Page12「祝福の効果 その4」
「残りの祝福はわかりにくかったり、地味だったり、今すぐ使えないやつだから一気にいくよ〜」
「わかりました」
ペンシィは本を自分の横に浮かび上がらせ、表紙を開いて弓を指差した。
「まずは弓!弓は【観察】だねー。なんて言えばいいかな〜。こう、踏み荒らされた草を見分けたり?相手が無意識に庇ってる部分に気づいたりって感じかな〜」
「見て何かを感じ取る能力でしょうか?」
「んー。そんな感じでいいと思う。アタシもよくわかってないんだよねー。使ってた人の記録だと罠や動物を見分けたり、自分に危害を加えようとしてる人を見分けたりしてるねー。まぁしばらくすれば実感できると思うよー」
「見る能力ということは【看破】と同じように、目に魔力を集めればいいのでしょうか?」
目を指差しながら首をかしげる。
「集めなくても大丈夫だよ〜。【観察】は弓の祝福を得た時にティアちゃんの体に直接作用して感覚を強化したんだ〜。だから魔力は使わないの」
「魔力を使わない能力もあるのですね」
「まぁね〜」
実際には祝福を受けた時点でティアの魔力を使って感覚を強化している。
大量の魔力を消費したため、最終的には些細なことも見逃さない程の観察眼を得ることになるが、今はまだ能力を得たばかりなので、普通の人となんら変わりはない。
「次は杖ね!杖は【錬金術】が使えるようになるよ!!」
ペンシィは杖を指差している。
「錬金術…ですか…。素材を合わせたり、分けたり、魔法を物に宿したりする錬金術ですか?」
「その錬金術だよー!ティアちゃん知ってたんだね〜。錬金術は廃れてるから知ってたティアちゃんに驚きです!」
「古い冒険譚に出ていました!鉄に魔法をかけてとても固い鉱石にしたり、石を金にしたり、水を薬にしていました!」
メモリアで働く人達は皆年上で、教えてもらうばかりだった。
それは今もだが、錬金術については誰にも教えてもらっておらず、自分で見つけた内容だった。
それが役に立ったことで、ティアは少し興奮している。
もちろん、本に出てきた事が自分もできるということにも興奮している。
「どれもできるね。でも、しばらくは使わせるつもりないから祝福で錬金術ができるってことだけ覚えててね〜」
「使ってはダメなのですか?」
ペンシィの一言で落ち着いたティア。
「錬金術は禁術指定されてるでしょ?だから廃れたんだけどね〜。まぁそれは無視するからティアちゃんには使ってもらいたいんだけど魔力の操作が難しいから今のティアちゃんにはできないんだよ〜」
「禁術指定されているのは知りませんでした。使ってもいいのですか?」
「禁術指定されているのは術の難易度もあるけど、経済破綻を抑えるためでもあるんだよ。金作りまくって売られると金の価値が下がっちゃうからね〜」
「なるほど。では、使ってもよくなったらその時は教えてください」
頭を下げるティア。
ティアは知らないが、ペンシィは【杖】担当の精霊だった。
本来であれば契約した段階で自分のことを話しているはずだったが、特殊な契約だったため話すことを忘れている。
自分の担当する能力に強い興味を持っているティアを見て、ペンシィは嬉しくなる。
そんな気持ちのまま包丁のマークを指差す。
「まっかせて!じゃあ次は包丁!包丁の祝福は【解体】だね〜。これは簡単だよ〜。解体するぞって気持ちで対象を見たら線が見えるから、それに沿って刃物を入れて解体していくの」
「解体…難しそうですね…」
「難しいと思うよ〜。慣れないうちは細かくバラせないし、どこまで刃を入れればいいかわからないと思うけど、慣れたら線も増えるし、線の太さで刃を入れる深さがわかってくるはずだよ。今は解体する物がないから話だけね〜」
「わかりました…上手くできるか不安ですね…」
不安そうなティアを見て、解体を行って血だらけになるティアを想像したペンシィは、ティアが血で汚れないように魔法で補助することを心に決めた。
そして、次のハンマーを指差す。
「次はハンマー!ハンマーは【鍛冶】だねー。これも読んで字のごとく、炉で物作ったり、砥石で研いだりする能力だねー」
「鍛冶ですか…複製を行う司書にとっては不要だと思いますが…使うのですか?」
「それはティアちゃんのように大量に魔力があればそうなるけど、普通は司書も使うし準司書も使う結構便利な能力なんだよ〜」
「準司書も祝福で鍛冶をするのですか?」
「そうだよー。準司書は司書の部下だけど上司になった司書が受けてる祝福のうち一つだけ受けることができるんだよ〜。これで、複製できないけど鍛冶ができる準司書が生まれるわけなんだー」
