会議の朝、買い物の昼、それと・・・ 後編
後編です。
ちょっと長いですけど作中だとまだ3日目です。
最初の一週間だけは丁寧に進める予定ですのでご了承ください。
結局俺らは、武器と一緒に売っていた金属製品をいくつか買った。
内訳は。庭の整備に使えそうな枝切りバサミが1つと鉈代わりに幅広の短剣を一つ。それと、その手入れ用具一式だ。占めて大銀貨7枚なり。
それとは別に、次に来たときは絶対に武器を買うとおっさん――グルーズさんに約束をして店を出た。
『今日はおめぇらにいろいろ聞いたからな。今度来るときは追い出しちまったやつらも連れてきな。事情があるみてぇだし、しかたねぇから全員分の装備を見繕ってやる。ただし、狩りに行った先で死んでも俺を恨むなよ。そん時は装備が悪くて死んだんじゃねぇ、お前らの腕が悪くて死んだんだ。そうならないためにも、お前ら三人でちょっとは稽古つけてやんな』
そういわれて店を出た俺たちは、店の前でぶーたれていたジョーとうるしーを引っ張って一度帰宅することにした。
「――――ってなことがあってな」
「なるほど、あの銃は他の勇者が持ち込んだものだったか」
「一応初代勇者が伝えた鉄砲もあるらしいが、そもそも火縄式があんまり流行らなかったらしい。
というか、魔法があるから銃を使う人は少ないんだってよ。まぁ、魔法よりも威力と貫通性能に優れてるって点はあるが、連発性と命中率はこの世界の水準じゃどうにもならんしな」
チーフと話しながら街道を歩く。
東区のメインストリートは出店でにぎわっていて、とても活気がある。
しばらく歩いていると、前方から見知った顔が歩いてきた。
「お、ピザ。どうだ、目当てのモンは見つかったか?」
「いや、ダメだった。話も聞いてみたんだが、無くは無いみたいだが時期が悪いってさ」
安西光輝が肩を落として言う。
「やっぱ無かったか、トマト」
「夏あたりになると少量流れてくるっぽいんだけどなー」
彼は現在、ピザを作るために材料探しをしている。
そんなピザの後ろから残りの2班メンバーが揃ってやってきた。
「「おっ、ぐんそー!そっちどーだったー?」」
二人声をそろえて言うのは、河島風花と河島雷花の双子の姉妹だ。風花が姉であだ名はそのまんま”姉者”。そうなると妹の雷花はもちろん”妹者”である。
一卵性双生児なので見た目は殆ど同じだが、一応見分ける方法はある。
頭の右側にシニョンが付いてるのが姉者、左側が妹者だ。たまに二人がシニョンを逆にすると一人を除いて誰も見分けられなくなる。
で、その見分けられるやつというのが――――
「軍曹!武器屋はどうだった?ナックル系はあったか!?」
――――この暑苦しい男、怏児純平、通称ロッキーである。
「おう、あったぞ。それはそれは殴られたら痛そうなやつが」
「そうか!ついに熊をこの拳で殴り倒せる時が来たか!」
「「ジュンうっさい」」
「おおすまんな!つい興奮してしまった!」
「「だからうっさい!」」
左右からのシンクロした蹴りを双子から受けるロッキー。
だがロッキーはそれを笑顔で受け流す。
彼らは所謂幼馴染というやつで、皆は純平のことを『ロッキー』と呼ぶが双子だけは昔から呼びなれた『ジュン』と呼ぶ。
この光景は見慣れたもので、学校でも二人のシンクロした技を受けるロッキーはある種の名物のようになっていた。
もっとも、毎回受け流されるのだが。
因みにロッキーのあだ名の由来は、彼がボクシング部だからだ。
「おい!俺にばっか荷物もちさせんじゃ・・・・ってあれ、軍曹」
「あれー軍曹、用事は終わったの?」
それに続いててっちんとここのん、そして
「・・・・・・・早かったじゃない」
桐河神那、通称”きっかな”の計7名。
情報収集に出たメンバー全員が全員合流した。
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「へぇ、キリダス共魔王国ねぇ」
「この魔王は倒しちゃいけないやつだ、分かってるな」
「言われなくてもわかってますよー。それに、魔王を倒すのはいつだって勇者だ。悪いが俺には荷が重いね」
皆と軽く情報交換しながら帰路へと付く。
「そっちはどうだったんだ?すごい荷物だが」
「下着の替えとタオルとかの替え。それ以外の日用品なんかを細かく買い揃えてったらこうなった」
「・・・・情報収集は?」
