問題ない。


そんな繭を見ながら今後の予定を考えるペンシィは、契約主であるティアが寝ても自分の異空間に帰る気は無いようだった。

整理の仕事をしたく無いのである。

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