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首都へと向かう馬車の中で

説明回

 ――――がたんごとんと馬車が揺れる。


 当たり前ではあるが、自動車と違ってサスもショックも無い馬車は地面からの衝撃が直に尻へと伝わる。

 それでも俺といいんちょ、ハトケンとジョージとアニス、そしてクラウネとマルコムの乗った4頭引きの大型馬車は他の馬車よりもマシなのだそうだ。

 高級そうなフカフカのシートに深く腰掛けた俺は、ふと思い立ったことをクラウネに質問をしてみることにした。


「ああ、そうだ、クラウネ、さん?」

「リョーヘー、変な気を使う必要はありませんわ。ここは公式の場と言うものではありませんのよ?さっきまで普通に会話していたのにいきなり”さん”付けで呼ばれるのもあまり良い気分ではありませんわ。

 それに、あなた方よりもわたくしの方が年下でしてよ?人生の先輩はどっしりと構えていてくださいな」


 クラウネはそう言ってコロコロと笑う。

 ちなみに16歳だそうだ。


「ああ、スマン、助かるよ。・・・それで、聞きたかったんだが、なんで俺達だけこの馬車に乗せられたんだ?俺といいんちょは勇者じゃないぞ?」

「?? あなた方がこの集団の代表では?」

「あぁ、それでか・・・」


 スマンな皆、代表者は特別待遇らしい。


「それと、ずっと気になっていたのですが・・・なぜ彼女――――マキ・モトフミを『いいんちょ』と呼ぶのですか?彼女の名前は『マキ』では?」

「ああ、あだ名だよ。俺達は一人ひとりにあだ名が付いてるんだ」


 それはこのクラスがまだ『1-1』だった頃のこと。当時戦争映画にはまっていた担任が俺のことを『お前は人に指示を出すのが上手いから、軍曹と呼ぼう!』と言ったことが発端だ。ちなみにその後『これからも頑張ってくれたまえ!ホーヴァス君!』とも言っていた。おそらく元ネタは某ノルマンディー上陸作戦である。

