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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
商人と 交易都市と 準司書契約
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Page100 「2人の準司書」

やって来たのは人族の準司書だった。

茶色の髪をサイドに流していて、キリッとした表情でティア達に近づいてくる様からは威圧感を感じる者もいるかもしれない。

実際、ティアの近くにいた子供達は急いで距離をとって大人の背に隠れる者もいた。


「貴女は……ティア様でしょうか?」

「シャー!ティアに何の用なのじゃー!」

「貴女のお祖母様から会ったらリンクを繋げと言われております。この街の準司書の1人です。よろしければ場所を移しませんか?」

「えっと……そうですね。移動しましょう」


準司書はティアの姿を見ると即座に反応し、ティアのことを確認した。

それに対してようやく落ち着いたリッカが反応したが、準司書は気にした様子もなく話を続ける。

結果、場所を移すことになり、リリエーナ達と共に中心地から少し離れた場所へと歩き出した。


「どこへ行くニャ?」

「この街の商人組合本部です」

「お姉さんの職場ニャ?」

「いいえ。私は冒険者組合担当です。この街には2人の準司書がいます。リンクを繋ぐのであれば同時に行った方が手間がないので」

「なるほどニャ」


広場を背にしてティア達が道の端を進む。

それでも準司書の後ろに司書がいる上に、リリエーナの浮遊椅子が注目を集めていた。

リッカを抱っこしたままのチャコも同様に集めているが、それは声こそ出さないが視線で威嚇し続けるリッカのせいでもある。

その視線に耐えられなくなったチャコが気を紛らわせるために準司書に話しかけると、商人組合の本部に向かっていることがわかった。


クロステルは東西南北に門があるため、それぞれに商人組合と冒険者組合を建てている。

昔は今の本部である街の中央にしかなかったが、発展と共に利便性を考えて増えたのである。

本部は領主の館を挟むように対極に位置していて、王都へと続く道のある北側に商人組合。


南側は自然が広がっているため獣が多く、魔獣の発生にも繋がるため冒険者組合の本部がある。

今は南にも支部があるため有事の際には避難所として使うことになっているのだが、平時は依頼の受付場所として使われている。

本部で受け付けたものは準司書を経由して部下に送られ、各支部で受けられるようになっている。


準司書は自分の裁量で部下を持つことができるため、街の規模に対して2人と少ないが問題なく仕事ができる。

ただし、部下が起こした不祥事は準司書の責任となるため、あまり簡単に増やせるものではないため、募集をすれば即座に応募が殺到するほど人気の職業ではある。

国に仕える訳ではないのだが、各国に広がる大組織で働けるのだから当然ではある。


「ここです。入りましょう」


準司書に連れてこられた商人組合の建物は、リリエーナの住む屋敷ほど大きな建物だったが、その横には建物よりも大きな倉庫が4つ建てられていた。

さらに、敷地内には沢山の馬車留めがあり、ここで荷物の上げ下ろしができるようになっている。


「呼び出しをしなくていいのですか?」

「問題ありません。すでに訪ねることは伝えてあります」


準司書は商人組合に入ると、勝手知ったる振る舞いで奥へと進んで行く。

それを追いかけていたティアが聞くと、準司書はメモリアの本を見せながら答えた。

ティアは本を使って事前に連絡したのだと気がつき納得した。


「失礼する」

「いらっしゃい。またそんな硬い表情で。小さな子が怖がるわよ」

「私の担当は冒険者が中心なので問題ありません」


冒険者組合担当の準司書が開けた先にはもう1人の準司書が立っていた。

初老に差し掛かるであろう年齢の商人組合担当の準司書は、ティアの祖母同様ロングスカートを履いており、落ち着いいた雰囲気を纏っている。


「それではティア様。お掛けください。メイルはこっち。お連れの方はティア様と同じところへどうぞ。そちらの方は……そのままでよろしいかしら?」

「はい。問題ありません」

「私はここでいいニャ」

「私もです」

「リッカはティアの横に行くのじゃー!」


初老の準司書に促されてティアがソファに座る。

リリエーナは浮遊椅子に座っているため、そのままソファの横に付けた形となり、チャコとミーアは護衛をする必要があるためソファとリリエーナの後ろに立った。

リッカはチャコの腕に抱かれたままティアに向けて手を伸ばしていたが、大人しく座っていることを約束し、おやつ代わりの干し肉を渡されて座った。

リッカはティアの横にいるだけで満足できるらしく、更に干し肉を齧ることで一気に大人しくなった。

チャコは今後立夏の機嫌が悪くなった時は干し肉を渡すことを心に決めた。

もちろん、横で見ていたミーアも同様である。


「まずは自己紹介からですね。クリスティーナ様からクロステルの商人組合を任されていますロージーヌと申します。ローザとお呼びくださいませ」

「同じくクリスティーナ様からクロステルの冒険者組合を任されていますメイルーンと申します。メイルとお呼びください」

「ティア・メモリアです。こちらは精霊竜のリッカちゃん、アルバート商会のリリエーナちゃん。チャコお姉ちゃんとミーアさんです」

「よく出来ました。と言いたいところですが、この場では私的に呼ぶことはお勧めしません。今後司書の立場でいる時に周りの者を呼ぶ際は呼び捨てにしてください」

「どうしてでしょうか?」

「親しい相手に危害を加えてまでメモリアに手を出そうとする輩もいます。私達であれば戦う術があるのですが、そちらのリリエーナさんには無いのでは?」

「えっと、そうです……」


ティアがリリエーナ達を紹介する際に敬称を付けたのがダメだったようで、ローザにやんわりと嗜められた。

理由はローザの言った通りの事で、ここにいる面子であれば真っ先に狙われるのがリリエーナになる可能性が非常に高い。

本人も戦えないと言った事で、ティアの頭の中で嫌な考えが過った。


それはティアが王都に向けてクロステルを出た後、リリエーナが襲われるという内容だった。

一度襲われている事もあって、それがありえない事だと払拭できないでいた。

その考えを抱いたままティアがリリエーナに視線を向けると、リリエーナも少し困った顔で見返してきた。

リリエーナも同じ考えのようだ。

もっとも、襲われたことがあるリリエーナはその時の想像がティアよりもはっきりできてしまったので、少し怖くなってしまったようで、微かに震えていた。


「そうですね……。それについては案がないわけではありません」

「本当ですか?!」

「えぇ。ですが、まずはクリスティーナ様からの依頼をこないしましょう」

「わかりました」


ローザの返答にティアが食いついたが、まずはリンクを繋ぐ事を優先するようで、メイルと揃って本を出してきた。

ローザとしてはリンクを繋ぐことが第1なので、別件に気を取られて本題を忘れないようにするためでもある。

まずは片付けなければならないことから優先的に行う。

これは商人を相手にすることで学んだ事でもあった。


「終わりました」

「はい。ありがとうございます」

「これで、色々やりやすくなりますね」

「そうですね。それでは、先ほどの話ですが」

「はい」

「ティア様さえ良ければそちらのリリエーナさんを準司書にすればいいのです。もちろん契約精霊の許可も必要ですが」

「リリエーナちゃんを準司書にですか?」


無事リンクを繋ぐことができたティアに対してローザが提案したのは、リリエーナを準司書にすることだった。

当然いきなりのことでティアは固まり、自分が準司書になるかもしれなくなったリリエーナも固まった。

後ろに控えていたチャコも目を見開き、ミーアも柔らかい笑みを浮かべたままどうすればいいか困っている。

部屋の中では唯一リッカの干し肉を噛み千切る音が響くのみだった。


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