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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
105/106

Page105「リリエーナちゃんとお別れ」

カコの指導の元でリリエーナが魔法を習い始めて5日。

その日はクレアとシュトも訓練場所となっているアルバート邸の庭にやって来た。

ティア達と会うのは久々だが、少し疲れがあるのか2人の表情は笑顔ではなかった。


「お久しぶりです。お元気……ではなさそうですね」

「お疲れなんですか?」

「あー。うん。まぁね」

「……疲れはある……」


ティアとリリエーナの質問に歯切れの悪い返事をする2人。

疲れを認めた上で何か気になることがあるようだが、クレアはリリエーナから姫さま扱いされていないことに若干喜んでいた。

時間が空いたことと、ティアが寝る前にリリエーナと出会うまでのクレア達との旅を話したおかげだった。


ちなみに近くで自分のことを話されたチャコが密かに身悶えていたのだが、それは近くにいたミーアしか知らない。

最初はティアと旅をしていたことだったのだが、最後は獣化した時の話で2人が格好良かったと褒め続けていたので仕方がないところもある。


「カコから聞いているから、2人はそのまま訓練していて。私達はチャコと話をしているから」

「了解ニャ」

「では、その間は私が見ています」

「えぇ。お願い」


言うが早いか、クレアはチャコとシュトを連れて少し離れたところに移動した。

ティア達の様子はミーアとカコが見ているので、チャコが離れても問題はない。

そもそもティアが張った結界の中で練習しているので、外で何か起きた場合危険なのはクレア達の方だったりする。


「というわけで明後日クロステルを発つことになったのよ」

「それが元気のなかった理由ニャ?」

「うん。ティアちゃんとリリエーナちゃんを離れさせることになるからね」

「それは準司書になっているから問題ないと思うニャ」

「それでも会えないことに変わりはないはずだけど?」

「あー……ティアちゃんは規格外だから大丈夫ニャ。ペンシィさんの提案で私達が旅の間に寝泊まりさせてもらった異空間で会えるようにするらしいニャ」

「そうなの?カコからは準司書になった事ぐらいしか聞いてないんだけど」

「カコが居ない場所で決まったから仕方ないニャ」


クレアはカコからリリエーナが準司書になったことを聞いていた。

魔術を教えに行くのだからその理由を伝えるのは当然のことだ。

だが、異空間を使って会うことについては報告を受けていなかった。

それは本格的に決まったのも、異空間に入る練習をしたのもリリエーナの部屋だったのでカコが知るタイミングが無かったのだ。


「そっか。なら、この後話すわね」

「それはいいけどカコはこの事を知っているのニャ?」

「……知ってる……」

「それでも2人と違っていつも通りなのはさすがだニャ」


ティア達が分かれてからも会えると知ったクレアとシュトは、先ほどまでと違って元気が出た。

自分達の言葉でティアが落ち込むことを考えていたためなのだが、その心配が無くなったのだから気も楽になる。


そして、今ティアとリリエーナに魔術を教えているカコだが、クレア達と同じ場所で寝泊まりしているため勿論明後日発つ事は知っている。

しかし、今日の訓練風景は昨日までと比べると少し厳しいぐらいで、本人からはいつものまったりした雰囲気が出ていた。


実は、その少しの厳しさが明日を休みにするための行動だったのだが、日を重ねるごとに練習内容が厳しくなっていたことで2人には気づかれていない。

それクレア達も同じで『随分細かいところまで指摘している』と思う程度だった。


「うんうん。ティアちゃんもリリエーナちゃんも随分魔術の使い方が上手くなったなー。これなら街中で暴れてる人がおってもこっちに被害なく取り押さえれるで〜」

「ありがとうございます。でも、人相手に使うのは怖いですね」

「そこはもう……慣れるしかないな〜。その練習はウチらでやってもええんやけど、どうせならそういう経験のある準司書に教えてもらった方がええんちゃうかな〜。ティアちゃんは問題ないん?」

