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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
101/106

Page101「準司書契約の内容」

ローザが切り出した準司書契約。

自分の魔力を分け与えて本を渡し、部下を持つこととい程度の認識しかないティアにとっては、それとリリエーナを守ることは繋がらなかった。


目の前にいる準司書のローザとメイルとリリエーナを見比べても答えが出ることはなく、押し黙ってしまった。

それでも、ひとまずの混乱が解けたと判断したローザは続きを話し始める。


「準司書は司書の魔力を借りて仕事をします。これはご存知ですね?」

「はい。それと、祝福も1つだけ使えると聞いています」

「そうです。ティア様は全ての祝福を受けたということですから、その中から1つ選んでいただくことになります」

「でしたら身を守れる方がいい気がします。攻撃できても囲まれたら危ないです」


ローザが本を指差しながら話し、ティアがそれに頷くきながら知っていることを話す。

自分の考えを口に出すことで落ち着けたようで、どの祝福を選ぶかという話でも提案することができた。

ただし、ティアが


「それに関しては自分で決めた方が良いでしょう。もっとも、本人に準司書になりたいという意思がなければこの話は終わりですが……」

「え?あ、えぇっと……。準司書のお仕事を詳しく知らないので答えづらいです……」


ローザに見られたリリエーナは萎縮しながらも何とか答えた。

リリエーナにとって準司書は、組合を纏める仕事の合間に街の人から聞かれたことを答えるという認識しかない。

それに加えて足が不自由なこともあって自分に務まるのか不安だった。

かといって何も聞かずに断ることはできないため、恐る恐る聞いた。


「それもそうですね。ではメイル、お願いします」

「わかりました」


ローザに言われて居住まいを整えたメイルがリリエーナに向き直る。


「準司書の仕事を簡単に説明すると……依頼と物品の管理、情報伝達係、いざという時の魔物退治です」

「はぁ……」

「ざっくりしすぎじゃないかしら?」

「最初に大枠を伝えたほうが詳細を飲み込みやすいと思っているので」

「そう。やっぱりウチとは色々違うわね〜。では、続きをどうぞ」


ローザに説明の仕方を突っ込まれたメイル。

この説明の仕方は冒険者組合で冒険者に説明する時に使っている方法だった。

最初に大枠を伝えて複数の情報があると知らせなければ、1つ目の情報を聞いた時点で組合を後にする冒険者が多くいたためこうなったらのである。


ローザが担当する商人達は1つずつ説明することを求め、最後には向こうから不足がないか確認してくる者が多い。

もちろん冒険者が話すを聞かないわけではないし、商人の中にも確認を疎かにして失敗している者もいる。

それでも、効率を重視した結果こうなったわけなので、訪れる人の傾向がわかる。


「準司書は上司に当たる司書の魔力を借りて仕事をします。この本もそうです。もちろん自分の魔力も使えます。ここまではいいですね?」

「はい」


リリエーナの返事を聞いて頷いたメイルは話を続ける。


「次に依頼と物品の管理についてですが、これは依頼者から依頼を聞き取って記録し、それを本を使って部下や他の準司書や司書と連携することです。物品に関しては司書の方が作る異空間で管理しています」

「ティアちゃんが作っていたあの空間のことだよね?」

「そうです。時間が進まない空間は別にありますよ」


リリエーナは旅の間に使った空間を思い出しながらティアに聞いた。

ローザとメイルの頭の中には倉庫程度の広さしかない異空間が思い浮かんでいるのだが、ティアの魔力量を知らないため仕方がないことだった。


「時間の進まない異空間では食料などの腐敗するものを、進む異空間ではそれ以外の物を管理しています。いざという時は食料や物品を放出して人々を助ける備えもあります」

「物は司書や準司書の方を経由して別の場所で取り出せるんですよね?」

「そうです。商人であるリリエーナさんのお父上から聞いていると思いますが、基本的には使用料を頂きます。無条件で放出すると商人の仕事がなくなるのもありますが、司書の魔力が持たないためです」

