Page104「準司書リリエーナの戦い方」
準司書になったリリエーナだが、その日は特にお祝いなどもなく、ティアとリッカと同じベッドで寝た。
もちろんチャコとミーアも同じ部屋だ。
寝るまでの時間は本の使い方をティアから教わる時間だったが、ティア自身もそこまで使い慣れているわけではない。
そのため2人でクロステルにあるお店の一覧を眺めてどこに行きたいか話しているうちに眠りについた。
リッカは2人の声を子守唄にお腹を出して寝ていたため、ミーアによって寝姿を正されていたりする。
「おはようさ〜ん」
「おはようございますカコお姉ちゃん」
「お、おはようございます?」
「おはようなのじゃ〜」
次の日朝食を摂ったティア達はペンシィに言われてアルバート家の庭に出た。
そこにはカコが待っていた。
「どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「ん〜?呼ばれたからやで。ペンシィさんに」
「そうなんですか?」
「うん。今日はカコちゃんがリリエーナちゃんの先生だよ!」
「先生ですか?」
「そ!リリエーナちゃんの戦い方はアタシが教えるよりカコちゃんの方がいいんだよ」
ペンシィは普通の精霊と違って自分の属性と一致する魔力がない場所でも自由に動けるため、ティアが寝てからカコの所に向かっていた。
リリエーナの戦い方を考えた結果、自分で教えるよりカコの方がいいと考えたからだ。
「戦い方……。私はどうやって戦うんでしょうか?ティアちゃんの使っていた結界はわかるんですが……」
「ウチが呼ばれたということは魔法や魔術やな〜。多少は近接戦闘も教えれるけど、リリエーナちゃんには護身術程度でって聞いとるで〜」
「足の件があるからね〜。そういえば今日の浮遊椅子はリリエーナちゃんが出してる?」
「はい。昨日ペンシィさんに言われた通りにしました」
今後の移動が浮遊椅子になるリリエーナでは踏ん張ることができないため、相手の力を流したり自身の力で抑えつける護身術は使えない。
そのために魔法頼りとなり、古代魔術を使用できるペンシィよりも現代魔術が使えるカコが呼ばれている。
また、日頃からティアから供給される魔力の扱いに慣れるため、ティアがいる時でも浮遊椅子は自分で出すようにという指示がペンシィから出されていたのだが、リリエーナはそれをしっかり守っていた。
「うんうんこれからも頑張ってね!それじゃあ後はカコちゃんよろしく!」
ペンシィはリリエーナの返事を聞くと、即座に消えた。
返事をしようとしていたカコは小さく口をパクパクさせた後、何事もなかったかのように羊皮紙を取り出したのだが、幸いにも気づかれなかった。
「んんっ!それじゃあリリエーナちゃんの戦い方を決めるためにペンシィさんの調査結果を言うで〜。リリエーナちゃん自身の魔力量はそこまで多くないから本人の魔力を使った魔術は厳しめで、魔法に関しては生活で使えるレベルやな」
「そうですね。普段から魔力を使うこともありませんでしたのであまり不自由はしていませんでしたが、私自身の魔力は平均より少ない程度だと言われています」
大抵の子供は2、3歳ぐらいになると住んでいる場所に居る魔術師やメモリアの司書に魔力を測ってもらう。
魔術師は本人の魔力を生み出す器官を調べ、司書はそれ用の魔道具を使って調べる。
その結果、平均より少ないと判定されたリリエーナだが、日常生活で使う魔道具は起動できる。
また、火起こしに使う程度の魔法は発動できるため、殆どの人は魔術に触れずに生きていく。
リリエーナもその1人だったのだが、準司書になったからにはそうも言ってられなくなった。
「その判定はただしいな〜。ウチもさっき確認してみたけど、ここに書かれている通りやったわ〜」
「いつ測ったんですか?」
「ふふーん。ウチ程になるとさりげなく測れるんやで〜」
カコはティア達と話している間にリリエーナの魔力を測っていた。
その方法は単純で、自身の魔力をリリエーナに当てて、その反応で確かめるものだった。
これはどの魔術師も使えるほどの入門編の魔力の使い方で、魔力を流した物に魔法がかけられているのかを調べることができる。
熟練者になれば壁越しに相手がどの位置にいるかもわかるのだが、範囲が広くなるにつれて比例的に必要な魔力が増えてしまう。
そのため、カコはリリエーナのみに絞り、尚且つ面ではなくほぼ点で魔力を放っていた。
今のティアなら祝福のおかげで気付けたかもしれないが、ペンシィやリリエーナに注意が向いていたため気づけなかったのだ。