 それから悪乗りしたてっちんとハトケン(当時はまだウザイだけだった)がクラス全員にあだ名を考えた。

 始めはしぶしぶ呼び合う感じではあったが、ハトケンが何かやらかして俺達が皆で後始末をしていくうちに、誰もが気兼ねなくあだ名で呼び合うようになっていったのだ。


「なるほど、それで貴方は『グンソー』、マキは『いいんちょ』と」

「そういうこと。で、俺もいくつか質問があるんだがいいか?」

「あら、なんでしょう?」


 この際なので聞きたいことを聞いておくことにした。


「まず――――これは最初から気になってたことなんだが、なんで俺達とあんたらが言葉が通じるんだ?」


 これはずっと気になっていたことだった。


「ああ、そうですね、説明しておりませんでした。

 簡単なことですわ。召喚刻印の一端に翻訳魔法陣が組み込まれておりますの。召喚された際にこれが起動して、この世界の言語をあなた方に”植えつけた”のですわ」

「う、植えつけた?」


 怖いなオイ。


「召喚された時に軽い頭痛がありませんでしたか?それが翻訳魔法陣が起動した証拠ですわ」

「ああ、そういえばあったな、頭痛」


 他のものも頷いているところを見ると、俺だけではなかったらしい。


「言葉だけではなくて文字も読めるようになっていると思いますわ。後で確認してみましょう」

「そうだな。・・・じゃぁ二つ目の質問なんだが、あんたの事だ」

「なんでしょう?」

「あんたは俺達を『視た』と言っていたが、それはどういうことなんだ?」


 特殊能力的な感じなんだろうか。


「文字通り、私のこの『眼』で視たということですわ

 ただし、私の眼は少し特殊でして、じっくりと眺めることでその人のことを詳しく知ることができますの。

 これはアッセラ家に生まれた女性にだけ伝わる能力で、『青水晶の瞳』と呼ばれていますわ」


 そういって彼女は自分の碧眼を指差す。


「この特殊な力――――『神力片(しんりょくへん)』と言うのですけれど、稀に『救世』という神力片を持った存在が現れます。これが俗に言う『勇者』ですわ。

 ――――ああそれと、勇者様以外の皆様にもちゃんと神力片は宿っていますわ」

「その『神力片』ってのは?」

「この世界の住人は、この世に生を受けたそのときから神の祝福を受けますの。そして、世界神『セルべりア』が自分の力の欠片を祝福として皆に与えるのですわ」


 この世界のカミサマは別世界からやってきた者にも力を与えてくれるらしい。

 結構寛容なんだな。


「てことは、あんたの『青水晶の瞳』もその神力片ってことか」

「そういうことです。正しくは『観察眼』といいますのよ

 この観察眼と同じような働きをする”青水晶(ブルークォーツ)”という魔術道具(マジックアイテム)がありますの。まぁ、言ってしまえば劣化観察眼というところですわね」


 大体は裁判所なんかに設置してあるとか。

 名前や神力片の能力なんかを調べるためのものらしい。

 ちなみに、ふつう神力片を調べるときは教会に行くのだそうだ。そこで司祭が『神託』の神力片で世界神セルベリアに神力片が何かを聞いてくれるとのこと。

 さすが異世界、神様と会話もできるらしい。


「神力片は一人ひとつずつもらえるのか?」

「いいえ、そうとも限りません。大体500人に一人ぐらいで二つ以上の神力片を持つ方も居りますわ。というか――――」


 クラウネは俺といいんちょを視て、


「まさにあなた方がそうですわ」

「俺達が?」

「わ、わたしもですか?」


 いいんちょはいきなり話を振られてびっくりしたようだ。


「ええ、リョーヘーは『怪力』と『指揮』の神力片、マキは『演算』と『冷気』の神力片を持っていますわ」

「怪力・・・・・ああ」


 いまさらながら教室のドアが裂けた理由がわかってしまった。


「れ、冷気・・・私って冷たい女・・・」


 隣でいいんちょが肩を落としていたので、フォローを入れておく。


「いいんちょは冷たい女なんかじゃないさ。いつも皆のこと考えて行動してるだろ?」

「では、なんで冷気なんでしょう・・・」

「・・・冷え性だからとか?」

「・・・たしかに冷え性ですけども・・・・」


 適当に言ったのにどうやら正解だったようだ。

 こちらの会話を聞いてマルコムが補足を入れる。


「冷気の神力片を持つということは、氷結魔法に適正があるということだ。そう落ち込むことでもないさ」

「そういえば、魔法があるんだよな。この世界は」

「人によって適正が違うが、魔法は魔力さえその身に宿っていれば使うのはそう難しいことではない。それに、その適正の神力片を持つということは通常よりも強力な魔法を使えるということだ」

「一見したところ、皆様はこの世界の住人よりも平均魔力量が多いようですわ。練習すれば魔法もすぐに使えるようになるでしょう」


 嬉しいことを聞いたな。いいんちょも気を取り直したようだ。


「正直、指揮の神力片と冷気の神力片は結構珍しいのだ。それに加えて怪力と演算・・・・二人ともうちの騎士団にほしいくらいだよ」


 マルコムはそう言って何度も頷く。フルフェイスなので表情は分からないが、すげー良い顔してるんだろうな、今。


「・・・町に働き口が無かったら厄介になるかも知れないな」

「そのときはいつでも尋ねてきたまえ。小隊長とその補佐として籍を空けておこう」

「前向きに検討しとくよ」


 本当に行くかはわからないがな。




「そういえば、私からも聞きたいことがあるのですが・・・・」


 いいんちょが小さく手を上げる。


「ええ、何でも聞いてくださいな」

「実はここに召喚される前に、私達のいた建物の外に白いローブを着て杖を持った人物が居たのですが・・・なにかお心当たりはありませんか?」


 いいんちょがそう言った瞬間、クラウネが眉根を寄せた。


「それは、本当ですの?」

「ええ、私達の居た建物は3階だったのですが、空中に浮かんでいて杖先で何かを描くようにしていました。それからしばらくして、大きな地震が起こって、気付けばここに転移していたんです」

「地震?地揺れですか?」

「は、はい、立っていられないようなくらいの大きなゆれで、それで・・・」


 そしていいんちょは顔を真っ赤に染める。俺に抱きしめられたのを思い出したらしい。

 だが、クラウネはそれどころでは無いという様に神妙な顔で何かを考えていた。


「マルコム、どう思いますか?」

「・・・何者かの介入があったと考えるべきでしょうな。私が召喚の儀に参列したのはこれが初めてですが、少なくとも今まではそのようなことは無かったハズです。地揺れなど聞いたことがありません」

「・・・・手の空いている魔術師隊に調査させましょう。それと魔術学校の学者にも召集をかけなさい」

「ではそのようにいたします」


 ・・・・なにやらきな臭い感じがする。

 俺達に関係することなので放っても置けない、か。


「あとで他のクラスメートにも聞いとくよ。なんか変わったことは無かったかってな」

「お願いしますわ、リョーヘー。まぁ今考えても始まりませんし、これは一度置いておきましょう。

 それよりも、わたくし皆様に聞きたいことが――――――――」




 こうして馬車の中での時間は過ぎていった。








「ちなみに、公式の場でこんな風に無作法に話しかけたらどうなるんだ?」

「たぶんですけど、お父様直々に貴方の首を取りに来ると思いますわ。『この無礼者っ!』って」



 ・・・・・異世界こぇー。



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