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戦う司書さんと勇者と魔王  作者: 星砂糖
旅立ちと 封印都市と 勇者と魔王
1/106

Page 1 「見習い司書と本の精霊」

初投稿

書き溜め無しで最低週一回更新予定

スマホからの投稿のみ


見直しが甘いところがあると思いますが、そこは温かい目でお願いします。


足元が淡い光に照らされた暗い世界にウサギの格好をした少女が佇んでいた。少女は困惑した様子で周囲を見渡している。


「ここはどこでしょうか?夢?」


少女の中にある記憶の中で最も新しいものは「寝る前にベッドに腰掛け、最近入手したぬいぐるみの本を読んでいた」というものだ。

寝る前だったせいか、服はピンクのフード付きウサギパジャマ、自室で使っているピンク色のふわふわスリッパを履いている。

被ったフードのウサ耳をいじりながら、周囲に何もないことを確認すると空を見上げた。


「沢山の本が浮いています…」


見上げた少女の目に映るのは空に浮いている無数の本だった。ある本は右から左へ、またある本は円を描くように漂っている。

少女は戸惑いつつも、届かない本にまっすぐ手を伸ばす。


「わっ」


手を伸ばした先にある本が勢いよく降ってきた。

あまりの速さに怖くなり、手を引っ込めると本が止まり、ゆっくりと元の位置に戻ろうと浮き上がり始める。

浮き上がり始めた本に恐る恐る手を伸ばすと、先ほどとは違いゆっくり落ちて、手に収まった。

表紙を見てみると「ゴーレム操作-ぬいぐるみ編-」と書いてある。


「ぬいぐるみを動かせるようになるのでしょうか…」


目を輝かせながら開こうとするが、糊付けされたように固く閉ざされて開けない。

しばらく奮闘するも開く気配がないため諦めたが、興味があるのか本を手放すことなく抱きかかえ、歩き始める。


少女が一歩踏み出すと踏んだ床に淡い光が灯る。

踏んだ床が光ったことに驚きつつも、何も起きないことを確認した少女はしばらく歩き、ふと振り返る。

少女の目には自らが歩いた軌跡が映った。


「わー…綺麗です」


歩いた分の光で周りが少し明るくなったが、周りには浮いている本以外何もないことがわかっただけだった。

少女は最初に手にした本を抱き抱えながら歩き、様々な本に手を伸ばし、開かないことを確認すると手を放す。

本は手を放すと浮き上がり、元の位置に戻る。

何度も同じことを繰り返しながら歩いていると、前方に光を見つけた。


光に近づくと本の上にいる何かが光っていることがわかった。

本の上にいる何かは少女の手のひらに乗るような大きさで、少女に背中を向けて立っており、背中には2対4枚の羽が生えていた。


少女は精霊に関する本で「2対4枚の羽は精霊の証」「人前に出ていないときは不思議な空間に居る」と書いてあったことを思い出した。

つまり、本の上で光っているのは何かしらを司る精霊で、今いる変な世界は精霊が住んでいる世界だと考えた。


精霊の目の前には、複数の半透明な板が浮かび、文字が浮かんでは消えてを繰り返している。

精霊は浮かぶ板に対して指を振ったり、叩いたりして操作しているようだった。


少女はその光景をしばらく見ていたが、終わる気配がないため声をかける。


「あのー…」

「ひゃっ!?」


いきなり声をかけられた精霊は、小さく飛び上がり振り返る。

背中まである薄緑色の髪、翡翠色の瞳に整った顔立ち。凹凸の少ない体型に白いワンピース。素足で表紙の上に立ち驚いた表情で少女に向かって声をかける。


「あれ?なんで人がここにいるの?ていうか人?ウサギ?」

「えっと…その…寝る前に本を読んでいて、気づいたらここにいました。ウサギじゃなくて人間です」


次々投げかけられる質問に対して、少女はフードを脱ぎながら答える。フードを脱ぐと腰まである銀色の髪が広がり、少女の瑠璃色の瞳がハッキリと見えた。


「おー…確かに人間だねー。綺麗な髪してるじゃん。というか寝る前ってことはそのウサギはパジャマ?可愛いんですけど」

「えっと…ありがとうございます?はい、このウサギはパジャマですよ」


少女は髪を褒められたことに戸惑いつつも服装について答える。