「それで、基本的な戦い方は本に表示された呪文をティアちゃんの魔力を使って起動するやり方やな。口に出して詠唱してもええし、文字をなぞっても発動するらしいわ〜。慣れたら頭の中で詠唱したり、詠唱済みの魔法を道具に封印していきなり使うこともできるけど、それはまだまだ先やな〜。具体的に言うと5年ぐらい?」
「随分先ですね」
「それだけ難しいってことやで〜。詠唱するだけやったら固定の魔術が発動するだけやから込める魔力で威力を調整したり、文言を自分で入れ替えたりして発動する魔法を変えないと通用せえへん時があるからな〜。相手が魔術師やと特に」
「相手の得意分野で戦うことになるんですね」
「そうそう。だから魔術師は魔法も扱えるようになって、魔法と魔術を織り交ぜて戦うようになったんよ〜」
魔術は法に則って決められた動作を起こすもので、その方法は大きく分けて詠唱と魔術陣の2つがある。
魔道具は魔術陣が刻まれていて、魔力を流せば決められた魔術が発動するようになっている。
詠唱の場合は魔力を乗せて読み上げるか、頭の中で組み上げるか、組み上がった状態の物を魔力が宿る何かに移して使うことになる。
しかし、読み上げると相手によっては悟られ、脳内で組み上げると戦闘時に集中できなくなるので相手の攻撃を受けて中断することがある。
物に宿しても時間経過とともに魔力が薄れてしまうため、威力や規模が下がってしまう。
なので、魔力効率などを考えて精錬された魔術とは違って魔力の消費は激しくなるが、魔法を織り交ぜて戦うのが今の魔術師の戦い方になっている。
「そうなるとリリエーナちゃんは魔術師と当たったらマズイのではないですか?」
「それがそうでもないねん。メモリアの本に表示されている呪文をなぞる場合はその場で唱えた時と同じになるらしいねんけど、ウチは司書じゃないからようわからんわ〜。それでも、口に出さずに詠唱と同じになるなら問題ないと思わへん?」
「そうですね。ただ、検索の仕方を工夫する必要はあると思います」
「属性と規模で検索してもたくさん出てきそうだし、難しそうだね」
本に書かれた呪文をなぞれば口に出した時と同じ威力の魔術を口に出さずに発動できる。
魔力の扱いに慣れれば手に魔力を集中させるだけでいいので、頭の中で組み立てる時よりも好きは少なく、時間経過で威力が下がることもない。
しかし、検査してからなぞる必要があるため、使いたい魔術を検索する方法工夫する必要がある。
直接魔術名で検索すると口に出すのと変わらないからだ。
「まぁ文字をなぞるだけと言っても魔力を込めないとあかんから、サッとなぞるだけやと発動せえへんみたいやけどね〜。その辺は頑張って練習すると言うことで、身を守る方法は他の方法もあるで〜」
「他の方法ですか?レインさんとゴルディアさんですか?」
「その2人以外にもティアちゃんの魔力大好きな子達がおるやろ?その子らに魔力を渡して魔法を使ってもらうねん」
「と言うと……精霊さんですか?」
「当たりや〜!ティアちゃんについてきてる精霊にお願いすれば無理じゃないやろ?ティアちゃんの魔力を受け取るのは変わらんからな〜」
「できるのでしょうか?」
「ペンシィさんはできると判断してるみたいやで〜。ただし、ある程度の自我がある精霊じゃないとあかんって書いてるけどな〜」
自分で魔法が使えないなら使える者を頼ればいいと言う考えだ。
幸いにもティアについてきた精霊は沢山いる。
その中には自我を持った精霊もいるので、ティアが頼めばリリエーナに付いてくれる可能性がある。
対価はもちろんティアの魔力なのだが、それは準司書になったリリエーナには問題にならない。
むしろさらに分け与える魔力を増やして沢山の精霊に守ってもらうことをティアは考え始めた。
「とりあえず色々やってみよか〜!」
「お、お願いします!」
「ティアちゃんは周りに結界を張った後後ろで見といてな〜」
「わかりました」
カコに言われたティアが庭に結界を張り、その中に3人がいる。
チャコとミーアは外に締め出された事になるのだが、魔法の練習をするだけなので心配はしていない。
そして、結界の中で魔術の詠唱や呪文をなぞ流練習が始まった。
ティアが近くにいるために消費した分の魔力がすぐに供給され、反復練習をすることでグングンと上達するリリエーナ。
お昼休憩を挟んでしばらくするとティアのお願いを聞いた中位精霊を数体使役できるようになった。
「すごいニャ……」
「リリエーナ様も凄いですが、これだけ魔力を渡しても堪えた様子のないことティア様に感服いたします」
「そうだニャ」
丸一日ほど練習に費やした結果、外で見ていた2人と通りかかる屋敷で働いている者全員が同じようなことを考えていた。