「うーん。たぶん使えると思います。捕縛魔術を使うだけですし、いざとなれば周囲を結界で塞ぎます」

「せやね〜。無理して攻撃魔術を使う必要はないし、何なら全部結界でやってもええよ」

「はい。でも、せっかく教えていただいたのでできるようになりたいです」

「そっかそっか。リリエーナちゃんはええ子やわ〜」


カコがリリエーナの頭を撫でる。

リリエーナに渡されるティアの魔力量で結界を張れば、クロステルに出入りする中堅冒険者であれば止められる。

とは言っても今のリリエーナでは1対1であっても上手くできない可能性の方が高い。

それは実践が足りていないからなのだが、これに関してはこの街の準司書2人に教わることになる。


その点ティアは子供らしからぬ落ち着きを持って対処できそうだ。

戦闘に関しては祖母のクリスティーナから受けた威圧が原因の1つになっている事を周りは知らない。

他にも初めてメモリアの外に出たことや、言われた事を一生懸命やる性格なのも影響している。


「ティアちゃん、リリエーナちゃん。ちょっといいかな?」

「はい。今は休憩中なので大丈夫です」

「どうしたんですかクレアお姉ちゃん」

「あ、ミーアもそのままで」

「畏まりました」

「明後日のことだけど……」


午前の訓練がひと段落したところで、クレアが出立の話をした。

しかし、ティアとリリエーナはそれほど驚かずに受け入れた。

リリエーナが準司書になった日から2人で話していたからだった。


「それで、明日は1日遊んでもらおうかと思っていたんだけど……カコ、問題は?」

「無いな〜。しいて言えばリッカちゃんがヘソを曲げへんかぐらいやな〜」

「一緒に行けば大丈夫だと思います」

「そうですね。私も仲良くなったので問題ないはずですよ」

「それなら大丈夫やな〜。それにウチらも一緒に行くからな〜」


カコはリリエーナの習熟具合から問題ないと判断した。

その結果、翌日はクレア達とクロステルの街を楽しむことになった。

話題に上がったリッカはと言うと、魔術の練習中は竜になって結界を齧っている。

今はティアの背中に張り付いているのだが、特に機嫌が悪いなどと言ったことはない。

ただ単にじゃれついているだけだった。


そして翌日は予定通りクレア達と一緒にクロステルの街を周った。

当然チェスター商会と王国が付けた護衛が陰ながら付いてきていたが、特に問題が起きることもなく屋台や色々なお店を楽しんだ。

その時にまた司書ごっこをしている子供達に遭遇したのだが、ティアを強引に引っ張ることはなく、逆にリリエーナのことを紹介することができた。

前回は準司書の登場でうやむやになったが、ティアの近くにいた子という事で気になっていたこともあり、すんなり輪に入ることができた。

チェスター商会にいる足の不自由な子の話を聞いたことのある子供達にとってリリエーナはとても興味深い存在だったことも味方していた。


クロステルを楽しんだ翌日、北の門にはリリエーナと準司書のローザとメイル、アルバートとアレイアがティア達を見送りに来ていた。

アルバートとアレイアはクレア達に、リリエーナを含めた入準司書達はティアの元へと集まった。


「リリエーナちゃんをよろしくお願いします」

「勿論です。商人組合でゆっくりと慣れてもらいます。ティア様もお気を付けてください」

「お元気で」


ローザとメイルは軽く挨拶すると頭を下げて後ろに下がった。

そして、浮遊椅子に乗ったリリエーナが前に出てくる。


「ティアちゃん、またね」

「はい。リリエーナちゃん、また……」

「大丈夫。異空間で会えるよ」

「はい。そうですね……」

「リッカちゃんも元気でね」

「リッカはいつも元気なのじゃー!リリエーナも元気を出すのじゃー!」

「うん。それじゃあね」


そう言ったリリエーナは後ろに下がった。

いくら異空間で会えるとは言え、これ以上一緒にいると別れづらくなるからだ。

それはティアも一緒のようで、リッカの手を取って馬車へと向かった。


「もういいの?」

「はい」

「そっか。ミーア」

「畏まりました。ティア様、お手をどうぞ」

「ありがとうございます」

「リッカ様もどうぞ」

「のじゃー!」


クレアに確認された後はミーアの手を取って馬車に乗り込んだ。

御者席にはネーアとカコが座っていていつでも出発できる状態だった。


「ネーア」

「はっ」

「リリエーナちゃん!またねー!」

「のじゃー!」

「ティアちゃん、リッカちゃんまたねー!」


窓から顔を出したティアが離れていくリリエーナに手を振りリッカが吠えると、リリエーナもそれに応えて手を振り返す。

次に会うのは異空間の中になるが、それがいつになるかわからない。

互いにメッセージを送り合うが、時間が合わなければ会うことはできないからだ。

2人もそれを分かっているからなのか、見えなくなるまで手を振り続けた。


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