「問題ない。きっかな、軍曹に説明してやってくんねーかな?」
「・・・わかった」
てっちんに変わって、きっかなが横に来た。
桐河神那は物静かなせいか、変人揃いのうちのクラスのなかではあまり目立たない。それでも彼女を1度でも目に留める機会があれば、彼女が相当な美少女だということが分かるはずだ。
クラス外では国内有数の製薬会社である『桐河グループ』のご令嬢でもあることから、所謂”高嶺の花”てきな扱いを受けているが、うちのクラスではそんな物は関係ない。『みんななかよく』がこのクラスの信条だ。
そのお陰かどうかは分からないが、きっかなはクラスに居るときだけはよく笑う。今は外に出ているので、仏頂面であるが。
「・・・まず、私たちが今まで口にした野菜や肉などの食べ物について。
野菜に関してはほぼ見た目どおりととって良い。若干の違いはあるけど、それだけ。地球のものとそれほど変わりはない、と思う。
ただ、肉に関してはどうとも言えない。市場に出回ってる肉の大半は『魔獣の森』で取れたものみたいだし、私たちの知らない動物の肉である可能性のほうが高い、かな。でも、まったく知らない動物だけではないと思う。たとえば、馬。もしかするとまったく違う動物の可能性もあるけど、見た目には私たちの知ってる馬だったから」
言われてみれば。たしかにそうだ。
俺達は”馬車”は”馬”が引く乗り物だと知っているから、馬車を引く動物を見たときに『これは馬だ』と頭の中で勝手に認識していた。だが、本当は全く違う動物である可能性もあったわけだ。
「・・・・他にも、ウサギや鹿なんかの動物を市場で見かけた。でも、私たちの知らない動物が並んでる店もあった。一応いえるのは、それなりにこの世界と地球は似通った部分があるのかもしれないってことだけ」
「まぁ今はそれだけ分かれば上々」
「・・・あとは、香辛料の類が思ったよりも安かった。そういう食に関係する物が安い一方で、服とか下着なんかの布製品は割高に感じた、かな」
まぁ、服なんかは手作業で作ってるだろうからな。高いのは仕方ないと思うことにしよう。
「んじゃ次。この町の人々の様子と人種はどんな感じだった?」
「・・・人々は見ての通り。町全体が活気があって、生き生きしてる。でも、やっぱり大きな町だから仕方ないと思うけど――北区の西側よりの壁際にスラムがあるみたい。人づてに聞いた話だから実際に見てきたわけじゃないけど」
「ああ、それで正解だ。頼むから危ないところには行かないでくれよ」
きっかなとてっちんから『お前が言うな』みたいな視線を感じるが、無視しよう。
「・・・・それで、人種なんだけど――――」
「おっと、それは俺が説明しよう」
きっかなに変わり、てっちんが横に来る。
「人種なんだが、今見えてる所謂『人間』って見た目の人たちは基本的にはどれも人間だ。ただし、『妖人種』って呼ばれる人たちは基本的には人間と変わりない見た目をしているらしい」
「『妖人種』?」
「たとえば、妖精とかね。妖精っていうとティン○ーベルみたいなのを想像するけど、この世界じゃ普通に人間サイズなんだと」
「どうやって見分けるんだ?」
「なんでも、普段は羽を背中に隠してるらしいんよ。で、吃驚するとそれが出てくるからすぐ分かるって道具屋のおっちゃんが言ってた」
その確認方法は人としてどうなんだ。
「あとは、ケモミミのお姉さんとかエルフ耳のお姉さんとかロリババアっぽい角の生えたお姉さんとか――――」
「女ばっか見てんじゃねーよ!」
「だってよう、軍曹・・・・」
てっちんは気落ちした様子で言う。
「エルフ耳と角はまだ分かるぜ?某指輪の物語にもいたし、角はかっこいいけどさ・・・・・・・
ケモミミ付いたおっさんは、ちょっとな・・・・・・」
俺は想像してみる。
グルーズのおっさんの頭から、一対のウサ耳が――――
「うおおおおおお・・・・・・それは、なんとも・・・・・・」
「ああ・・・・・軍曹は想像だけだからいいよな・・・・・俺は・・・!俺は、この目で・・・・・!」
「てっちん、なんかすまんかった」
さらに肩を落とすてっちんの肩をたたく。
頑張った、お前は頑張ったよ、てっちん。
「・・・まぁ、一応どれくらいかの比率は見てきてるよ。この町の東区だけだと、人種が大体6割、ケモミミが2割、それ以外が2割ってとこだな」
「人種が多いな」