「無料で遠くの人に送れるなら依頼が殺到しそうですね」

「はい。過去に一度格安にした日があるのですが、司書が倒れたそうです」

「そうなんですか……」


ティアは魔力量が尋常ではないため、物の出し入れを行なってもほとんど負担はない。

それでも大きな屋敷をなども出し入れすれば疲れるし、無理をすれば魔力不足で倒れてしまう。

もっとも、そうならないために契約精霊が魔力の管理を行い、場合によっては異空間の規模を狭めて魔力に還元することもできる。


「次に情報伝達ですが、これは子供達が行なっている司書ごっこのような住民からの問い合わせに加え、有事の際に街の有力者に対する連絡を行うことです」

「有事というと魔物の群れが街に向かって来る時ですか?」

「そうです。他にも嵐などの自然災害や国からのお触れの流布なども含みます。近くの村が不作で食料が足りないと言った情報もです」

「迅速に行動するためですね?」

「そうです。場合によっては商人組合や冒険者組合で依頼を発行することもあります」

「わかりました」


戦争や自然災害。

大規模な盗賊の情報や魔物の群れ。

新しく発見された遺跡や迷宮の情報など、様々な情報が飛び交っている。

その中から有力者に伝えるべきことだけど抜き出して連絡する必要があるため、この情報伝達は意外と難易度の高い仕事になる。


また、準司書やその部下が伝えなかった情報はお金を払うことで知ることができるため、有力者達は毎日準司書の所へ知りたいことに関する情報確認を行なっている。

基本的には使いの者を寄越すのだが、個人的な趣味に関する事などは自ら訪れることもある。

そういったときのために準司書にはある程度の心の強さを求められているのだが、即座にそういった人を相手にすることがないため問題はない。

しばらくはローザかメイルの下で準司書としての働き方を学ぶからである。


「最後はいざという時の戦闘です。魔物が街に押し寄せた時だけではなく、時には街中で暴れる冒険者を取り押さえることもありますが……リリエーナさんに対応してもらうかはわかりません」


メイルはリリエーナの足を見ながら言葉尻を濁した。

浮遊椅子があったとしても移動ができる程度なので、積極的に先頭に参加させることはできない。

ティアの提案通り身を守れるようにロザリオの祝福を選ぶべきだと考え始める。

浄化を街中で使うことはないが、結界を使えるようになれば最低限身を守れる上に、慣れれば相手を取り囲んで動けなくすることもできる。


「大まかな仕事の流れは以上です。実際にはもっと細かくいろいろ行いますが」

「ですが、リリエーナさんにとって嬉しいことはいつでもティア様に連絡が取れるようになることと異空間で会えること。ティア様がどれだけ魔力を分け与えてくれるかはわかりませんが、場合によっては今座っている椅子も自由に出せるようになりますよ」


メイルが言葉を締めるとローザがさらに補足情報を出した。

どちらかというとこの情報の方がティアとリリエーナには重要だった。

実感のない準司書よりも、今隣にいる友達と連絡を取れるからである。


「そうなのですか?」

「そうだよティアちゃん!」


ティアがローザに確認すると目の前にペンシィが現れた。

脇には『準司書契約書』とだけ書かれた条件部分が博士の羊皮紙が浮いていた。

給金や休暇などについて条件を話し合ってからサインするためだ。


「さぁ!あとはリリエーナちゃんがやるというだけだよ!」

「えっと……お父さんとお母さんに確認してからでもいいですか?」

「いいよ!」

「あらあら」

「まぁ、いきなり決めるのは無理ですよね」

「残念だったね2人とも!」

「そうですねぇ」

「私よりローザさんの方が残念でしょうけど」


ローザはいい歳なので、できればリリエーナを商人組合の準司書にしたいと考えていた。

それも含めての提案だったのだが、ペンシィはそれに気づいていた。


このやり取りで後ろに控えていたチャコとミーアも理解したが、ティア達子供組は気付かずに終わった。


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