「なるほど…準司書には祝福を一つだけ…」
「まぁ詳しくは準司書契約する時に説明するから、今は考えなくていいよ。で、鍛冶だけど、ティアちゃんはしないと思うから、やろうと思えばできる程度で覚えておいてね〜」
「わかりました」
投げやりに話を終わらせて、次のロザリオを指差すペンシィ。
「次はロザリオ!ロザリオは【浄化】だね〜。対象を元に戻す能力って感じかなー。魔素に侵食されてたり、解毒魔法で治せないぐらい強い毒を消せるんだー」
「とても強力な能力ですね」
「だね〜。もちろん扱いは難しいよ〜。錬金術より魔力操作がややこしいんだけど、魔素の浄化だったら大量の魔力による力技でいけると思うよー」
「そうなのですか?」
「対象が生き物だったらダメだけどね〜。大量の魔力で体内の毒を攻撃する感じだから、攻撃したらダメなところにも影響が出ちゃうよ。土地とかだったらある程度は力技で大丈夫!」
「なるほど」
実際は土地に対して強力な浄化を行った場合、魔物が入れなくなる、所謂『聖域』ができる。
人で聖域を作れるほどの浄化を行える場合、国で保護されるほどの事態にもなる。
ペンシィは浄化の際に気をつければいいと思い聖域の事は話さず次の鞭を指差す。
「次は鞭!鞭は【魔物調教】だね!魔力で魔物を屈服させて、使い魔にする能力だよ〜」
「使い魔ですか!とても楽しみです!」
「使い魔って言っても魔物だから育てる苦労はあるし、街中で出すと騒ぎになるから注意が必要だよ〜。基本的に異空間で生活させて、必要な時に本から出すって感じだねー」
「異空間を生活できるように整える必要があるのですね?」
「そうだよ〜。空間拡張して、魔法で色々作るの。やろうと思えばお城でもなんでも作れるよ!それなりに魔力は必要だけどねー」
過去の司書の中には、異空間に城を建てて引きこもったり、南国のビーチを作って毎日優雅な息抜きをする者も居た。
司書にとっての異空間は倉庫もあるが、自分と準司書だけの自由にできる庭という扱いである。
ティアの祖母クリスティーナも大きな屋敷を建て、畑を耕している。
ティアがどんな異空間を作るか楽しみなペンシィは、そんな気持ちを表に出さず最後のチャクラムを指差す。
「最後はチャクラム!チャクラムは【空間把握】だね!これは弓の【観察】と一緒でティアちゃんの感覚を強化するものだから、魔力を使う必要はないよ〜。効果はティアちゃんが認識している空間の距離感を掴みやすくするものだよ」
「距離感ですか?」
「うん。チャクラムって言ってるけど実際は投擲武器のことなんだ〜。で、投げるためには対象との距離を把握できるかどうかがカギになるから、そのための祝福だね〜」
「なるほど」
「あと、魔法にも恩恵があるね」
「魔法ですか?」
「そう。魔法は杖を使うイメージがあると思うけど、杖の効果って魔石による強化を除けば、方向のイメージをしやすくするぐらいなんだー。杖を向けた先に火を放つのと、空間把握でピンポイントに火を放つのは同じってわけ。だからティアちゃんには杖はいらないし、魔石による魔法の強化だったら指輪やペンダントとかの装飾品でいいんだよ〜」
「チャクラムの祝福で魔法が使いやすくなるということですね?」
「その認識でいいよ!復習を兼ねてまとめると『【観察】で違和感を感じたら【看破】で見抜き、【複製】で作った武器を使って、魔法なら【魔力破壊】で壊す。罠なら【物質破壊】で壊す。戦うときは【気配操作】で相手を翻弄し、魔素に侵食されたら【浄化】する。【空間把握】で遠くから魔法や投擲で先制攻撃して、倒した魔物は【解体】して必要な部分だけ取る。町では【検索】や【記録】で司書の仕事をしながら【錬金術】や【鍛冶】で装備を整える。【魔物調教】で使い魔を増やしたら倉庫と同じような【異空間】で育てる』って感じだね〜。いや〜疲れた…途中からダラけてたよ〜」
腕を上げて体を伸ばすペンシィ、終わった事にほっと息を吐くティア。
知る事は好きだが、今のティアには情報量が多すぎた。
「ま、まとめるとやることが多いですね…私にできるでしょうか…?」
「できるできる!全部を極めないといけないわけじゃないし、魔法主体で戦うなら剣とか使わないしね!ティアちゃんがどんな戦い方をするかはゆっくり決めればいいよ!」
「そうですね。ゆっくりでも頑張っていきますね!」
ペンシィの言葉で笑顔が戻る。
「うんうん。じゃあさっそく戦う練習しようか!」
「あの…その前に…」
「うん?どしたの?」
ティアはお腹に手を当てる。
「お腹が空きました…」
頬を赤く染めて恥ずかしそうに呟いた。