「その辺も聞いてきた。ケモミミとそれ以外の殆どは隣の国から来てる傭兵と商人、あとは探索者って感じだったな」
「なるほどな」
この都市の北側には遺跡群があると聞いている。そこの探索に探索者が来ているのだろう。
「軍曹の方はどうだったんだ?武器、見てきたんだろ?」
「もちろん、ちゃんと値段も控えてきた」
学ランのポケットから、いつも持ち歩いている手帳を取り出す。
「えーと・・・俺が買う予定の巨人種用の強化型複合弓が金貨2枚。ノーカ用の和弓がタダ。これは使い方なんかを教えてくれた礼らしい。元々和弓は売り物じゃないみたいだからな。で、フジハル用の鋼のロングソードが金貨1枚と大銀貨5枚。あとは3人分の皮鎧が合わせて金貨1枚と大銀貨3枚。占めて金貨4枚と大銀貨8枚。これだけで1ヶ月とちょっと分の出費だ」
「けっこうするなー、やっぱ武器は高いなー」
「これでも結構安いやつを選んだんだがな。ミスリル製の武器なんか2桁、下手すると3桁行くし」
「うっへぇ、たっけー」
まあ、グルーズ曰く、ミスリル製品は一部の大金持ちか貴族でなければ買わないらしいから、俺ら平民には基本的に関係ないだろう。
最近ミスリルの剣が売れたのだって、お嬢様付きの騎士が買ってった――――ってこれマルコムさんじゃねーか。あの人は貴族かなんかなのだろうか。
そんなこんなで話をしているうちに、俺らの家へとたどり着いた。
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太陽の位置は若干西よりになっている。
俺達がここを発ってから2時間半くらいで戻ってきたから、まだ夕方には少し早い。
「あ!お帰りなさい、みなさん!」
敷地内に入ると、玄関先の掃除をしていたいいんちょが駆け寄ってくる。その姿がなんだか主人の帰りを待ちわびていた子犬のようで、すこし笑ってしまった。
「?小林君、どうしたんですか?」
「いや、なんでもないよ。ただいま、いいんちょ。俺らが居ない間になんか変わったことあった?」
「あ、はい。クラウネさんの使いという人が来て、手紙を1通置いていきました」
いいんちょが差し出した封筒には何かの紋章をかたどったような判子が押され、きっちりと蝋封がなされている。
「わかった、さっそく見てみようか。っと、ここで見るのもなんだし、中入ろうか」
「はい。あ、それじゃぁお茶淹れてきますね」
「お、ありがとう。んじゃ先に寮長室に行ってるから」
俺達は連れ立って屋敷に入っていった。
――――情報収集に出ていたメンバーが、生暖かい目で見ているのにも気付かずに。
玄関先から顔を出したメディ子がぽつりと言う。
「なるほど、いいんちょが1時間も玄関掃除してたのはこのためだったかー」
メディ子の言葉に、残された12名のニヤニヤが増した。
それから3時間後、夕食が終わった段階で俺はみんなを呼び止めた。
「みんなーちょっと聞いてくれ」
「お、さっきの手紙の件か?」
てっちんがすばやく反応する。
「その通り。
――――歓迎パーティーの日時が決まったってよ。期日は明後日、昼ごろに迎えの馬車が来て、衣装は城で渡されるってさ」
俺の言葉に皆が色めき立つ。
まぁ、言ってしまえばこの国のトップとのパーティーだからな。以前は中に入れなかったところでもあるし、城でのパーティーなんて地球じゃ一生に一度も経験することなんて無かっただろう。
「そういうわけだから、明後日は何も予定入れないでくれよ」
みんなから『いえっさー!』と返事が返ってきたのを聞いて、ついでに俺達の武器や防具なんかを購入していいかどうか皆から了承をもらい、それからいくつか今後のことを話し合ってその日は解散となった。
夜、風呂から上がった俺は卓上ランプ(これも部屋に備え付けの魔道具)の明りを頼りに本を読む。
これは狩人教会内の売店で売っていた魔法に関する知識書で、『初級編』という文字と銀貨1枚という値段に吊られて購入したものだ。
1時間くらいそうしていただろうか。段々うとうとしてきたので今日は寝ることにして、ランプの明かりを消して寝室に向かう。
そして徐にベッドに寝転がると、そのまま睡魔がやってきて俺はそのまま眠りに――――――――
「きゃああああああああああああああああ!!!!」
――――――――俺はベッドから跳ね起きた。
次も早めに