そして自身の置かれた状況に対して質問をし始める。


「いろいろ伺いたいことがあるのですがよろしいですか?」

「んー。答えられる範囲でねー」

「はい。ではまずここはどこなのでしょうか?」

「んー…説明し辛いんだけど...本や情報、古代遺物や技術。果てには物自体を記録し、管理する特殊技術の中だよー」


精霊は、どうせ分からないだろうと思いながらも質問に答える。

少女は答えを聞き、少し考え再度質問する。


「なるほど…記録し管理すると言うと《メモリア》の中ということでよろしいでしょうか?」

「え!?合ってるけどなんで分かるの!?」

「小さい頃から色々教え込まれていますので」

「小さい頃からって…今も小さいじゃん…何歳なの?」


自分の答えた内容で理解されると思っていなかった精霊は、驚きつつも少女の答えた内容に苦笑いを浮かべながら年齢を聞く。


「あ、まだ名乗っていませんでしたね。私はティア・メモリアと申します。8歳です」

「8歳?!子供じゃん!落ち着きすぎ!ていうかメモリアって管理する一族じゃん!!だからか〜」


少女ことティアの返答で再度驚きながらも、名前を聞くと納得する精霊。

そんな精霊とは反対に名前を名乗っただけで納得されたティアは首を傾げる。


「あの、一族だとここに入れるのでしょうか?」

「んー、適正があればね〜。初代とかは入れたし、最近だとクリスティーナが入れたわ」

「クリスティーナと言いますとお祖母様ですね」

「クリスの孫なのね〜、さらに納得だわ〜」


ティアは自身の祖母の名前が出たことで喜んでいる。

精霊は知っている者の孫だということでさらに納得している。


「普通はメモリアに手を触れて意識だけで入ってくる世界なんだけど、適正があれば体ごと入ってこれるのよ。ただ、アンタみたいに若いのが入ってくるのは初めてだわ…」


精霊はどうすればいいのか考えているようだ。

時折小さく「早い?」「アタシの判断で?」「責任が」「怒られる」「でもこのままだと」「怖い」等と呟いているのがティアに聞こえてくる。

しかし、一人で考えて答えが出なかったのか、諦めたようにため息をつきティアに向き直った。


「あー、アンタに聞きたいことがあるんだけど、クリスが何もないところから本を出してるのを見たことある?」

「はい。冒険者や街の人に尋ねられた事を調べる際に出していました。尋ねても『時期が来れば私もできるようになる』と言われただけなので詳細は知りませんが…」


ティアは祖母が何もないところから本を取り出し、聞かれたことを本につぶやくことで答えを得ている光景を思い出していた。


「そう。なら今がその時期よ!その本や、メモリア、一族についての諸々は落ち着いてから話すとして!とりあえずアタシの下にある本が開けるかどうかからね!」


精霊は立っている本から浮き上がると本がティアの前に移動した。

ティアは抱えていた本を脇に挟むと目の前の本に手を伸ばそうとした。


「脇に抱えた本を離してからにしなさい」

「嫌です」

「え!?開けないでしょその本!!」

「今はまだ開けませんが、いつか読めると信じています。なので嫌です」

「クリスと同じ本を手に入れればいつでも読めるようになるから!」

「手を離せば元の場所に戻ってしまいます!取りに行かなければならないじゃないですか!」

「わかった!私が預かるから!だから早く目の前の本が開けるか試してよ!」


精霊は急に頑なになったティアに焦りつつも、脇に抱えられた本を預かる。

預かると言っても受けっ取った本の上に立つだけだったが。


脇に抱えていた本を半ば強引に奪われたため、若干不機嫌になりながらも目の前の本を見るティア。

大きさは図鑑程で、表紙には四方を繋ぐように草のような模様が描かれているが、タイトルは書かれていない。

中央に透明な玉が嵌っていて、その玉から幾何学模様が四方に伸び、四辺を囲む草のような模様と繋がっている。

表紙から得られる情報が何もないと知るとゆっくり手を伸ばす。


ティアが本を手に取った瞬間精霊が輝きだした。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!?すごい魔力量ね!!!!これなら開けるわ!」


突然輝きだした精霊を眩しそうに見ながらも、「開ける」という単語に心を躍らせて本を開くティア。

精霊の言葉通り今までの本とは違いなんの抵抗もなく開く。

精霊が輝いていることで周囲が明るくなったので問題なく読めると思い、開いたページに目を落とすとティアは声を荒げる。


「何も書かれていません!」

「後で説明するから!……あーーーーーーーーーーーー!!多い多い!!!ギブギブ!!!!ギブーーーーーーーーーー!!!!!」


精霊の大声と共により一層輝きが増す。

ティアは目を閉じて本で顔を覆う。

しばらくすると輝きが収まったので様子を見ると、ティアが渡した本の上で力尽き、顔から表紙に崩れ落ちた精霊の姿があった。


「あの...大丈夫ですか?」


精霊は力尽きたまま顔を上げず、右腕を震えながら上げて握り込んだ拳から親指を立てる。

左手をついてゆっくり立ち上がるとティアと視線を合わす。

精霊の左目が翡翠から瑠璃色に変わっていた。


「あの...目の色が変わっていますが大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫だよ!これは契約の証だからね!」

「契約ですか?」


なんの前触れもなく契約を結ばれたティアだが、精霊からの契約なので少し驚いただけだった。

ティアが普段読む本や、人伝に聞く話の中で「精霊は契約することで力を十全に誓えるようになる存在で、精霊と契約することは、国王から勲章を貰うよりも難しい」ということを覚えていた。


「そう!これで君はメモリア管理者の一人になったんだよ!クリスと同じ《メモリアの司書》にね!まぁクリスの場合司書長だけどね」

「契約をすることで司書になるのですか?」

「うん!詳しい話は起きてからだね!そろそろ限界でしょ?」

「そうですね。少し体が重くなりました」

「でしょー。本を通じてアタシに魔力を流したからねー。まぁ無理矢理契約したのは謝るけど、色々事情があったんだよ。その辺も起きたらね!」


輝きが収まったあたりから体が重くなり始めたティア。

ティアから精霊に魔力が流れたことが原因で輝いていたらしい。


「わかりました。ですがその本だけでも読ませてください!」

「起きたら読ませてあげるから...ここに来なくても読めるようになってるから……どれだけ本が好きなのさ……」

「本当ですね!?」

「本当だよ!契約した精霊は契約者に対して嘘はつけないから!安心して!」


急激な魔力消費をしたにも関わらず「少し」体が重くなっただけということに精霊は驚いたが、更に本を要求されたことで驚きを通り越して呆れ始めていた。


「それじゃあ送り返すね!おやすみ!」

「はい。おやすみなさい」


精霊が挨拶をすると、精霊がティアに渡した本が徐々に薄くなり、やがて消えていった。

本が消えるとティアも薄くなり始めた。


「そういえばまだお名前を伺っていませんでした。教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「ん?そうだっけ?アタシの名前はペンシィ。本の精霊ペンシィだよ!起きたら名前を呼んでね!ティアちゃんのところに行くから!」

「はい。わかりました。よろしくお願いしますねペンシィさん」

「よろしくね。ティアちゃん」


やがてティアも消えた。

残されたのはティアが歩いた軌跡とペンシィ。そしてティアが持ってきた本だった。


「読みたがってた本は何だったんだろう」


ペンシィは足元のタイトルを見て一人考え込む。


「もしかして本が好きなんじゃなくてぬいぐるみが好きなだけだった?」


ペンシィがティアの読みたがっていた本を叩くと一瞬で消えた。

ティアに声をかけられる前に操作していた薄い板の前に浮き上がり、残していた作業を終えた。

全ての板を腕の一振りで消した後、別の板を表示した。

表示した板には木の根に絡まった青い球体が映し出されていた。


「あのーメモリア様?ペンシィです。少しお話ししたいことが…」


青い球体が映し出された板に話すペンシィは涙目だった。


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